素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第二十九話

 

 

「草薙、こんなところにいたのか」

 

「安芸か……何の用だ?」

 

 

 昼休み、オレは寒すぎて誰も寄り付かない屋上でコンビニのパンを齧りながらフェンスに背中を預けて空を見上げていると安芸が現れた。

 

 

「英梨々、草薙のこと探してたぞ」

 

「そうか」

 

「そうかって、なんでお前英梨々に会おうとしないんだよ。英梨々の絵を否定したことで顔合わせづらいのか? そんなこと気にする必要ないだろ。英梨々が探してるんだから」

 

「そんなんじゃねぇよ」

 

 

 オレが英梨々に会おうとしないのはそんな理由じゃない。

 

 

「ならなんだよ?」

 

「………お前にいう必要はないな」

 

「何を考えてるか知らないけど、英梨々を悲しませるようなことするなよ」

 

 

 

 安芸は苛立ったように言う。

 

 

「英梨々はなお前の為にぶっ倒れるくらい頑張ったんだよ。それなのにどうして労いの言葉ひとつかけてやらないんだ、会ってやろうとすらしないんだよ」

 

「………」

 

 

 お前には分からん。英梨々が成し遂げた事はな簡単に頑張ったな、凄いで簡単に済ましていいもんじゃないんだよ。それを敷いたやつは特にな。でもそれを口には出さない。分かってもらおうなんて逃げには走らない。

 

 

「俺、英梨々に告白された」

 

「……ッ。そうか良かったじゃねぇか」

 

「でも断った。他に好きな奴がいる奴に告白されても嬉しくないって」

 

「………そうか」

 

「今、草薙安堵しただろ」

 

「……してない」

 

「した」

 

「してないって」

 

「絶対した」

 

「しつこいぞ」

 

「そっちこそいい加減に認めろよ」

 

 

 

 押し問答、暖簾に腕押し、平行線だった。オレも段々安芸に苛立ってくる。

 認めよう、オレは英梨々が安芸に振られて良かったと思ったと。

 

 

「安堵したからなんだよ。それが英梨々に会う理由とは関係ないだろ」

 

「会わない理由こそないだろうが、変な意地張ってないで英梨々と会え」

 

「……」

 

「また黙りか? 都合が悪くなったからって黙秘に逃げるな。いい加減分かってるんだろ、英梨々がお前の事をーーー」

 

「うるせぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

 さっきから言いたいこと好きに言いやがる安芸にオレはキレた。

 

 

「草薙……?」

 

「さっきからべらべらべらべらと言いたいこと言いやがって、一人で完成させようと思って言葉を濁してたがそこまで言うならオレが英梨々に会えるように今からオレの足掻きに付き合え」

 

「何を完成させるか知らないけど、そんなことしなくても会いに行けばーーー」

 

「ああうるさいうるさい! 理由は後で話してやるから兎に角オレについて来い」

 

 

 オレは安芸の言う事を無視して、屋上から出ていき、校門を出て行こうとする。

 

 

「おい、授業は!?」

 

「んなもんサボりに決まってんだろサボりに! 何の為に学校に休まず通ってたと思ってんだ!」

 

「成績の為だろ!」

 

「バカか? いざという時にサボる為に決まってんだろ! 行くぞ倫也!」

 

 

 オレ達は予鈴がなるのも気にせず、堂々と門を出て行くのだった。

 

 

ーーーーーー

 

 

 倫也side

 

 

 訳もわからず、それでも何故かついてきてしまった。

 古い民家、けれど結構広い家の庭に建てられた倉庫のような蔵の中に草薙は何も言わずに入って行く。

 膨大な数のスプリングで四方に繋がれた巨大なスプリングの後ろに立ち、巨大キャンバスを草薙は見つめる。

 

 

「……え?」

 

 

 そのキャンバスには絵が描かれていた。オレは芸術の事は詳しくない、だから草薙の絵を見る機会があった時も特に感動をする事はなかった。

 けれどそのキャンバスに描かれていたのは俺にとって馴染み深い二次元の女の子が描かれたイラスト(・・・・・・・・・・・・・・・・)の線画で今更ながら草薙のレベルの高さを思い知る。

 

 

「草薙、これって……」

 

「今からお前はオレが描く絵が神かそれ以下か判断する判別機だ。後は買い出し要員」

 

「何を勝手なこと決めないでよ!? それになんでこんな事を……」

 

「オレの無理難題を乗り越えた英梨々にただ頑張ったなとかよくやったとか、口だけで済ませるなんて軽いんだよ。絵を完成させることで草薙直宏が復活(それ以上の無理難題をクリア)して初めてオレは英梨々に頑張ったなって言えるんだ」

 

 

 それが草薙の目的。めちゃくちゃ相手に苦労させたなら自分もそれ以上の苦労を背負わなければ許せないというプライドが故のことだった。

 英梨々はそんな事しなくても草薙が誉めてくれるだけで嬉しいはずだとか、そんな野暮な事は言わない。俺も男だ、草薙の意地は理解できる。だから俺は草薙を手伝うことに決めた。

 それから一週間、草薙の復活の為俺たちは学校を欠席する。

 

 

「それで復活の目処はたったのか?」

 

「この1ヶ月半で何とかな。巨大キャンバスに線画を描いて、それからキャンバスから取り込んだ線画を呼び出して、ペンタブで色を塗るという方法だ」

 

 

 最初は線も色もスプリングを使った長い筆で描こうとして、線の方は遜色なく描けたが塗りはどうしても複雑な感覚が必要な為何度も描き直したが違和感は抜けなかったらしい。

 ならば全てペンタブでやろうとすると今度は塗りは何とかなりそうだったがペンタブの圧力じゃどうしても力強さを発揮出来なかった。

 他にも点描画で描いたり、重ね塗りで線の強さを再現できないかとやってみたり、色々な方法を試して辿り着いたのが草薙が言った方法だった。

 

 

「だがそれにも問題が一つある」

 

「問題?」

 

「どうやってこのデカイキャンバスをデータに取り込むかだ」

 

「ああ……そっか」

 

 

 

 普通のスキャナーじゃこの巨大キャンバスに描かれた絵を取り込めないし、元のサイズよりかなり小さくなるから線がギザギザになる可能性があるのか。

 

 

「なら写真で撮ってからデータ化しよう。美術品とかの写真を撮ったことのある写真館をあたって出来るだけ大きいフィルムで撮ってもらってデータ化しようか」

 

「だな。そうするか」

 

「何を描くかは決めてるの? これと同じ?」

 

 

 俺は描かれたキャンバスを指差す。

 

 

「いいや、あれは習作だから変える。さっき何を描くかは決めた」

 

 

 そう言うと草薙は新しく用意したキャンバスに筆を入れ始めるのだった。

 それから大変なことばっかり起こった。解像度の問題で線がギザギザになったり、納得いく線が中々描けず永遠とキャンバスに使う紙がなくなり続けて金が飛んだり、そもそも草薙の腕の問題で休み休みだったので作業自体が遅かったりとあったが、どうにか塗りの段階に入る事が出来た。

 そこで草薙が色彩の魔術師と呼ばれる所以を目の当たりにすることになる。

 腕の感覚なんて残っていないはずなのに左手で筆圧の調整しながら、角度を変えて濃く淡く、絶妙な色彩を描く。全く同じ色なんて何処にもない微妙な農泊の変化による背景と二次元キャラのハッキリとした色合いのコントラストに俺は惹き込まれていく。

 一朝一夕ではない、ずっとペンタブを使って試行錯誤を繰り返してきた者が才能を惜しみなく使うとこんなことになるのか。

 圧倒的絵画能力と二次元の組み合わせはこんなにも破壊力のあるのかと戦慄した。

 最強のイラストレーターがここに誕生した。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 英梨々side

 

 

「ごめんね、突然バレンタインのチョコ作りたいから手伝って欲しいって頼んじゃって」

 

「いいよ、友達と一緒にチョコ作りなんて楽しそうだし」

 

 

 バレンタインデー前日、あたしは恵に手作りチョコをやりたいから手伝って欲しいと頼んだ。後は恵に言わなきゃならない事を伝える為。

 今は恵の家に上がり、一緒のキッチンに立っていた。

 

 

「英梨々は草薙くんにあげるんだよね。本命? 義理?」

 

「本命。恵の方は? 倫也に上げるの? 本命? 義理?」

 

「まだ義理かな。英梨々さえ良かったら草薙くんにもあげていい?」

 

「いやよ、だっておんなじ材料で作るんだから料理が得意な恵に負けちゃうもん」

 

 

 例え義理だと分かっていても比べられちゃうから嫌だ。かといって完全に共同は乙女心的にNG。

 

 

「作ったとしても渡せるの? 避けられてるんでしょ? あ、下駄箱に入れとくとか?」

 

「んなモブがしそうなことはしないわよ。勿論手渡し、渡す算段もついてるわ。放課後、体育館裏で一生待ってるからってメッセを送る」

 

「重い、重いよ英梨々……」

 

 

 恵はあたしの発言に引いていた。そんなに重いかなぁあたしって。

 

 

「ねぇ……恵?」

 

「なにー? 英梨々」

 

 

 チョコ作りが終わった後、あたしは恵と一緒にお風呂に入っていた。一緒に入ろって誘った時は一瞬困惑していたようだったけど受け入れてくれた。

 あたしは恵に今から伝えることを少しでも緊張しないで言う為に風呂場を選んだ。

 

 

「あたしと霞ヶ丘詩羽、サークル辞めることにしたから」

 

「そうなんだ……え? なんで……?」

 

 

 あたしは恵に経緯を説明する。マルズってゲーム会社のゲームの新作の話があたし達に来たこと。その仕事を受けるとサークルに参加する暇はなくなると。そしてあたし達はそっちを選ぶから『bressing software』にはいられないと伝えた。

 

 

「そのこと……安芸くんには言ったの?」

 

「ううん。恵が最初」

 

「なんでプロデューサーの安芸くんでも好きな人でもなく私が先なの?」

 

「だって一番面倒なのが恵だから。なんだかんだ倫也も直宏も許してくれる気がするし」

 

「私、もしかして英梨々に心が狭量だって思われてる? 友達の門出も素直に祝えない嫌な女だって」

 

「だって恵、不満そうな顔してる。それって周りが思うよりずっと恵は『bressing software』のこと好きで裏切り者を許せないって思ってるってことでしょ?」

 

「それが……分かってるならさぁ……どうして、さぁ……残ってくれないのかなぁ……? 裏切っちゃうのかなぁ?」

 

「恵……」

 

 

 恵は心中を吐露する。あたしはそれがすっごく痛いけど、受け止めなければならない。謝るなんてもっての外だ。

 

 

「ごめんね英梨々、本当は応援しなきゃなのに嫌なこと言って」

 

「いいわよ別に、恵が言ってくれたこと全部正しいもん。寧ろそれくらいで済んでホッとしてるくらいよ。絶交されてもおかしくないって覚悟してたし」

 

 

 同じベットで背中合わせであたし達は話していた。

 

 

「本当はそれくらい許せなかったよ。でも言いたいこと言ったら後にしょうがないなぁって思っちゃった」

 

「それは……本当に恵はお人好しなんだから……」

 

「そうかもね」

 

 

 こんな裏切りをちょっとあたしに吐き出したからって許せちゃうなんて普通あり得ないだろう。

 

 

「あたしね、思うんだ。直宏と出会ってなかったらもっと拗れてたんじゃないかなって」

 

「どう言うこと?」

 

「もし、草薙直宏って芸術家の絵を見なかったらとか、見たとしても惹き込まれなかったら直宏をサークルに連れてくることもなかったじゃない?」

 

 

 それはもしかしたらあったかもしれない未来(ifの世界の話)

 倫也の事が好きなままで、倫也にとって最高のイラストレーターを目指す。でも中々それに辿り着けなくてスランプに陥って、でも何とか倫也に最高の絵を描けたと思ったら、また描けなくなって。倫也はあたしに描かせる事が出来なくて、今のあたしより実力ないから紅坂朱音に死に物狂いで描いた絵を真似られて下手くそだって貶されて描けるようになっちゃう。

 サークルにいたままじゃ最高のイラストレーターになれないからサークル離れるって決めて、でもその裏切りが後ろめたくて恵には事後承諾なっちゃって、恵からあたしを訪ねてきた時に喧嘩しちゃうの。自首が罪の軽減に繋がるように、後ろめたいことは自分から言い出さないとダメージはデカくなって恵とはしばらく絶縁状態になっちゃうんじゃないかと話した。

 

 

「大した妄想だね」

 

「現実にならなくて良かったわ。でもあたしに自信とか勇気がなかったら確実に起こってたと思う」

 

「それはまぁ……今よりは私も怒ってたかもね」

 

「だからあたし直宏に会えて本当に良かった。自信とか勇気とか色々なものを貰えたから」

 

「それ本人に言うべき言葉じゃないの?」

 

「それとなくは伝えたことあったんだけどね」

 

 

 二十五話(直宏が取り囲まれた後)の時に。

 

 

「あたし、明日直宏に告白する。好きですって伝える」

 

「それはまた……ベタな展開だね。バレンタインデーに告白するって」

 

「バカねベタっていうのは王道なの。王道だからいくら鈍い、というか頭が硬い直宏と言えどあのチョコと告白をセットにすれば伝わるでしょ」

 

「ハートだもんね。これ以上無いくらい本気の本命だって分かるもんね」

 

 

 あたしはLEINではなく、『放課後体育館裏で、あなたに伝えたい事があります。直宏が来るまで一生待ってます』とメールを送信する。

 

 

「軽いかも知れないけどあえて言うね。頑張れ」

 

「……うん、頑張る」

 

 

 その時、時間が丁度0時を指した。

 2月14日バレンタインデー。一世一代のイベントが始まろうとしていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「終わったな」

 

「ああ、やっと終わった」

 

 

 遂に完成した。達成感と怠さが同時にきて、オレたちは倒れ込む。

 

 

「なあ、直宏」

 

「なんだー」

 

「お前さ、次回作はグラフィッカーとか原画で参加しろよ」

 

「なんだ次回作の企画思いついてたのか?」

 

 

 オレがサークルにここ最近関わってなかったから企画が立ち上がってるとは知らなかった。

 

 

「まだ構想の段階だけどな。けど作るよ、また伝説打ち立てる」

 

「プロデューサーやディレクターがそういう想定するのは良くないって聞いたことあるが」

 

「うぐっ……でも仕方ないだろできちゃうって思っても仕方ない面子が集まってるんだから」

 

 

 確かにそう思ってしまうメンバーがサークルには揃っているな。

 

 

「今度は最初から最後まで付き合えよ。一緒に血反吐吐こうぜ?」

 

「……ああ、そうだな。そういうのも悪くない、か」

 

 

 途中参加で途中離脱だったからな、そこに悔いが残ってるのも確かだった。後、復活した草薙直宏を世間に見せつけたいという自尊心もあるにはあった。

 オレはスマホの電源を入れて、メールが届いていることに気付く。

 その内容と日付けを見てなんて巡り合わせだと思った。

 2月14日、これ以上無いくらいおあつらえ向きなタイミングだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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