素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第四話

 

 

 

「悪い待ったか?」

 

「遅い。何もたもたしてるのよ草薙ッ」

 

「この混み具合でお前を探し出しただけでも褒めて欲しいんだが」

 

 

 いくら開店前とは言え、長い行列の中探すのは骨が折れた。帽子で目立つ金髪ツインテールが隠れていて一周目は気づかなくて一々金髪の人の顔確認する羽目になったというのにこの仕打ち。

 

 

「それに二人のすとーーーじゃなくて倫也が加藤さんに変な事しないか監視するというのに何でそんなすぐ顔がバレる格好してくるわけ?」

 

「まず何をするかも聞かされて無かった上に、お前探してる最中に気づかれて声掛けられたぞ。それで何となく察してお前に呼ばれた事は言わなかったが」

 

 

 今日の朝いきなり電話が来たと思ったら新しく出来た六天馬モールに集合って言われたからな。断ったら何言われるかたまったもんじゃないから渋々きたけど。

 

 

「何やってんのよッ、それじゃあ途中でバッタリ会ったらあたしのことバレるじゃない!」

 

「モール内絶対人でごった返すからそうそうバレないし、そもそもを言うなら監視するのはお前一人で十分だろ何でオレまで……」

 

「監視だけならね。あんたは虫除けスプレーよ。ナンパ避けの為のね」

 

「ベレー帽を深く被った怪しげな奴に声かける物好きはいないと思うけどな」

 

 

 しかもこの行列だ。モール内は人で溢れかえる事が予想できる。ナンパが出来るような環境じゃない。

 

 

 

「あ、お兄さん少し暇かな? 良かったら私とお話ししない?」

 

「すみません。連れがいるので」

 

「そっかー、邪魔しちゃってごめんね?」

 

 

 少し年上の女性の誘いを断り、澤村の元に辿り着く。

 

 

「ちょっと草薙、これで何回目!? あたしのナンパ対策の為に呼んだあんたがナンパされてどうすんのよ!」

 

「いやそんな事言われてもだな……」

 

 

 こんだけ混雑していればナンパされる事はない。そう思っていた時期がオレにもあった。最初に声掛けられた時は偶々だと思ったがそれが何回も続けばそうはいかない。澤村と少し離れただけでこう言う事が起こる。

 

 

「しまったわ……あんたが世間一般的にイケメンの部類に入ると言う事を頭に入れてなかった。仕方ないわねこれだけ尾けててもバレてないし背に腹はかえられないか……」

 

 

 ブツブツ小声で呟いていた澤村は眼鏡を外し、深く被っていた帽子を脱ぐ。すると隠れていた髪が下ろされてストレートになった。

 

 

「何あの子キレー」

 

「隣にいる男の子もカッコよくない?」

 

「カップルなのかなー」

 

 

 途端に注目され始める。この様子なら確かにナンパはされないかもしれないがこうも目立つと知り合いにバレる可能性があるぞ。見つかったら面倒な噂が立ちそうだなーと思いながら休憩が終わり移動し始める安芸達に俺たちも合わせる。

 

 

「あーもう! うっとうしいわねこの人ゴミ! 少しでも気を抜いたら見失っちゃうじゃない!」

 

 

 

 昼を超えてから人の多さが尋常じゃなくなっていた。

 澤村はつま先で立ちで安芸達の進行方向を進む。そんな事したら通行人の足に引っかかって……

 

 

「きゃっ!?」

 

「澤村ッ!」

 

 

 案の定人とすれ違った瞬間足に引っかかり前のめりで倒れそうになるところを咄嗟に抱き止める。

 

 

「大丈夫か澤村?」

 

「う、うん……」

 

「一旦人混みから抜けるぞ」

 

「え、でもそっちは倫也達と逆方向ーーー」

 

「もう遅い。ここまで澤村のワガママ聞いてやったんだ。オレのワガママにも付き合って貰うぞ」

 

「あっーーー」

 

 

 オレは澤村の華奢な腕を強引に引っ張って人混みから抜け出し、適当に空いてる店に入る。危なっかしいのもそうだし体力が無いのかさっきから息が荒いのを見て連れ出した。

 ………これで偶々入った店がランジェリーショップで無ければ格好もついたのだろうが。

 

 

「あんたのワガママはあたしをランジェリーショップに連れてくる事だった訳? ドン引きなんだけど?」

 

「それについては申し訳ないとしか言いようがない……」

 

「………さっきはふ……にも………したけど……」

 

 

 

 すぐさまランジェリーショップから逃げ出した後に来たのは画材屋だった。

 

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでもないわよッなんでもッ」

 

 

 本当に小声だったので全然内容が聞き取れなかったので聞き返すがどうやら触れてほしくないようである。澤村が内容について答える事はなかった。

 

 

 

「最近は画材屋さんにもこう言うの置いてるのね」

 

「あーペンタブって言うんだったか」

 

 

 中に入ると目のつく場所に最新モデルとポップにデカデカと書かれている液晶タブレットが置かれていた。澤村はスラスラと備え付けのペンで書き込む。

 

 

「うわーこのスタイラスペン超描きやすい! 殆どアナログ感覚で描けるわよこれ!? 草薙、ほらあんたもちょっと描いてみなさいよ!」

 

「ったく仕方ないな」

 

 

 オレが描けないことも忘れるくらい盛り上がっている澤村にペンを渡され、適当に線を引く。これくらいなら利き腕の感覚が殆ど無いオレでも普通に出来る。

 

 

「実際の力の入れ具合だけじゃ無くてペンの傾きでも濃淡強弱がつけられるわよ。これならあんたでもやれるんじゃない?」

 

「へぇー」

 

 

 オレは澤村の説明通りに傾けて描いてみる。すると確かに傾きが深いと薄く細く直角に近いほど濃く太くなるようである。

 色々な機能を確かめていくと色の上に違う色を重ねると変化したり、筆の掠れ具合や水彩の色が薄れていく様の表現も出来る。デジタルの進歩は凄まじいと素直に感心した。

 

 

「草薙。ちょっとペン貸して」

 

「ほれ」

 

 

 オレが使っていたペンを手渡し、澤村はページを一新して真剣に何かを描き始めたようである。

 これは昨日霞ヶ丘先輩が書いてきたプロット冒頭の桜舞い散る坂の上で主人公がヒロインに落とした帽子を手渡すシーンの線画か?

 

 

「草薙ほら色塗って!」

 

「いやオレ達がここ占拠したら他の客に迷惑かかるだろ」

 

「どこに他のお客さんがいるって言うのよ? あたし達だけしかいないじゃ無い」

 

 

 モールはこんなに混んでいるのにこの店は閑古鳥がないているようだった。まあ画材屋に用があるような奴はわざわざ開店初日でめちゃくちゃ混むことが予想できるのに来る筈ないか。店側には何も買わずに占拠しやがってと思っているかも知れないが。

 今までにない描き方で苦戦を強いられたが何とか全部塗り終わると………気がつけばギャラリーが集まっていた。

 

 

「いつの間に人がこんなにも集まってるんだよ!?」

 

「それはこれが原因よ」

 

 

 澤村がスマホの画面を見せる。そこには店側が勝手に上げたらしい液晶ディスプレイに映るオレ達の書いた絵がツウィッターで

めちゃくちゃいいねリツイートされていた。数十分占拠していたとは言えこれは……

 

 

「塗りが全然違うから柏木えりが線画を描いてることはすぐにはバレないと思うけど、目ざといファンは気づいちゃうかもね」

 

「言ってる場合か! すぐここを出るぞ澤村!」

 

「えっ! あたしこのペンタブ買おうと思っ……」

 

「そんなの後でネット通販で買えばいいだろ! いいからほら行くぞッ」

 

「そ、そんな〜!」

 

 

 オレは引き換え券を物欲しそうに見つめる澤村を無視し、腕を掴んで店から出ていった。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「酷い目にあった……」

 

 

 人混みを振り切って広い場所に出て一息つき、澤村の腕を離す。

 ギャラリーについて来られても困るので澤村との合作絵は撒き餌としてあえて放置した。色々拡散されて面倒な事にならなきゃいいんだが……それもこれも元はと言えばーーー

 

 

「お前が絵を描かなかったらこんな」

 

「あ、あれって加藤さん達じゃない?」

 

「聞けよ話を」

 

 

 澤村はオレの話を聞いていなかった。目線の先を追うと安芸が早足で加藤の元を去っていくところだった。

 それをみた澤村はもうバレてもいいと思ったのか近づいて加藤の肩を叩く。

 

 

「澤村さん……? それに草薙くんも? ……もしかして」

 

「いやー加藤さん偶然ね。これからお茶でもどうかしら?」

 

 

 澤村は満面の笑みだった。それはもう今までにないくらいニコニコである。それとは対照的に加藤の表情はムッとしていた。

 カフェで飲み物とホットドッグを受け取り、澤村達の陣取っている外の席に移動する。

 

 

「あのー澤村さん? 何で六天場モールに? 草薙くんと一緒だったから一応は聞くけどデート?」

 

「ちょっと被写体が動かないでよ。いやー草薙もそうだけど加藤さんともぐ・う・ぜ・ん会っちゃうなんて」

 

「それで押し通すつもりなんだ……」

 

 

 加藤は飲み物に刺さっているストローを口に含み、澤村はそれをスケッチブックでスケッチしていた。

 

 

「待たせた」

 

「あー草薙くんおかえり」

 

「……そんな表情で加藤に迎えられるとは思わなかったぞ」

 

「開店前に声をかけた時ははぐらかしてたけど、こういう理由だったんだね。なら私がこんな顔になるのも分かるよね」

 

「…………」

 

 

 加藤は声こそ平坦だったがすっごく怒っている事が表情で分かり、無言で席に座った。

 

 

「いいわねー加藤さん。アナタから溢れた感情が表情に浮かんできているわ。その調子でドンドン怒りをたぎらせなさい」

 

「その一端を担ってる人がこうも反省の色なしだと、なんだかなーだよね」

 

「何ようるさいわね。今しがた男にデートすっぽかされて他の女に走られた負け犬の癖に」

 

 

 おい、余計なこと言うな。いや矛先をオレ達から外すにしてもその煽り方は不味い。加藤の体から炎が上がっているのを幻視する。

 

 

「そう言えば澤村さんが髪を下ろしてるの新鮮かも」

 

「そうねー家ではいつも下ろしてるけど外だと珍しいかもねー。出来た!」

 

「出来たって何が……」

 

「ほらアナタのムッとした時の表情!」

 

 

 スケッチが完了して加藤に見せる。

 

 

「私こんな顔してないよー。んー」

 

 

 

 いやむしろ澤村の絵の方がマイルドに描かれてるぞ。

 加藤を怒らすような事をしないと誓うくらいにはキレてるように見えた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 英梨々side

 

 

「あー今日は楽しかったなー」

 

 

 夜。ベットの上で今日あった事を思い出す。

 最初は統率されていない無秩序な人混みに嫌気が差すくらいキツかったけど途中からそうじゃ無くなった。特に草薙との合作を書いている時は。

 あたしのエゴだと言うのは分かってる。でも草薙にはやっぱり絵を描いてほしい。画材屋に置いてあったペンタブを見てこれなら利き手を満足に使えない草薙でももしかしたらやれるんじゃないかと思いついてやらせたらこうも上手くいくとは思わなかった。

 最初のうちは途中で角度を調節しながら描き入れるのに苦労していたが、段々と洗練されていく塗りを見て草薙は芸術にしがみ付くべきだとどうしても思ってしまうのだ。

 

 草薙が稚拙だと言ったサクラノ刻。確かに草薙から見れば満足する作品とは言えないかも知れない。けれど他のどの作品よりもあたしの心にすっと入ってくる名画だった。

 だからあたしは草薙純一郎ではなく草薙直宏という芸術家を尊敬し、目標にし、いつか超えて見せると奮起できる。倫也との仲を引き裂いた連中を見返すのが創作に対するモチベーションで、ある種倫也とあたしだけの世界を塗り替えた存在に最大の憎悪と敬意を贈ろう。

 

 

「だから待ってなさい草薙直宏。あたしは必ずーーー」

 

 

 あたしは某通販サイトの商品をカートに入れて、購入ボタンをクリックするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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