素直になれない彼女《ヒロイン》の育てかた   作:アメリカンショコラ

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第六話

 

 

 

「師匠呼ぶな。弟子入りの話はだいぶ前に断っただろ」

 

「だから妥協案として精神的妹として誠心誠意先輩に尽くすことにしたんですよ」

 

 

 終業式で学校が終わり、校門で待ち伏せていた旭川と公園で話していた。

 そこから数メートル離れたところに安芸と加藤、それに見ず知らずの中学生が立ち話をしている。ベンチには霞ヶ丘先輩と澤村が座って読書とスケッチをしていた。

 

 

 

 

「弟子云々の話はまあ百歩譲ってあり得んでもない。でもそれを断ったら精神的妹になるってどう言うことだよ?」

 

「その話はもうなんどもしたじゃないですか。弟子は師匠の世話をします。妹も兄の世話をします。つまり弟子=妹なのですッ」

 

 

 ふんっと中学生にしては不釣り合いな胸を張る旭川。

 

 

「いや意味わからん。というか一回もお前に世話をされた記憶がない。春休みに一回来た時もだらけるだけだらけた後にオレの作った飯食って帰っただけだったよな?」

 

「うー、それは先輩の作るご飯が美味しすぎるのがいけないんです。私だって料理ぐらい作れます。先輩程じゃないから振る舞うのに抵抗があるってだけで」

 

「病弱のお前は逆に世話される立場なんだ。火の立つ台所に立たせるなんて危なっかしくて出来ないぞ」

 

「相変わらずずるいな先輩………何年前の話をしてるんですか、この通り私の病気は完治して元気です」

 

 

 細い腕で力こぶを作ってアピールする旭川。何が狡いかは知らんがこいつの元気アピールは全くもって信用ならん。

 

 

「とか言ってこの間も貧血で倒れたそうじゃないか、病気は治ったのかもしれんが病弱なのは変わらないだろ」

 

「どこでそれを……と言っても一つしかないか。でもわざわざ先輩に言うことないのに。お母さんもお父さんも心配性。ちょっと立ちくらみしただけで病院に連れていかれたんですから」

 

「娘が重い病気に罹ってたんだから過保護になるのも当然だ」

 

 

ーーーーーー

 

 

other side

 

 

「波島出海に旭川さな?」

 

「確かそんな名前だった筈」

 

 

 詩羽と絵梨々は読書とスケッチをしてお互い目を合わせる事なく会話している。

 

 

「二人とはどういう関係?」

 

「あ、あたしは知らないッ。波島出海は小学校違うし、2学年もしただし、彼女中学に上がる前に名古屋に引っ越してしまったから」

 

「それを知らないというのは語弊があると思うのだけど……なら彼女の方は?」

 

「……旭川さなの事は本当にちょっとしか知らない。展覧会で何回か見かけた事があるだけ……」

 

 

 さなの方を指差す詩羽。対し絵梨々は何とも言えない表情だった。

 

 

「ただ見かけただけで旭川さんの名前と容姿が一致する訳ないでしょう。彼女有名なの?」

 

「ーーーーーー知らない」

 

「全く……知らない人にする顔じゃないでしょうに。いいわ草薙君に彼女のことを聞くから、草薙君ーーー」

 

 

 詩羽はベンチから立ち上がり、直宏の方に近づいて声を掛けようとする。

 

 

「ーーーッ。中学生全国絵画コンクールで金賞を取ったのよ旭川さなが」

 

「つまり澤村絵梨々を絵で負かした女ということ?」

 

 

 直宏が詩羽に気づく前。苦虫を噛み締めるような声で吐露した澤村に詩羽は戻って再びベンチに座る。

 

 

「本当は認めたくはないけどね。旭川さなは画家として別の領域にいる人間の一人よ」

 

「なら草薙君と知り合いでもおかしくはないと言うことね」

 

 

 何かしらの公募の入賞会で会っていても何らおかしくないと詩羽は納得する。

 

 

「それにしても旭川さんあの制服は美奈川中学のものみたいだから彼女まだ中学生よね。なのに澤村さんどころか私よりあるじゃない。澤村さんの何倍なのかしらね」

 

「ッぐっ。2回も言うんじゃないわよ2回も……巨乳なんて今すぐ滅びろッ」

 

 

ーーーーーー

 

 

「澤村先輩初めまして旭川さなと申します。式典で見かけた事なら何度かありますが直接こうして話すのは初めてですね、よろしくお願いします」

 

「あたしはこれっぽっちもよろしくする気はないけどね」

 

 

 途中澤村の話題になった時挨拶したいと旭川が言ってきたので引き合わせた。

 その結果がこれである。

 旭川に敵意剥き出しで、丁寧な挨拶にも素っ気ない態度で返していた。

 

 

「ごめんなさいね旭川さん。彼女今、気が立っているだけだから」

 

「いえ、私は気にしていませんから。えーと……」

 

「自己紹介がまだだったわね私は霞ヶ丘詩羽。草薙君とは一学年上で、彼の参加しているサークルのシナリオを担当しているわ」

 

「サークル? シナリオ?」

 

「そう言えば旭川には言ってなかったか」

 

 

 旭川に今ノベルゲームというジャンルのゲームを作っている事、そのサークルにオレも参加している事を伝える。

 その事に旭川は随分驚いていた。

 

 

「絵、描けるように……というか描く気になったんですか?」

 

「いや、そんなことはないが」

 

「なら何で………普段気怠げで面倒ごとを避ける先輩がそれを踏まえてでも関わる程の何かがサークルにはあると言うことですか?」

 

 

 ふと澤村の方を見る。澤村はオレたちの話より、安芸達の会話が気になるようで三人を見てソワソワしていて落ち着きがない。

 

 

「なるほど………澤村先輩が先輩を焚きつけたと言うわけですか」

 

「え、なに? あたしがどうかした!?」

 

 

 澤村の方は心ここにあらずだった。旭川に名前を出されてようやく我に返ったこいつは聞き返す。

 

 

「いえ、こちらも執着する理由が出来たなと」

 

「?」

 

 

ーーーーーー

 

 

 絵梨々side

 

 

「…………」

 

 

 

 波島出海からリトルラブラプソディの話題が出た時から気が気じゃなかった。

 と言うか終業式の帰り際に旭川さなと仲良く話す草薙を見てから感情がよく分からないところに行ったり来たりしてる。

 今は多分一度に二回裏切られた様な最悪の気分。

 

 

「なんか怒ってんのか? さっきから」

 

 

 それがあからさまに出ているからか一緒に帰っている倫也が振り返ってそう訊ねてくる。

 

 

「別に怒ってない」

 

 

 気分が最悪なだけ。あたしは立ち止まってる倫也を早足で抜いて先に進む。

 

 

「やっぱ怒ってるだろ。3年ぶりに友達と再会したんだ話が弾むのは当たり前だろ?」

 

「だから怒ってないって」

 

 

 しつこい倫也に再度言い返す。分かってないあたしが怒ってるのは話が弾んでるからとかそういう理由じゃないこと。

 

 

「………リトラプ、布教してたんだ? あの子に」

 

 

 余りにも分かってないから、明言する事にした。

 

 

「ッ……そりゃ名作だし」

 

 

 あたしの剣幕に半歩退がる倫也。

 忘れたことはない。けれど薄まっていたものが再燃し、昨日のことの様に鮮明に思い返せた。

 

 

「だってそれはーーー」

 

「久しぶりだね二人とも」

 

 

 続く言葉は坂の上に立っていた第三者に遮られ一瞬止まったが、溢れそうになるものを止めるには不十分だった。

 

 

「いい作品は沢山の人にプレイしてもらいたい。それがオタクの本能だろ」

 

「いい作品だからこそにわかに入ってほしくないってのもオタクの本能よ」

 

「それでも相手が大切な友達だったら布教するだろ普通」

 

「今はそんな一般論で話してないッ」

 

 

 あたし達の口論は続く。

 

 

「お願いだからスルーしないでくれよー! 30分前からここでスタンバイしてたのに台無しだよ」

 

「ふぅ……なんの用だよ伊織」

 

 

 流石にスルーし続けるのは良くないと思ったのか倫也は渋々ここにいる理由を波島に聞いた。

 簡単に言うなら親の都合で東京に来たから挨拶……というのは表向きであたし達のサークルに対する宣戦布告が目的だった。しかもあの有名シャッター前サークル『rouge en rouge』の代表になって。何処から聞きつけたのかあたしと霞詩子がゲームを作っている事もバレている始末。

 

 

「しかもあの色彩の魔術士『草薙直宏』なんて界隈外の大物を参戦させるなんてどうやって連れ込んだんだい?」

 

「なっ、何で草薙の事まで……」

 

「六天場モールの画材屋」

 

「!?」

 

 

 驚いた。それはあたしがいた事に対してじゃない。

 今までの草薙直宏とは(・・・・・・・・・・)似ても似つかない色の塗り(・・・・・・・・・・・・)なのに気づいた事に対してだ。

 

 

「ウチには目利きのプロがいてね。彼女に言わせれば間違いないらしいんだよ。シナリオ『霞詩子』原画『柏木えり』グラフィッカー『草薙直宏』そんなところかな?」

 

 

「………草薙は描かないわ。本人が拒否してる」

 

「あくまで自分達の口から認める事はないということかな。確かに六年ぶりの復帰作になるんだセンセーショナルにいきたいもんね」

 

「そういうことじゃないッ! 勝手に変な想像しないで!」

 

 

 面白がって話すこいつにイライラしていた。

 草薙は描かないのに変に噂が広まって変質して復帰する事が確定みたいになったら自分達が描かせる為に噂を歪めて広めたみたいになるのが嫌だからだ。描かせたいというのは本当だけどそう言った形は望んでいない。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「…………? なんだこれ」

 

 

 家に帰り、ポストを覗くと緋色の手紙の封筒が中に入っていた。

 封を切ると中には……

 

 

「澤村スペンサー家ホームパーティーご招待?」

 

「どうした? 直宏玄関前で立ち止まって」

 

「蘭……パーティの招待権が届いてた。ご丁寧に二枚も」

 

 

 うるさいバイク音が近づいたて止まったと思ったらヘルメットを脱いだ蘭だった。

 

 

「行くのか?」

 

「いや、行かないだろ。蘭が行きたいなら一人で行ってきてもいいぞ」

 

「それこそ駄目じゃないか? 直宏も一緒じゃないと私まで呼ぶ意味がないだろう。直宏が行かないと私も行かないよ。でもまあ取り敢えずは預かっておく。心変わりしたら言ってくれ」

 

 

 手渡した手紙を受け取ると蘭はバイク置き場に消えていく。

 

 

 

「久しぶりぶりだなここにくるのも」

 

 

 夏樹家から少し離れた小屋に訪れた。

 

 

「ッ、やっぱりダメか」

 

 

 

 やはりというべきか上手く力が入らない。

 長い間ここで夜を過ごし、色々手につけるのだった。

 

 

 

 

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