ブルペンは今日も平和です。   作:通りすがりの猫好き

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#8 part4

「『黒鵜座一先生のお悩み相談室』のコーナー! それではやってまいりましょうと言いたい所ですが。言いたい所なんですが……」

 

 

 

「ん、どうかしちゃった系?」

 

 

 

「いや。また悩みとか無さそうな奴が来ちゃったな~と」

 

 

 

 いきなり黒鵜座は頭を抱えていた。このコーナーが始まった当初の回(第五回参照)のゲストであった八家と同様、目の前にいる海原もこれといった悩みとは無縁そうな男なのだ。元々深く考えるようなタイプにはとても見えないし、人間関係でくよくよと悩む姿など想像できない。

 

 

 

「あ、めちゃ失礼な事考えてね? そりゃあ俺っちだって悩む事の一つや二つくらいあるに決まってんでしょ、人間なんだから!」

 

 

 

「ふーん、例えばどんな?」

 

 

 

「今一番悩んでるのはあれっす! 外野手の志村(しむら)さんとの付き合い方がよく分からない事っすね!」

 

 

 

「え、志村さんと? そりゃまた物好きな。投手で志村さん好きな人ってそうそういないよ」

 

 

 

 ここであんまり野球を見ないリスナーのために説明しよう! 志村さんとは! 今年でプロ11年目を迎えるベテラン外野手、志村光真(しむらこうま)の事である! ブルーバーズに所属する日本人で唯一といっていいほど安定して2桁本塁打が期待できる右の中距離打者であり、なおかつ毎年3割に近い打率を誇る好打者である。「ミスターブルーバーズ」の二つ名でファンにも親しまれている選手だ。今シーズンはここまで打率.288、本塁打4本を記録している。かといって成績を鼻にかける様子があるわけでもなく謙虚である事から、ファンだけでなく野手からの信頼度も高い。

 

 

 

 ……と、ここまでは良い点ばかり挙げてきたのだが。黒鵜座がこう言うのもちゃんと理由がある。問題はその守備である。まず志村はそこまで肥満気味の体ではない割に足が遅い。それも物凄く。多分保護者リレーに出ても普通のおっさんよりも少し速い程度のレベルである。それだけならまだいいのだが。さらに酷い事に守備力が小学生並みなのだ。本当に小学生の頃から野球をやってきたのか疑わしいレベルである。ちなみにファーストとサードとショートも守れる(自己申告)(守れるとは言ってない)が、まぁその実力は見ずとも分かる。見なくても分かるから守るのはマジでやめろ下さい。そして極め付きには送球のコントロールが悪い。肩はそこそこだが、結構ばらつくし時折物凄い方向へと飛んでいくことがある。鈍足、守備下手、制球難。これの意味する事はつまり、投手陣の破滅である。

 

 

 

「そうそう、よくSNSで他の選手との2ショット写真上げてんだけどさぁ。黒鵜座パイセンのもあるよ、見る?」

 

 

 

「え、マジ? あ、ホントだ。そういや前写真撮ってくれって言ってきたな。そのためなのかよ。……っておい、盛りすぎだろこりゃ」

 

 

 

 そのスマホに映る自分の姿に黒鵜座は思わず顔を歪めた。何か小顔になってるし、肌も実際よりも若干白い。自分のはずなのに、なんだか他人のような気がして気持ちが悪い。

 

 

 

「これくらい普通じゃないっスか? 改めて見ると、ははっ、すげー仏頂面じゃん黒鵜座パイセン」

 

 

 

「そりゃあ急に言ってきたからそうなるよ。っていうかそうじゃねえ。何でそれが志村さんと繋がるんだよ」

 

 

 

「あ、その話ね。えーっとそれで他の選手にも色々かけ合って写真撮らせてSNSに上げさせてもらってるわけなんだけど。志村さんとだけまだ2ショットの写真が無いんだよね~。なんてーの、避けられてるってカンジ?」

 

 

 

 あー、何か察しがついた。そういう事か。ははーん、あの小心者め。あの件をまだ引きずってるわけか。コメント欄も志村の名前が出た途端に盛り上がっている。志村はリアルでは前述の通りだが、ネット民にも人気がある。良くも悪くも話題に事欠かないというか、まぁそんな感じの人だ。

 

 

 

「……多分それな、お前のプロ初登板で初勝利の権利を消したことを未だに気にしてるからだと思うぞ」

 

 

 

「デジマ? んなちっちゃい事で俺っちがカリカリするような性格に見える!? だとしたらめちゃショックなんだけど!」

 

 

 

「やめろやめろ、肩を揺らすな。あれはそういう人なの。周りがどう思おうと勝手に気にしてしまうような人なんだよ。それにしても……はぁ~、若手相手に何逃げてんだあの人は」

 

 

 

 思い起こされるのはあの事件。ホームで迎えた試合で初登板初先発を果たした当時の海原は快調に投げ進んでいた。打線も大爆発とはいかないものの、早々に3点を援護し試合はブルーバーズ優勢。海原は5回を順調に投げ終え、理想的な試合展開に見えた。……そう、アレが起こるまでは。

 

 

 

 6回に1点を返され、なおも1死一二塁のピンチ。マウンドには先発からずっと投げ続けている海原。もう球数は100球へと達しようとしていた。そして相手は5番打者を迎える。外野は定位置、1点までは仕方がないという体制だ。そしてバッティングカウントから放たれた打球はレフトへ。そこを守っていたのが志村だ。打球はかなり伸びたが、球場が広いのもあって本塁打とはいかない。際どいがまだレフトフライの範囲だ。だがここで悲劇が起こる。足をもつれさせて転倒、ボールを取ろうと手を伸ばすも無情にそのままボールが落ちて転がっていった。これには次の打者に向けて準備していた海原も思わずロジンバッグを落としてしまうレベルである。センターの李がフォローするも二塁ランナーが余裕で生還。1塁ランナーも3塁へと滑り込んだ。

 

 

 

 結果この一打が決め手となり、海原は降板。後を継いだ石清水も同点に留めるのが精一杯で、海原の初勝利の権利は泡と消えた。それ以来、きっと志村はその件を引きずっているのだろう。繊細な志村らしいと言えばらしいが。

 

 

 

「で、どうしたらいいと思います!? こういう時頼りになるのはコミュ強の黒鵜座パイセンくらいしかいないんすよ!」

 

 

 

「何て? まぁお前が気にしてないって一言言ってやれば済む事なんだろうけど、まず状況のセッティングだよな。多分一対一で話そうとすると確実にあの人逃げようとするから」

 

 

 

「え、逃げるんすか? 何で?」

 

 

 

「何でって、そりゃ志村さんが志村さんだからとしか言いようが無いな」

 

 

 

「追いかければよくない? あの人足遅いし」

 

 

 

「追いつめるのは逆効果だぞ。この前後逸した志村さんの事を追いかけてたら何て言ったと思う?」

 

 

 

「何て言ったんすか?」

 

 

 

「『一万円あげるんで許して下さい』だぞ。あの人の肝っ玉の小ささを舐めてちゃいけない」

 

 

 

「はー、それはまた重症で草生える」

 

 

 

 コメントでは「志村www」「うーん、これは志村!」なんて発言が流れているが、これが事実なんだから仕方がない。いやいい人なのよ? いい人なんだけどちょっと気が小さいというか周りからの視線を気にしすぎるところがあるのがキズなだけで。

 

 

 

「まぁ時間あるんで続きは次のCMまたいでから考えましょう。それではCM入りまーす」




今回紹介するのはブルーバーズの助っ人一塁手、ドゥリトル選手の応援歌です。

飛ーばーせー! ドゥーリートールー!(前奏)
くーろふねからやってきた 我らが大砲 さぁぶちかませ 夢見せてくれ Just Do It! ドゥリトル!

次回のゲストは誰がいい?

  • 北が生んだ奇跡の剛腕
  • 東の都で育まれた超エリート
  • 西の若大将
  • 南国発の熱血左殺し
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