森に引きこもる、歴代最高魔女   作:うたた寝犬

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第5話「夏の始まりと、白い君」

 憎き梅雨を越えた姫花には、体育祭やら中体連やら期末テストやら学校行事がこれでもかと待ち構えていた。

 

 そしてその全てを無事乗り越えた姫花は、楽しい楽しい夏休みへと突入する。

 

 姫花は夏休みが大好きだ。2ヶ月くらいあってもいいと思うほどに大好きである。

 図書委員会であるため、夏休み中何度か図書室を開ける関係で学校に出向く必要があるが、いずれも夏休み中の登校日の前後の日であるため、そこまで苦ではない。

 

 つまり登校日と、その前後の図書委員会の日。そして友達と遊んだり、母方の実家へ帰省する数日間を除けば、それ以外の日全て魔女の家に行けるのだ。

 それが、姫花にとって夏休みが大好きな理由だった。

 もちろん魔女にも都合があるだろうし、全ての日に赴くことは出来ないが……学校に行ってる普段と比べれば、遥かに長い時間、魔女のそばにいられるのだ。

 

 そんな楽しい楽しい夏休み初日……いや厳密には、0日目。終業式を終えて午前で学校が終わった姫花は、荷物を家に置いて学校指定のジャージに着替えてすぐに森に向かった。

 

 本格的な夏の暑さにはまだ一歩届かないが、服や髪がへばりつくくらいには汗が止まらない、そんな暑さ。

 

 しかしそれも、森に入るまでである。

 どういうわけか魔女が住む森は夏であってもその暑さが多少和らぎ、いくらか過ごしやすい。暑いは暑いが、森の外と比べると雲泥の差である。

 

 もしかしたら姫花が知らされてないだけで、この森にはそういう(まじな)いが込められているのかもしれない……そう思いながら、姫花はいつものように森を駆ける。

 

 森にかけられている(まじな)いのせいで普通の人ならすぐに迷ってしまうのだが、どういうわけか姫花にはその(まじな)いがあまり効いていなかった。せいぜい、

「この道、前はあったっけ……?」

 と軽く混乱する程度で、すぐに正しい道を見つけることができた。

 

 そのため姫花は今日も今日とてさして迷うことなく森を駆け抜け、魔女の家が見えるところまでやってきた。そして、

 

「……んぁ?」

 

 目を、疑った。

 

 真っ白い何かが、魔女の家の前にいた。

 

 一瞬見ただけでは、そこだけ景色が白く塗りつぶされているとしか思えないような、綺麗すぎる白。

 

 慌てて足を止めた時に姫花はそれがようやく四足歩行の動物だと気づいた。

 そして同じく姫花の足音に気づいたソレがくるっと振り返り、姫花の目線と交錯した。

 

「……うま?」

 

 姫花は訝しみながら呟く。

 あまり動物の知識が豊富とは言えないし、本物の馬を実際に見たことはない姫花だが、目の前にいるこの白い四足歩行生物は馬だろうと判断した。ロバでもラバでもなく、馬。

 

「……馬って……」

 

 白い四足歩行生物を馬と判断した姫花が次に思い、口にしたのは、

 

「……こんなに、綺麗なの……?」

 

 という、純粋な賞賛だった。

 

 穢れのない雪原のような白い毛並みと、磨き上げた宝石と言われたら信じてしまいそうな神秘的な黒い瞳。

 無駄を削ぎ落として力と速さを両立させた機能美と、天才画家が命をかけて描き上げたような芸術さを併せ持つ四肢。

 

 少なくとも今、姫花の目の前にいるその白い獣は、姫花がこれまで14年間の人生で見たどの生き物よりも美しい生き物だった。

 

「……」

 

 姫花は、魔女の家の庭先に足を縫い止められたかのように動かすことが出来なくなった。

 

 その生き物の美しさに気圧されたのもあったが、この未知な馬が襲ってくるんじゃないかという、ほんの少しの恐怖感が姫花の足を止めた。

 

「……ッ」

 

 足を止めていたのは、白い獣も同じだった。逃げるも襲ってくることもしない。ただ、いつでも飛び跳ねることが出来そうな雰囲気を保ったまま、魔女の家を背にして姫花を力強くジッ……と、見つめている。

 その瞳には強い警戒心と、触れようものなら炸裂しそうな何かが同居しているように姫花は感じた。

 

「「……」」

 

 身じろぎすることすら躊躇う緊張感が、森の中に漂う。

 放っておけばいつまでも続きそうな沈黙を破ったのは、

 

「……えっと……はじめまして」

 

 姫花の方だった。

 

 言葉が通じるとは思っていないが、残念ながら姫花には日本語しか使える言語がないので、それを使って姫花は語りかける。

 

「私はそこのお家にいる、魔女さんに会いにきたんだけど……どうかな? いるかな?」

 

 驚かせないように、と姫花は意識して優しい声で語りかけつつ、一歩、また一歩とゆっくりと歩み寄る。

 

 近寄るごとに、白いソレの警戒心がじわじわと増していくのを、姫花は感じた。しかし同時に、『まだ大丈夫』とも思えた。

 

「あー……魔女さんは、留守かな?」

 

 姫花は無意識に、両手を開いた。後になって思えば、『何も持ってない』『危険じゃないよ』とアピールしたかったのだと思えたが、この時は完全に無意識で姫花はそれをしていた。

 

 距離が、確実に詰まる。白い獣がその気になれば一気に跳んでくるような距離まで、姫花は近づいた。

 

 そこまで近づいたところで、姫花はその白いソレが思ってたよりも小さいことに気がついた。

 

(目線、私より少し低い……。馬の大きさって……もちろん種類によるだろうけど……なんか、雰囲気が子供みたいな……?)

 

 そう思いながらゆっくりと歩み寄り続けた姫花の足が、一度止まった。

 

 近寄るごとに増していた警戒心が、その一歩を境にして格段に跳ね上がったのを感じたのだ。

 

『それ以上、勝手に近付くな』

 

 白い獣が、そんな警告をしているように姫花には思えた。

 

「……っ」

 

 その迫力と、警戒心と共に増したその獣の気高さに、姫花は思わず息を呑む。

 

 怖いと綺麗という、おおよそ同居するはずのない感情が姫花の心の天秤で等しく釣り合う。不思議な感覚だった。

 

 声無き警告を受けた姫花は、自らそれ以上近寄ることはしなかった。ただ、待っていた。

 

 近寄る許可を出すのを。

 帰れと更なる警告をしてくるのを。

 

 次に自分が取る行動を目の前にいる白い獣に完全に委ねて、ただ待っていた。

 

「「……」」

 

 再び両者の間に、沈黙が流れる。

 最初の沈黙より更に緊張感が増した無音な時間を、2人は過ごす。

 

 瞬きすら許されないような沈黙を破ったのは、白い獣の方だった。

 

 これまで魔女の家の前から一歩も動かなかった獣が、力強く大地を踏み締めながら、姫花に一歩、また一歩と詰め寄る。

 

 獣は歩み寄りながら、絶えず動くなという警告を姫花に出し続けていた。そして姫花はきちんとその警告を感じ取れていたが、

 

(正直、私が逃げようとしたところで君はすぐに追いつけるんじゃないかな……?)

 

 心の片隅で、そんなことをぼんやりと考えていた。

 

 やがて獣は、姫花に極限まで近寄る。

 獣があと一歩踏み出せば、姫花が手を伸ばせば届く。

 そんな距離まで、両者は接近を許した。

 

 白い獣は姫花よりほんの少し低い目線から、じっ……と、見つめる。まるで品定めでもしているような視線に、姫花はたまらず苦笑いをこぼした。

 

「……あはは、なんか照れるね」

 

 あまりにもじっと見つめてくるので、草食動物相手とは言え姫花は少しの照れ臭さを覚え、半ば無意識に開いた両手を獣に見えるようにして、ひらひらと振った。

 

「大丈夫、何にも危なくないよ」

 

 行動に言葉を乗せて、獣に気持ちを伝える。正確に伝わるかどうかは分からないが、さっきから獣も一方的に何かしらの意思を伝えてきてるので、お互い様かなと姫花は開き直っていた。

 

 草食動物特有の横長な瞳孔が、ひらひらと揺れ動く姫花の手を捉える。大人しくそれを見つめ続けていた獣だが、ゆっくりと鼻先を姫花の手に近づけ始めた。

 

 獣は綱渡りをしているかのような慎重さで姫花の手に鼻を近寄せ、やがてクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。

 

「うん? 匂い、嗅ぎたいの?」

 

「……」

 当然ながら獣は言葉を返さないが、姫花はそういうことだろうと解釈して、匂いを嗅がせることにした。

 

 なんとなく手のひらを見せていると何かを贈るような感じになるなと思い、手を返して手の甲の方を獣の鼻先へと向けた。

 

 手の甲を返す動きに獣はわずかに驚いたようだが、すぐにまた匂いを嗅ぎ始める。

 

 小刻みに3、4回ほど息を吸って匂いを取り込み、それを味わうような間をとってから、大きく息を吹き出す。

 

「んー、どうかな? ここまで走ってきたから、少し汗臭いかも」

 

「……」

 

 吹き出す息が手の甲に当たる姫花は、それをくすぐったく感じながらも獣が満足するまで待つことにした。

 

 そして獣が7回、姫花の匂いを嗅いだところで変化が起きた。

 

 出会ってからずっと発していたプレッシャーにも似た何かが、消えた。獣が張り詰めていた警戒心が、まるで嘘のように無くなった。

 

 ここにいることを許された。そんな雰囲気を感じ取った姫花は安堵の息を吐き、そして居心地の良い魔女の森の空気を目一杯肺に取り込む。通い慣れた森の香りに混ざる、ほんの少しだけ心地の良い違和感を姫花は嗅ぎ取った。

 

 きっと目の前にいる白い獣の香りかなと姫花が思ったところで、差し出していた手の甲に温かな感触が走る。

 

 姫花が差し出していた手の甲を、白い獣は舐め始めた。

 

「おお? さては君、意外といい子ちゃんだな?」

 

 手を舐められたことに姫花は一瞬だけ驚きはしたが、獣の目や雰囲気に危ないものが何もなかったことと、獣の舌触りの心地よさが、姫花から負の感情を拭い取った。

 

 獣の舌は、ぬるいと、熱いの本当に中間というべき心地よい温かさで、それが丁寧に何度も何度も姫花の手の甲を舐める。

 

 夢中で、それでいて尽くすような真剣さで手を舐め続ける白い獣に向けて、姫花は笑顔で声をかける。

 

「そういえば、まだ名前教えてなかったよね。……私の名前は、朝花姫花だよ」

 

 君は? と、姫花は問いかけるが、もちろん答えは返ってこない。

 分かりきっていたことではあったが、それでも姫花は、この白い獣の名前を知りたいな、と思った。

 

 *** *** ***

 

 日が傾き始め、昼とも夕暮れとも言えない時間帯になったところで、魔女は森へと帰ってきた。

 

 ガチャ、と()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ただいま……って、どういう状況だ、これ」

 

 人参やトウモロコシ、林檎やバナナがたっぷり詰め込まれた紙袋片手に帰ってきた魔女の目に飛び込んできたのは、数時間前に出かけた時からは到底想像もつかない光景だった。

 

「あ、魔女さん! 家にいたなら言ってよ、もう!」

 

 庭先で遊んでいたであろう姫花が、土や草で汚れたジャージ姿で魔女のそばへと駆け寄ってくる。

 

「やあ姫花。会って早々に言い訳させてもらうが、私はさっきまで家には居なかったぞ」

 

「うっそだー。だって魔女さん、家の中から出てきたじゃん」

 

「んっんー……どこ○もドア、それかハ○ルの動○城のドアをイメージしてくれ姫花」

 

 言われて姫花はすぐに納得した表情を見せた。

 

「ああ、どこかに出かけてて、瞬間移動で戻ってきたってこと?」

 

「理解が早くて助かる」

 

 姫花もなかなか魔法に毒されてきたな……と魔女は嬉しいような残念なような、複雑な気持ちになりつつも、その気持ちに一旦蓋をした。

 

「さて姫花。そっちの疑問に答えたってことで、次は私から質問していいか?」

 

「え? いいよ?」

 

 どんとこい、と言いたげな表情の姫花から視線を逸らし、魔女は姫花の背後にいる白い獣に視線を移した。

 

「姫花……お前、()()と仲良くなれたのか?」

 

 慎重な魔女の問いかけに対して、姫花はあっさりと答える。

 

「んー、多分。最初はなんか凄く警戒されてたけど……そのうち気にされなくなったみたい。さっきまでその辺で駆けっこして遊んだり、ちょっと背中に乗せてもらったりしたから、多分嫌われてはないと思う」

 

 獣の首筋にそっと手を添えながら、キョトン、と、小首を傾げる姫花を見て、魔女は『こいつマジかよ』と言いたげな表情を浮かべた。

 

 白い獣に話題が移ったことで、姫花は早速魔女へと獣について尋ねた。

 

「っていうか魔女さん、この馬なに? ペットとして飼う事にしたの?」

 

 獣と遊びながら、

 

(もしかしてこの子、野生だったりしない?)

 

 という疑問を持っていた姫花からすれば、この獣が魔女のものかそうでないのかはとても大事なことだったのだが、返ってきた答えは姫花の疑問の答えとしては外れたものだった。

 

「……ああ、そうか。姫花にはこの子が馬に見えてるんだな」

 

「……え? 馬じゃないの?」

 

「おう。馬じゃないぞ、その子」

 

 言いながら魔女は、馬の顔を指差す。

 

「姫花、その子のおでこ……あー、人で言ったら眉間のあたりを、よく見てみな。体毛と同じ色だし、まだ小さいから分かりにくいけど……ちゃんと、あるだろ?」

 

 魔女の指先を辿って視線を獣の眉間に移した姫花は、じっとそこを見つめる。

 

「……あ」

 

 すると確かに、あった。

 

「これ……角?」

 

 まだ小さいが……確かにそこには、一本の角が、あった。

 

 馬の身体に、一本の角。

 

 あまりその手の知識にも明るいと言えない姫花だが、さすがにその存在は知っていた。

 

「魔女さん、この子ってもしかして……ユニコーン?」

 

「正解」

 

 獣の正体を知った姫花の表情が、ぱあぁっと明るいものに変わり、思わずと言った様子でユニコーンの首筋を両手で撫で始めた。

 

「えー、君すごいね! ユニコーンなんだ!」

 

 姫花に笑顔で接されて満更でも無さそうな雰囲気のユニコーンを見ながら、魔女は口を開く。

 

「そんなに喜ぶことか?」

 

「喜ぶよ!? だってユニコーンだよ!?」

 

「だってユニコーンだぞ?」

 

 姫花としてはユニコーンは御伽噺や神話上の存在という認識だったが、それに反して魔女はそこまで珍しくないと言いたげな顔をしていた。

 

「……もしかして、魔女さん的にはそんなに珍しくない?」

 

「うーん……ユニコーンそのものは、そこまで珍しい幻獣ではないね。魔法業界の中じゃ家畜化に成功してるぐらいだし、場所によってはペットになる適度にポピュラーな幻獣だよ」

 

 幻獣って何? と魔女の説明を聞いた姫花は思う。

 魔女の説明はいつもこんな感じで、知らないことを1つ質問すれば、その答えにまた知らない別の情報が出てくる。

 

 姫花は新しく出てきた『幻獣』という言葉が何か疑問に思いつつも、

(ユニコーンみたいな、神話上とかの生き物のことかな?)

 とおおよその見当をつけた。もしその予想と違うようなら、その時また質問しようと決めて魔女との会話を続ける。

 

「じゃあ、この子はペット?」

 

「んー、将来そうなるかもしれないけど、今は何とも言えないね。知り合いの牧場で生まれた仔なんだけど……まあ、色々問題があって、私がしばらく預かることになったんだ」

 

「問題って?」

 

 問われた魔女は、何から伝えればいいものかと頭を悩ませて、その中でも当たり障りなく姫花にも納得してもらえそうな答えを選んで告げた。

 

「本当に色々あるんだけど……その中の1つが、その仔の気性だね。人にも同族にも中々馴染んだり懐いたりしなくて、牧場っていうコミュニティの中に居られなくなったんだ」

 

 そう言われた姫花は再びキョトンとして首を傾げ、魔女と会話してる間ずっと姫花に擦り寄ってきたり、鼻先を姫花の身体に優しく当ててきていたユニコーンに目をやった。

 

「……この子、そんなに気難しいの? こんなに人懐っこいのに?」

 

「うん。私も自分で言ってて、『あれ? なんか間違えたか?』って不安になってる。けど……」

 

 話しながら魔女はおもむろににユニコーンに向けて手を伸ばす。するとその瞬間、

 

「ッ!!」

 

 まるで何かのスイッチが入ったかのようにユニコーンの雰囲気が変わり、一足で後ろに跳んで魔女と距離を開けた。

 

 魔女は行く先をなくして宙ぶらりんになった手の指先を意味もなく動かしてから、荒々しく息を吐いて警戒してくるユニコーンから姫花に視線を移した。

 

「……な? 私が触ろうものなら、こんな風に超警戒される」

 

「みたいだね。……魔女さんって、こういう動物に嫌われ気味だったりする?」

 

「まあ、それはあるな。こっちに来てから、この手の獣に好かれことがない」

 

「そうなんだ。……あ。おいで、おいで〜」

 

 魔女に変わって姫花がユニコーンに向けて手招きをすると、これまた雰囲気がガラリと変わり、ご主人様が帰ってきた時の飼い犬のような嬉しそうな足取りで姫花のそばへと寄ってきた。

 

 よくできたね、と言いながら姫花はユニコーンの鬣や首、胴体を優しく撫でる。撫でられるユニコーンもまた、気持ち良さげに目を細めて姫花にされるがままになって受け入れていた。

 

 その光景を見ながら魔女は、軽く唸って考えるそぶりを見せてから、ひとまず出した結論を姫花に告げた。

 

「んー……姫花はユニコーンに好かれる要素を満たしてるし……。その上で、気難しいこの仔が姫花を特別気に入ったってところかな」

 

「ユニコーンに好かれる要素って?」

 

「……。……なんでもかんでも私に聞くんじゃない。自分で調べることも大事だよ」

 

「はーい」

 

 答える前に不自然な間があったな、と姫花は思いつつも、魔女の言葉に従って後で調べることにした。

 

 2人の会話がひと段落したのを察したのか、ユニコーンが前脚を掻くように動かし始めた。

 

「なんか……、催促されてる気がする」

 

「この辺は馬と同じで、かまってほしかったり、なんか欲しい時の仕草だな。今朝こっち来てからご飯食べてないはずだし、お腹が空いたんだろうね」

 

 言いながら魔女は、担いでいた紙袋から人参を取り出して姫花に差し出した。

 

「とりあえず食い物も概ね普通の草食動物のソレと同じだよ。人参、あげてみる?」

 

「やる! あげたい!」

 

 笑顔で人参を受け取った姫花は、それをユニコーンの前に差し出す。人参へと鼻先を近づけたユニコーンは、確認するように一度匂いを嗅いでから、パクパクと人参を口にした。

 

「おお〜……いい食べっぷりだね」

 

 あっさりと一本食べきると、まるでおかわりを要求するように再度前脚を掻き始めた。

 

「魔女さん、もっとあげていい?」

 

「とりあえずあと一本食べさせようか」

 

 そうして再び差し出された人参を、今度はゆっくりと咀嚼していった。

 

 ユニコーンの食事風景を楽しむ姫花を見ながら、魔女は小さくため息を吐いてから、頼み事をすることにした。

 

「そういえば姫花、そろそろ夏休みじゃない?」

 

「うん、明日から!」

 

「そうかい。なら、ちょっと頼みたいことがあってさ……ひとまずこの仔は、夏の間は私が預かることになってるんだ。その間、なるべくこの仔と遊んでやってくれないか?」

 

 魔女の頼み事を聞いた瞬間、姫花は迷う事なく頷いた。

 

「うん、もちろん。でも、遊ぶだけでいいの?」

 

「まあね。身の回りの世話とか諸々は私にも出来るけど、さすがに嫌われてるのに遊び相手にはなれないからね」

 

「じゃあ、私もお世話とか手伝うよ」

 

 まさかの申し出に、魔女は少し驚き目を見開いた。

 

「んー……正直それはとても助かる……が、このサイズの生き物の世話って思ってる以上にしんどいぞ?」

 

「そうだろうけど……でも、やりたいよ。楽しいところばっかり知って、そうじゃないところは知らんぷり……は、さすがに居心地悪いしさ」

 

 真剣な顔で話す姫花を見て、この子はこんな顔もできるのかと魔女は思って楽しくなった。

 

「ふふ……そうか。ならせっかくだし、姫花のご好意に甘えさせてもらおうかな。ただし、くれぐれも無理はしないように。日の出の前とか、バカみたく早起きして森に来たりしないようにね」

 

「もちろん分かってるよ。日が出てない間は森に入っちゃいけない、でしょ?」

 

「分かってるなら大丈夫だ」

 

 柔らかな笑みを見せた魔女は姫花の頭をわしゃわしゃと撫でて、小さな声で、

 

「頼むよ」

 

 と囁いた。

 

 しっかり聞いていないと聞き逃しそうなほど小さいその声と言葉は、姫花に今日一番の笑顔をもたらした。

 魔女に頼りにされるということは、姫花にとって最高に嬉しいことであった。

 

 

 

 そうして、ユニコーンの世話をすると約束して家に帰った姫花は夜寝る前になり、ふと思い出したように、ユニコーンに好かれる条件というのを調べてみた。

 

 スマホで検索してあっさりと見つかった条件を知った姫花は、赤面してベッドに潜り込んだのだが、それはまた別の話(今度の話)




ここから後書きです。

今回の話を書く時、
(ユニコーンのイメージって角が生えた馬って感じだけど、他の人はどうなんだろう?)
と思って友達に、
「ユニコーンって聞いて何イメージする?」
とLINEしたら秒速で、
「ガンダム」
って返ってきました。そっちじゃねえ!

のんびり不定期な投稿を続けてる引き魔女ですが、1人でも多くの人に楽しんでもらえたら嬉しいです。
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