しかも今回はいつもより短いです。
今年もこの日がやってきた。ツバキさんに呼び出された私とカノンは役員区画にある第二会議室の扉の前に来ていた。
「この時期の呼び出しってことは、あれですかね~?」
「まあ多分そうじゃないかな? マルク達も呼び出されたらしいからね」
カノンが小首を傾げながら確認を取るようにポツリと呟いた疑問に私は何の気なしに答える。
「やっぱそうですよね。今年は何処に行くんでしょうね?」
「ここで考えるよりもこの扉の奥に居るだろうツバキさんに聞いてみた方が早いと思うよ?」
「それもそうですね。…じゃあ、入りましょうか」
軽く息を飲みながらカノンが扉の前に向かう。この先の展開をある程度予測できているとはいえやはりツバキさんの居る会議室に入るというのは入隊から一年経った今でも緊張する。
―コンッコンッ
「ツバキさん。台場カノン、シリア・ハウンズ両名到着しました」
『来たか。入れ』
中から声が聞こえたのと同時に目の前の扉がシュッと音を立てて開かれる。
「「失礼します」」
私とカノンは同時に返事をして部屋の中に足を踏み入れる。そのにはツバキさんの他にタツミさんが居た。
「ってなんでタツミさんが?」
「あぁ、今年も極東支部から教官役を出すことになってな。今回は俺の番って訳だ」
「そうだったんですか。ということはやっぱり今回の招集は新人合宿についてですか?」
「その通りだ。今年も入隊一、二年目の新人たちを集めて合宿を行うことになった。今回はその連絡と実施支部についての通達を行う。詳しい内容については全員集まってから通達するため二人は待機しておくように」
「わかりました」
ツバキさんに言われて暫くカノンと二人で時間を潰していると会議室のドアがノックされてマルクの声が聞こえる。
扉が開くと今年の新人三人組が少し緊張した面持ちで入室してきた。
「あれ? 姉さんたちも呼ばれてたのか」
「まぁね。話はこれからするから私たちも詳しいことはまだ知らないけど」
そこで言葉を切って目線だけで前を向けと指示する。その意図を理解したマルクは急いで前を向く。そのタイミングでツバキさんが話を始める。
「諸君らに集まってもらったのは五日後に開催される新人合宿についての説明をするためだ」
「新人合宿ですか?」
「そうだ。入隊一、二年目の新人の実力向上と他支部の神機使い達との交流を目的としている。今回の開催支部はイギリス支部だ」
その後のツバキさんの説明は去年とほぼ同じで今回の参加支部と教官を輩出する支部、そして軽い注意事項を数点述べると後のことはタツミさんに任せて別の仕事をする為に会議室から出て行った。
「大体のことはツバキさんから説明があったからな。俺は当日の移動方法について説明しておくとしようか。今回の合宿は前日にイギリス支部入りすることになる。だからそれまでに準備を終わらせておいてくれ。合宿は三泊四日を予定してるからそんな大荷物は必要ないと思う。あと、今年は大部屋に泊まることになりそうだ」
「大部屋ですか?」
タツミさんの説明の中に去年と違う点があったので聞き返す。確か去年は支部ごとに二人部屋が複数用意されていたはずだ。
「新人たちの交流の機会をもっと増やしていこうとかなんとか言って今年から全員大部屋になったみたいだ。あ、当然男女別だから心配すんな」
別に他の支部の人間と一緒に任務に行くことに関しては抵抗は無いが、流石に会ったその日から同じ部屋で生活するというのは多少なりとも緊張する。
そんな私の心情が顔に出ていたのかタツミさんから「あんま深く考えすぎなくても良いと思うぜ?」と苦笑い気味に言われる。そうは言われてもこの極東支部に居たら多少の心配はしょうがないと思う。
だってこの支部にはよくわからない人が沢山居るから…
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何だかんだで五日が過ぎ、私たちは今イギリス支部に向かうヘリコプターに乗り込んでいる。今日はこのままイギリス支部に入って件の大部屋で前日入りする他支部の神機使いの人たちと一夜を過ごす予定だ。
まずはここで相部屋となる人たちの様子を確認して変な人がどれくらい居るのか確かめることが重要になる。なぜならその結果次第で今回の合宿での過ごし方が大きく変わるから。
もし普通の人が多いなら部屋で過ごす時間が増えるし、変人が多いなら訓練室やロビーで過ごす時間が多くなる。他支部の変な新人と交流するより変な教官たちと話た方がずっと有意義だから。
そんなことを考えていると前方にイギリス支部が見えてきた。ようやく目的地へと着いたようだ。ロシア支部に行く時よりも移動時間が長かったので流石に疲れた。
イギリス支部の屋上にある発着場にヘリコプターはゆっくりと降下していく。そこには事前に連絡がいっていたのか職員らしき人が立っていて着陸の誘導をしていた。その誘導に従って降下していくヘリコプターから改めて軽く周囲を見回してみると少し開けた場所がいくつかあることが解る。多分イギリス支部の戦闘地域なんだと思う。その証拠にその場所には何か動くものが見える。大きさからして多分あれはアラガミだろう。
ヘリコプターから降りながら先ほど見た光景を頭の中で反復していると屋上にいた職員が話しかけてきた。
「極東支部の方々ですね。お待ちしておりました」
「極東支部所属の大森タツミと新人5名。ただいまよりイギリス支部にお世話になります」
タツミさんがいつもと違う真面目な雰囲気を纏って二、三言会話すると職員が私たちに背を向けた。私たちの泊まる部屋まで案内してくれるらしい。
暫く職員の後ろを付いていくと廊下の突き当たりで向かいあうように扉がある場所で止まった。
「こちらが女性の部屋。そしてこちらが男性の部屋です。タツミさんの部屋はまた別の場所になります」
そういって職員は突き当りの部屋を手で示した。男女で部屋を分けたのにすぐ隣にしたら部屋を分ける意味が大分小さくなく気がするのだが… まぁ今それを言ったところでどうしようもないしこれで良いか。
別の部屋に案内されたタツミさんと別れてカノンとコトミちゃんと並んで女子の部屋の前に立つ。ここを抜けた先の状況如何で私のここでの行動指針が決まるから少し緊張する。でもいつまでも緊張してても仕方ないし、覚悟を決めますか。
私は一つ深呼吸をして足を一歩前に出す。すると私の存在を感知したセンサーが反応して空気が抜けるような音と共にドアが開く。新しい人間が入って来たからか、室内の喧騒が一瞬遠のく。カノンとコトミちゃんはその雰囲気に少し気後れするがそれも一瞬のことですぐに私達の後に続く。
部屋の中は結構な広さがあって確かに新人の女性神機使いが全員来ても余裕が残るだろう。まぁ、私は新人が何人いるか知らないんだけど…
『ねぇ、あれってもしかして極東支部の?』
『確かそう。水色とピンクの子は去年見かけた。あの時は確か防衛戦を担当してた』
『ああ。狙撃と爆撃のコンビね。結構活躍したらしいじゃない』
『やっぱりエリートは違うよね〜』
私達が部屋を進んでいるとそんな声がちらほらと聞こえてくる。別に私達は才能があった訳じゃない。ただ他の支部より危険な場所で戦い続けてるから自然と生き残る力がついただけ。だけどそんなこと口にしても何にも変わらない。
私は喉から出かかった言葉を飲み込んであえて気づいていないふりをして壁際に荷物を置いて後ろの二人に振り向く。壁に向かっていた私はそのまま部屋全体を見渡すような体勢になる。そうすると他の人たちは慌てた様子で私達が来る前のような談笑を始める。そこでようやく私達に向いていた視線や密談が終了し、先ほどまでの居心地の悪い雰囲気が霧散した。
―これくらいならここに居ても大丈夫そう。
その結果に満足した私はそのまま二人に声を掛けて一旦外に出る。思ったこととやってることが違うが、今回はマルク達とも約束したイギリス支部内を見て回る。という用事の為だ。
外に出てしばらく待つと反対側のドアからマルクとコウタが顔を出す。どうやら新型神機使い+極東支部所属という相乗効果で他支部の神機使いに捕まっていたらしい。その顔には若干の疲れが見える。
「二人ともお疲れ。疲れてるみたいだけど大丈夫? 探索は明日にして今日は休もうか」
「いや、行こう。部屋にいるほうが疲れそうだから」
マルクの言葉にコウタ以外の三人は苦笑いしか出てこない。そのコウタも疲れたように頷いている。どうらやこっちはこっちでいろいろと聞かれていたのだろう。
「それじゃあ先ずはラウンジのほうに行きませんか?」
「最初に支部の中心を見たほうがこの後の探索の指針になるもんね」
そんな二人を気遣ってカノンとコトミちゃんがそんな提案をする。確かに理にかなっているし、何より二人の休憩ができる場所も見つかるかもしれないし丁度いいんじゃないかな。
私もそれに賛成だと言うと二人も異存は無いのか少し疲れたように頷いた。
失踪はしませんが投稿速度は10月まで落ちると思います。
また、気が向いたら何日か遅いですがタツミさんの誕生を祝したSSを一本投下するかもしれません。