『………………』
無機質な赤い光に照らされる中、私は両足で真っ直ぐに立ちながら意識を集中させ、両腕に込めたエネルギーを掌へと収縮させて行きながら正面に浮遊する円形のターゲットを狙う
『トワァァ!』
その瞬間、私は掛け声と共に両腕から星形に変形した光線。則ちスター光線をターゲット目掛けて放った
『トゥ……!』
その一撃が直撃したかどうか判断するより早く、私の近くの壁が開くとそこから素早く球体状のターゲットが飛び出すと空中を虫のような速さで高速で飛行し、私の頭上近くに急速に接近して来る。私は今度は一回転してムーンサルトにも似た形で蹴りを放ち、踵でターゲットを破壊した
『…………!』
その直後、私の正面、人間だった頃の体感で言えば5メートル程先にターゲット用の空中ディスプレイが動き、一体の怪獣の姿が投影される。それは私にとっては、否、ウルトラシリーズのファンなら当然知っていて欲しい怪獣である最初の怪獣である……
『トワァァ………!!』
それを確認すると私はしっかり体勢を整えながら立つと私は腕を後方に引き、ロボットメタリウム光線発射の構えへと移行する。ウルトラマンヒカリを初めとした宇宙技術開発局での連日の改修のおかげでまだまだぎこちなさはあるが動きは幾分かはスムーズになり、腕にエネルギーが充填される速度も向上している気がした
「(やっぱり……ベムラーと言うのは光の国にとってもよく知られた怪獣なんでしょうか……と)」
頭の中でそんな事を考えながら放った私のロボットメタリウム光線は狙い通りベムラーの頭部に命中し、直後、光線が直撃した頭部から爆炎が噴き出し、背中から倒れるベムラーの姿が映し出されるとやがてディスプレイには、どうにかスムーズに読めるようになった光の国の文字で『シミュレーション終了』と表示される
途端、私の周囲を漂っていた複数のターゲットは壁に開いた穴へと収納されていき、私を照らしていた照明の色もパッと赤から白へと変わり視覚的にも訓練が終了した事を私に伝えて来た
「(各光線の発射速度は思っていたよりはスムーズに撃てるようになってきましたね……。格闘もまぁ、体重を利用した攻撃をモノにしてきたのは上々と考えるべきですね……)」
高ぶらせていた精神を落ち着かせ、当然呼吸も出来ないのだが相変わらず抜けない癖で両腕を広げて深呼吸の動作をしながら私は自己分析を始める。そこに薄っすら気恥かしいとは感じながらも無駄な卑下はせず、出来うる限り公正に自己分析をする
何故なら私が身に付けたのは子供の頃から憧れ、理想であり続けた彼等から直接教わると言う恐れ多すぎる夢のような体験で培った物であり、それを否定すると言うことは彼等もまた否定してしまう事になってしまう。一人のファンとしてそれだけは何としてもする訳にはいかない
「見事だホシカワ。更に腕を上達させたな」
と、私がそんな思考にふけっていると音も無くトレーニングルームの電動ドアが開き、先程まで私の訓練を見てくれていたゾフィー隊長がその姿を現し、そんな事を言ってくれた
『ありがとうございますゾフィー隊長。ですが、この実力は貴方や他のウルトラ兄弟の皆様の的確な指導あっての事。むしろまだ教えて貰った力を出し切れていないと私は思っているのですが』
だから私は、先日、ヒカリによって取り付けて貰ったブレスレット型の入力装置を使って空中にそんな文字を浮かべるとゾフィーに感謝の言葉を告げる
どうやらこの身体になっても生前同様に1日が流れるのを早く感じるのは変わらないらしく………いや、気取らずに言えばそれも確かに有るのだろうが実際にはゾフィーに加えてジャック。更には初代ウルトラマンやセブンまで加わったウルトラ兄弟から直接戦い方を教わる。と、過酷ではあるがそれ以上に夢のような時間があまりにも素晴らしかったからだろう。気付けば訓練が始まって実に2ヶ月程の時が過ぎていた
「そうか……前から思っていたが君は向上心が強いんだなホシカワ。それは素晴らしい事だとは思うがくれぐれも無理はし過ぎないでくれ」
ゾフィー隊長は私のメッセージを受け取ると納得したように頷きつつ、そう言う。
やはり憧れの存在でしか無かったゾフィーのようなウルトラ戦士に褒められると言うのは何度体験しても慣れず、機械であるこの身体でも説明しようが無いむず痒さを感じる。多分、この調子ではあと1年いても決して慣れることは無いのだろう
「今の君の実力ならば宇宙警備隊の試験を受けたとしても合格する可能性もありうるだろう。そこでだ、君さえよければ今季の試験に私から推薦の……」
と、そこまでゾフィー隊長が言おうとしてくれた時だった
「……! これは……!? まさか……!?」
ゾフィー隊長が話の途中で不自然に言葉を止め、慌てた様子でトレーニングルームの外へと飛び出したのであった
「(何があったのでしょうか……? ゾフィー隊長があんな態度を取るなんて……)」
その背中を視線で追いかけ、閉まる扉を見ながら私は頭の中で疑問を感じていた
私の記憶にある限り、そして実際に交流した経験から言ってゾフィー隊長は光の国ではまだ若者だと言う事が信じられない程に常日頃から冷静で落ち着いており、相手に対する礼節も忘れないような人間だった頃の私とは比べ物にならない程に優れた精神性を持った人物だ
そんなゾフィー隊長が去り際に何も言わず、あれ程慌て出すような事態とは?
「(普通に考えれば部下とか弟達の危機ですが……地球にいるウルトラマンエースに何……か……)」
と、そこで私の頭に猛烈な既視感が到来する
「(いや待ってください……ここは原作とゲームが入り混じったような世界と私は仮定してますが……もし地球で、ほぼ原作通りに進んでいたら、ゾフィーが現れたのはヤプールとの決戦時と……)」
その瞬間、私の中で全ての点が線で繋がり……
『──────!!』
気付いた瞬間、私はゾフィー隊長を追って走り出した
「(何て……事ですかっ! 私とした事が訓練に夢中になるあまりこんな重大な事件を忘れていたとはっ……!!)」
そう、ウルトラマンエースの物語の中でゾフィーが地球に現れ、尚且つ危機的な状況になる話に心当たりは一つしか無かった
そう、それはウルトラマンエース第26話「全滅!ウルトラ5兄弟」言わずとも知れた強豪宇宙人、地獄星人ヒッポリト星人が登場しウルトラ5兄弟をブロンズ像へと変えて全滅させてしまうと言う、恥ずかしながら幼少期の私が見た際にトラウマになりかけた相手だ
間違いなくゾフィー隊長はブロンズ像にされる直前にウルトラマンエースが発したSOSのウルトラサインを受け取ったのだろう。と、なればこのまま原作通りに事が運べばウルトラ兄弟は全滅してしまうだろう
「(こんな私に親身になって鍛え上げてくれた彼等が……憧れのあの人達が……!)」
だったらもう『動かない』なんて選択は私には無かった
「(私は……地球に行ってヒッポリト星人と戦う!)」
走り続けながら私はそう、固く決意したのであった