とにかく、現状、このまま放置していても何の解決にもならない。今はまだヤプールは狼狽えていてくれているようだけど、いつまでもそのままの筈はないし、冷静になった時点でエースロボットになってる私が何もせずにいても何とかなるとは到底、楽観できない。
「(落ち受け……落ち着け……)」
正直、今でも全身が機械となっている筈の私の身体の心臓部が激しく鼓動しているのを感じているし、機械の身体で無かったら間違いなく生まれたての小動物のように私の両脚が震えている自信がある。
「(こう言う時、落ち着くためには……改めて現状の振り返りですね……)」
30年あまりの短い人生で得た経験を元に必死に脳を動かし、どうにか私は一つの答えを導き出し、すかさずここにあるまでの記憶を思い返してみた
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私の名前は
私の名前の北斗の由来と言うのが私の父が少年時代に見ていた『ウルトラマンエース』。その主人公、北斗星司から取られた物であり、その由来を幼稚園の頃に知った私がウルトラシリーズと言う作品に引き込まれるのに時間は然程必要としていなかった。
「よし……! やった!」
そして、それから時は一気に進んで二十数年。30才の大台に乗り、当初はウルトラシリーズだけだった趣味も年齢を重ねる事にそれだけでは収まりが効かなくなり、仮面ライダーに戦隊ヒーロー、果てにはゲームやアニメにのめり込むようになった私は、休日のある日、自宅マンションの一室にて購入して以来時間も忘れてやり込んだゲーム。『ウルトラマン Fighting Evolution 3』を熱心にプレイしていた。
「これで最高難易度でも体力、時間共に守った上でSランククリア! いや、本当に長かったですねぇ……」
ステージが終わり、クリア画面で集計された体力と残り時間。それに加えて、この状況ではオマケでしか無いけど特殊ミッションクリアが成された事を確認して私は額にいつの間にか流れていた汗をタオルで拭い、ガッツポーズをする。いい大人になってしまった今の私がするには少々照れ臭く感じる子供染みた動きではあるが、それよりは喜びが勝っていた。
実はゲーム、とっくの昔に隠しキャラは勿論、隠し技まで全て出している。が、それでも尚、何年間も定期的に私はこのゲームをプレイし続けている。
それは一重にこのゲームがキャラもの格闘ゲームでありながら複雑なコマンド入力は必要なく、必殺技も作中で見せたほぼ全ての技が使え、ストーリーもオリジナルを気にならない程度に交えつつも出来る限りの再現をしてくれ、更には一部では『もしかしたら』のイフまでさせてくれる……
つまりは総評的に見ても長い歴史を持つウルトラシリーズへの愛に溢れていると断言できる素晴らしいゲームであるのが大きいだろう。
「それにしても……こうやってエースキラーをエースロボットで倒せると言うのは……本当に面白い」
そう、前述したイフ。それがこのゲームのウルトラモードでプレイ出来るウルトラマンエースの代表的エピソードの一つを再現した『死刑! ウルトラ5兄弟』だ。
何と、このステージは大きな特徴の一つとしてテスト用である為か偽物である宿命か、本編では良いとこ無しでエースキラーに散々にいたぶられて敗れたキャラクター。超人ロボット、エースロボットを操作して前哨戦のような形でエースキラーと戦うことが出来ることだ。
しかし、当然と言うべきかエースロボットは元からお世辞にも強いとは思えないが、それに加えてこのステージではその弱さに拍車がかかっており動作は呆れるほど鈍く、特に防御など紙でしか無い。しかし、所々で出の早い技はあり、そこを上手く使えばつい、先程のように普通では決してあり得ない……まさしく奇跡的なイフとして強敵として名高いエースキラーをエースロボットで撃破する事も可能……と、言うことだ。しかも私はそれを最高難度、事実上のこのゲームでの最強のエースキラーに勝てたのだから、その喜びも一層だ。
「あぁ……それにしたって気分がいい。……お腹もすいてきましたし、折角です。こんな気分の良い日くらいお酒でも飲みますか」
そんな風に既に浮かれた気分のまま私はスマホを片手に外に夕食ついでに祝い酒を買うべく出る事にした。そこまでは万事順調。綺麗な夕焼けに気分を更に良くして鼻歌まで歌っていたのを覚えている。
問題はこの後、自宅近所のスーパーで夕食と酒を手に入れた後だった。
「ん? あれは……?」
無事に買い物を済ませ、川原沿いの土手を歩く私に吹き付ける冷えた秋風に思わず帰宅へと向かう脚が急がされた私であったが、と、ふと、すぐ先の川から妙な水音が聞こえる事に気がついた。それはモーターボートほど騒がしくは無いが、例えるならばしゃばしゃと言うように連続した音であり、私は何故かそれが無性に気になった。
「ボートのオールを漕ぐ音や水辺の動物が出す音……にしては何だか変ですね……。じゃあ、これは一体……?」
そうなれば足は自然と進むもので、私は転ばぬように注意しながら土手を降り、私の背丈程もある長い草をかき分けつつ、転倒したり水に脚を突っ込んだりしないよう慎重に慎重にと川辺へと近付いていくと水の音は次第に大きくなり
「……ッ……たすけ…………!」
水音に混じって今にも消えてしまいそうな小さな声が聞こえた
「まさか…………!」
その瞬間、私の中で心臓が動揺でどくんと音を立てたのが自分でも感じられた
「私の勘違い……ですよね……!?」
どうか、そうであってくれ、ならば損をするのは勘違いをした私一人だけで済むのだ。そう心の中で願いながら私は一気に走り出す。もはや自分の事は構っていられない。無我夢中で音を目印がわりに草をかき分けて川辺へと走り続け……
「……っ!」
そして私は見た。広々としたせせらぐ川を、その中央でぷかぷかと浮かぶ子供用のビニールボールを
「だれかっ……!! たす……!!」
そしてそのボールのすぐ近くで派手な水音を立てながら必死に助けを求める小学校低学年らしき男の子の姿を
……今にして思えば、その時、私がするべき行動は直ぐ様、持ってきたスマートフォンで消防に通報しつつ陸から何か浮かんで捕まれる物を投げるべきだったのだろう。だがしかし、その時の私は実の所、成功の高揚感に浮かれていたのだろう。私の名前の元になった北斗星司のように勇敢に振る舞おうと思ったのかもしれない。
「今、行くよ!!」
が、実際にはその時私がしたのはスマホもろとも手にした荷物を近くに投げ捨て、身軽になって底冷えする程冷たい川に飛び込み無我夢中で子供に向かって泳ぐことであり、その結果どうにか子供は助けて岸まで届ける事が出来た。
「(しまっ……た……私……泳ぐのは学校を卒業してから一度もしてませんでしたね……)」
しかし、子供を助けれた事で油断もあったのせきか、いざ自分が上陸しようとした瞬間、体力を使いきってしまった私は水流に脚を取られてしまい、今度は自分が河を流されてしまっていた。残る力で懸命に踠いてみるものの陸地は私の視界からどんどん離れていく。
「(迂闊……でした……。人助けをしようとして私自身がこうなるとは……)」
疲れはてた身体にもはや力は残っておらず、水流に流されながら私は自分の意識が消えていくのを感じていた。視界には最早水しか映らない
「(私は……死ぬんですね……。まだ両親に大した親子孝行も出来てないんですが……あぁ……せめて……)」
私自身、死ぬのは嫌ではあったが、それでもあの時の私に人助けをした事に事態に後悔は無かったと今も私は信じている
だがしかし、あの時、意識が消える寸前、最後の最後で私は一つの世迷い事のような後悔を思ったのだ
「(せめて、なれるものならなって見たかったですね……ウルトラマンのような……ヒーローに……)」
自分でもその子供染みた願いに自嘲しながら私の身体は水の底に沈み
『だったらやってみるか? 天国か地獄かは責任取れないけどな』
意識が完全に消える瞬間、何者かの声がした気がした。
◆
『(な、な、なんだこれはあぁぁぁぁぁっっ!?)』
そして次に目が覚めた瞬間、私は命が尽きる瞬間、最後になりたいた願っていた通りのウルトラマン。それも私の憧れであり今も一番好きなウルトラ戦士であるウルトラマンエース……に似せて作られた超人ロボット、エースロボットになっていたのであった。