「(私は、間違いなくあの時に死んだはず……なのに、これは!?……そして、ここは……やけに初めて来るはずなのに既視感があるここは……!?)」
目覚めた私の目の前に広がるのは地球とは到底思えないような濃厚で霧のように纏わりつく冷気が立ち込め、岩ばかりで生命の欠片も見受けられない大地だった
「(この光景……そして何故か機械になってる私の身体……まさか……まさか……!)」
そこを、どう言う訳か機械の身体へと変わった自分自身から発せられる鈍い金属の機械音を響かせて歩きながら私の脳内は激しく動揺していた。
油断すれば叫び出しそうになる程に激しく動じている精神をどうにか落ち着かせようと現状を振り返れば、今、現在、この大気は到底生物が生存出来ない程の濃厚な冷気が立ち込めているが、機械で出来たこの身体は寒さは微塵も感じないし、まともな量の酸素があるかどうかも分からないこの大気でも機械である以上、全く呼吸の心配などもする必要はない。
少なくとも普通ならばこれは状況から考えれば喜ぶべき利点ではあるだろう。
しかし私はまるで安心出来ない。目覚めた直後から変わった自分の両手と身体を見た瞬間から込み上げていた身体では無く精神で感じる猛烈な悪寒が離れない。直感的感覚が猛烈に警報を鳴らす流すの、私が足を更に進め、霧のような冷気が晴れた先を見た瞬間、私は戦慄し、単に特撮オタクである私自身の妄想や悪夢であって欲しいと思っていた事が紛れもなく私の身に起きている現実だと思い知らされた
「(なっ───)」
ゴルゴダの丘のキリストの如く十字架に張り付けにされた銀と赤色が特徴的な四人、そしてその前に立つ赤い身体に金色の鎧を纏い、Yの字型のナイフを右手に持ち、左手には鉤爪を装着した人形の存在そして
『我々ヤプールの科学を以ってすれば、エースの一人や二人創り出す事など造作もないことなのだ!』
得意気に語る声から発せられる余りにも聞きなれた単語
『(な、な、なんだこれはあぁぁぁぁぁっっ!?)』
そう、それを私が見間違える等はあり得ない。幼少期から繰り返し繰り返し繰り返しビデオで見ていた上に、つい先程……死ぬ前にゲームで散々やっていたのだから断言できる。
間違いなくそれは囚われたウルトラ兄弟と彼らから力を奪った異次元超人エースキラーだった。その瞬間、今まで何となく頭の中で理解をしていたのだが直視を避け続けていた一つの真実を否応なしに叩き付けられる
「(やはり、私はエースロボットだっ! 死んでよりによってエースロボットに転生してしまったんだ!!)」
衝撃と言うのはあまりにも大きすぎると最早、リアクションさえ取れなくなるのか私は凍り付いたかのように直立不動の姿勢のまま激しくショックを受けていた
「(何て言うことですか……! 確かに最後の最後で私『ウルトラマンのようなヒーローになりたい』って願った気はしますが、絶対にこれは意味が違いますよ!!)」
確かに単純に文字だけで見ればウルトラマンエースを模して作られたエースロボットに私の姿はウルトラマンのような姿に違いはない。だがしかし、当然ながら私がなりたかったのはあくまでウルトラマンを理想のヒーローの形としての『ウルトラマンのようなヒーロー』であり、間違っても『ウルトラマンに似たヒーロー』では無い。
もし私の転生が神様によって成された物とするなら、どう好意的に考えても、その神様は日本語の意味を読み取れないふわふわ頭の天然か、人の揚げ足を取るのが大好きな皮肉屋としか思えない
「(一先ず今は……うわぁっ!?)」
混乱する頭をどうにか整理しようとした時、エースキラーが唐突に自身の腕に装着しているウルトラブレスレットを掴むと、それを短剣に変形させ私に向けて赤く輝く刃、資料によってはウルトラスパークとも呼ばれるそれを放ってきたのだ
「(あ、危なかった……そうでした……エースキラーが私が動くまで待ってる理由は……って……!)」
偶々、ブレスレットを掴む予備動作が見えたおかげで私は幸運にも、どうにか反応して横に転がってその一撃を回避する事が出来た。が、さっきまで私がいた場所にあった岩はウルトラスパークの刃が直撃した瞬間、バターどころか豆腐の如く容易く切り裂いて貫通すると、岩石は断面からどろりと溶けて崩れてしまい、それを片目で見た私はゾッと背中がすくむ……気がする程の恐怖を感じ、改めてエースキラーが出した物ではあるがウルトラ戦士の技の威力を思い知らされた
「(エースキラーが初手に放ったのはウルトラスパークじゃない……私と言うイレギュラーがいる以上、何もかもあの話と同じ通りに動くとは限らないと言うことでしょうか……。当然ではあるのでしょうが……これは不味い……!)」
立ち上がりかけの体勢でエースキラーを睨みながら私は頭の中でそう分析し戦慄する。何故こんな事になっているのかは分からないが私がこの状況におけるアドバンテージはこの状況をこれからどう動くかの流れを物語として知っている事くらいだ。
しかし、エースキラーが先制してウルトラブレスレットで攻撃を仕掛けてくると言う本来は無い状況が起きた以上、その知識が絶対だと考えるのは余りにも軽率に思えた
「(とにもかくにも……このまま大人しくやられる……なんて事は例え原作通りだとしても選ぶ訳には行きません……!)」
だがしかし、例え私の置かれた状況が最悪だとしても転生して早々に死ぬと言うのを受け入れる訳にはいかない。それに繰り返すようだが私の持つ知識は完璧とは言えないだろう。しかしエースキラーと言う超強敵を相手するには十分に役立つ筈だ
「(とは言え、格闘技なんてウルトラマンに憧れて中学まで趣味程度にやってた程度です……が!)」
そう自分に言い聞かせて不安を圧し殺すと、私は近付いてくるエースキラーを前に、地面を蹴って素早く空中に飛び立ちそのまま空中で一回転するとエースキラーの頭部を狙って蹴りを放つ。狙いは体重を生かした不意打ちでエースキラーへの奇襲だった。が
ガギッッ!
「(くうっ……!? これは……!?)」
次に響いたのは鈍い金属音と脚を捕まれた感覚。エースキラーは私が不意打ち気味に放った一撃に難なく反応して右腕で受け止めていたのだ。そして当然、エースキラーがそれで終わらせてはくれない
「(う……わあぁぁぁぁっっ!?)」
何とかしてエースキラーの拘束から逃れようともう一方の脚で腕を蹴り飛ばそうとした瞬間、唐突にエースキラーは右手を動かし、私を直上へと放り投げる。突然の浮遊感に混乱しながらも何とか着地しようとした、その瞬間だった
ゴッッ!!
「(うぐっっ……が…………!?)」
重力に引かれて落下する私の腹部目掛け、吸い込まれるようにエースキラーの中段蹴りが叩き込まれると、私は勢い良く岩に激突した。が、それでも尚勢いは止まらない
「(こ……のっ……威力は……っっ!!)」
結局、そのまま背後にあった3つの岩を吹き飛ばした事で漸く勢いは止まり、私はそのまま大地に横たわった
『ハハハハハハ……! いいぞエースキラーよ! お前の力を見せてやれ!』
ヤプールの嘲笑の声が響く中、私はまだ立ち上がれずに地面に倒れたまま起き上がらずにいた。
機械の身体の為か痛み自体は感じないが蹴られた衝撃は全身に響き渡り、頭は地面に倒れている今も未だに激しく揺れ続け、視界はがくがくと激しく乱れ続けている
「(蹴り一つでここまで……やはりエースキラーが奪ったのはウルトラ兄弟の光線技だけじゃなく、そのパワーまで奪い取ってると言うことですか! なら……)」
懸命に立ち上がろうともがきながら私は頭でエースキラーが持つ凄まじい力を分析し、次の瞬間、どうにもならない一つの事実に直面して再び戦慄した
「(……本来ならばここまで圧倒的に強いエースキラーもウルトラ兄弟から力を貰ったウルトラマンエースのスペースQで倒されます。……ならば私は……どうやってエースキラーに立ち向かえば……)」
例えウルトラマンエースに外見は似ていても今の私はエースロボット。エースの偽物だ。そんな私に危機的状況に陥っているウルトラ兄弟が都合良く力を貸してくれるだろうか?
「(私の勝ち目は……一体……)」
勿論、まだ諦めてはいない。しかし、あまりにも高い壁を直視させられ、私はまるで光明を見ることが出来なかった