彼女でもない女の子が深夜二時に炒飯作りにくる話   作:道造

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第14話 映画と桐原2

 タワーマンション最上階の自宅へと帰りついた。

 ヒャアヒャアと謎の鳴き声を上げながら、俺の袖を掴んでトコトコと歩く桐原を振り返る。

 何故か周囲を見回しているようだが。

 

「本日はお義父様とお義母様がおられないようですが?」

「どこかに遊びにでも行ってるんだろう。あの二人は暇人だし」

 

 別に桐原の義父でも義母でもないし、そうなる予定もないのだが。

 それはそれとして、父はいわゆる企業に勤めている会社員でもなければ何か企業を経営しているわけでもない。

 父が金を稼ぐ方法は多岐にわたるが、簡単に言ってしまえば祖先の土地財産を運用資金とした投資家である。

 

「今月はまだ援助の御礼を申し上げていないのですが」

 

 なんなら桐原さえも父から見れば投資対象であった。

 父は桐原の家庭に対して、返済不要の資金援助をしているのだ。

 これには複雑な事情が絡んでおり、俺が桐原の告白を拒んだ理由の一つでもあるが。

 ともあれだ。

 

「はした金をもらったところで感謝する必要などない」

 

 俺は優し気に呟いた。

 そんなもん気にしなくてよいのだ。

 

「畜生、藤堂君を殺してやりたいという気分が私の感情を満たしています。藤堂君にとってはした金でも、私にとっては違います」

 

 桐原は何故か怒った。

 なんでお前が怒るんだよ。

 

「私は貧困の出自でありますが、忘恩の輩ではないのです。投資を受けた以上は必ずや成果を上げるつもりなのです。侮らないでください」

 

 その決意は俺にとって酷く迷惑だった。

 ……この件の話はやめよう。

 もう、俺がなんか惨めになる。

 この問題の致命的に悲惨なところは、俺が桐原の事を特段嫌悪していないことにあるのだ。

 話を元に戻そう。

 

「ほら、桐原。SSDを貸せ」

 

 俺は自室にあるパソコンを立ち上げて、受け取ったSSDを接続する。

 入っていた動画ファイルをクリックして、椅子に桐原を譲ってやる。

 体のデカい俺は、背後に真っすぐ立つこととしよう。

 

「別に藤堂君が椅子に座って、私が膝に乗るという姿勢でも構わないんですよ。そうすると私のお尻の感触が明確に藤堂君の股間を刺激してですね。もうとんでもなく凄いことに」

「黙ってモニタを観ろ」

 

 俺は桐原の提案を無視する。

 出来る限り変な雰囲気になるのは避けたいのだ。

 

「さっさと始まるぞ。ド素人の自主製作映画が。誰が作ったのかもわからんゴミみたいな映画が」

 

 なんでそんなもん見なきゃならんのだろうか。

 そんなことを呟きながらも、動画の再生が始まる。

 聞こえる音は風切り音で。

 流れる風景は荒野であった。

 どこからか尺八の音なども聞こえている。

 桐原が訝しげにつぶやいた。

 

「……神戸にこんなとこありましたっけ?」

「ちょっと外れれば山だからな。それにしても期待できそうにない」

 

 つまらなそうな導入にケチをつける。

 作品というものは、何はともあれ導入が大事なのだ。

 そもそもが自主製作映画なんかが楽しめるのは身内だけで。

 小中学生の拙い観劇を微笑んで見られるのは、それが自分の子供が作ったものを見る親御さんの心境だから――そう罵ろうとして。

 

「べーちゃんが出てきました」

 

 思いっきり身内のべーちゃんが出てきた。

 身長1m80cmを超える長身、たぬきのような垂れ目、乳の大きさは風紀違反であり、長い黒髪は片目を覆いそうである。

 桐原が今着ているのと同じ小豆色の制服ブレザー、赤のネクタイにチェックスカート姿である。

 唯一の違いとしては、ネクタイがおっぱいに挟まれて埋もれていた。

 確かに誰がどう見てもべーちゃんであった。

 その彼女が荒野を一人歩いている。

 

「え、べーちゃん脱ぐの? 荒野で露出プレイなの?」

 

 そんなわけあるか。

 桐原が自分のエッチな画像をスマホで俺に送り付けてきても、特に驚くところはないが。

 べーちゃんは温厚かつ、かなり真面目な女性である。

 学校の風紀の乱れが気に食わないと、風紀委員すら志願するほどの女性である。

 なお学校で一番風紀を乱しているのはべーちゃんである。

 本人は糞真面目なのに、それに反するように全く無意味に魅力的なセックスシンボルなのだ。

 

「タイトルコールです」

 

 桐原が呟いた。

 多分「完全顔出し! 有名進学校素人女子K生べーちゃん。下校途中にドスケベ個人撮影!!」とかですよ、などと呟いている。

 俺は身内がそんなインディーズ同人に出ているなんて嫌だよ。

 そんなことを思いつつ、タイトルコールを目にした。

 

『デッドマン』

 

 デッドマンとは何ぞや。

 はてなマークを頭に思い浮かべる。

 俺は首を傾げ、べーちゃんの親友たる桐原を上から覗き見た。

 同じように首を傾げ、どうも信じられない顔で動画を見ている。

 

「ヒャア!!」

 

 ヒャア、と叫んだのは桐原ではない。

 動画に出ているべーちゃんだった。

 まるで桐原の真似をしたようであった。

 俺はもう一度画面を見る。

 残念ながら、そこには確かに『空想特撮映画 デッドマン』と血文字で書かれたタイトルコールが画面にぶつけられていた。

 お前、これ特撮なのかよ。

 

「えー、べーちゃん。これエッチな雰囲気を盛り上げる動画だって言ってたじゃん」

 

 桐原がぶー垂れておる。

 いや、ある意味でエッチな映画だとは思うが。

 何せ、べーちゃんが出ておる。

 確か一年生の時の自己紹介で、べーちゃんは兵庫県沼島の出身であると聞いたことがあるが。

 桐原は耳を疑って、エロ漫画同人島の出身ですか、と聞き返していた。

 大変失礼ではあるが、俺を含めた男子全てもそうに違いないと考えていた。

 仮に違いがあるとすれば、べーちゃんがエロ漫画同人の出身なのは間違いないが、サークル規模としては『島』ではなく『壁』になるだろうなということである。

 もちろんべーちゃんは後で桐原を殴っていた。

 いや。

 そんなことはどうでもいい。

 

「なんで、べーちゃんが自主製作映画に出ている。しかも多分主人公だぞ」

「ああ、なんかべーちゃんたまに映画研究会に出向いてましたよ」

 

 多分、出演を請われたんじゃないですかね。

 なんだかんだべーちゃん、たまに色んな部活に助っ人として出向いてますし。

 そのような事を桐原が呟く。

 

「……そうか」

 

 俺は理解に努めようとして、情報が足りずに諦めた。

 情報をかき集めるには、とりあえず画面を見つめる以外に他はない。

 何せ、この動画の視聴時間は10分もないショートムービーである。

 ならば、まずは観た方が早い。

 ため息を、大きく吐くこととした。

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