闇鍋パロ 作:Amouve
「うっわ地上から見るとマジで地獄絵図だなこりゃ」
「流石に冰熊さんにはキツイわこれ。預けてきてよかった。んー、鴉魂なら平気か……?」
「ポーション*1効いてる内にできるだけはやらないとね」
地獄の如く燃え盛る平野は、見た目に違わず実情も地獄だった。確かにこの炎は最初の10秒間しかデバフを付与しない。だが、ソレは
一体何がどれだけ絡み合ったのだろうか。《霧夜叉》が呼び出した【夜霧郎党】達は歩兵、騎兵、弓兵、重装兵、その区別なく、いやに赫い炎に舐め取られ、のたうち回っていた。やがて、のたうつ力すら焼け切れた者からくずおれ、霧と溶け、存在の証すら黒煙に飲み溶かされ消えて逝く。
なんとも惨い光景だろうか。
そんな地獄を生み出した者たちも、自らの行いの恐ろしさに打ち据えられ、涙ながらに膝を付き懺悔の言葉を溢す事しか出来ないだろう。
「「「うけるwwwww」」」
人の心とかないんか?
とまぁ、もちろんの事。彼ら彼女ら、そんな殊勝な心など持ち合わせてはおらず。いやさ対人戦ならばあるいは、同情の心を向ける者も居たかもしれない。だが、相対するはただのエネミー。それも、ボスが途中で呼び出した取り巻きにして、倒せば倒すだけ利をもたらす存在。
ならば、同情などしてる暇も無いだろう。何せ、殺し尽くさねばならぬのだ。
「大変っ!」
「ッ!? 雨葉さんどうしました!?」
「鎧ん中サウナになるよコレ!! あっづい!」
「そのくらい我慢しなさいよ」
「いや、でもこれ結構キますよ。永久焦土もかくやです」
焦った様子でそんなことのたまう雨葉に呆れたような視線を向ける面々だったが、それに便乗するように塩宮も続く。よほどこの灼熱が堪えるのだろう。前線をとどめ続ける二人が珍しくこぼした弱音に、同情の視線が集ま……らなかった。
「ってか、なんで塩宮も雨葉さんも火達磨になってんの……? そんなすぐ燃え移るか……?」
「ほら、あの二人屋上でパッチテストとか言って自分から着火してたから……」
「馬鹿なの?」
二人が馬鹿みたいなことをしていたが故の自業自得であった。
「というか、塩宮さんまで何やってるんですか……」
「前線で壁張る関係上、万一燃えて不都合があったら怖いので事前に確認しておきたかったんですよね。あとはまぁ……ぶっちゃけ延焼ダメージだけなら貰い得なので……。ここまで蒸すのは想定外でしたが」
「さては塩宮、だいぶキてんな?」
言動がちょっとおかしいバーニングクラブに、お労しい者を見るかのような目線が向けられる。みんな知っているのだ。闇鍋随一の常識人である塩宮だが、所詮は同じ穴の狢。防御極振りなんて茨の道を平然と突き進み、その圧倒的な堅牢さから少なくない新規プレイヤーの間違った憧れとして君臨していることを。そして、結果的に
「蒸し蟹だねぇ」
「焼き蜥蜴がなんか言ってら」
「竜ですけどー!? 格式高き上位生命様ですけどー!?」
「良くて成りかけの半端者って前自分で言ってなかった?」
なお、普段から変なモノに手を出してはなんかわちゃわちゃしている雨葉には相変わらず呆れたような視線だけが向けられていたとかなんとか。
「ま、兎にも角にも俺ら遊撃組*2は雑魚散らしまくればいいんだろ?」
「そうですね。私と雨葉さんのタンク組が《霧夜叉》を抑えている間に出来るだけ削ってください。後方組*3は皆さんの手薄な個所を狙って通常弾や魔法で砲撃してもらう予定ですのであまり深追いはしないように」
バーニングクラブ塩宮がさっとまとめると、手短な返答とともにそれぞれが自身の役割を果たすために駆ける。それぞれが役割を持って分散した戦上において、もっとも激戦となるのは言わずもがな、無敵状態の《
「んぐっ……! ダメージはともかく、衝撃が重い……!」
「これ、ノクバ辺りが強力になってるっぽくない? 耐性なかったらめっちゃ吹っ飛ばされそう」
幾度となく《霧夜叉》の攻撃を受け続けた二人だからこそ気が付く変化。これまでの高威力の攻撃とは違い、芯に響くような衝撃を伴った斬撃は事実として威力よりも吹き飛ばしに重きが置かれている。
二人はそれぞれの理由でノックバックに対する対抗策を所持しているため凌げているが、仮に無策で受け止めようものなら十数メートルは容易く吹き飛ばされ、抑え込まれていた《霧夜叉》が自由の身になるだろう。
「特にこの大振りがヤバいですね……。たぶん、軽度の耐性貫通があります」
「あー、道理で。【境界線】*4で受けてるのにちょっと押し込まれるのそのせいかぁ……」
超強力なレイドボスをたった二人のタンクが抑え込む。本来ならあり得ない光景だが、受け手に回っている二人もまた、どこか異常性を纏った普通ではないタンクである事に加えて、【返り咲き】*5の恩恵もあり奇跡的に成立していた。
「っと! 《
「すいません! 雨葉さん! 助かります!」
「気にしないで! 硬さじゃ劣るけど攻撃もできるのが売りだからね! こっちにもちょっかいかけてくる小粒は任せてよ」
対面の《霧夜叉》の攻撃を凌ぎ切ることに専念していた塩宮の背後から接近していた郎党を雨葉が叩き潰す。先ほどからも定期的に弓兵による矢は飛んできていたが、二人の纏う堅牢な鎧には歯が立たなかったため無視できていた。だが、接近されてしまっては攻撃以上に組み付きなどの妨害を警戒しなくてはならない。
「すみません! 完全に専念するので、背中は任せます!」
「了解! 寄ってくる郎党はこっちで叩くから《霧夜叉》は任せた! 手が空いたら補佐する!」
「助かります!」
ただでさえ《霧夜叉》の猛攻を凌ぐために集中しているというのに、どういう訳かだんだんとこちらに向かってくる郎党の数も増えつつある。急場ではあるが手短に言葉を交わし、塩宮が《霧夜叉》に専念、雨葉が補佐に回りつつ寄ってくる郎党の駆除と陣形を組み替えて対応に当たる。
このままではジリ貧でしかないが、現在は耐久フェイズ。《
今この瞬間も、頼れる仲間たちが無数に湧き出る郎党たちを狩って狩って狩りまくっている。ここまで手の込んだギミックを持ったレイドボスだ。フェイズの中でもさらに段階的に状況が変化するような要素があっても何もおかしくはない。
「郎党の中に倒しても最大HP減少効果が発生しないハズレ個体が混じり始めました! ハズレ個体は正規個体に比べて若干色が薄いんでそれで見分けてください!」
「しかもハズレは倒すと一秒後くらいにちっさく爆ぜる! 爆破は威力は低いけど体勢崩し性能が高いから食らわないように気をつけろ!」
噂をすれば。遠方から、凍星と椒の声が響く。焼け付く炎に砲撃に剣劇に鬨の声に、多彩かつ雑多な轟音に包まれた戦場でなお通るその声は、明確かつ簡潔に状況の変化を伝えている。
「わぁ。ダミーが湧くなら本当に無尽蔵の兵なんだ……これ、下手に数集めただけのレイドパーティだったら【返り咲き】込みでも圧殺されかねないね」
「ですね。無敵状態の《霧夜叉》を凌ぎながら無限の郎党を相手にするとなると、相当しっかり連携が取れるメンバーじゃないとキツイどころの話じゃない」
『頑強、然らば』
「ッ!」
何かをつぶやくと同時。気が付けば、《霧夜叉》は納刀を終え、居合の構えをとっていた。待ちの技、であればどれほど良かったことか。
少なくとも、《霧夜叉》ほど高位の思考ルーチンを与えられてるボスモンスターであれば無為な事では無いのだろう。
「イヤーな予感がしますね……」
「だねぇ、あのまま待ちぼうけてはくれなさそう」
そんな2人の予想通り、《霧夜叉》が動く。
大地が割れ爆ぜるほどに強く踏み込み、一息で肉薄した《霧夜叉》の鞘から白刃が覗く。2人がソレを認識し、反応を始めた時には既に霞む程の速度で振り抜かれた刃が迫っていた。
「ッ、ァ……!」
一閃。《霧夜叉》が太刀を振り抜いた。
「な……、雨葉さん!?」
塩宮の眼前で、雨葉の姿がかき消える。
より正確に言えば、
「ノックバック耐性は
ガランと音を立てて落下する【
ことノックバック耐性という点では、共に無効化手段を持つ雨葉と塩宮に差は無い。それはつまり、あの一撃が塩宮に向いていたら吹き飛ばされていたのは塩宮だったと言うこと。
雨葉が対象となったのは、単に位置取りの関係で彼女の方が《霧夜叉》に近かったからに過ぎない。
どうやら、《霧夜叉》はタンク2人を斬り捨てる事を後回しにすると決めたらしい。今のように遠方に吹き飛ばし、戦線復帰までの時間を稼ぐ。そして、その間に他の敵を始末しようとしたのだろう。
ふつふつと、塩宮の思考が煮上がる。
「クソが……」
正直に言って、不愉快だ。
仕様の隙を付いた小技で耐性を無効化してくるのは良い。
倒すのが手間だから後回しにしたいと思われるのも良い。
防御力に一家言ある身として、ボスにそう思われるのは栄誉ですらある。
だが。殺しも拘束もせず吹き飛ばしただけで無力化出来ると思われるのも、地の果てですらない同フィールド内から復帰するまでに闇鍋の面子を
どちらも不愉快極まりない。
「……そうですか。そうですか。そっちがそう来るなら、こっちだって考えがありますからね」
そっと。懐から取り出しか小型の石に囁く。
「全員、一旦下がって。月詠さんは申し訳ないですけど、遅れてる人の回収お願いします」
ソレは、同戦場の一定範囲内にいるフレンドに数秒だけ声を届けるだけの物。人魔対戦後に実装され、当時コレがあればと多くの指揮官に思わせた便利アイテム。
言い換えれば、戦闘ではなく戦争において有効な、この場では本領を発揮出来ないアイテム。
だが、それで十分だった。塩宮が行ったのは、ただの通告。提案でも確認でも無く、
つまりは、そうする程に、塩宮は
ゆらり。静かに立ち上がる塩宮の瞳は、据わっていた。
次回、盛り塩