しがない一人の小説家は昨今AIが文章やイラストを生成してくれる事を知って、それを自分の作品に取り入れた。

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AIは創作者の人間を殺しうるか?

 最近、インターネットで「小説を書いてくれるAI」やら「イラストを描いてくれるAI」やらが話題になっている。

 それが気になって仕方なかったのは、ボク自身がそういう方面で食い扶持をしのいでいるからだ。それもサスペンスやホラーチックなシロモノを描く方向で。

 

『最強最大のにほんごAI!』

 

 くだんのサイトにアクセスすると、ポップなイラストと共にそういう見出しが目に入った。

 どうやら今までの学習データから文章・画像を人工知能が解析し、それに伴った代物を出力してくれるらしい。

 どちらも一行の短い文章でも試せるようだ。

 ボクは真っ白な原稿ファイルから現実逃避したい一心で、AIに一つお題を投げてみた。

 

《AIへ、ホラー小説を一つお願いします》

 AIは一瞬だけ沈黙したかと思うと、しばらくして画面にはこんな文字が表示された。

 

『厳かに明るくなって行く鉄工場の霜朝である。二三日前からコークスを焚き続けた大坩堝が、炉辺一杯に堆く積まれている。石炭は火床の底で盛んに燃えていて、時々シューッと音がするばかりだ。その炉の前に、大きな機械があった。巨大な歯車やばねなどが組み合わさって、一種異様な形をなしている。その機械の中央には、鋼鉄の管が何本も並んでいて、その一つ一つが――』

 

 

 内容を読み進めていくと、確かにホラー小説だった。四人の子供達が、気が狂った工場長に追いかけ回されるという内容の……。

 しかし、何というか、その文章を元に出力したイラストとも併せてどことなく不気味である。

「ははぁ、これなら少し参考にしてみるのも悪くないなぁ」

 ボクは昨今のAI技術に感心しつつ、自分の原稿にいくらかそれを落とし込んでみる事にした。

 

 

 数日後の夜、担当の編集者さんに提出した原稿ファイルは、送付していた挿絵の不気味さもあいまってか、GOサインが出た。

 ボクはホッとして胸を撫で下ろすと、早速応答のメールを送信しておいた。

「最初の諸々はAIが作ったんだけど……まぁ、その後は自分で書いてるからセーフかな?」

 一応、そのサイトの利用規約の方に目を通した。

 

・AIで生成した文章や画像は、私的利用・商用利用を問わず、利用者の自己責任の範囲内においてご自由にお使いいただけます。生成されたコンテンツ内にサービスの利用を明記する必要はありません。

・AIは生成されたコンテンツについて一切の著作権(著作人格権を含みます)を持ちません。

・AIで生成されたコンテンツをシェア・利用したことにおいて起きうる影響について一切の責任を持ちません。

 

 ……なんだって?

 記載通りなら、むしろボクのように使う事もOKではないか。なんら後ろめたく思う必要はない。

 いや、待てよ。著作権がAIやサイト側に無いという事は、その権利は全てボクにあるという事になる。

 こういうAI技術というのは、日に日にインターネットの大海原から誰かが書いた小説やイラストを引っ張ってきて、それをAIが学習してユーザーに提供する。

 つまりは、このサイトでは労せずして他人の創作したモノを模倣出来る。その陰で数多の創作者達が、知らず知らずの内に自分の培ってきた技術を名も知らぬ誰かに持っていかれ、権利すらも主張されるわけだ。

「イラストレーターさん達が騒いでいる気持ちもなんとなく分かるなぁ。……まぁ、ボクは文章畑だけど」

 そんな事を考えながら、ボクはまたAIにお題を投げてみた。

 

 小説のAIへは《サスペンス小説》を要望。そしてイラスト側のAIには《街角の風景》をお願いした。

 AIは今度はちょっと間を置いた。この間が不安だが、それでも原稿は出来上がったようだ。

《大東京の深夜……。クラブで遊び疲れたあげく、タッタ一人で首垂れて――》

 

 

 数日後、またしても担当編集者さんからOKが出た。

「文体がずいぶん古風になったね。夢野久作大先生のリスペクトかい? でも、送付してくれたイラストの雰囲気とマッチしていて良いんじゃないかな。それにしても……こりゃまたえらくハードボイルドだねぇ」

 その言葉に、ボクの心は一瞬跳ね上がった。まさか、これがウケるとは。

 今回はAIに委任する部分をちょっと多めにした。表現に迷った時や流れが思い浮かばなかった時は、AIに判断を委ねるようにしていたのだ。

 そしてその効果はてきめんだった。AIによって小説に味付けされ、誰かと一緒に創作しているような錯覚に陥ったほどだ。

(……いやぁ、芸術分野のAI技術ってこういう人間を補助するような使い方が一番健全じゃあないのかな)

 ボクはそういう高尚な考え方を免罪符にして、後ろめたい気持ちをかき消した。

 でもイラストレーターさんはみんな言ってるよ。「デジタル化の時のように、道具が増えただけ」って。ボクもそれとやってる事は同じさ。今回もその道具が少しばかり進化しただけの話。

 だから、これはセーフ。何の問題もない。最近似たような事をするAIがトラブルになってたから弁護士さんがわざわざニュースで見解を示してたけど、それによると――このサイトでボクが出力した文章やイラストは、全てボクに著作権あるんだから!!

 

 だけれど、そんな傲慢な考えだといつか破滅する。

 編集者さん達っていうのは提出されたものが売れるかどうか判別する、一種の『プロ』だ。AIに委任する量の度が過ぎるとAIが書いたか人間が書いたかなんて、そんなの証拠がなくとも分かってしまうもんだ。

 ボクは文章で食い扶持を稼いでいるのだから、そんな間抜けな真似は絶対にしない。

 商業に提出するAIとの共同作品は直前に仕上げたモノを目安に抑えた方がいいだろう。

 

 あぁ、だけれど。だけれど。だけれども。

 AI技術の革新というものは、ボクの脳裏にこびりついて消えてくれそうにない。

 創作者にとってこんな素晴らしい技術、使わない手はないじゃないか!

 ボタンを一つ押せば十数秒で、イラストレーターさんが数時間かけて一から十まで描いたものと遜色ないイラストが出来上がる。小説家が脳髄を沸騰させんばかりに思い悩み、ようやくひねり出した文章もぽんっと出来上がる。

 AIの世界は、そこまで“あと一歩”のところにきているのだ!!

 そう思えば、ボタンを押すのが楽しくて仕方がない。

 

 そうだ。商業に出すのがダメなのならば、個人として楽しむ分にはどうだろうか。AIに委任する部分を多くすれば、そこまで手間はかからないんだし。別名義を使ってアマチュアの身分を名乗ってやるならば、誰にも迷惑をかける事無く、純粋に楽しんで使えるんじゃなかろうか。

 ……イラストレーターも並行で名乗ってみるのもいいな? アニメ絵はあんまり得意じゃなかったけど、AIに描かせれば数十秒で出来上がる。

 なんたって「AIにえっちなイラストを描かせて、AIが描いたと明記せず販売してる」――なんて話もあるくらいだから、ボクのお遊びなんて可愛いもんさ。

 

 

 

《AIに小説のネタを与えて、AIが文章に落とし込む》

 そんな遊びを始めたボクの生活は一気に変わった。

 今まで小説を書き始めるにあたって、単語の辞書を漁ったり、ネットの海に潜ったりして調べ物をする時間が凄く無駄だと思っていた。

 だけど、今となっては違う。

 このAIと協力する事で、小説執筆の時間が大幅に短縮されるのだ。

《まずAIにお題を出す》 《AIが小説のネタを見つける》 《そしてボクがAIの手のものだとバレないように手直しして、書き始める》《表現に詰まったら、またAIに頼る

 一人で悩んでいた作業が、ボタン一つで完了させられる。

 こうして、ボクは創作作業の大幅な時間削減に成功した。AIサマサマである。

 

 しかも、それだけではない。別名義で小説投稿サイトに掲載したところ、予想以上の反響があった。

 それはそうだ。ボク自身の文体はどうにも古臭くて、華がない。若者受けしない部分がある。

 それがAIによって、若者向けにより読みやすい文体へと生まれ変わったのだから。

『文体がとても良かったです。これからも頑張ってください!』

『主人公が格好よかったです!』

 アカウントプロフィールから若い年齢層と見受けられる人達から、そんなメッセージを貰うようになった。

 そのメッセージが嬉しくて、またその人の期待に応えたくて、ボクはAIが生み出してくれた文章に、更に磨きをかけてゆく。こうして出来上がった共同作業による作品は、本業である商業誌での活動にもいくばくかの良い影響を与えてくれたはずだ。

 AIに、どんどんアイデアを与えてゆく。

 文章が、次々と生み出されてゆく。

 文章が、小説として形を成してゆく。

 文章が、挿絵を伴った小説として世に解き放たれてゆく。

 文章が、文章が、文章。文章が。文章が。

  文章が。

 

 

 そうして遊んでいる内に、携帯電話が鳴った。担当さんからだ。

「やぁ、どうだい? 調子は」

 そんな風に探りを入れられるように聞かれたので、AIを利用している事がバレて糾弾されるかとも思った。しかしその真逆に嬉しい報せだった。

「今度の新作、編集長から書店でサイン会を開く事を提案されたんだけどね。近頃キミの調子も良いみたいだし、連載してる方の人気もあがってるから。一発どうだろう?」

 そう言われた瞬間、ボクは二つ返事で了承した。

 

 

 そうして新作の発売日当日。

 ボクは担当さんと一緒にサイン会が行われる書店へ赴いた。

 そこでは……ボクの新刊を購入した客達が、手に持った新刊にサインペンでボクの名前を求めてくるのだ。

 AIの文体を色々と取り入れたお陰か、ご年配の方のみならず。若い年代の頃と思われる人までが列に並んでいる。その事にボクは感無量になった。

 ……やはりAIの発展は素晴らしい。よい時代に生まれたもんだ!

 あともう数年したら、創作ではAIと一緒に二人三脚が当たり前の世界になるんじゃあなかろうか?

 その時は表立って「AIと一緒に書きました」って胸を張ろう! それが出来たら記念にAIとの共存をテーマに据えた本でも書いてみようかな?

 

 そうして楽しい夢想している間に、目の前に新しい人が並んできた。

「…………」

 目の前に立っていたのは、20代前半くらいの青年だ。黒髪に、少しだけ着崩されたワイシャツ。紺色のズボンという、いかにも真面目そうな風貌をしている。

 けれど――彼は何やらボクを見つめたまま固まっていた。何かおかしなところでもあるのだろうか。

 もしかして、ボクの顔にどこか汚れがついていたり?

 いや、この日の為に髪は切ってきたし。髭もちゃんと剃ってきている。服装だって、担当さんに太鼓判押してもらったし。

 なら、一体どうして……と不思議に思っていると、その青年はギリギリと歯ぎしりをしながら口を開いた。

「盗作家め……」

 憎々しげにボクを睨む彼に、思わずたじろぐ。

 一体全体どういう事なのか。訳が分からないままボクは戸惑うしかなかった。

「俺の文章をパクりやがって……俺は……!!」

 そう叫びながら、彼は鞄の中から分厚いナイフを取り出した。

 なんだ、それは。

 なんで、そんなものを――と困惑するボクに、その青年はカナ切り声をあげる。「お前が使った文章は、俺の小説の盗作だ!!」と。

 彼が言っている意味が、最期まで分からなかった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「『小説家、ファンの目の前で刺殺される』か」

 壮年の刑事がそう呟いたのは、自分が担当した事件のインターネット記事を読んでいる時だった。

 犯人はその場で捕まった事も載っている。

 彼の犯行動機はただ一つ。自分がネットに公開していた小説を盗用されて憤慨したという、至極単純明快なものだ。

「どっかのアニメーションが襲撃されたのと似た案件ですかねぇ? 小説の文章なんて、どいつもこいつも似たり寄ったりでしょう」

 若手の同僚がそんな軽口を叩く。壮年の刑事は首を横に振った。

「いや、今回の被害者は清廉潔白というわけでもないらしい」

 彼はそう言いながら、同僚に対してパソコンの画面を見せながら一つの資料を渡した。

 資料は被害者のパソコンのアクセス履歴。毎日のように、文章・イラストAIの生成サイトに入り浸っていた。パソコンに映っているのは、そのサイト。

「これがなんだっていうんですか」

 若手の彼は、怪しむような目つきで上司を見る。

 その視線にため息をついてから、壮年の刑事は語り始めた。

「AIっていうのは、学習データをインターネットの何処からか拾う。小説、アニメ、漫画、ゲーム、ブログ、SNS……加害者が利用していた小説投稿サイトなんかもそうだ」

「膨大なデータの中から、加害者が書いたのと偶然似たような文章が生成されたと? んなバカな……」

 馬鹿にしたように笑う後輩に、壮年の刑事は冷静に返した。

「『小説の文章なんて、どいつもこいつも似たり寄ったり』って、今お前が言ったばかりだろ。AIを操作するヤツの指示さえ合致すれば、似たシチュエーションの題材にブチ当たる事だってあるはずだ。プロを夢見るアマチュアの少年少女……が、書いた小説なんて膨大な数があるしな」

 そこで、若手の刑事はバツが悪そうな顔をした。

「じゃあ、被害者が悪ィんじゃないですか。盗作だし。最近SNSでもこういうAIってそういう扱いッスよ?」

「被害者には現行の法律的に何一つの過失がない。『膨大なパターンがある言葉の組み立ての中から、偶然にも似た文章を書いてしまった』といえる状態だからな。AIを作った技術者に対しても、弁護士サマ達は罪に問えないとの見解だ。たとえそれが無断転載されたデータの集積であっても」

 だが、と言葉を区切ってから、壮年の刑事は言い切る。

「そういう理屈は分かっていても、“人間の感情”がそれを許さない」

「創作者のいくらかはラッダイト運動ばんざーい、ってトコですか? 仕事の道具が増えりゃ便利になるっつーのに、ゲイジュツカっていう分類の人間っつーのはよく分からんっすねー」

 いかにも創作に携わった事のない人間、なおかつ若者らしい意見だ。機械を扱いこなすのが億劫な壮年の刑事にとっては、少々耳が痛い。

「それが今の時代だ。――まぁ、AIと人間が胸張って共に歩むのなんて、法整備も含めて20年か30年は掛かるんじゃないか? 人間がこういう“感情の伴ってない創作物”を受け入れられるかという問題でもある。見方を変えれば……AIは人間を殺しうるか、という側面もあるが」

「そーっすかー? オレら若い世代からしたら人間がAI殺してるように見えますがね。使いこなせたら面白い技術っすよ。自分の望んだシチュエーションの絵や小説が生成されるなんて……」

 そういう事を言い合って、若手の刑事がサイトにある『新しい文章を書く』というボタンをクリックした。

 そしてそのAIは、インターネットに散らばったありとあらゆる文章を参考にして……一つの小説らしき長文と、一つのイラストと、そして『注意書き』を二人の刑事に見せつけた。

 

 

『最近、インターネットで「小説を書いてくれるAI」やら「イラストを描いてくれるAI」やらが話題になっている。

 それが気になって仕方なかったのは、ボク自身がそういう方面で食い扶持をしのいでいるからだ。それもサスペンスやホラーチックなシロモノを描く方向で――

 

 

・AIで生成した文章や画像は、私的利用・商用利用を問わず、利用者の自己責任の範囲内においてご自由にお使いいただけます。生成されたコンテンツ内にサービスの利用を明記する必要はありません。

・AIは生成されたコンテンツについて一切の著作権(著作人格権を含みます)を持ちません

・AIで生成されたコンテンツシェア・利用したことにおいて起きうる影響について一切の責任を持ちません




【筆者によるあとがき】

 SNSで騒がれている『NovelAI』による一件からインスピレーションを得て、この小説は制作されました。
 この小説は『AIのべりすと』のAIと共同制作で行いました。
 全てのイラスト。また、文章の一定割合はAIによって生成されています。

 ……ここまで書いてなんですが、何処を『人間』が書いたか、何処で『AI』が書いたか。
 貴方は判別がつきました? AIって、あとがきまで書くんですよ。


Aiのべりすと:https://ai-novel.com/index.php

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