【完結】追放演義 ~無能者と大富豪の屋敷から追放されて野良道士となった俺、異国の金毛剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどの最強の仙道使となる~   作:ともボン

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全67話で完結いたします。


第一話    理不尽な追放

龍信(りゅうしん)、貴様は今日限りで解雇(クビ)だ。この屋敷から出ていけ」

 

 部屋の中に入るなり、次期当主にそう告げられた俺こと孫龍信(そん・りゅうしん)は、嫌な予感が的中したなと思った。

 

 なぜなら、先ほどの夕飯に()()()()()()()が用意されていなかったのだ。

 

 この華秦国(かしんこく)において、食客(しょっきゃく)の食事が用意されないと言うことは、お前はもう我が家には必要ないから出て行けという意味がある。

 

 しかし食客(しょっきゃく)に対して、何の理由もなく解雇(クビ)はあり得なかった。

 

 俺は解雇(クビ)になるようなことなどまったくしていないのだ。

 

 なので俺は目の前の恰幅(かっぷく)の良い髭面(ひげづら)の男――今日1日の当主とご子息の葬儀(そうぎ)を取り仕切った孫笑山(そん・しょうざん)(たず)ねた。

 

笑山(しょうざん)さま、ぜひとも理由をお聞かせください。何の理由も説明もなく解雇(クビ)で追放とは、次期当主としてあまりにも理不尽(りふじん)が過ぎます」

 

 現在、俺はこの屋敷の当主の部屋にいる。

 

 そして目の前の椅子に座っている150(きん)(約90キロ)はある笑山(しょうざん)は、ご子息と一緒に事故で突如(とつじょ)として亡くなった当主の弟だ。

 

「理由だと?」

 

 ふん、と笑山(しょうざん)忌々(いまいま)しそうに鼻で笑った。

 

「当主であった兄上とともに、息子の憂炎(ゆうえん)も一緒に事故で死んだのだ。ならば憂炎(ゆうえん)の武術教師だった貴様はもう用済みだろうが」

 

 笑山(しょうざん)は微妙に息を切らせながら言葉を続ける。

 

 俺は用済みという言葉に対して怒りを覚えた。

 

 同時に腰帯(こしおび)に差していた長剣の(つか)に手を掛けようとしたが、こんなところで抜くわけにはいかないと(こら)える。

 

 代わりに両手の指を胸の前で組み合わせる敬礼――拱手(きょうしゅ)を取って反論した。

 

「お言葉ですが、笑山(しょうざん)さま。確かに俺……いえ、私は憂炎(ゆうえん)ぼっちゃんの武術教師を任されておりました。しかし、当主である仁翔(じんしょう)さまにはこうも言っていただいておりました。もしも憂炎(ゆうえん)ぼっちゃんがこの屋敷から巣立った場合や、万が一にも憂炎(ゆうえん)ぼっちゃんの身に何かあった場合にも、そのままこの屋敷に家守(いえもり)の1人として住んでも良いと」

 

 嘘偽(うそいつわ)りのない事実だった。

 

 それほど当主の仁翔(じんしょう)さまは、俺に盗賊団から自分と息子の命を助けて(もら)った恩をずっと感じてくれていたのだ。

 

 だが、笑山(しょうざん)にはそんなことなど関係なかったのだろう。

 

「黙れ! 屋敷から追い出されたくないからと言って嘘をつくな!」

 

 笑山(しょうざん)は聞く耳を持たないと言った態度を取る。

 

「嘘ではありません。何でしたら兼民(けんみん)さんにお聞きください。仁翔(じんしょう)さまにそう言われたとき、兼民(けんみん)さんも隣に居合わせておりましたので」

 

 兼民(けんみん)さんはこの屋敷の家令(かれい)であり、どこの馬の骨か分からない自分にも良くしてくれた一角(ひとかど)の人物だった。

 

「そんなことはもうできん。兼民(けんみん)はお前よりも一足早く解雇(クビ)にしたからな。そして解雇(クビ)にしたのは兼民(けんみん)だけではない。雷公(らいこう)白騎(はくき)小鈴(こすず)なども(そろ)って解雇(クビ)にしたわ」

 

「え!」

 

 この告白には俺も驚愕(きょうがく)した。

 

 雷公(らいこう)さんは凄腕の料理長であり、白騎(はくき)さんは槍の達人である警備隊長。

 

 そして小鈴(こすず)さんは憂炎(ゆうえん)ぼっちゃんの乳母(うば)だった。

 

 つまり、仁翔(じんしょう)さまから全幅(ぜんぷく)の信頼を置かれていた人たちに他ならない。

 

 その4人をよりにもよって、仁翔(じんしょう)さまと憂炎(ゆうえん)ぼっちゃんの葬儀(そうぎ)が終わった直後に解雇(クビ)にしたという。

 

 どうしてそんなことを?

 

 などと思ったのは一瞬だ。

 

 俺はすぐにピンときた。

 

「まさか、あなたはその4人から次期当主に反対されると思って先手を打ったのですか?」

 

 笑山(しょうざん)は図星だとばかりに顔を(ゆが)めた。

 

 この屋敷にはいなかったとはいえ、笑山(しょうざん)の悪名はそれとなく伝わっている。

 

 清廉潔白(せいれんけっぱく)を絵に描いたような仁翔(じんしょう)さまとは違い、笑山(しょうざん)はわざわざ王都の花街(はなまち)に行くほどの色狂(いろぐる)いだという。

 

「そ、そんなことはお前にはもう関係ないだろ!」

 

 顔を真っ赤にさせた笑山(しょうざん)は、(つば)を吐き飛ばしながら怒声を上げる。

 

 それだけではない。

 

 笑山(しょうざん)はここぞとばかりに俺に人差し指を突きつけた。

 

「それに聞いたところによると、お前は自分のことを道士(どうし)だと周囲に言っていたらしいが、お前はずっと屋敷にいて道家行(どうかこう)に行っていた様子はないという」

 

 これはどういうことだ、と笑山(しょうざん)は言葉で詰め寄ってくる。

 

 道家行(どうかこう)

 

 それは大きな街には必ず1つはある、妖魔討伐(とうばつ)や薬草採取を生業(なりわい)とする道士(どうし)たちの仕事斡旋所(あっせんじょ)だ。

 

 貿易も仕事の内だった仁翔(じんしょう)さまによると、西方の国々では道家行(どうかこう)のことを冒険者ギルド、道士(どうし)のことを冒険者と呼んでいるらしい。

 

 それはさておき。

 

「一体、お前は何者なんだ!」

 

 笑山(しょうざん)の問いに、俺は「分かりません」と正直に答えた。

 

「分からないだと?」

 

「はい、分かりません。今の私は自分の龍信(りゅうしん)という名前と、道士(どうし)ということ以外の記憶がないからです。そして道家行(どうかこう)には、道士(どうし)の資格である道符(どうふ)を手に入れに1度だけ行っただけでした。あくまでも屋敷に置いておく以上、正式な道士(どうし)という身分を手に入れるだけで良いという仁翔(じんしょう)さまのご指示でしたので」

 

 しかし、と俺は言葉を続けた。

 

「いくら資格があろうとなかろうと、自分が記憶を失った以前から道士(どうし)だったということは分かるのです。信じて(もら)えないかもしれませんが……」

 

「信じられるか!」

 

 すぐに笑山(しょうざん)は言葉を返してきた。

 

「自分の名前と道士(どうし)ということ以外の記憶がないだと? だったら、なおさらこの屋敷に置いておくにはいかん」

 

「ですが、当主の仁翔(じんしょう)さまはそれでも屋敷にいて良いと(おっしゃ)って下さいました」

 

「もう屋敷の当主はこのワシだ! 兄上がお前に言ったことなど知らんわ!」

 

 そう言うと笑山(しょうざん)は、卓子(テーブル)の上に置かれていた花瓶(かびん)を手に取った。

 

 それだけではない。

 

 何と笑山(しょうざん)は俺に向かって花瓶(かびん)を投げつけてきたのだ。

 

 瞬間、俺は両目に意識を集中させた。

 

 すると花瓶(かびん)は非常にゆっくりとした動きで俺の額へと飛んでくる。

 

 実際は普通の速度で飛んできたのだが、両目に意識を集中させた俺の目には花瓶(かびん)がゆるやかに飛んでくるように見えたのだ。

 

 このまま花瓶(かびん)ごと笑山(しょうざん)を斬り捨ててしまおうか。

 

 花瓶(かびん)がゆるやかに飛んでくるように見える中、俺は自分の目の前にもう1人の自分を想像した。

 

 そのもう1人の自分に腰帯(こしおび)に差してある長剣を抜かせ、空中にあった花瓶(かびん)を真下から抜き打ちの要領で一刀両断させる。

 

 当然ながら、それだけでは終わらない。

 

 俺はもう1人の自分を意識で動かし、椅子にふんぞり返っている笑山(しょうざん)の首を一刀の元に()ね飛ばしたのだ。

 

 と同時に、俺の額に花瓶(かびん)が当たった。

 

 そのまま花瓶(かびん)は床に落ち、パリンという音とともに床に欠片が散らばる。

 

「何が道士(どうし)だ! 素人のわしが投げた花瓶(かびん)すら避けられない無能者が!」

 

 つう、と俺の額からあご先に向けて血が流れ落ちる。

 

 本当は花瓶(かびん)を避けるなど目を閉じていても可能だった。

 

 それどころか、俺はやろうと思えば花瓶(かびん)笑山(しょうざん)を斬れたのだ。

 

 実際、俺はやろうと思えばできたことを念として飛ばした。

 

 しかし、俺は笑山(しょうざん)どころか花瓶(かびん)すらも斬らなかった。

 

 こいつの汚い血で仁翔さまの部屋を汚すわけにはいかないからな。

 

 もう仁翔さまはいなくなってしまったとはいえ、この当主の部屋は俺にとっても思い出が深い場所だ。

 

 その思い出の場所を〝色狂いの豚〟の血で汚すくらいなら、花瓶(かびん)をぶつけられて悪態を吐かれることなど何でもない。

 

 そう俺が思っていると、笑山(しょうざん)卓子(テーブル)の上をバンッと叩く。

 

「いいからお前のような口先だけの無駄飯食らいはさっさとこの屋敷から出ていけ! これは現当主である孫笑山(そん・しょうざん)の命令だ! もしも駄々(だだ)をこねるのなら、役人に知らせることになるぞ!」

 

 これ以上の会話は無用とばかりに笑山(しょうざん)は手首を振る。

 

 さっさと出て行けという意味なのだろう。

 

 俺は仁翔(じんしょう)さまと憂炎(ゆうえん)ぼっちゃんの顔を思い浮かべた。

 

 同時に盗賊団から2人を助けた数年前のことも思い出す。

 

 数年前、俺はふと気づくと街道近くの森の中で目を覚ました。

 

 このときのことは今でも鮮明に覚えている。

 

 自分の名前と道士(どうし)ということ以外の記憶がまったく無かったのだ。

 

 それこそ自分がどこの生まれで、なぜ記憶を失っているのかはさっぱりだった。

 

 そのときの身なりはきちんとしていたし、腰帯(こしおび)には1振りの長剣が握られていたことから物乞(ものご)いの(たぐい)であることは絶対になかった。

 

 そして森の中を当てもなくさまよっていたとき、盗賊団に襲われている馬車を見つけた。

 

 立派な馬車だったので盗賊団に目を付けられたのだろう。

 

 俺は馬車を守っていた護衛の人間が逃げ去るのを見たとき、(さや)から剣を抜き放って一目散に馬車へと駆け出した。

 

 あとは肉体に刻まれていた武術の技を(もっ)て、10人以上いた盗賊団を根こそぎ斬り捨てていった。

 

 すると頭目(とうもく)(おぼ)しき屈強で長身の男は、部下が根こそぎ俺に斬り捨てられたのを見て明らかに驚愕(きょうがく)した。

 

 そんな頭目(とうもく)の男は「このガキ、何者だ!」と(たず)ねてきたので、俺は「龍信(りゅうしん)だ」とだけ名乗って頭目(とうもく)の男の上半身を袈裟斬(けさぎ)りにして勝利したのである。

 

 やがて俺は馬車に乗っていた仁翔(じんしょう)さまと憂炎(ゆうえん)ぼっちゃんに感謝され、孫家(そんけ)食客(しょっきゃく)として屋敷へと招かれた。

 

 しばらくすると俺は憂炎(ゆうえん)ぼっちゃんの武術教師も任されたばかりか、仁翔(じんしょう)さまから家族の(あかし)として「(そん)」の名字もいただいたのだ。

 

 嬉しかった。

 

 本当に心の底から嬉しかった。

 

 このときから俺は仁翔(じんしょう)さまのために生きようと決心したのだ。

 

 記憶を無くしていようが関係ない。

 

 仁翔(じんしょう)さまのため、そして仁翔(じんしょう)さまが愛する憂炎(ゆうえん)ぼっちゃんのために生きれるのなら記憶を取り戻す必要などないと思ったほどだった。

 

 だが、その2人はもうこの世にはいない。

 

 俺は先ほど笑山(しょうざん)家守(いえもり)として屋敷に置いてくれと言ったものの、仁翔(じんしょう)さまと憂炎(ゆうえん)ぼっちゃんのいない屋敷の家守(いえもり)に価値なんてあるのだろうか。

 

 冷静になった俺は、自分の進むべき道を決めた。

 

「分かりました。荷物をまとめてすぐに出て行きます」

 

 俺は一応、笑山(しょうざん)に頭を下げる。

 

「言っておくが、お前の退職金などビタ一文たりとも出さんからな」

 

「要りません」

 

 アンタからの金は特にな、と俺は心中で思いながら振り返った。

 

 そのまま出入口の扉へと歩いていく。

 

「とっとと出ていけ。この無能者の野良犬風情(ふぜい)が……いや、もう野良犬ではなくて野良道士(のらどうし)か。がはははははは」

 

 俺は笑山(しょうざん)からの嫌味を無視して部屋から出る。

 

 背後からは笑山(しょうざん)の笑い声がいつまでも聞こえていた。

 

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