【完結】追放演義 ~無能者と大富豪の屋敷から追放されて野良道士となった俺、異国の金毛剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどの最強の仙道使となる~   作:ともボン

23 / 67
第二十三話  特別な妖魔

 翌日の昼過ぎ。

 

 俺は広場の(はし)っこで水連(すいれん)さんだけに腰の施術(せじゅつ)をしたあと、アリシアとともに意気揚々(いきようよう)とこの街の道家行(どうかこう)へと向かった。

 

 もちろん、東安(とうあん)までの路銀(ろぎん)を調達する仕事を探すためだ。

 

 しかし――。

 

「今のところ、報酬(ほうしゅう)が出るほどの妖魔討伐(とうばつ)の仕事はありませんね」

 

 開口一番、受付嬢の女性にそんなことを言われてしまった。

 

「それ以外でしたら農作物を荒らす害獣(がいじゅう)駆除(くじょ)や、別の街へ行く行商人の護衛任務などがありますが……」

 

「あれ? 護衛任務は鏢家行(ひょうかこう)鏢士(ひょうし)の仕事じゃないんですか?」

 

 鏢家行(ひょうかこう)

 

 それは道家行(どうかこう)薬家行(やくかこう)とも並ぶ組織の名前だ。

 

 貴重な商品を運ぶ行商人や隊商(キャラバン)の護衛を中心に活動し、その護衛活動を専門としている人間のことは鏢士(ひょうし)と呼ばれている。

 

「確かに護衛の仕事は鏢家行(ひょうかこう)が取り仕切っていますが、妖魔や盗賊の数が年々増えていることもあって、本当に人手が足りない場合は道家行(どうかこう)にも護衛の仕事が回ってくるんです」

 

 俺の質問に受付嬢は素直に答えてくれた。

 

 なるほど、と思った俺はさらに()いた。

 

「ちなみに王都の東安(とうあん)までの護衛任務はありますか?」

 

 この質問には隣にいたアリシアも「良い考えね」と(うなず)いてくれた。

 

 俺たちの目的は東安(とうあん)へ行くことであり、この中農(ちゅうのう)の街で妖魔討伐(とうばつ)を専門にしたいわけではない。

 

 なので東安(とうあん)までの護衛任務があるのなら、その仕事を請け負えば生活費の入手と目的地まで行けて一石二鳥(いっせきにちょう)ではないかと考えたのだ。

 

 だが、受付嬢はあまり良い顔をしなかった。

 

「残念ながら、東安(とうあん)への護衛任務はほとんど道家行(どうかこう)に回ってきません。何せ護衛を頼む行商人たちは東安(とうあん)で商売をすることが(あこが)れであり名誉(めいよ)なことですから、それこそ大金を払っても専門の鏢家行(ひょうかこう)に依頼するんです」

 

 ですので、と受付嬢は仕事の依頼が記載(きさい)されている台帳(だいちょう)をパラパラとめくる。

 

「今ある仕事ですと数日かもっと掛かる、長期的な薬草採取の仕事でしょうか」

 

 数日以上はかかる薬草採取?

 

 俺が頭上に疑問符(ぎもんふ)を浮かべると、アリシアが俺の代わりに(たず)ねてくれた。

 

「薬草を()るのにそんなに掛かるんですか?」

 

「ここ最近、街の近場で()れる薬草の数が減ってきているんですよ。それで主だった道士(どうし)たちは、貴重な薬草を求めて遠くの採取場所へ行っているんです」

 

 無知な俺たちに受付嬢は丁寧(ていねい)に教えてくれた。

 

「そのため、薬草が好物な妖魔たちも街から遠ざかっているんですよ。まったく出没(しゅつぼつ)しないというわけではありませんが、それこそ討伐(とうばつ)対象になるほどの凶悪な妖魔は()()()()以外ではありま……」

 

 そこで受付嬢はハッとしたような表情を浮かべた。

 

 まるでうっかり口を(すべ)らしたという顔だ。

 

 例の妖魔?

 

 当然のことながら、俺はその言葉を聞き(のが)さなかった。

 

 それは水連(すいれん)さんからの口からも出てきた言葉だったからだ。

 

「ちょっと待ってください。さっきは無いと言っておきながら、魔物……妖魔討伐(とうばつ)の仕事があるんですか?」

 

 アリシアが言い寄ると、受付嬢は明らかに動揺(どうよう)した。

 

 それでもアリシアは本当のことを教えて欲しいとばかりに、挙動不審(きょどうふしん)になった受付嬢をじっと食い入るように見つめた。

 

 やがて受付嬢は観念(かんねん)したのだろう。

 

 おそるおそる俺たちを交互に見ながら口を開いた。

 

「実は1件だけ妖魔討伐(とうばつ)の仕事があるんです……ですが、私どものほうからはお(すす)めできません」

 

「なぜですか?」

 

「あまりにも強すぎるからです」

 

 受付嬢は半ばしどろもどろになって答える。

 

「強すぎると言っても実際にはどれぐらいの強さなんですか? 第3級……まさか、第2級の道士(どうし)でも(かな)わないほどではないでしょう?」

 

 俺の問いかけに受付嬢は首を左右に振った。

 

「……いえ、その妖魔には第1級の道士(どうし)でもまったく歯が立たないんです」

 

 これには俺も驚きを隠せなかった。

 

 第1級の道士(どうし)の手に負えない妖魔など、下手をすると街を(ほろ)ぼしかねない災害級の強さを意味している。

 

 しかし、そんな凶悪な妖魔に街の人たちが(おび)えている様子はなかった。

 

 昨日、広場で水連(すいれん)さんたちに無償(むしょう)施術(せじゅつ)をしたときもそうだ。

 

 加えて水連(すいれん)さんの口から「例の妖魔」という言葉が出たときも、世間話程度の印象ぐらいにしか感じなかった。

 

 では、受付嬢が俺たちに嘘を言っているのだろうか?

 

 俺は「いや、それはないな」と判断した。

 

 どう見ても受付嬢が嘘を言っているようには見えないし、そんな嘘を俺たちにつく理由がそもそもない。

 

 などと俺が思ったとき、アリシアが俺の肩をポンポンと叩いてきた。

 

 俺は「どうした?」とアリシアに顔を向ける。

 

「もしかして、その妖魔は私が探している魔王かも……」

 

 俺はアリシアの言葉に目を丸くさせた。

 

 確かに第1級の道士(どうし)が手に負えないとなると、もしかするとアリシアが探している魔王という妖魔の可能性もある。

 

龍信(りゅうしん)、その妖魔討伐(とうばつ)の仕事なんだけど……」

 

 もちろん、アリシアが何を言いたいのかなど手に取るように分かる。

 

「ああ、請けよう」

 

 俺とアリシアは、その例の妖魔の討伐(とうばつ)を請けたいと受付嬢に伝えた。

 

「ほ、本当にこの仕事を請ける気ですか? あなたたちはまだ第5級の道士(どうし)なんですよね? 下手をすると大怪我をするだけでは済みませんよ」

 

 断られるのは百も承知(しょうち)だったが、ここで引き下がるつもりは俺たちにはない。

 

「お願いします。その妖魔の討伐(とうばつ)を請けさせてください。それとも、他の誰かがすでに依頼を請けているんですか?」

 

「いえ、今のところ誰も請けてはいませんが……」

 

「それはなぜです? 第1級の道士(どうし)が手に負えないほどの妖魔がいるのに、この街の道家行(どうかこう)はそれを放置しているんですか?」

 

「そういうわけではありません。ただ、うちの道家長(どうかちょう)が別に放置しておいても大丈夫だと判断したんです」

 

 俺とアリシアは互いに顔を見合わせ、そして同時に受付嬢に視線を送る。

 

 すると受付嬢は「え~と、つまり」と例の妖魔についての事情を教えてくれた。

 

 その妖魔はいつからかとある薬士(くすし)の家の敷地内に住むようになり、その薬士(くすし)道家行(どうかこう)討伐(とうばつ)依頼をしたこと。

 

 最初は下の階級の道士(どうし)たちが討伐(とうばつ)に向かったが返り討ちに遭い、やがて第1級を含む上の階級の道士(どうし)たちが出張ったものの、誰1人としてその妖魔を討伐(とうばつ)することが無理だったこと。

 

 そして道家行(どうかこう)はその妖魔が薬士(くすし)の家の敷地内にいるだけで特に街への被害はないと判断したため、依頼した薬士(くすし)には悪いがほぼ放置することに決めたこと。

 

 俺とアリシアはようやく納得した。

 

「要するに、立ち向かわなければ被害は出ないということですね?」

 

「はい、その通りです。それにあまり大きな声では言えませんが、その依頼した薬士(くすし)の父親が何者かに……いえ、それは関係ありませんでしたね。とにかく、この仕事は第5級の道士(どうし)にはあまりお(すす)めは……」

 

 できません、と受付嬢が言おうとしたときだ。

 

「請けます!」

 

 俺とアリシアは強く声を重ねて言った。

 

 その後、俺たちは道家行(どうかこう)から承諾(しょうだく)(もら)って例の妖魔の討伐(とうばつ)に向かった。

 

 中農(ちゅうのう)の街では、色々な意味で有名だった薬士(くすし)の元へと――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。