【完結】追放演義 ~無能者と大富豪の屋敷から追放されて野良道士となった俺、異国の金毛剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどの最強の仙道使となる~   作:ともボン

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第四十九話  因果応報

 ドクン、ドクン……ドクン、ドクン……ドクン、ドクン……。

 

 その部屋に入った途端、わしの心臓は早鐘(はやがね)を打ったように速まった。

 

 くそっ、まるで童貞(どうてい)の頃に戻ったような気分だわい。

 

 女遊びに関しては百戦錬磨(ひゃくせんれんま)と自負していたわしも、さすがに今ばかりは極度の緊張を表に出さないようにするだけで必死だった。

 

 すでに部屋の中は薄暗くなっており、天蓋(てんがい)翠帳(カーテン)が付いている長寝台(ベッド)の横にある行灯(あんどん)が灯っているのみ。

 

 それだけではない。

 

 香木に(なつめ)混合(ブレンド)した香りが、部屋の中に前もって充満(じゅうまん)されていたのだ。

 

 これだけでもわしの一物(いちもつ)が過敏な反応を示してしまう。

 

旦那(だんな)さま、いつまで私を(じら)らせるのですか?」

 

 ぎくり、とわしは身を震わせた。

 

 脳みそを(とろ)けさせるような甘美(かんび)な声の持ち主は、すでに長寝台(ベッド)の中で上半身だけを起こした状態で寝そべっていた。

 

 薄い翠帳(カーテン)越しなのでよく分かる。

 

 甘美(かんび)な声の持ち主――紅玉(こうぎょく)は素肌の上から半透明な長襦袢(ながじゅばん)だけを羽織っているだけだ。

 

 わしは(ふところ)から包み紙を取り出すと、包み紙をめくって最後の丸薬(がんやく)を飲む。

 

 薬士(くすし)の娘が真種子(しんしゅし)と言っていた、滋養強壮(じようきょうそう)の効果が高いという丸薬(がんやく)だ。

 

 そんな丸薬(がんやく)の2つ目を飲むと、身体の(しん)から力が(あふ)れてくる。

 

 特にへその下から3(すん)(約9センチ)辺りが急激に熱くなっていく。

 

 よし、とわしは空になった包み紙を投げ捨てて気合を発した。

 

 そして素早く衣服を脱いで下着1枚になると、ブルブルと身体の肉を揺らしながら長寝台(ベッド)へと向かった。

 

 邪魔な翠帳(カーテン)を開けて長寝台(ベッド)へと入る。

 

「うふふ……大丈夫ですよ、旦那(だんな)さま。私は逃げも隠れもいたしませんわ」

 

「それはこちらの台詞(せりふ)だぞ、紅玉(こうぎょく)よ。今日は絶対に朝まで寝かさんからな」

 

 長寝台(ベッド)へと入るともう我慢できなかった。

 

 わしは紅玉(こうぎょく)の上半身に抱きつき、半透明な長襦袢(ながじゅばん)を強引に脱がした。

 

 もしもこれが1晩だけの客としての態度なら、妓女(ぎじょ)妓主(ぎぬし)に密告してその客の男を出禁にするだろう。

 

 しかし、今のわしは1晩だけの客ではない。

 

 きちんと紅玉(こうぎょく)身請(みう)けした男なのだ。

 

 ならば、どのように抱くかなどを決めるのはわしである。

 

「ああ……紅玉(こうぎょく)よ。このときを一日千秋(いちじつせんしゅう)の思いで待ち続けたぞ」

 

 わしはギンギンにそそり立った一物(いちもつ)をしばし待たせ、まずはその血のように赤い(べに)が塗られていた唇に接吻(キス)をする。

 

 このとき、わしの頭の中には性交へいたる過程が鮮明に浮かんでいた。

 

 まずは濃厚な接吻(キス)で互いの感情を高め、次にその豊満な胸へと手を移動させて()みしだく。

 

 その後は秘部の茂みへと手を動かし、十分に愛液か布海苔(ふのり)を煮て溶かした疑似愛液(ローション)で陰部が()れたあとに挿入(そうにゅう)する。

 

 ここで客の中には妓女(ぎじょ)の陰部を熱心に対食(クンニ)する男もいるが、それは女の愛液には滋養強壮(じようきょうそう)の効果があるという噂を信じていた初心(うぶ)な男だ。

 

 わしも一時期はやってみたが、まったく効果がなかったのでするのをやめた。

 

 それよりも本当に抱きたい女が目の前にいるのならば、わしならやはり対食(クンニ)などをしている(ひま)があったらさっさと挿入(そうにゅう)したい。

 

 などと思いをながら、次の過程へと移ろうとしたときだ。

 

 ドンッ!

 

 と、わしの腹に重苦しい衝撃が走った。

 

 次の瞬間、150(きん)(約90キロ)はあるわしの身体が後方へと吹き飛んだ。

 

 そのまま勢い余って長寝台(ベッド)から転げ落ちる。

 

 けれども吹き飛ばされた衝撃は凄まじく、わしの身体は床の上を何度も転がりながら壁へと激突した。

 

「へぼッ!」

 

 わしは後頭部と背中を強く壁に打ちつけたことで、自分でも間抜けなほど頓狂(とんきょう)な声を発してしまった。

 

 やがてグニャグニャと(ゆが)んでいる紅玉(こうぎょく)を見つめていたわしは、後頭部と背中の痛みを感じながら思う。

 

 い、一体……何が起こった?

 

 本当にそう思った。

 

 まったく意味が分からない。

 

 接吻(キス)を終えてこれから本格的に性交へいたろうとしたとき、気づいたら突風に(あお)られたように身体が吹き飛んで長寝台(ベッド)の外へと押し出されたのだ。

 

 まさか、紅玉(こうぎょく)に突き飛ばされた?

 

 いや、どう考えてもそうとしか思えない。

 

 だが、女の細腕で150(きん)(約90キロ)のわしを長寝台(ベッド)の外まで突き飛ばせるはずがなかった。

 

 それも上半身だけを起こしていた状態で、なおかつ一発でとなるとほとんど不可能に近い。

 

 もしも本当にそれができる女がいたとしたら、それはもう人間ではなかった。

 

 それこそ……。

 

「き、きさまあああああああ――――ッ! 何を私の中に入れた!」

 

 ようやく視界がはっきりしてくると、顔中から滝のような冷や汗を流していた紅玉(こうぎょく)が絶叫する。

 

 続いてビキビキという恐ろしい音が聞こえるや(いや)や、先ほどまで弾力のあった紅玉(こうぎょく)の肌に異変が起こった。

 

 まるで幾重にも(たば)ねた鋼鉄(はがね)のように、固く(いびつ)に引き締まったのだ。

 

「ひいッ!」

 

 わしはあまりの驚きに失禁した。

 

 その人間とは思えない硬質化した肌もそうだったが、何より驚いたのは紅玉(こうぎょく)の背中から異様なモノが生えてきたからである。

 

 漆黒(こうもり)の翼だ。

 

 しかもそれは鳥の翼ではなく、華秦国(かしんこく)では幸運の象徴とされる蝙蝠(こうもり)の翼だった。

 

 では、わしはその蝙蝠(こうもり)の翼を見て幸運が(おとず)れると思ったか?

 

 答えは絶対的に(いな)だ。

 

 幸運どころか死の(おとず)れを強烈に感じたほどである。

 

 そんなわしが恐怖でガチガチと歯を鳴らしていると、紅玉(こうぎょく)は血走った両目で(にら)みつけてきた。

 

「この人間風情(ふぜい)が……よくも私の体内に聖気(せいき)などというくだらないモノを入れてくれたな」

 

 何のことかはまったく分からなかったが、ここにいては確実に化け物となった紅玉(こうぎょく)に殺されることだけは分かった。

 

 なのでわしは全裸だろうと失禁したあとだろうと関係なく、全力で両足を(ふる)い立たせてその場から逃げ出した。

 

 扉を開けて転がるように通路へと出ると、「助けてくれ!」と大声で(わめ)き散らしながら2階の階段を目指して駆けていく。

 

 やがて命からがら2階へと辿り着くと、そこでもわしは恥も外聞もかなぐり捨てて助けを求めた。

 

 そのわしの悲鳴に近い声を聞いて、各部屋から薄着1枚の男女たちが出てくる。

 

 1晩の睦事(むつごと)(性行為)の最中だった客たちと妓女(ぎじょ)たちだ。

 

「きゃあ!」

 

「うおっ!」

 

 そんな客たちと妓女(ぎじょ)たちは全裸のわしを見て慌てふためいたが、一方のわしはそんなことなど気にせず大広間(ホール)を目指してドタドタと走り続けた。

 

 そのとき――。

 

 後方から絶叫が響き渡った。

 

 な、何だ!

 

 わしは条件反射で顔だけを振り向かせる。

 

 するとわしの視界には、化け物となった紅玉(こうぎょく)に殺される客たちと妓女(ぎじょ)たちの姿が飛び込んできた。

 

 化け物となった紅玉(こうぎょく)は、背中の翼を長大な(かま)のように使って客と妓女(ぎじょ)たちを容赦なく惨殺(ざんさつ)していく。

 

「ひぎゃああああああああああああ――――ッ!」

 

 恐怖が頂点に達したわしは喉が張り裂けるほど叫んだ。

 

 明らかに化け物となった紅玉(こうぎょく)はわしを狙っている。

 

 それは人間としての本能が教えてくれた。

 

 このままではわしも殺される。

 

 あの客たちや妓女(ぎじょ)たちよりも凄惨(せいさん)な方法で。

 

 嫌だ!

 

 こんなところで死にたくなくない!

 

 まだまだやりたいことが山のようにあるんだ!

 

 わしは涙や汗、鼻水や(よだれ)を垂れ流して走り続ける。

 

 死にたくない!

 

 絶対に死にたくない!

 

「死んでたまるかあああああああああああ――――ッ!」

 

 と、発狂しながら1階の大広間(ホール)に続く大階段へ辿(たど)り着いたときだ。

 

 ガシッ!

 

 後ろから何かに身体をがっちりと拘束(こうそく)された。

 

「いいや、お前はここで死ぬんだよ」

 

 耳元で(ささや)いたのは、化け物となった紅玉(こうぎょく)だ。

 

「あの忌々(いまいま)しい小娘のような聖気(せいき)の使い手かと思えば、どうやらそこら辺にいるような単なるクズだったか」

 

 化け物となった紅玉(こうぎょく)は、万力のような力でわしの身体を締めつけてくる。

 

「どうしてお前のようなクズが聖気(せいき)を使えたのかは知らんが、少なくともお前のせいで私の体内は損傷(ダメージ)を負った。その責任は取って(もら)うぞ」

 

 お前の血でな、と化け物となった紅玉(こうぎょく)が告げたあと、わしの首筋に凄まじい違和感と痛みが走った。

 

 直後、わしの脳裏には過去の記憶が鮮明に(めぐ)り始める。

 

 近所のガキどもを金に物を言わせてこき使っていた幼少のこと。

 

 気に入った町娘たちを強引に(はら)ませ、金で口を封じて楽しんでいた10代のこと。

 

 真面目そうな男を悪い仲間たちを使って賭博(ギャンブル)のカモにし、その男の借金を肩代わりすると嘘をついて女房や娘を手籠(てご)めにしていた20代から30代のこと。

 

 そしてついに長年の計画が報われて、大商家として知られる孫家(そんけ)の当主となった40代のこと。

 

 このときのわしは知らなかった。

 

 それは人間が生命の危機に(おちい)ったとき、本能的にその危機を回避するための情報を探すための、走馬灯(そうまとう)と呼ばれる現象だったことに――。

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