その彼岸花、劇毒につき注意されたし。   作:ビターエンドは美しくあるべきだと思う

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ある程度の道筋は立てて書き出しましたが、ほとんどミキリハッシャーで御座います。続く、かも


異動に納得ができないので上司を煽ってみる。

  あぁ、死ぬな。

 

ザアザアと体に叩きつける雨粒の感覚が消え始めた。滴る雨粒が体温を奪い取り、少しずつ体が冷たくなる。

 

そのくせやけにズクズク痛む胸元に目をやれば、服の下から真っ赤な鮮血がとめどなく溢れ出している。傷口を抑えようにも最早指一本動かす気力もないし、そんな気も起きなかった。

 

せっかく逃げられたが……短い自由だったな。

先に逝った仲間の顔がよぎり、少しだけ申し訳なく思う。

 

しかし、死ねるのか。

そう思うと、不思議と口角が上った。

皆、死ぬよりも前に壊れていった。ネジの外れた人形のように、限界の限界まで使い潰されてぷつりときれる。それを間近で見てきて、自分もいつかこうなるのだろうと漠然と思っていた。

 

自慢してやらなくては。俺は、死ねたのだと。

唯一無二の自分の死を、地獄の底で鼻高らかに語ってやろう。

最も、自分が地獄に行けるのかすら怪しいが。

 

ズルリ、となにかが擦れる音。もたれていたはずの壁の感覚が背中から消える。

びちゃ、という冷たい音と、口の中に広がる土臭さ。数秒かけて、ようやく自分が倒れたことを認識する。どうやらもう時間がないらしい。

 

 やることは、やった。心残りは、ない。

 

 

 「なに、してるんですか。」

 

……いや、一つだけあった。

 

ふと気づけば目の前に一人の少女が立っている。青い制服を着て、雨よけに傘をさし、呆然と自分を見下ろしている。

 

そうだった。今日は、その日だった。

 

 「……どうして。」

 

ごめんよ少女。約束のこと、すっかり忘れてた。

 

 「ふざけないでください!」

 

そんなに怒らなくても。あと、もう手遅れだから。止血しても、無駄だと思う。濡れるぞ?あと、血もつく。

 

 「うるさい!」

 

いいじゃん。殺すつもりだったんだろ?

 

 「私が!」

 

少女の絶叫が耳に突き刺さる。さしていた傘が、地面に転がっている。

あぁ、せっかくのきれいな髪が雨に濡れている。ポタポタと垂れる水滴が、やけに暖かい。

あれ、今顔から垂れたのって、雨粒じゃない?

 

 「私が殺さなきゃ意味がないんです。私でないと、死んじゃだめなんですっ!」

 

随分と懐かれたものだ。うら若き少女にここまで言わしめるとは、自分は結構罪な男なのかもしれない。

そんなくだらないことを考えて、つい口角が上がる。また一つ、仲間たちに自慢できることが増えた。

 

 ああ、そうだ。どうせならこれ、持っていってほしい。

 

腰に挿した愛刀をどうにかこうにか引き抜き、少女に手渡す。

人形だった俺の、たったひとつの宝だ。無くすなよ。

 

 「ふざけないでください!」

 

ふざけてなんかない。真面目も真面目。大真面目だ。それに、どのみちこれは託そうと思っていた。どうせ長くない命だったし、それなら少女に持っていてもらいたい。

 

俺ちゃん流剣術免許皆伝の証だ。自慢になるが、俺は結構強いからな。俺とやり会えるやつなんて、そうはいないぞ。自分の知る中では少女。君くらいだ。

 

それに、大丈夫。俺はもう君に殺されてるよ。とっくの昔に射止められてたから。

 

 「ば、かぁ……!」

 

少女の手が、愛刀の柄を握りしめる。そうだ。それでいい。どうせなら、最後は君の手で。

あ、刀身に血が残ってる。払いきれなかったかな。後でよく拭いといてね。すぐ錆びるから。

銃も似合うけど、刀も似合うなぁ。相棒よ。これから頑張ってその少女に仕えるんだぞ。

 

 「さよ、なら。」

 

そうそう。少し腰を落として、足は開きすぎると力が入らないから……よし完璧。

 

 

 ーーそれじゃあ、さよなら。

 

 ドスッ!

 

少女の放った渾身の突きが、まだ微かに鼓動を刻んでいた心臓を貫く。何か重たい枷から抜け出したような開放感とともに、意識が闇に沒んでいく。

 

あぁ、そういえば、笑った顔見たことなかったなぁ……。

 

掠れていく視界に捉えた少女の顔は……ふふっ。そうかい。なら、よろしく。

 

 

◇◇◇

 

 

 「こいつがどうなってもいいのか!」

 

単純にうるさい。そんなに大声を出さなくても、安いビルの壁一枚くらい音は通り抜ける。というか、ああいうThe、三流みたいなセリフを聞く日が来ようとは思わなかった。

 

 「エリカ……!」

 

すぐ隣には同僚の焦った顔。何度もインカムに向けて指示を仰いでいるが、先程通信が途切れてからというもの一向につながる気配がない。

 

これは、サーバーが攻撃を受けていると見て間違いないだろう。ただの不具合にしては、流石に復旧時間が長すぎる。

どうやら今回のターゲット(武器商人)には、凄腕の後ろ盾がいるらしい。

 

 

 しかしどうしたものだろうか。武器商人は完全に錯乱状態だし、捕まった同僚も半ばパニックぎみ。いつ自体が悪化してもおかしくない。

 

 ……仕方ないか。

 

考えたところで新しい案が浮かぶわけでもない。どうせ誰かがか突入する(強行突破)か、武器商人が落としていった機関銃をぶっ放す(皆殺し)くらいしかないのだ。

 

流石に後者は囚われの身の同僚にも危険が及ぶ。なら選ぶは、前者しかない。

 

 久しぶりだけど、キレるかな。

 

 「フキ。」

 「なんだ、たきな!」

 

動こうにも動けず、歯噛みする同僚。そこへ、私が行きますといえば、ハッと目を見開き、しかし既のところで踏みとどまった。

その様子を見て、私の頬は思わず緩む。やはり彼女は、仲間思いで、優しい。私の身にあまりにも危険が及ぶと、そう思って行け(逝け)と言えないのだろう。

 

 それは、とても嬉しいことだ。でも……

 

 「さっさとしろぉ!!」

 

敵は待ってくれない。同僚の苦しげな声が、一層苦しそうに聞こえる。

 

時間が、ないんです。

 

 「フキ。私が行くのが一番確実で、合理的です。」

 「でも、命令がー「フキ。」ッ!」

 

じ、とその瞳を見つめると、彼女は少し耳を赤くして狼狽える。何かを恥じているようにも見えるが、そんなことはどうでもいい。

貴方は頑張ってくれました。指令も聞こえず、本部にも繋がらず誰もがうろたえる中、貴方だけは私達を導いてくれた。だから、次は私が貴方を助ける番です。

 

それに貴方なら、私のことはよく知っているはずでしょう。

 

 「行かせてください。」

 「………、わかった。」

 

そんな顔をしないで。大丈夫。あのおバカさんのように、誰かを置いては逝き(死に)ませんから。

 

 さあ、始めましょう。

白いシャツの上に羽織っていた、少し改造を加えた青い制服。そこから隠し持っていた愛刀を手に取り、小口を切る。

錆なし。ガタツキもゼロ。ようやく出番が来たかと刀身が歓喜するかのように白く輝く。

 

ええそうです。存分に暴れてください。私の剣として。

 

 「行きます。」

 

髪を適当に後ろで縛り、刀の柄に手を添える。

さあ、踊ってくださいな。

 

 

◇◇◇

 

 

 「あと3つ数える間に姿を表せ!」

 

男はそう喚き散らし、腕に抱えた少女に銃口を突きつける。直ぐ側に迫る死の恐怖に、苦しげな表情には恐怖が滲む。

彼らは商人だ。生憎と戦うことには慣れていない。今までも用心棒を雇ったり、相手方に守ってもらったり。とにかく自分たちで戦ったことはないにひとしい。

 

だからこそ、彼らがリコリス(国家機密のエージェント)から自力で人質を取ることに成功したのは、ある意味大金星と言っていいのかもしれない。

 

最も、それもうまく活用できなければ意味は(たかだかそれだけで勝利の女神は微笑ま)ないが。

 

 バリンッ!

 

突然部屋の窓ガラスが割れる。

すわ、敵か。商人たちの意識が一気にそちらへと向く。

 

 「駄目ですね。人質から意識を離しては。」

 

しかし、そこには誰もおらず、

 

 「だから、こうなる。」

 

その声に商人たちが振り向けば、人質だった少女はぺたりと床にへたり込み、彼女を抱えていた男は、虚ろな瞳で呆然と立ち尽くしていた。

一つ、異様な点を上げるとすれば、男の首から白銀に輝く刃が一本が突き出していること。

 

 「ゥ……エ……?」

 

ブシャァ。

 

男のうめき声とともに、思い出したかのように吹き出す赤い雨。刃が引き抜かれるとともにその体は前方へと吹き飛ばされる。地面に横たわった男は、もう動くことはない。

 

 「う、わぁぁああああ!!!」

 「黙れ。」

 

 その後ろから姿を現した青い制服の少女。男たちをギロリと一瞥し、血糊がこびりついた刀を振るってそれを落とす。

 

残った商人たちは半狂乱で銃を乱射してくるが、そんな見え透いた射撃、腰の抜けた同僚を抱えながらでも、噂のファーストリコリスでなくとも避けられる。

 

 「最後の警告だ。武器を捨て投降せよ。」

 

形式に乗っ取り一応そう呼びかけては見るが、どうにも聞こえていないようだ。また、銃口が火を吹いた。

 

……警告は、した。男たちを危険因子と判断し、殲滅する。

 

 「死になさい。」

 

どうせここで捕まれば、尋問の末に情報を吐かされるだけ吐かされ、最後はポイと捨てられる。ならここであっさりと死ねることをありがたく思ってほしい。

 

 刃を振りながら、ふと思う。

 

彼らにも、待っている人がいるのだろうか。

彼らにも、愛する人がいるのだろうか。

彼らにも、守りたいものがあるのだろうか。

 

 「もう、後の祭りですけど。」

 

ずしゃり。

男の胸に突き刺さった刃を引き抜き、少女は少し淋しげに笑った。

 

 

◇◇◇

 

 

次の日ーー

 

私の目の前に仁王立ちするマッシュルームカットの女性、楠木(くすのき)司令官。彼女はあいも変わらずムスッとした……いや、とても厳格な面持ちで口を開いた。

 

 「井ノ上。なぜ呼ばれたかはわかるな?」

 「ええ。先日の商人についてですよね。」

 

わかりきったことをわざわざ聞かないでほしい。問題児だと面と向かって言われるような私とてバカではないのだ。

昨日の今日で司令部(上司)に呼び出されるなんて、それくらいしかないだろう。

 

あ、そんなに眉間にしわ寄せると顔が老けますよ。最近そういうのが気になり始めて、化粧品変えたのみんな知ってますからね。

 

 「口が減らないな……!」

 「ええ、まあ。ところで、弁明とかってしたほうがいいんたでしょうか?レポートなら提出しましたし、今更なにか言い訳をするつもりもないですけど。」

 

というか、そもそもあんな事態に陥った原因はサーバー、というより大元のAIが落とされた(ハッキングされた)せいだろうに。

 

作戦に支障をきたした事には謝罪もなく、こうも批判的な目で見られていい気分になれるわけもない。

 

 「何故殺した?」

 「理由も書きましたよね。あ、ふりがなも必要でした?」

 

だから、少し嫌味を言ってしまうのも許してほしい。

 

 「良いから言え!」

 

言質が取りたいならはじめからそういえばいいのに。あと、そんなに怒鳴ると余計怖く見えますよ。

 

 あのときの武器商人たちは半ば錯乱状態。それも全員が全員もれなく銃を持った状態で、だ。

その上人質だった同僚は完全に腰が抜けていたし、あの場で一人でも男を逃がそうものならどうなっていたかわからない。

 

気が狂った人間ほど、恐ろしいものはないと思う。

 

フキたちも控えていたとはいえ、あの状況下ではあまりにも不安要素が多すぎた。

 

確実に、迅速に男たちを一人残らず無力化するには、……殺すのが一番確実で、手っ取り早い。

 

ーーと、丁寧にレポートに書いたことをそのまま復唱して差し上げる。一応命令に従ったことで溜飲が降りたのか司令は少し落ち着いたようだ。

 

しかしこれでは私だけが悪いみたいで癪だ、少し反撃させてもらうことにする。

 

 「DA(本部)は手がかり一つ見つけられてないんですか?。」

 「あぁ。おかげで銃は行方不明だ。」

 「そもそも間違った時間を掴んだのはのはそっちでしょうに。」

 

それとも、私が殺した誰かなら情報を持っていたはずだとでも?随分と楽天的な考えだ。まったく。自分たちのミスを棚に上げるのはやめてほしい。

ほら、そんな歯ぎしりすると歯が削れますよ。はいリラックスリラックス。

 

まぁ、なんでこんなことをしているのかはだいたい予想がつく。今回の命令違反の責任を取らされ、地方にでも飛ばされる、といったところか。

 

大方ラジアータ(大本のAI)が攻撃を受け、その上ダウンしたという情報を闇に葬り去りたいのだろう。捕縛命令を無視した自分は、責任を擦り付けるには格好の的というわけだ。

 

政府(お上)リリベル(お目付け役)、はたまた八咫烏(なんかやべー奴ら)なんかが出てきた暁にはDAそのものが潰れかねない。やはりというか、組織というのは面倒くさいものだとつくづく思う。

 

そういう(しがらみ)から多少なりとも抜け出せる。そう思うと、思わず顔には滅茶苦茶にいい笑顔が浮かんだ。

 

 「で、責任を押し付けられた哀れな私めの左遷先はどこです?」

 「チィッ……!ここだ。住所も書いてある。荷物をまとめてさっさと出ていけ。」

 

どれ、と渡された(投げつけられた)書類に目を通すと、『リコリコ支部』なる文字が見える。

この文字列、どこかで見たことあるような……。確か、食べモグ(SNS)で似たようなものを見た気がする。

 

あー、お腹空いてきたな。

 

 「あの、司令。」

 「なんだ?拒否権はないぞ。」

 「出発は朝ごはん食べてからでいいですか。」

 

司令の言葉に、私は少し食い気味にそう言う。

朝イチで呼び出され、眠いわ腹は減ったわ上司は鬱陶しいわの三拍子。こんな状況下に置かれたらば、誰でもこうなるだろう。

 

司令は額に青筋を浮かべ、もう我慢ならんとばかりに叫んだ。

 

 「つべこべ言うな!」

 

結局、私は即座に本部を追い出され、朝ごはんは駅弁になった。現実は非情である。

 

腹いせに司令官が隠し持っていた秘蔵のかりんとうを『ごちそうさまでしちゃ(⁠・⁠∀⁠・⁠)』の手紙付きでくすねてきてやった。スマホに大量の通知が入ったが全て無視。

 

二重の意味で、非常に美味である。

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