その彼岸花、劇毒につき注意されたし。   作:ビターエンドは美しくあるべきだと思う

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まったり行きます



井ノ上たきなという女

 

 井ノ上たきな、16歳。

彼女は政府直属の治安維持組織「Directattack」、通称「DA」が管轄するエージェント「リコリス」の一人である。

 

発足や発展の歴史を語るとそれはもう長〜〜い話になるので割愛させてもらうが、日本が世界一治安の良い国だと言われているのが彼女たちの働きによるものだと理解してもらえればそれで良い。

 

 話を戻して。

彼女はリコリスに存在するサード、セカンド、ファーストの3つの地位のうちセカンドに属しており、

 

……リコリス屈指の問題児としてその名は広く知られている。

 

 

 はじめのうちは全くそんなふうには見えなかった。誰にでも丁寧に敬語で喋るし、言ったことはそつなくこなす。戦闘力も同年代、いや現存しているリコリスの中でもトップクラスであり、いい人材がやってきてくれたものだと楠木もご満悦だった。

 

そう。はじめのうちは。

 

その評価は、彼女を参加させて行われた最初の大型作戦ですぐさま崩落した。

 

 『このあと見たい映画があるので。』

 

そう言って彼女は、テロリスト(その時のターゲット)の本拠地に単身突っ込んでいったらしい。その頃、転属組のエリートである彼女が気に入らない者も一定数おり、さらなる手柄を急いだ(調子に乗った)馬鹿な奴だと誰も引き留めようとしなかったとか。

 

しかし、それは間違いだったと当時のメンバーは口を揃えて言う。

 

たきなの奇行(単身突入)から20分ほど立ち、「少しは戦力が減ったかしら」と意気揚々と突入した他のメンバー。しかし彼女たちは、そこに広がっていた地獄絵図にあんぐりと口を開け、呆然と立ち尽くす他なかった。

 

まず猿轡を噛まされ、ワイヤーで雁字搦めに拘束されたパンツ一丁のテロリストたちがそこかしこに転がされている。さらには彼らが所有していた武器類は見るも無惨に破壊し尽くされており、衣服類はビリッびりに破られてそこらへんに散らばっていた。

 

誰がコレをやったのか。議論するまでもなく犯人は一人しかいない。しかし探せど探せど犯人(たきな)の姿は見当たらなかった。

 

どこに行ったのかと全員揃って首を傾げ、本部に帰ってきてみれば、

 

 『あ、お疲れさまです皆さん。』

 

当の本人はむしゃむしゃと自室でポップコーンを貪っていた。どうやって帰ってきたのかと聞けば、

 

 『自転車をレンタルしました。』

 

頭おかしいんかなこいつ。

つまりは20分足らずでテロリストたちを壊滅させ、その後1、2時間はかかるであろう映画を鑑賞し、新幹線の駅一つ分はあるであろう道のりを自転車を漕いで帰還した。それも、自分たちがバスで帰ってくるよりもよっぽど早く。

 

うん。意味がわからない。

 

それはすぐさま楠木の耳にも入り、彼女は頭を抱えた。また問題児かよ、と。

 

 その後もたきなの暴走(楠木の頭痛)は収まることを知らなかった。

 

チームを組ませても目を離したスキにふらっといなくなり、戻ってきたと思ったらターゲット(捕縛対象)をお土産のように引っさげていた。なんてことは日常茶飯事。

 

何故か春川フキ(同僚)が立てた作戦にだけはやけに従うが、その他は酷いスタンドプレー(命令なんぞ知ったことか)が目立つ。

 

しかし、だからといって単独で任務に向かわせるとそれこそ手がつけられない状態になり、

 

 『そんなに悪い人じゃないですよ。この人。』

 

とかなんとか言って血塗れで討伐対象(危険人物)と肩を組んで帰ってきたこともある。楠木の秘書は卒倒した。彼女たちいわく、『殺し合って認めあったらダチだ』とのこと。

 

勿論そんな奇行を繰り返していれば、上層部や更にその上(政府)からは危険視されるようになるわけで。

 

 突然話は変わるが、リコリスに所属しているのは皆女性だ。理由はまぁ、男より女のほうが警戒されないだろうとか色々あるのだが、一旦それはおいておく。

 

では男性のみの組織も存在しているのか、と聞かれれば答えはYES。名をリリベルと言い、使い物にならなかったり、危険だと判断したリコリス(たきなみたいなやつ)を始末することを生業としている組織だ。

 

 そのリリベルが、ついにたきなに差し向けられた。

 

しかし彼女は、大人しく殺されるようなことはしなかった。彼らはやってくる側からもれなく全員叩きのめされ、パンツ一丁の昆布巻状態にされた上で『僕達は年下の女の子を集団リンチしようとした負け犬変態クソ野郎です』と書かれた札を首にかけて次の日の朝に交番の前に放置されていた。

 

ときに昆布巻が亀甲縛りになっていたり、ネチネチと一晩中、こう……心が折れそうな嫌味を聞かされ続けたり。酷いときは一週間ほど行方不明になった後、よたよたと本部に戻ってきて自室でガクガクと震えだすメンバーまで出始めた。

 

かくしてリリベルたちの痴態をさらけまくった結果、たきなに仕向けられた主力達の心がそれはまあ見事に難波ロッド(真っ二つ)。たきなを標的にしたばっかりに、可哀想なことだ。

 

遂にはリリベル(殺そうとしていた)側から

 

 『あいつ(たきな)をなんとかしてくれ!』

 

と懇願されたことがあった。その時楠木は珍しくニッコリしていたとかなんとか。

 

それから話し合いが行われ、結果たきなについては現状維持で、被害者を増やさぬためにもノータッチで行こう。という結論に至った。

 

 さて、そんな超絶ウルトラ問題児たきなが今の今までDA本部にいることができたのはなぜか。左遷されるならとっくの昔にされていそうなものだが、現に彼女は今朝までDAの所属であった。

 

その理由は主に一つ。彼女が優秀だからである。

 

先述した通り身体能力や戦闘力はリコリスでもトップクラス。命令は聞かないものの任務はきっちり遂行してくるし、機転の良さやイレギュラー対応にも目をみはる。要するに強いのである。

 

困ったらとりあえず彼女を向かわせれば何とかなる。それがDAの新常識みたいになっていたのだ。

 

故に上層部も彼女の扱いにはほとほと困り果てており、『地方に飛ばしたいけど(頭痛と胃痛から開放されたいけど)……』と言いながらはや数年。今回の件(武器商人殺害)でようやく踏ん切りが付き、リコリコ支部へと移動させることにしたのだ。

 

さて、そんな渦中の彼女は今何をしているかというと……、

 

 「ん〜。おいしいですね。これ。」

 

異動先(喫茶店)で、優雅にコーヒーを啜っていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 甘めの抹茶団子と、芳醇な香りのコーヒーの組み合わせ。これがなんとも絶妙にマッチする。

なんで今までこの組み合わせを考えつかなかったのか、不思議なくらいに完成された香りのコンチェルト(合奏協奏曲)

 

 「店長。これはあなたがご自分で?」

 「ああ。気に入ってもらえたか?」

 「それはもう。」

 

コレに文句をつけるような不埒な輩がいるならば、即座に蜂の巣にしてやりましょうとも。それくらいには、美味しい。

コレをいつでも食べられると考えれば、むしろDAから追い出されて正解だったのでは?とすら思う。

 

 「そうかそうか。」

 

ええそうですとも。私はくだらない嘘はつきませんので。SNSで、時折密かに話題に上がる噂の団子セット。後で私も書き込んでおこう。噂に偽りなしと。あと褒めてあげると店長が喜んで可愛いと。

 

厳つい黒人の男性がニコニコと笑う姿はなかなかにキュート。これがサブカルチャー界隈における『ギャップ萌え』というやつでしょうか。

 

カップを回して香りを立たせ、もう一度香ばしい空気を鼻孔に吸い込む。あぁ、幸せだ。

 

 ……おや。隣から視線。

 

 「あんた、こんなとこで何してんのよ。」

 「ふぅ……。なに、とは?」

 

あら目つきが悪い。これが飢えた獣の(まなこ)というやつか。さきほど読んでいた結婚情報雑誌からするに、出会いを求める猛獣といったところか。

 

しかし、なに、とはどういう意味だろう?

 

 「いや、あんた学生でしょ?こんな時間に何してんのよって。」

 「学校、か。いいですね。憧れます。」

 「え……?」

 「私には遠い世界の話です。」

 

リコリス(殺し屋集団)に属している以上、私達は学校などとは無縁だ。一般教養はもちろんあるが、それ以上のものはない。

任務中にもときおり見かけるリコリス以外の制服を見て、そういう場に憧れることもある。

 

 「ッ……ミズキ。」

 「あ、ご、ゴメンナサイ」

 「お気になさらず。今の生活もそれなりに充実していますので。」

 

まぁ、今この瞬間が実に幸福なので、そういう辛気臭い顔はやめてほしいのだが。

 

というか、この制服が世を忍ぶ仮の姿だということくらい、DAの関係者なら誰でも知っていそうな気がするのだけれど。

 

あれ……もしかしてこの二人、私がリコリスだと気がついてない?さっきからなんだか妙に他人行儀だとは思っていたが、本当のお客さんだと思っているのだろうか?

 

確かに制服に改造は施した。しかし気が付かれもしないとは。

DAだとこれが『井ノ上たきなのトレードマーク』として浸透していて気にしていなかったが、こうなると少し考え直したほうがいいかもしれない。

 

 「先生たいへーん!SNS(食べモグ)でリコリコの看板娘が可愛いって!これ、私のことだよね!」

 「私のことだよ!」

 「寝言は寝て言え酔っぱらい。」

 

しかしこれ以上機能を削減するとなると、それなりに吟味する必要がある。今すぐには無理だろう。

 

 「お?あの子誰?」

 「さあ?今日初めてのお客だけど。」

 

ふむ。それはそうとこのままではコーヒーが冷める。さっさと飲みきって、考えるのはあとにしましょうか。

 

 「ねえ、あの制服さあ……、」

 「え?……あ、ほんとだ。改造とかしていいわけ?」

 「まぁ、禁止はされてないケド……。」

 

ふぅ……。最後の一口まで非常に美味。少し名残惜しい気もするが、美味しいものは美味しいうちに食べてしまうに限る。もったいぶって一番美味しい時期を逃してしまえば本末転倒。食材にも料理人にも申し訳が立たないというものだ。

 

 「ねね、ちょっといい?」

 「はい?」

 

 聞こえた声に振り向くと、そこには澄んだ真っ赤な瞳が私のことを覗いていた。

 

 「君って、リコリスだよね?」

 「あぁ、自己紹介がまだでしたね。」

 

危ない危ない。色々あってすっかり頭から抜けていた。よっこいせ。

 

 「銃千丁が行方不明になった件について責任を取らされ、こちらへ異動になりました。井ノ上たきなです。これからよろしくおねがいします。」

 

多少のジョークを交えた自己紹介。お辞儀をしたせいで3人の顔は見えないが、つかみとしては悪くないはずだと思う。

 

 「「「………」」」

 

……いや、多分白けている。自己紹介とはやはり難しい。DAに来たときもおなじような反応だった気がする。フキにも言われたが、私のジョークセンスは壊滅的らしい。うぅむ。

 

 「え、えと、よろしくね!」

 「はい。よろしくおねがいします。」

 

よし。こういうときは切り替えが大切だ。偉い人もそう言っていた。

 

 「え、じゃああんたがDAクビになったってリコリス?」

 

あながち間違いではないが、例えがいささかどストレートすぎる気がするのだが。彼女は多分、性格の鋭さ故に男が寄り付いてこないタイプだろうと思う。

 

 「まあ、追い出されてきたので間違いではないです。」

 「ふん。あんなとこクビになってせーかいよ。」

 

これは、嫌悪感?のようだ。ここまで真っ向からDAを否定してくる人間は珍しい。

さっきから少し気になっていたが、彼女もリコリスなのだろうか?

 

 「それはリコリスではない。」

 「それって言うな!」

 

……今のやり取りで彼女の立ち位置がわかった気がする。いわゆるいじられキャラというやつだろうか。

 

ーー私もいじってみたいです。

 

 「ならコレは、一体何なんですか?」

 「コレ?!」

 

うん。素晴らしい反応です。私の目利きは間違いではなかった。

 

 「いや間違いだよ!」

 「しれっと心を読まないでください。」

 「顔に書いてあるわよ!」

 「はて、私の顔には文字など書いてありませんが。」

 「何なのこの子……?」

 

やはり素晴らしい。DAではどれほど探しても見つからないユーモアの塊のような人だ。また遊んでもらおうっと(遊び道具見つけたわ)

 

 「クッ……。」

 「うひひ……!」

 「笑うなっ!」

 「すまんすまん。それは中原(なかはら)ミズキ。元DA職員で、所属は……どこだった?」

 「情報部よ。」

 

元、ということはつまり、今は協力者のような扱いだろうか。働き盛りの20代にしか見えないが、仕事を辞めていることと言い、先程の嫌悪感丸出しの感情といい、よほどDAにはよろしくない感情を抱いているらしい。

 

 「嫌気が差したのよ。孤児を集めてあんたらみたいな殺し屋を造ってるキモい組織に。」

 

なるほど。

その考えはわからなくもない。孤児の女の子たちをかき集め、組織に忠実に育つよう教育し、最終的には殺し屋に育て上げる。

文面だけ見たらただの変態ではないか。日本ってって業が深い国だなぁ。

 

 ……おっと、もの思いにふけっている場合ではなかった。自己紹介の途中だ。

 

 「私はミカ。ここの(リコリコ支部)の責任者だ。」

 

司令から話は聞いている。10年ほど前にとあるファーストリコリスと共にDAを去り、ここを設立したと。

 

腕の立つ男だったのに、と楠木が嘆いていたのは知っていたが、そう言いたくなる気持ちもわかる。彼、相当に強い。温和な気配の中に、時折鋭利な刃が見える。

 

上には上がいる、ということですか。

 

どうやら足を負傷しているようだが、それでも彼に勝てるビジョンが浮かばない。……面白い。こうでなくては。

 

 「よろしくおねがいします。」

 「あぁ。よろしく。」

 

ふふっ。楽しみが増えました。

 

 

 さて、最後は……

 

 「はいはーい!次私ね!「錦木 千束(にしきぎちさと)さんですよね?」にし……およ?知ってんの。」

 「ええ。旧電波塔事件の話は地方にも轟いてますよ。」

 

彼女が、現存リコリスのなかで最強と謳われる少女。十年前に旧電波塔で起きたテロ事件をたった一人で制圧し、解決に導いた半ば伝説的な存在。

リコリスならば、知らないほうがおかしい。もっとも……

 

 「20代くらいかと思ってました。」

 「え、私そんなにお姉さんに見える〜?」

 「天真爛漫で若々しく(子供っぽく)見えますよ。」

 「ん?なんか違う言葉が聞こえたような。」

 

見た感じ同い年くらいだろうか?……17歳?電波塔が折れたのは10年前だから、え、まだ一桁のときに単身テロリストたちに向かっていったと。なるほど。英雄と呼ばれる理由もわかる。

 

 「たきなは?」

 「16です。」

 「ほうほう、私のほうが一つお姉ちゃんかぁ!でもさん付けはいらないからね!千束でおっけー!」

 「はい。千束さん。」

 「うぉい!!」

 

ふむ。話には聞いていたが、たしかに彼女は問題児(私と同類)だ。消しきれない硝煙の匂いはするが、リコリスの誰しもが持っている血に濡れた殺しの気配がしない。

 

 「面白いですね。あなた。」

 「ふぇ?」

 

最強と言われるくらいなのだから、もっと冷酷で、組織に従順な人だと思っていた。それが、どうだ。彼女を目の前にして、最初に抱いた感情は『美しい』。

 

血を浴びて、哀しさに笑う。そんな暗く淀んだ美しさは幾度となく見てきた。しかし彼女の曇りないその瞳には、そんなものは感じられない。

 

ただ純粋に、澄んだその美しさに、私は惹かれてしまった。

 





天上天下唯我独尊。そんなたきなさん時空があってもいいじゃないか
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