その彼岸花、劇毒につき注意されたし。 作:ビターエンドは美しくあるべきだと思う
ゆるゆると進みます。
感想、感謝です。
「千束さん。一つお伺いしたいことがあるんですが。」
「ん?なに?」
早速仕事だ、とリコリコから連れ出されてはや数時間。小休止にと公園のベンチに腰掛た私達。そろそろ胸の中に湧いた疑問を解消したいと思う。
「結局ここは何をする場所なんです?ボランティア、というわけでは無さそうですが。」
仕事らしい仕事といえば、店長が引いたコーヒー豆を
私がリコリスである、という固定概念のせいかもしれないが、どうにも仕事の全貌が見えてこない。や、別に嫌というわけではないのだ。感謝されれば気分がいいし、隣に座っている千束さんの笑顔も眩しい。ただ、いい加減に
流石に目的もわからないままに先輩の後をつけるだけというのは仕事とは言えないだろう。
「あれ?
さっさと自分の着替えを終わらせて、概要を聞く暇もなく連れ出したのあなたでしょうが。
「そ、そうだったっけ?」
「そうですよ。」
別に責めているわけではない。しかし少しばかり猪突猛進過ぎでは?とは思う。あ、人のこと言えないか。
「うーん、でもなぁ……。改めて何をするかって言われると考えちゃうな。」
「ヤクザに保育園に英会話教室。共通点が見えません。」
例に上げたこの3つ。活動内容から年齢層、全てがバラバラだ。敷いて言えば、ヤクザの組長を始めリコリコの常連という人間がちらほらいたくらいか。
まぁ、店長のコーヒのことで盛り上がれたのは楽しかったですけど。
「うーん、一言で言うなら……」
言うなら?
「困ってる人を助ける仕事、かな?」
「ほう。」
お国のため、平和のためとかではなく、単純に個人のためのリコリス、というわけか。なるほど。それなら今日の仕事の内容にも納得がいく。つまるところ最初から共通点などなかったわけだ。
ヤクザの組長にコーヒー豆を届け、保育園で子供の相手をし、英会話教室では講師を努めた。ただそれだけ。なにか目的があっての行動ではなく、それこそがここの仕事なのだ。
「なんだか新鮮ですね。」
つい昨日まで、殺し殺されの殺伐な世界を生きてきた身の上だ。誰かの役に立つために街を駆け回るというのには、どうにも違和感はある。しかし、悪くはない。
「でも、いいんですか?一応リコリスって、国家機密組織ですけど。」
「おぉ〜。なんかそう言うと映画みたいでかっこいいじゃん。」
でもねー。そうやって彼女は皮肉げに笑う。
「凶悪犯を処刑する殺し屋、って言われたりもする。」
「ま、私達がいなかったら今頃日本の治安終わってますし。」
現状、日本の治安はかなり悪い。
それに、
「あんなことだって起きるわけですしねぇ。」
「もう10年も前かぁ……。」
視線の先には、中程から真っ二つに折れた旧電波塔。10年前のテロでかろうじて倒壊せずに残ったそれは、今や「平和の象徴」などと呼ばれている。
つくづくおかしな話だと思う。爆破され、真っ二つに折れ、その余波でいくつもの
平和?今このときだって、どこかでリコリス達が血みどろの争いを繰り広げている。都合の悪い現実に蓋をして、仮初の平穏を守るために。
ぼうっ、と公園の景色を眺める。子どもたちがブランコを漕ぎ、滑り台を滑り、地べたを走り回り、それを少し離れた場所で親が見守る。
そんな中、ベンチでジュースを啜る
「何なんでしょうねぇ。私達って。」
「何なんだろうねぇ……。」
……うーむ。妙にしんみりしてしまった。どういう顔をしていればいいかわからないし、あんまりこういう空気は好きではないんだけども。
「さ、次行きましょ次。」
「お、やる気出てきた?」
「帰ったら店長のコーヒーが待ってますから。」
「いいね。私のとも飲み比べてみてよ。」
ほほう。私の舌を唸らせることができますか?私、正直者なので裁定は厳し目ですよ。
「望むところ!」
「ふふ。楽しみにしてます。」
さて。楽しみが増えたところで、次は警察署だ。
「……そういえばさ。さっき英会話教室で喋ってたのって何語?」
「グロンギ語です。」
「グロ……なに?」
◇◇◇
「この子は新人の井ノ上たきなさん。」
「よろしくおねがいします。」
「はは。またリコリコに行く楽しみが増えちゃったなぁ!」
警察署に着くと、中年の男性が私達を迎えてくれた。名前は安倍さん。リコリコの常連客で、刑事さんだそう。
「褒めても何も出ませんよ。」
「若い子ととお話できるだけでも十分さ」
「セクハラですか?訴えますよ。」
「おぉう辛辣!」
冗談です。そう言うと彼は、こりゃやられた、と目元を押さえてカラカラと笑う。
うん。こういう人たちを見ていると、リコリスとしての活動も無駄じゃないんだな、と思える。
「お店でお待ちしてます。」
「あいよろしく。」
握手を求めて手を差し出せば、安倍さんはニッコリ笑って握り返してくれた。
さすがは警察官。ガッチリしていて頼もしい。
「さてと。早速なんだけど、ちょっといい?」
安倍さんはちょいちょい、と手招きして私達をフロアの隅に誘導してくる。早速、仕事のようだ。
彼に従ってついていくと、懐から一枚、女性の顔写真を取り出して見せてくる。
「この方は?」
娘さんですか?と聞けば「結婚もしてないですよーだ」と少ししょぼくれた様子。おっと、失言でした。
「切れ味鋭いねたきなちゃん。」
「手入れは欠かしていません。」
「ざっくりやられたよ。」
もう切らないでね?と念を押されたところで、安部さんは写真の女性について、話を聞かせてくれた。
「彼女は
『ストーカー被害に合っている。』
そう言って、先日警察に相談に来たらしい。しかしこれといった実害も発生しておらず、警察としては動こうにも動けない。安部さんも心配ではあるそうなのだが、管轄外の事件ゆえに手が出せずにいるそうだ。
「警察も難儀な組織ですね。」
「ははぁ。面目ない。」
話を聞き終えたところで、つい本音がこぼれてしまった。
いや、本当に面倒くさい。証拠がなければ動けない警察と、怪しいと見れば即刻出動できるリコリス。そりゃあ警察の出番もなくなるわけだ。
「女の子同士のほうが、話とかもしやすいでしょ?」
バイト代も弾むから。彼はそう言って、千束の手に一枚の封筒を…、結構入ってないか?あれ。警察として大丈夫なんだろうか。
「ただってわけにも行かないでしょ?」
ほほう。お主も悪よのう、越後屋
「いえいえ、お代官様ほどではなく。」
私達は互いに目を合わせたあと、ガシっと手を握り合う。
フッフッフ。同年代だとこのネタが通じる人が皆無ですからね。彼とはいい関係が築けそうだ。あと千束さん。そんな怪訝そうな顔しないでください。今度水戸黄門貸してあげますから。
千束さんはバイト代をもらえてホクホクした顔で。私は良き出会いに鼻歌を歌いながら安倍さんに見送られて警察署を出たのだった。
◇◇◇
「たきなって、なんで制服改造してるの?」
「ほんとにいきなりですね。」
いきなりなんだけど。そう切り出された直後の会話だ。
あれからすぐ
「とあるものを隠しておくためです。」
「とあるもの?」
コテンと首を傾げる彼女は実に可愛らしい。……って違う違う。
「コレです。」
「おお?どれどれ〜?」
私は背中を指差し、彼女がそこを覗き込んむ。周りがこちらを向いていないことを確認し、服のジョイントを外して愛刀を取り出した。
「おお!?すげぇ!!モノホン?」
「部類としては小太刀に当たります。私の相棒ですよ。」
で、何故服の中に隠しているかだが、簡単に言うと鞄に入り切らなかったからである。
「手提げとか、竹刀袋に入れて手で持っても良かったんですけど、そうなると
「必然的に服の中に隠すことになったと。」
その通り。
結果制服に刀を隠しておく機能を追加かせざるを得なくなったわけだ。収納するポケットをつけたり、マントの部分を大きくしたり。
最初は最低限に留めておくつもりだったのだが、なんだかんだやっているうちに興が乗ってきてしまい……。
「こうなったと。」
「変ですかね。」
「そんなことないよ〜!めっちゃ、可愛い!」
それを聞いて安心した。
DAだとそういうファッション的なことを相談できる相手がいないもので。少し気になってはいたのだ。
「一応原型は留めておいたつもりだったんですがね。」
「あはは。まぁ、私はわかったしダイジョブじゃない?」
なら、お言葉に甘えるとしよう。そうポンポン改造できるようなものでもないし、どうせなら大事に使っていきたい。
「たきなってそれで戦うの?」
「はい。ただし、本職は
「はえー。映画の主人公みたいじゃん。」
「お、千束さん。映画いける口ですか?」
そんな他愛もない会話をしていると、視線の端にふと人影が映る。依頼人の御到着だ。
「千束さん。」
「ん?……あ、おーい!沙保里さーん!」
◇◇◇
「この写真をSNSに投稿してからストーカー被害に会い始めた、と。」
「そうなの。」
軽く自己紹介を済ませ、沙保里さんは早速とスマホの写真を私達に見せてくれた。
そこに写っているのは、沙保里さんとガタイのいい一人の男性。何でも恋人関係にあるらしく、ミズキさんが聞いたらツバでも吐きそうな話だ。
「それからすぐに脅迫リプが来て、怖くなってすぐに消したんだけど……。それから私も彼も、ずっと変な人につけられてるの。」
ふむ。一般人が気が付く程度の尾行であれば、そこまで危険視する必要もないか?相手が誰なのかはわからないが、SNS関連の問題になると可能性があまりにも多すぎる。
まぁ、犯人が出張ってくれているなら話は早い。さくっと捕まえるか処すかして終わらせようか。
……うん?
「このビルって……。」
「あぁ。ガス爆発のビルね。窓ガラスも割れてけが人も出て大変だったって。だいたい3時間前くらいに撮ったっけな。」
へぇ。私が作ったあの惨状は、そういうふうに片付けられているのか。最も、あの一室で出たのは怪我人ではなく死人であるが。
となると……。
写真を拡大し、ビルの物陰あたりに目を凝らせば、そこには怪しげな男たちの姿がある。
「あぁ。なるほど。」
「マジかっ!」
千束さんが口元を抑える横で、つい口がニヤけるのを感じる。
今度DAに行く用事があったら、思いっきり嫌味を言ってやろう。
「え、なにかわかったの……?」
えぇ。よく死にませんでしたねあなた。なんてことを言えるわけもなく。とりあえず写真をスマホに転送してもらう傍ら千束さんと声を潜めて話し合う。
「やっぱり銃はあったんだ!」
「この人運がいいのか悪いのか……。」
インターネット上でこんな写真を見つけたとなれば、銃取引の犯人はどんな手を使ってでもこの写真をもみ消そうとするだろう。本当に恋人共によく生きていたなぁと思う。
「マジヤバなのに狙われてんじゃん!」
千束さんが天を仰ぐ。
この仕事、さくっとは終わらなさそうだ。
仕事も命もそう簡単には方が付きません