その彼岸花、劇毒につき注意されたし。   作:ビターエンドは美しくあるべきだと思う

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書けたのでどうぞ。



人は急に謝られると頭が真っ白になるらしい。私も初めて知りましたよ。

 「はー。よくもまあここまで。」

 「まあな。」

 

目の前のモニターに映し出された画像を見て、思わず声が漏れる。

 

それは以前、私がリコリコに転属するきっかけとなった銃取引。その現場を抑えた証拠写真だ。

たまたま一般の人が意図せずスマホで取った写真。もちろんピントはあっていないし、かろうじてなにか取引してるなー程度しかわからない。

顔は愚か、人数すらもそのままではよくわからない状態であったというのに。

 

 「さすが天才ハッカーコングナット。」

 「いつまで引っ張るつもりだそれ。あと、今はクルミだ。」

 

あぁ、いつからかあのいじりがいのある初々しい反応がなくなってしまった。随分大人になって……。

え、失礼なこと?考えてませんよやだなーもー。

 

うん?彼女がどうしてここにいるのかって?

遡ることおおよそ一ヶ月前、あの一件のあと。

 

 『ほとぼりが冷めるまでここに住むことになった。』

 

とのことで、ここリコリコのその押し入れの中に住んでいます。

大分メカメカしくなりましたねこの中も。

その代わりとして、今見たく家賃代わりに格安で仕事を受け持ってもらったりしてるわけです。

 

 さて、これを突きつけて司令のぐぬぬ顔でも拝みましょうか。

 

 「お前なぁ……。」

 

フッフッフ……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

入り口に『CLOSE』の札がかけられたリコリコ。

しかし窓から漏れる光はまだ消えることはなく、むしろ今日という日はこれからと言わんばかりに無数の声が漏れ出していた。

 

 「上がりぃ〜」

 「またぁ?!」

 「強いなぁ。たきなちゃん。」

 

リコリコ恒例、閉店後ボドゲ大会(命名千束)。

そこで無双するは他でもない。我らがたきなさんである。

 

 「ある人が言っていました。戦いとはへそでするものだ。と。」

 「おお。」

 「なんだか深いね。」

 「でも言うタイミングが絶対違うと思うんだ。」

 

なんだかんだとノリのいい常連たちとワイワイと盛り上がるたきな。その姿を、ボドゲトーナメントで早々に脱落した千束は遠巻きに眺めていた。

 

 「平和だねぇ……。」

 「おっさん臭いぞ。千束。」

 「おっさんじゃないもん。うら若き17歳だも〜ん。」

 

同じく脱落していたミカのの呆れた声に、机に突っ伏したまま唇を尖らせる千束。

しかしまぁ、千束の言うこともわからなくはない。そう思いながら「カラオケしましょカラオケ」とどこからかマイクを取り出したたきなを眺める。

 

 「たしかに平和だな。」

 「でしょ?」

 

 二人がそんなことを話している間に、スマホから流れてくる昭和感溢れる音楽をバックに「せまる〜しょっ○ー!じごくのぐ〜ん〜だん〜」と熱唱し始めたたきな。

それを聞いた千束は、ひょいと席から飛び降りてその隣へと駆け寄っていく。

 

 「「かめーんらい○ーかめーん○いだーらいだー、らいだー!」」

 

 パシンッ!

 

サビを歌いきり、ハイタッチを交わす二人。特に弾けるように笑う千束の姿に、ミカは柔らかかったその表情をさらに緩める。

 

たきながここへ転属されると聞いて、当初は不安が勝っていた。というか不安しかなかった。

 

風のうわさではあったがたきなの事(問題行動)は耳にしていた上に、楠から聞かされる愚痴の大半がたきなに関することだったり。

 

とにかくそんなやつをうちに迎えて大丈夫なのだろうか?と色々と悶々としていた。

 

しかし今となっては、たきながリコリコへ来てくれてよかったと心から思っている。

店の経営も随分楽になった(財布の紐を握られた)し、たしかに独断行動が多いとはいえしっかり腕も立つ。むしろ自分で考えて行動できるという点をミカは高く買っていた。

 

何より千束が掲げる「命大事に」という心情に理解を示してくれる数少ないリコリスのうちの一人だ。

彼女が来てからというもの、千束の笑顔はより明るく、透き通っているように見える。

 

 「千束……。」

 

できればこのまま、最後まで、彼女が笑っていられますように。

 

そう切に願う様子はまさに、子煩悩な父親の思考そのものであった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 「千束さん。」

 「うう……。」

 

全くこの人は……。

 

 「健康診断くらいちゃんと行ってください。」

 「だってぇ……!」

 

だってじゃありませんよ全く。

私の方にメールが来るってどういうことですか。あなた何回無視したんですか。しかも期限が明日まで。

 

これを受けないとリコリスとして活動できなくなるのはよく知っているでしょう?それに、仮に体調に不備があれば後で「あの時ちゃんと行っておけばよかったー!」ってなるのはあなた自身なんですからね。

 

 「仕事を続けたいなら、行きなさい。」

 「先生までぇ……。なんとか言っといてよ。楠さん、先生の言う事なら聞いてくれるでしょ?」

 「店長に迷惑かけるもんじゃありませんよ。」

 

ムスッと唇を尖らせる千束さん。あら随分キュートな……って違う違う。

 

 「どう見える。」

 「我儘な娘に四苦八苦する父親と母親。」

 

外野、うるさい!

全く。で、千束さん。行く気にはなりましたか?

 

……なに?あんな山奥まで行くのが面倒くさい?明日は一日通してボドゲ大会をする予定だった?

 

 

 

………。

 

 

……………。

 

 

…………………。

 

 

はぁ……。わかりました。

 

 「私も行きましょう。」

 「へ?」

 

どうせこのままにしておいたらあなた、絶対行こうとしないでしょ。なら私が引きずっていきます。実力行使です。

それに、私も司令に直接聞きたいことがあったので丁度いい。DAに体よく入り込めます。

 

 「聞きたいこと?」

 

それは個人的なことなのでお気になさらず。

 

 とにかく、明日は駅前に集合です。来なかった場合は私が家まで迎えに行って、何が何でも連れていきますからね。

 

 「えー「なんか言いました?(圧)」ヴェ!マリモッ!」

 

ハイよろしい。

 

ほんとに世話のかかるお人だこと。

 

 

◇◇◇

 

 

ー次の日ー

 

 

 

 「やっとついたぁ。」

 

声からわかるげんなりした千束さんの表情。

たしかに遠いですよねぇ。というより場所が辺鄙といったほうが正しいか。

電車に揺られたあとに車で一時間とかどんな田舎ですか。

 

 「もうちょっといい場所はないもんですかね。」

 

ま、文句を行ったところでどうともならないのはよく知っていますが。……ってこらこら千束さん。監視カメラに向かって舌なんて出すもんじゃないですよ。

 

 手荷物を検査にかけ、顔認証で通行許可を得る。そしてその足で受付へ。

 

 「錦木さんは体力測定ですので、隣の医療棟へ。」

 「はーい。」

 「井ノ上さんは……」

 「司令は。」

 「司令は現在会議中です。お戻りになるのは二時間後です。どうしますか?」

 

 ほう。人を待たせるとはいい度胸してますね(お前が勝手に来たんだろうが)

 

 「戻ったら声をかけてください。」

 

却下されたら?まぁ別にいいです。個人的なことですしね。

それまで訓練所で適当に時間を潰し……おや。

 

 「ほらあの子。味方殺しの。」

 「DA追い出されたって話だけど。」

 「組んだ子みんな病院送りだってさ。おっそろしー。」

 

 ……へぇ。これはなかなか、やり口がうっとおしいですね。味方殺しなんて身に覚えがありませんけど。だれが流した噂なのやら。

 

 「なんだー?あいつら。」

 「お気になさらず。」

 

私より数段不機嫌そうな千束さんを引き止め、もう一度周囲を見渡す。

 

少なくとも歓迎はされていない。

こちらをあざ笑うような視線。耳障りにヒソヒソと聞こえる陰口。

 

群れれば反撃されないとでも思っているんでしょうか?だとしたらなんか、スゴイ腹がたちますね。

 

 「オホンッ。」

 

まずは咳払いを1つ。……よし全員こっち向いたな。

 

 「ふっ。遠巻きに吠えるしか能のない仔犬の相手なんて、いちいちしていられないでしょ?」

 

 『『『!!』』』

 

ふっ。悔しかったら面と向かっていってみなさいよ。そんな度胸もないでしょうけどね!

 

 「それじゃ、終わったら声かけてくださいね。」

 「え?あ、うん。」

 「では。」

 

井ノ上たきなはクールに去るぜ。アディオスッ

 

 

◇◇◇

 

 

 「1、2、3、4……」

 

軽くストレッチで体を伸ばし、訓練所のの一角から中央へ歩を進める。

肩幅に足を開いて立ち、おもむろに手を背に回す。

そうして服のジョイントを外し、鞘ごと刀を取り出した。

 

 「素晴らしい……。」

 

以前よりも手に馴染む。鞘から柄を引き抜けば、声が漏れるほどに美しく白光する刀身があらわになる。

幾度となく打ち直しを依頼しているせいで刃文こそ消えているが、その切れ味を誇示するように刃に曇りは見えない。

 

試しに、一振り。上段に構えて切り下ろし。

 

 「ほう……。」

 

思わずため息が漏れる。

次いで切り上げ。霞に構えて切り返し。

一歩踏み込み身体をひねる。そしてーー

 

 「シイッ!」

 

渾身の突き。

 

 ピンッーー

 

空気を切り裂く鋭い音。そこに一切の雑音が混ざることはなく、武器として、作品としての完成度の高さを物語る。

 

 「おかえりなさい。」

 

もう折られるようなヘマはしません。最もあそこ(リコリコ)にいる以上、早々にあなたを振るうこともないでしょうが。

 

刀身を鞘に収め、一息つこうとベンチに……

 

 「うん?」

 

つこうとしたとき、不意に視線を感じた。

はて、一体誰でしょうか。今の私に近づいていいことなんてないと思うんですけど。

 

不意を装って周囲に視線を巡らすと、慌てたように視線は消える。しかし気配は消えていない。

……ふむ。

 

 「さーてお茶でも飲みましょうかー(棒)」

 

カバンから水筒を取り出して蓋を開けていると、視線がひょっこりと戻ってくる。

何気なしに周囲を見回すとまた視線は消える。

中身を飲もうと水筒を傾けるとまた視線を感じ……って、随分しつこいですね。

 

別に害がないならいいんですけど、監視されているようでなんとも居心地が悪い。

 

 「あの、そんなジロジロ見られると飲みにくいんですけど。」

 「ふぇ!?」

 

おや。この可愛らしい声は。

 

 「エリカ?」

 「あ、えと、久しぶり……?」

 

視線の方へと振り向くと、そこにいたのは蛇ノ目エリカ。あのとき(銃弾が取引)人質となってしまった少女。

 

なんだか随分……怯えている?

私、なにかしましたっけ。

 

 「普通に声をかけてくれればいいのに。」

 「えっと、その……。」

 「……あの?」

 「ひうっ!」

 

え、なんですかその反応。普通に傷つくんですけど。

と、とりあえず、ほら。

 

 「そんなところに突っ立ってないで座ってください。」

 「え、で、でも「い い か ら (圧ッ) 。」は、はいっ!」

 

妙に洗礼された無駄のない動きで私の隣に腰掛けるエリカ。

その横顔には、不安やら怯えやらが混ざったような表情が張り付いている。

うーん?本当になにかしてしまったんでしょうか?……あ、もしかして助けたときのアレがトラウマになっちゃったとか?

だとしたら申し訳ないことをしたかもしれない。

 

 「あの、なにか言いたいことがあるなら遠慮せずに言って下さい。覚悟はできてますから。」

 「う、うん。……うん?」

 

エリカはしばらく「あー、うー、」と口籠ったあと、なにやら決心したようにこちらに振り向いた。

 

怖いなぁ……。一体何を言われるんでしょうーー

 

 

 「ごめん!」

 「ーーへ?」

 

 

あれ?私はなんで謝られてるんだろうか。

エリカの思わぬ第一声に、柄にもなく間の抜けた声を上げてしまった。

私は何か、エリカに謝られるようなことをされましたっけ?

 

 「えっと、なぜ?」

 「たきながDA追い出されたのも、変な噂が立ってるのも、元はと言えば私が捕まったりしたせいだし。その、一回ちゃんと謝っておきたくてっ」

 

ははあ。何だそんなことを。たしかに即刻厄介払いされましたしね。もしかして今の今までずっとそのことを気にしていたんでしょうか?

 

 「エリカ。」

 

とりあえず、頭を下げたまま微動だにしないエリカに声をかけてみる。

 

 「……。」

 

返事がない。ただのエリカのようだ。

 

 「エリカー?」

 「………。」

 

貴方は石像がなにかですか?このまま放っておいたらしばらくこのままなのでは……。

 

 うーむ。仕方ない。

 

 「エリカッ!」

 「ひうっ……ひょ?」

 

大きな声で驚いたところで、彼女のほっぺたを両手で挟む。

はい捕まえた。

無理やり顔を上げさせ、顔と顔を近づける。

ほ〜ら逃げようとしても無駄ですよ〜。

 

 「エリカ。私は今どんな顔をしていますか?」

 「え、えっと……」

 

皆さんにもヒントです。瞼は半目、口角は上がるでも下がるでもなくほぼ直線。眉は緩やかな八の字です。さてどんな顔でしょうか。

 

 「えーっと?」

 

ぶぶー。時間切れ。

では答え合わせ。

 

 「呆れた顔です。それもひじょーに」

 「なんで?!」

 「あのね。私は謝ってほしくてあなたを助けたわけじゃありませんよ。」

 

なんで助けた相手にそんな申し訳無さそうな顔されなきゃいけないんですか。

 

 「だって、そのせいで……」

 「なら私は、あなたを見殺しにするのが正解でしたか?」

 「そ、それは」

 

エリカの謝罪を受け取るとは、つまりそういうこと。

たしかにあのときエリカを救出に向かわなければ、私は今もここにいることができたのかもしれません。

でも、もしそうなった場合エリカの命は保証できない。おそらく、今こうして話をすることすらできなかったでしょう。

 

 「だいたいねぇ」

 

む、また俯こうとしてますね。そうは行きませんよ。

即座に指の腹でその可愛らしい額を押し上げる。

 

 「あうっ」 

 「なんで助けた相手にそんな湿気た顔されなきゃならないんですか。」

 

胸張ってくださいよ。あなたがそれでは私が悪いことをしたみたいでしょ?

 

 「それに、今の生活も結構気に入ってるんです。」

 

店長のコーヒーは絶品だし、リコリコの愉快な仲間たちともうまくやれている。

エリカたちと仕事を熟すのも良いが、リコリコの仕事もあれはあれで悪くはない。

 

 「ま、詰まるところ気にするな、ってことです。」

 「……うん。ごめ「ごめ?(圧ゥッ!)」……ありがと。」

 

ハイよろしい。

全く、こんな素直ないい子を戦場に立たせるとは、やはりDAはなんとも罪深い組織ですね。いや本当に。

 

 「今度遊びにいらっしゃい。」

 

またお話しましょう。今度はもっとゆっくり、楽しい話をしましょう。

あ、一応言っておきますけどお代はきっちり払っていただきますからそのつもりで。財布の紐はしっかり緩めておいてくださいね。

 

 「クスッ」

 

なんです?私なにか変なことでもいいました?

 

 「ほんと、どこ行っても変わらないなって。」

 「何を今更。」

 

昔からそうですよ。どこにいようとも、どこに行こうとも、何が起きようとも、私は私です。基本的に私は自分を気に入っているので。

 

 「そっか。」

 

えぇそうですとも。

さ、もう少し話に付き合ってくださいな。一人でいるのはどうにも退屈でして………おや。

 

 「ちーっす」

 

あからさまに悪意の混じった視線。軽薄そうな声。

目を向けると、私達と同じく青い服のリコリスが一人姿を見せた。

 

 「どちら様で?」

 

刈り上げた髪に活発な雰囲気を感じるが、どうにも顔に覚えがない。

一応DAの戦力は把握しているはずなんですがね。新しく配属された子でしょうか?

 

首をひねっていると、目の前の彼女から腕を差し伸べられる。どうやら握手を求められているらしい。

 

 「どもーっす。乙女サクラっす。」

 

サクラ。そう名乗った少女は、私に笑顔を向けてくる。

 

 「よろしくっす。」

 

随分と、濁りきった笑顔を。





エリカってかわいいよね。
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