ウルフギャング!   作:zoe.

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なんとか書けたので更新します。


第四話: こういう風来坊の連中ときたら(2)

「大毅、この街は毎年こんなに寒いのか」

「毎年こんなもんだけどな。ウィーンって東京より寒いはずだろ?」

「体感的には東京の方がよほどしんどいのだが……」

年末年始のイベントラッシュの後久々に事務所に向かおうとする中で、モーツァルトが――夏以来の――天候に対する愚痴を漏らした。確かに単純に気温で言えば大毅の言う通りウィーンの方が一回り寒いのだが、東京を筆頭に東日本・北日本の冬場はヨーロッパに比べて風が強い分体感的な寒さは厳しくなるのだろう。

「本当にこの街は……夏は暑いし冬は寒いし、何故こんなところに住もうと思うのだ?」

数千万の人間を敵に回しかねない発言をするモーツァルト。

「便利だからじゃねえかなぁ、ホント諸々便利なんだよ。それこそ俺らの世界だって機材売ってる店にしろライブハウスにしろとんでもない数あるだろ?」

 

「さて、今年も頑張ろうか」

バンドメンバーとマーク池籐がこうして顔を合わせるのも久しぶりである。年末のカウントダウンイベント後も新年会だと会う機会はあったものの、どうしても年末年始のイベントは前年から地続きといった感じであり、その後の多少の休みを経た今の方が「新年」感があると言える。

「「よろしくお願いします!」」

メンバー一同元気よく挨拶を返したところで、実際の打ち合わせが始まる。

「さてさて、まあライブの日程とかはまた追ってテキストで流すけども。そろそろ次のリリースやらないかい?」

「いいですね、どんな曲にしましょう?」

モーツァルトが食い気味に賛同する。ボカロPとしての1曲目がそれなりの数字を出しモチベーションが更に高まっているのか、やる気十分といったところだろうか。

「それなんだけど、そろそろアルバム出すのもいいんじゃないかなって」

「……!」

メンバー一同、一瞬驚きのあまり言葉を失った。アルバムというのは当然それなりの収録時間・曲数が前提であり、ある程度は過去にリリースした曲を再利用するとはいえ当然それなりのコストがかかってくるものである。当然それなりの売上が期待できなければやれない話であり、そのオファーがあるということはレーベルからそれなりの期待をされているということを意味していた。

「曲、足りますかね……?」

だが、大毅の心配も当然である。レーベルがある程度のコストを負担するとはいえ、実際に曲を書いて演奏するのはメンバー自身である以上その負担にメンバーが耐えられるかという問題は当然に出てくる。

「確かにそこだよね。君たちさえよければウチに所属する前の曲入れてもいいとは思うけど…まあでもゴッドリーブ君加入前の曲はちょっと微妙か」

池籐もまた率直なところを口にする。所属するにあたって過去の曲も一通り確認はしているが、他のメンバーがかつて書いてきた曲は――それなりにはファンのウケがよくたまにライブのセットリストに登場させている曲でさえ――モーツァルトが書いた曲とは比べられるレベルでさえなく、流石に自らのレーベルから出すものとしては採用水準にはまるで到達していなかった。もちろんそう言われた我狼の面々も自分たちの過去の曲に対する評価は十分すぎる程にわかっており、池籐の言葉に対しては苦笑いするどころか完全に首肯する有様だ。

「まあ音源化してない曲もいくつかありますし、曲自体はなんとか」

「ってこたぁ俺らの問題だな、あとは」

モーツァルト加入後音源としてリリースしたのは――四畳半レコーズ所属前でいえば――1曲だけではあるものの、ライブでは何曲か「新曲」を披露しているし、それらは所属後もまだ音源化はしていない。言うまでもなく音源化するためにはライブで披露するのとは別の――細部まで詰める方向での――練習が必要となる関係上先送りになっていた曲たちでもあり、康彰の言う通り演奏隊の準備が間に合うかというのが最大のネックになるだろう。

「そこは大人の力(へんしゅう)っていう最終手段もあるからね。折角レーベルのサポートを受けられるんだ、頼れるところは頼ってくれて構わないんだよ」

 


 

「あれ、我狼の人じゃないですか?」

ある日地元近くのバーで一人飲んでいたモーツァルトが声をかけられた方に目を遣ると、グラスを片手にした若い男二人がいた。

「お久しぶりです、エスプリのボーカルの……」

なるほどどこかで見た顔だと思ったら、何度か対バンしたAESTHETIC PRINCESS(エスプリ)の男ボーカルの方だ。

「覚えててくれましたが、ヨウスケです」

「どうも、お久しぶりです」

モーツァルトも挨拶を返す。どちらかと言えば普段ライブの打ち上げでは楽器隊と話すことが多かった関係であまり会話をした記憶はないが、バンド同士ではそれなりに顔を合わせることも増えてきた相手である。

「結構ここで飲んでるんですか?」う

「家が割と近いからたまに来てる、くらいですね」

「なるほど。俺もこの辺り住んでるんですけど意外と会いませんでしたね」

モーツァルト――と大毅――の住むエリアはバンドマンが多く住む地域だが、このあたりは飲食店も多い。モーツァルトは気分屋な性分も影響してかどこかの店に入り浸るというよりはその時々の思いつきで色々なところに顔を出しているためか、ここ数ヶ月で彼と遭遇することはなかった。

「そちらの方は……?」

ヨウスケの隣にいるもう一人を見る。年の頃はヨウスケより少し若く見えるが、若干長めの髪型や雰囲気が「同業者」っぽさを感じさせる。あまり見ない形のケースを持っているようだが、

「こいつもバンドやってるんすよ。Overwhelmってとこなんすけど我狼さんまだ対バンしてませんでしたっけね」

「そうだね、多分初対面だよ」

話を振られた男が応じる。

「はじめまして、Overwhelmのサックスとかやってる誠也です。我狼さんとはいつかお話してみたいと思ってたので、ここで会えて嬉しいです」

「サックス……管楽器ですか!ジャズとかそちらの方なんですか?」

「いえ、うちもロックバンドですよ。シンセとかは打ち込みでやってるんですけど、そこにサックスを生楽器で足してるんです」

「なるほど、確かにそういうのも面白そうですね…。後でぜひ聴かせてください!」

思わず食いつくモーツァルト。ポップスやロックの世界ではサックスやトランペットを中心として管楽器を使うケースは散見されるが、そこを敢えて――サポートメンバーでもなく――正規メンバーの生楽器でやるというのは確かに一つの特色となるだろう。

「ええ、是非。とりあえず乾杯しましょうか」

 

「なるほど、最近の曲はゴッドリーブさんが書いてるんですね」

バンドマン同士で飲んでいるせいか適当な雑談をしているつもりでも音楽の話になっていくもので、話題は曲作りの話へと移っていった。

「うちは割と手分けして作ってる感じなんですよ。基本自分のパートはそれぞれが編曲することになってるんで、ボクが触ってるのはサックスパートと…あとは一部の打ち込みくらいなんですよね」

「なるほど……うちは細かいフレーズは本人任せですけど、基本的には私が書いてますね」

「すごいですね…。自分が弾かない楽器のフレーズとかってどう考えてるんですか?」

「うーん…………」

モーツァルトはグラスを傾ける手をしばし止めて考え込む。

「弾き方をある程度頭でイメージする、ということになるんですかね。決して自分の指がその通りに動くわけではないとはいえ、『どう動かせばそのフレーズが弾けるか』をイメージできる程度には各楽器のことを知っておくと良いのではないかと」

かつて大毅にも語ったことをより噛み砕いて説明する。

「まあ、とはいえたまに『こんなの弾けるわけないだろ』って怒られるときもまだありますけどね」

「なるほど!各パートの棲み分けとかってどう考えてるんですか?」

「元々私はクラシック出身なので、その頃の経験が生きてるのではないかと」

「そうでしたか。確かになんとなくクラシックっぽさを感じたんですよね、対位法の使い方とか」

「そこに気がついてくれるのは嬉しいですね。最近のポップスやロックに寄せて書いてはいますけど、やっぱり『自分らしさ』は残しておきたいですし」

「そうかぁ……やっぱりクラシックとかも役に立つんですね」

横で聞いていたヨウスケも話に乗ってくる。

「俺なんてほとんどロックばっかり聴いて育ってるんで、あまり他のジャンル知らないんですよ」

「『役に立つから』聴く、というのは少し味気ない気もしますけどね。確かに色々なものを聴くのは自分自身の作曲に返ってくるものはあるでしょうけど、それ以上にまず『自分が面白いと思ったものを手当たり次第に聴く』という感じで良いのでは」

「うーん……それができるのは割と才能だと思いますよ?いくらクリエイターであってもそうやって知らないジャンルにホイホイ首を突っ込む人ってそこまで多くないのでは……」

 


 

我狼新アルバムの曲についての打ち合わせやデモ曲の制作の傍ら、モーツァルトは自身のボカロ曲の第二弾に向けての準備も進めていた。流石に連続してさゆりに頼むわけにもいかずまだ作詞の目処は立っていなかったが、曲自体の作り込みは順調に進んでいた。

「ほんと筆が早いよな、アンタ」

自らも作詞の作業をしながら大毅はモーツァルトに声をかける。ようやくモーツァルトの新居も――康彰のお陰で大毅名義で借りるという荒業にも成功し――決まり、春先には別生活となる予定となっていた。

「そうだろうか。私が聞いた話だと年間百曲単位で書いている人もいるようだし、やればできないこともないと思うぞ」

「そりゃ劇伴とかCMみたいな短いBGMとか含めての話で、こういう歌モノばっかりでそんな数書いてるわけじゃないだろ」

「私からしてみれば現代の歌だって短い方だからな。大毅はあまり聴かないかもしれないが、オーケストラでやるような曲はパート数もそれなりにあるし数十分になるものも少なくないんだよ。今の歌モノは繰り返しの部分も多いし、感覚的には大分楽だな」

「そんなもんなのか」

「現代のバンド系だってインスト(楽器だけの曲)だと繰り返しもほとんどなし、曲も長いみたいなジャンルもあるし、ロックやポップスは相対的に曲数を書きやすいジャンルだと思うんだよ」

例えばプログレッシブ・ロックと呼ばれるジャンルは、レコードの時代であれば片面(約20分)まるごと1曲、などという曲も散見されるし、たとえボーカルが入る曲であっても――並の歌モノであれば1曲終わりかねない――3分たってもまだ歌が始まらないようなものさえある。そうしたものと比べれば、4分あっても実質的には1分半分作り込めばあとは発展させるだけ、というようなシンプルな歌モノであれば確かに負担は軽いと言えるだろう。

「次の曲、作詞は決まってるのか?」

「残念ながらまだだな。さゆりさんに教わってはいるが、まだまだそれっぽいものさえ書けないのが現状だ。この時代の日本に来てなぜか読み書きはできるとはいえ、やはり詞が書けるほどには日本語への理解が足りていないというのも一因だろうが」

「そうか、普段違和感なく日本語で喋ってるからうっかりしたけどそりゃアンタ元々はドイツ人だもんな……そりゃ日本語で歌詞を書くのが簡単な訳はねえのか」

「まあ、でも曲を書くのとは全く違う感覚だし、息抜きがてらに色々考えるのは楽しいよ。頭の中にはまだドイツ語も残っているし、慣れてきたらドイツ語の曲を書いても面白いかもしれない」

「ほんと何でも手を出すなぁ……」

大毅は半分呆れ、半分尊敬の眼差しでモーツァルトを見る。いくら「本業」のある自分と半ば自由人のモーツァルトでは使える時間に差があるとはいえ、このバイタリティの差はそれだけでは説明がつくものではない。昨今バンドの方の活動が順調で「ミュージシャン」という生き方に自身のアイデンティティを置き始めてきた大毅だったが、その心境の変化にモーツァルトの存在は決して小さくない影響を与えているだろう。

「次の曲、俺が書こうか」

「いいのか?知ってると思うが、まだそんなに払えるわけではないのだが」

「俺ももう少しアウトプットの密度を上げたいんだよ。どうせアンタはこの調子でいけばまた有名になるだろうし、そこに初期から関わってた、ってなれば多少は俺の箔にもなるだろ」

「そうなるかは分からないが、もちろん最善を尽くすことは約束しよう」

「ああそうだ、俺も別名義にしとかないと俺から我狼関係者だってバレたら面倒なのか。歌詞と一緒にそっちも考えるよ」

「ありがたい、助かるよ」

 

数日後、シュティーグルPの2曲目が無事公開された。

流石に有名作詞家という「バフ」がかかった一曲目ほどの話題にはならなかったが、曲自体の出来は十分だったこともあり1曲目で掴んだリスナーからの反応は上々であった。デビューから2曲連続でそれなりの再生数を叩き出したということで、各種のランキングサイト等でも少しずつ注目され始めた彼だったが、その話題性の原因の一つは――単純に本人が不慣れだという理由でめんどくさがって作っていないが故に――このご時世だというにも関わらずSNS等の情報も一切ないという謎めいたところにあったことは嬉しい誤算といえるだろう。

 




おそらく次回は普通に更新できると思います。
たぶん。
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