世界の守護者 作:匿名だよっ
リ・エスティーゼ王国第三王女——いや、元第三王女たるラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは、彼女が5歳の時に、突如として姿を消した。本当に突如、姿を消したのだ。
彼女の部屋の横にはメイドがおり、彼女の部屋付近には騎士が巡回していた。また、城外からの侵入者対策として、兵士達は警戒をしていた。それ故に、何故彼女が消えたのかが分からなかった。
もちろん、国王はすぐさま国境全てを封鎖し、軍や冒険者達を動員して捜索したものの、結局ラナー元王女は見つからなかった。仮に凄腕の暗殺者などが拉致をしたとしても、先に国境が封鎖される為、どのような手段で拉致されたのか分からないのだ。
そして、彼が何の力も無い第三王女を拉致するなど、考えられない事だと考えられる。何故ならば、現在バハルス帝国では前皇帝が暗殺された事によって、前皇帝の息子が皇帝に即位、皇帝が貴族達を処刑しているのだ。国家の改革中に、隣国に喧嘩を売るなど、正気の沙汰では無いだろう。また、改革を行う優秀な者が、そのような事をするとは考えられない。
では、誰がそのような事をしたのか?
考えられる可能性は二つである。一つ目は、周辺国家最高峰の国力を有しているスレイン法国に、フールーダ・パラダインと同等かそれ以上の
二つ目は、アーグランド評議国の永久評議員たるドラゴンの存在である。一部のドラゴンは魔法を使用できる者がおり、第三位階魔法さえ使用できるドラゴンがアゼルリシア山脈にはいるという。そして、そのようなドラゴンより強大な力を有しているであろう評議国のドラゴンであれば、転移魔法を使用出来る可能性はある。しかし、こちらもまた拉致する動機が無い。
両国に一応問い合わせてみたものの、結果は否。拉致していたとしても否と返事するだろうが、その真実は分からない。
さて、ラナー元第三王女が行方不明となり、恐らく死んでいるだろうと結論が出された後、起こった出来事は責任が誰にあるのか、である。
消えた事の責任が何処にあるのか、責任のなすり付け合いが始まったのである。幸い、王城を守護していた騎士達は、王を支持する者たちで構成された派閥、今以上に権力を拡大したい者たちで構成された派閥、双方から人材が出ていたこともあり、どちらかに権力が傾くという事は無かった。
しかし、王国の現状を理解し、民を思う貴族達がこの権力争いに力を注ぎ込むはめになった事から、犯罪結社の力がより増す事になり、民の暮らしは悪化した。
お飾りの王女であったとしても、意味の分からない事を言う子供であったとしても、拒食症によって体調を崩し掛けて来たとしても、彼女はこの王国に必要な者だったのだ。
しかし、無いものを強請っても意味はない。彼女が失踪した事で、王国は更に国力を低下させる事になった。帝国もまた、貴族の粛清によって国力を低下させていたものの、その後は順調に国力を上げ、国力差が明確に現れてくる事になる。
◇
同じ王国内で不毛な権力争いを行い、国家が分裂しかけている王国と違い、改革を強行しより良い国家を作り上げた帝国は、自国を富ませた後、王国に戦争を仕掛けるようになった。
例年の戦争によって王国は国力を低下させ、根本から腐らせる犯罪組織によって王国民は希望を失っていた。この国には最早、自分の事しか考えていない者達だけなのだろうか?
いや違う。そんな王国を愛し、王国の為に、と精力的に働く者達もいる。そんな彼らは王国に蔓延る犯罪組織——八本指を滅ぼす為、長年準備を進め、新たに誕生したアダマンタイト級冒険者を雇い、武力で滅ぼそうとした。
だが、作戦の決行当日、突如王国に現れた悪魔によって、王国民は攫われ、財は強奪された。国力は減少したが、王は権力を増強させる事が出来た。城に引き篭もる貴族達とは違い、王自らが出陣したからである。
権力を強化し、王の派閥が力を増す今、帝国との戦争に打ち勝ち、王国を建て直す。それを実現すべく、王国を愛し、王国を想う貴族達は帝国との戦争に向けて行動した。
戦争当日、戦争が始まったと同時に攻勢をかけてくる例年の帝国軍とは違い、正面に出て来たアインズ・ウール・ゴウンが見た事も無い魔法を使用し始めた。
一部の有識者は敗走すべく行動に移そうとしたものの、突如現れた存在によって皆の目はその存在に移った。黄金色の鎧、周りに浮く四種の武器、控えるように佇む巨大な天使、明らかに異様な存在であり、明らかに味方では無いと思われた。
味方ではない筈だ。王国は
実際に味方では無い筈であり、その予想は正解している筈だ。しかし、その存在は帝国軍に向かって行き、戦争の原因である
そこからの戦いは、人智を超えた暴力であり、決して逆らってはいけないと思わせる強大な力であった。天使達は見た事も無い魔法を使い、対する敵の者達もその天使に攻撃を加えていた。一撃一撃が簡単に命を奪える程の力を有した攻撃であり、余波でさえ命の危険を感じるものであった。
軍を撤退させ、敗走し始めたものの、アインズ・ウール・ゴウンは再度魔法を詠唱し、一撃で何万もの王国民が殺された。王国はエ・ランテルとその周辺を割譲し、アインズ・ウール・ゴウン魔導国が建国される事となった。
戦争は王国に更なる衰退を齎した。
また、亡くなったのは平民達だけでは無く、貴族も数多くいた。その殆どが次期当主の貴族達であり、彼らが死んだ事で次期当主についた貴族達は皆無能であった事が不安定化に繋がっている。
その中でも、一番王国を不安定化させている貴族はフィリップ・ディドン・リイル・モチャラス男爵である。何処からか資金を得ているのだろう。大金を使用して大量な武具を購入しており、購入した大量の武具を私兵に与え、軍事力を増強している。不安定化している今、そのような事をされるのは困るのだが、魔導国が食料援助を行なっている為、表立って排除する事が出来ないのだ。
だが、戦争が起きて良かった事もあった。第一王子のバルブロが行方不明となり、貴族派閥の長であったボウロロープ侯と裏切り者のブルムラシュー侯は死亡。これによって王国の権力争いはマシになった事である。
戦争後は、例年のように、帝国に戦争を仕掛けられるといった事もなく、王国は平和を享受していた。問題は、国が割れそうな程に不安定な事であり、それも国が無くなる一年前からの事である。
だが、それもこの国を不安定化させている馬鹿貴族によってこの国は滅びかけている。彼は何を思ったのか、食料援助をして貰っている魔導国の馬車を襲い、魔導国の国旗を踏み躙ったのである。
当然だが、宮廷は紛糾した。その男爵は本当にそのような事をしでかしたのか、魔導国の謀略ではないのか、宣戦布告を回避する為にその男爵を処刑すべきではないか、と言ったような事が話された。
しかし、その男爵は強大な私兵を持っており、それによってそれ相応の権力を持っていた。それ故に、簡単に手を出す事が出来なかった。また、王は本当に自分の意志でやったのか分からなぬ男爵を殺害する事は良くないと述べ、優秀な第二王子の妨害をする。
結果的に、アインズ・ウール・ゴウン魔導国はリ・エスティーゼ王国に宣戦を布告。魔導国は王国民全てを鏖殺する勢いで虐殺、評議国との国境を封鎖した後、遂に魔導国軍が王都へ接近した。
損害を与える事なく、負ける事になるだろうと思われていた戦いだったが、突如現れた存在達によって魔導国軍に壊滅的な被害を負わせる事に成功した。その存在の一人は、かの戦争にて現れた黄金の戦士であり、その戦士によって王国は少しの間延命する事が出来た。
しかし、延命に成功しただけであり、戦争そのものには勝つ事が出来なかった。王国を守ってくれた存在達は撤退し、再編された魔導国軍が王都に侵攻、最後は王都を瓦礫の山に変えられ、王国の歴史は幕を閉じた。