チェンソーマン外典:The AvengeDevil 作:霧屋堂
俺は今、公安のデビルハンターと名乗っている黒服に囲まれて東京へ向かわされていた。
なぜそうなったのか…その原因はこういう事にあった───
数日前
復讐の悪魔ことリヴェと契約して、まず始めたことは能力に慣れる為のトレーニングだった。
『オレの能力のトリガーになるのは復讐心だ。オレの能力を使いてぇなら、お前の中にある復讐心を湧きあがらせてみろぉ!!』
と言われたのだが、どうにも自分は悪魔を目の前にしないと復讐心を湧きあがらせる事が難しい。
故にトレーニングと言っても実戦訓練だった。
「おおぉッ!!」
復讐心を燃え上がらせるイメージを想い描くが、どうやらそれでは力を発動させるには足りないらしい、自分の力が上がった感触すらない。
結局力を使うことすら出来ないまま、今日も悪魔を狩りきってしまった。
「どうすりゃ良いってんだよ…」
『出来ない訳じゃあねぇから落ち込むなよォ、お前に足りねぇのはドカンと引き金を引くような1歩さァ!』
「そうは言ったって」
『良いから俺を信じろォ!悪魔ってのは基本嘘を吐かねぇんだよ!……いや、1人嘘吐く悪魔を知ってたなァ』
最後の言葉で信用が少し落ちた気がするが、聞かなかった事にしておこうと心の中で思った。
次の日もトレーニングを兼ねた悪魔狩りをした、狩ったのはパプリカの悪魔、ニンジンの悪魔、そして体重計の悪魔だった。
苦戦したのは体重計の悪魔だった。体重計の悪魔は、その重量を活かしたヒップドロップ攻撃をしてくるので、周りの被害がとてつもなく酷かった。なんとか沼地にめり込んだ所を斬り殺したが、無かったら危うくお陀仏だっただろう。
その時何人か黒服を見かけたが、その時は対して気にしていなかった。
後々自分に大きく関わる事になるとも知らずに。
結局この日も力を使う事ができずに終わってしまった。
その次の日は悪魔を見かけなかったので特に何も無かった。ただ街を歩いている時、昨日のような黒服の人間を至る所で見かけたので、何事だろうと少し気にかかった。
また次の日も悪魔を見かけなかった為に、缶コーヒーを飲みつつショッピングセンターの屋外テラスでボーッとしつつ故郷の景色を眺めていた。
銃の悪魔に破壊された故郷は、その被害を塗りつぶすが如く綺麗に生まれ変わっている。
その有様を見ていると、復讐に燃える自分だけが古い異物のように取り残された気分になる。しょうがないのかもしれない、自分の事を知っていた人達は殆ど死んでしまったのだから。
『ダンよォ、随分ブルーになってるみてぇだなァ?』
「お前…ヒトの内側にいるからって心を無断で読むな。」
『しょうがねぇだろう?一心同体になってるんだから見えちまうんだよ。』
「あっそ…」
諦め気味に生返事をした、コイツには隠し事もできやしないと考えると諦めたくもなる。
そんな事をしてるうちにコーヒーを飲み干したのでゴミ箱に捨てようとベンチから立ち上がった。
ゴミ箱に歩いていった途中で、一人の女の子が泣いていた。気になったので「どうしたの?」と声をかけてみると、
「あそこのランプにわたしのふうせんが…」
と街灯を指さしたので見てみると、何かのキャラクターの絵が描いてある可愛らしい風船が引っかかっていた。
「ちょっと待ってな、取ってあげるよ。」
とりあえず邪魔になるので缶コーヒーをゴミ箱に放り込む。
そうしてから近くにあったベンチを踏み台にして、街灯に向かって思いっきり跳んだ。ギリギリ持つ部分の紐を掴むことができたので、無事風船を確保して着地できた。
「はい、次は飛ばすなよ?」
と言って手渡したら、女の子は満面の笑みで
「うん!ありがとうお兄さん!」
と言って去って行った。
気づいたら周囲の人達にも見られていたらしく、拍手されていたので小っ恥ずかしくなってしまった。
『良いじゃねぇか!これってヒーローって奴じゃねぇか?嬉しいなァ!』
「俺は復讐者だぞ、ヒーローなんて似合わない。」
ヒーロー、小さい頃は待ち望んでた存在だった。しかし現実は残酷で、俺の故郷を救ってくれるヒーローなんて存在しなかった。
だからヒーローなんて望みすらしないし、むしろ恨むべき対象ですらあった。
テラスを足早に立ち去ろうとした時、何かが落ちてきたような轟音が響いた。
「なんだ!?」
『この臭いは悪魔だぜェ!』
振り返るとそこには、小さい頃は嫌いだったあの赤い顔、獅子舞がいた。
「獅子舞の悪魔ってやつか!?」
獅子舞の悪魔は、ガチガチと金色の歯を打ち鳴らして周囲を伺っている。
まだ多くの人が避難出来ていない状態のテラスは、獅子舞の悪魔の恰好の餌場になっていた。
そしてちょうどいい人間を見つけたのか、獅子舞の悪魔はその巨体に似合わない素早い動きで一人の成人男性の元へ迫り、
その金色の歯で慈悲なく噛み砕いた。
鈍い断末魔と共に、真っ二つになった男の下半身がぼとりと地面に落ち、断面から血が吹き出した。
「ひっ、ひいい!」
「助けてぇ!」
あちこちから悲鳴が上がる、獅子舞の悪魔はどうやら次の餌を探しているらしく、血の滴る歯をまたガチガチ打ち鳴らして周囲を見渡している。
標的にされたくないが故に我先にと人々が逃げて行く。しかし悪魔はそれを許すつもりは無いらしい。逃げて行く方向、すなわち自動扉の方向へ跳んで人々の前に立ち塞がった。
その時ちょうど自動扉の真ん前にいた人間がいたらしく、悪魔の黒い足から赤黒い血が染み出していた。
『おいおいダァン、ボーッとしてる暇はねぇぜェ!』
リヴェの一言で傍観の状態から引き戻される。
「助かった!」
素直に礼を言い、バッグに隠していた日本刀を取り出して悪魔に立ち向かう。
この間にも数人食ったらしく、遺体の残骸がいくつか転がっていた。
「失せろ、悪魔ァッ!」
刀を振り上げ、相手の口を斬りつけようとした。しかし、刀は刺さる感触はあったものの、それ以上はうんともすんとも言わない。
『刀が食い込んじまってるぞ!』
「木のような素材で出来ているのか…!?」
ノコギリがあれば対抗出来るかもしれないが、生憎取りに行っている暇もない。
そのまま獅子舞の悪魔が首を振った弾みで吹っ飛ばされ、近くの花壇に突っ込んでしまった。
「ああクソっ、痛ぇ」
『その痛みが生きてる証拠だなァ』
「嬉しくねぇよ別に…!」
今は一刻も早くあの悪魔を狩る必要がある、被害が酷くなってしまうのはもちろんだが、このままでは自分が殺されかねない。
悪魔に刺さったままの日本刀に変わる武器を探していると、悪魔の破壊した跡に丁度よい長さの鉄パイプが落ちていたので、それを拾ってもう一度悪魔と対峙した。
体感十数秒の間にもまた多くの人が奴に食われている。たった数分の間に地獄が出来上がっていた。
『おいおいダァン、そんな鉄パイプなんかで敵うと思ってんのか?』
「無駄だとしても…やるしかねぇんだよ!こんなんで負けてたら、銃野郎に復讐なんて一生できやしないんだよ!」
めちゃくちゃに打撃を打ち込む、鼻に、顎に、脳天に、目に、あらゆる部分に打ち込むが、効いてる様子がない。
鉄パイプはぐにゃぐにゃにひしゃげて、握りしめていた手は皮がむけてしまった。
「糞がっ、こんなに硬ぇとか聞いてねぇぞ…!」
『恐怖で強化されてるにしても強すぎるなァ?まさかアレを取り込んでるのかァ?』
「『アレ』?」
『今説明してる暇は無いぜダァン、目の前に集中しろォ!』
少し意識を逸らした間に、速さを伴った獅子舞の顔面が迫ってきていた。
「が、アッ!」
鉄パイプで受けようとするが、間に合わず身体ごと吹っ飛ばされる。
「クッソがァ……!」
獅子舞の悪魔は、自分にトドメを刺しに来るのかと思いきや、より恰好の餌を見つけたらしく、そっちに向かっていく。
悪魔が向かう先には、さっき風船を取ってあげた女の子がいた。
「いや…たすけて…おかあさん…」
その声を聞いた瞬間、駆け出した。
「おおぉァああ!」
雄叫びをあげて悪魔の背後に殴りかかる。
鈍い音がする、どうやらここは柔らかいらしく、獅子舞の悪魔はこっちを向き直し、歯をガチガチと打ち鳴らした。
「お嬢ちゃん!早く逃げろ!」
「あ、ありがとう!」
これで自分以外に注目しはしまい。
明らかに敵意を向けられているのを感じた。どうやら排除するべき敵と認識されたようだ。
「消えろ!消えろ!消えろ!消えろ!消えろォォォ!」
拳がボロボロになりながらも拳を打ち込む。悪魔は負けじと吹っ飛ばしてくる。それにまた掴みかかって拳を打ち込む。
「『オレ』の目の前から…!」
体の内側から、復讐心が燃え上がる。
「消えて!」
そして、爆ぜた。
「無くなりやがれェェ!」
拳が黒い炎に包まれる。
その拳を思い切り叩きつけた、すると、獅子舞の悪魔の身体の一部が砕けた。
「ようやく効いたなァ!気分はどうだ悪魔ァ!」
獅子舞の悪魔は歯をガチガチ打ち鳴らして突撃してくる、それを片手で受け止め、思い切り拳を叩き込む。
今度は鼻っ柱を叩き折られ、悪魔にも動揺が見えてきた。
「それじゃあ今度こそ!消えろォ!」
感情に呼応するように手足に纏った炎がさらに燃え盛る、跳躍して一気に悪魔との距離を詰め、今度は顎、脳天、目、そして眉間に打撃を何度も何度も打ち込む。打ち込まれる度に悪魔の身体がボロボロになっていき、心臓が剥き出しになり、もはや動くこともできなくなったようだ。
「これで、終わりだ!」
剥き出しになった心臓に拳を叩き込んだ。グチャッという音と共に、心臓は黒炎に包まれて消滅し、悪魔の死体もピクリとも動かなくなった。
「はぁ…はぁ…勝ったのか…?」
疲れ切り、返り血を吹くことすらどうでも良くなり、その場に座り込んでしまった。いつの間にか手足の炎は消えていた。
『よくやったぜェダァン、オレの力もようやく使えたみてぇだしな!』
「アレがトリガーなのか…」
火種が爆ぜるような感覚、それを思い浮かべれば使えるのかもしれない、だがいきなり切り替えれるかが不安ではあるが、次から使えると思った。
『気絶しそうなところ悪いけどよォダァン、ちょっとその悪魔ん死体探ってみてくれねェか?』
「何故だ?」
『気になることがあるんだよ。』
いつになく真剣な声色だったので、仕方なく従って死体をまさぐってみた。
すると潰して燃やした心臓の辺りに、明らかに他の部分とは違う小さい肉の部分があった。
「これは?」
『そいつァお前が復讐する相手、銃の悪魔の肉片だなァ。妙に強かったのはこのせいか……』
「銃の悪魔だって!?」
『そうさ、それを辿りゃあいずれ辿り着けるかもしれねぇぜ?』
肉片を強く握りしめて、決意を固めた。
「これを辿って、俺は復讐にたどり着く…」
目標への手がかりが得られて満足していたので、そのまま帰ろうとしたのだが、急に黒服3、4人に取り囲まれ、
「公安デビルハンターです、ちょっとご同行願えますか?東京まで」
「と、東京まで?」
「あなたの力と、その肉片について少々本部の方で伺いたいんですよ。悪いようにはしません、拒否すると少々強引になりますよ?」
明らかに任意ではない、無駄に抵抗して手がかりを失うのは嫌だったので、同行することにした。
これが俺と公安との関わりのきっかけだった。