チェンソーマン外典:The AvengeDevil 作:霧屋堂
色々な事があって(無理矢理)公安特異2課に所属する事になった。
本格的に仕事を始めてもらうのは明日からなので、今日はここに行って住居の準備をしろ、と命令を受けたので、支給された制服と元々持っていた荷物を持って指定された住所に向かうと、6〜7階程の目新しいマンションだった。
前住んでいたボロいアパートとは大違いだったので、思わず感嘆の声が漏れた。
「都会ってすげぇ…というか公安ってすげぇ」
『いや単純にお前の環境が貧弱すぎただけだと思うぜダァン…』
半ば呆れ気味にリヴェに言われてしまったが、聞かなかった事にした。
入り口の近くにある管理人室に声をかけると、見事に後頭部が光り輝いている中年男性が出てきた。おそらく管理人だろうと思った。管理人の男はいかにも面倒くさそうに
「…御用は?」
と聞いてきたので
「新規入居の者です。」
と言って男に封筒を手渡すと、奥に引っ込んでしまい中々出てこない。娯楽の類も持っていないのですることも無く、暇を持て余してしまった。
ふと外を見ると、曇天に似つかわしくない白い鳩が飛んでいた。
暗い中に明るい色の鳩が飛ぶ様子は、どこか神々しく感じた。
そんな事を考えていると先程の管理人が出てきて、
「304号室ね、分からない事があればコレ見てね。」
と言って鍵と数枚の書類を乱雑に置いてまた引っ込んでしまった。無愛想にも程があるだろと思ってしまう。
階段を上がって304号室の前にたどり着き、ドアを開けようとしたところ、隣の部屋のドアが開き人がでてきた。それは小柄な女性であり、服装から同じ公安だと気づくことが出来た。
「アレ?そこの部屋って事はもしかして、新しい同業者かな?」
「あっはい、明日から正式に配属される者です。」
そういうと女性はちょっと期待した目で
「そうなんだ〜もし一緒の課になったりしたらよろしくね!」
と言い、こちらの手を握り締めてきた。
「え、ええ。よろしくお願いします。」
「うんうん〜あ、時間ヤバいからまたね!」
そう言って一目散に走っていってしまった。
「すごい人だな」
『まさかダァンお前、惚れたのか!?』
「そんなんじゃねぇよ!」
『とは言ってもお前の心見えちまうから隠したって無駄だぜダァン』
軽くムカついたのでドスを効かせて
「黙れ」
と言ったら静かになった。
鍵を開け、ドアを開いて中に入ると、未使用の部屋特有の新鮮な匂いがした。
書類を見るとレイアウトは2DKであり、1ルームはご丁寧に和室だった。さらに冷蔵庫と電灯、そしてエアコンが1台だけ備え付けられていた。
「こんな豪華な住まいが許される日が来るとは…」
恍惚とした笑みが思わず零れるほどには自分のテンションは上がっていた。
しかし悲しいことに、自分の六畳間暮らしによってことごとく削ぎ落とされた物は、部屋の半分すら埋めることすら叶わない。
「なんか、虚しい…」
『どうせこれからいい給料ぐれぇ貰えるぜ、諦めることはねぇよダァン…』
「
もう辺りが暗かった事もあり、沈んだ気分を誤魔化すように寝てしまった。
翌朝起きると、見知らぬ天井に一瞬びっくりしたが、すぐに昨日の事を思い出した。
「今日から本格的に仕事かぁ」
『気合い入れていこうぜダァン!』
「ああ」
制服に着替え、部屋を出る。鍵をしっかりと締めてから階段の方へ駆けて行った。
途中でコンビニに寄り、少ない金から焼きそばパンを買って食べながら向かった。
あの物々しい公安の建物に着くと、段組が待っていた
「2課がどこにあるか説明してなかったので案内しようと思いましてね。」
入口で手帳を見せてから中に入り、エレベーターに乗って上に上がり、廊下を進んだ先に「特異2課」の札が見えた。
「ここです、私が君の説明をしてくるので、呼んだら入ってきてくださいね」
そういうと段組はドアを開けて部屋に入っていった。中で話している声が数個聞こえた後、段組が顔だけドアから出して、
「入ってきていいですよ。」
と言われたので
「あ、はい。」
と答えながら恐る恐る入ると、段組を合わせて8人程の男女がこちらに注目していた。その中には昨日の女性も居た。向こうも気づいたようで、
「あっ!昨日の!」
と言って目を輝かせていた
「逆井出さんと会ってたんですか?」
(あの人は逆井出って苗字なのか)
昨日は聞く間もなかったので初めて知った。
「部屋が隣だったので…」
「なるほどですね、有り得なくはない事ですが凄い偶然だ。」
段組は少し驚いていたように見えた。
「では、気を取り直して。こちらが本日から2課に配属になった絵共 弾君です。皆さん色々教えてあげてくださいね。」
逆井出という女性は
「はーい!」と元気の良い返事をし、
その隣の無精髭の男は
「…」と無愛想にこちらを見るだけだった。
いかにも真面目そうな女性は淡々と
「了解です」とだけ言った。
椅子の背もたれにもたれかかっている男は返事すら大儀そうに
「面倒くさいなぁ」とこちらを見もしない、
段組の年齢より上の年齢であろう初老の男は
「随分と急ですなぁ」と訝しげにこちらを見ており、
いかにも武闘派に見える女性は
「強いんですかね?」と言いながらこちらを観察している。
そして机に座ってこちらを見ている左目に眼帯をした女性は
「ふーん…」と興味があるのかないのかよく分からない反応をしていた。
段組が小さな声で
「癖は強いですが、皆さん良い方ばかりですから気負わないで良いですからね。」
とフォローしていたが、正直逆井出という女性以外と上手くやれる自信が無い。
「君の机はあそこの……あそこの物置みたいになってる部分ですが気にしないで使ってくださいね」
自分の机になるはずの惨状を見て段組は頭を押えていた。
『コイツ苦労が多そうな奴だなァ?』
またもや同じ事を思っていた為ツッコミかけたが、この場でツッコミを入れるのはマズイと思い我慢した。
とりあえず自分の机候補の上に乗っている紙の束やなにかの残骸、壊れた何かの部品を分けてゴミ袋に入れるなどして片付けていく。いくつかまだ使えそうなものがあったので、段組に許可を取ってみようと考え、机の上に残しておいた。
「まだまだあるな…コレ」
『どんだけ汚ぇんだろうなァ』
「さあな…」
あまりにも量が多いので少々諦めそうになる。とりあえず座れるようにはなり、机としてある程度機能するようにはなったが、それでも机の3分の2は紙と色々な物でご立派な城が築き上げられている。
「決めた、これを世紀末のバベルの城と呼ぼう」
もはやヤケクソ気味になっていると不意に後ろから
「バベルの城?」
と聞かれたので相手を確かめず無遠慮に
「天高く色んな物で構成されてる城みたいでしょう?だからバベルの塔と城でバベルのし─」
振り返るとそこには逆井出と言われていた先程の女性がいた。
「す、すいません無遠慮に!」
思わず腰を90度に折って謝る。
「気にしなくていいよ〜そんな敬意払われる程私もここ長くないから〜」
「いや一応後輩ですから俺…最低限の礼儀は必要だと思いまして」
そう言って恐る恐る頭を上げる。
「お堅いなぁ〜まぁ真面目でよろしい!」
逆井出は微笑みながらそう言った。
「ところでだけども絵共君、大変そうだし片付け手伝うよ?ちょうど暇だし。」
「わざわざ先輩の手を煩わせる程じゃ無いですよ」
「無理しなーいの!無理はデビルハンターの大敵だぞ?」
「はぁ」
「おーい有村さーん!一緒に手伝ってあげようよ!」
逆井出がそう言って声をかけると、先程の無精髭の男が現れた。
「この人は
「逆井出、無愛想は余計だ…」
有村と呼ばれた男は少し不機嫌そうに言った。
「ええ〜事実じゃないですか…あっ、言い忘れてたけど私の名前は
騒がしい逆井出と静かな有村の2人は対照的だなと感じた。
「ところで、この惨状を片付ければいいのか…?」
「あ、はい!使えそうな物は残してそれ以外はかくかくしかじかで…」
片付けの方針を説明し、2人に手伝ってもらいながら整理していく。
3人で片付けているので、みるみる目の前のバベルの城は片付き、机の上に残っているのは使えそうだと思われる物品が陳列されているだけになった。
「助かりました、本当にありがとうございます。」
「そんな畏まらなくても良いんだってば!暇だったんだし」
「…例を言われるような事では無い。気にするな」
大して気にもしてない様子だったが、一応いつか恩は返そうと決めた。
「片付いたようで良かったですよ、これで今後の業務に支障が出る事もなさそうですね…」
様子を見ていたらしい段組がやってきた。
「段組隊長〜私達頑張ったんだからね?」
そう自慢げに言う逆井出の横から有村が
「散らかしたのは誰なんだろうな…?」
とツッコミを入れると、逆井出はバツが悪そうに
「アハハ〜…」
と笑いながら誤魔化していた。
『おいダァン…コイツが手伝った理由ってもしかしてよ』
「そういうのは気づいても言わないのが男なんだよリヴェ」
自分も思いはしたが、あえて言わないのも重要であると言うことを弁えて知らないフリをした。
「そうだ隊長、この物品達まだ使えそうだったんですけど、差し支えなければ貰っていいですか?」
と聞いてみると段組は、
「本来はアウト寄りなんですが…まぁここに死蔵されていた物ですし、良いですよ。」
とこめかみを押えてながら言った。だんだん段組の事が可哀想になってきた。とりあえず許可は貰えたので、
「ありがとうございます。」
そう言ってカバンに物を入れた。
カバンに詰め終わるぐらいに段組が、
「ああそうだ、悪魔の駆除要請が出てまして、貴方達3人で向かってください。絵共君の研修も兼ねて、ですからよろしくお願いしますね。」
と言ってから机に戻って行った。
「公安になってからの初仕事かぁ」
未だに公安という文字に現実味を得られていないのが緊張していると見られたのか、有村が
「…あまり緊張しすぎるな、気楽に挑め。」
と言ってくれた。緊張していた訳では無いが少しありがたい気分になった。
「頑張ろ〜!」
逆井出はまるで運動会でもするように腕を振り回しているが、本当に大丈夫だろうかとすら思える。
出遅れないように用意を整える。公安に入る前から使っていたあの刀と、段組に頼んで支給してもらった刀を腰に差し。急いで2課の部屋のドアを出る。
逆井出と有村はドアの前で待っていてくれたらしく、自分と一緒に歩き出した。
公安の建物から出ると、場所を伝えられていたらしい有村は「こっちだ」と言うかのようにズンズン先に進んでいく。
小走りについていくが、有村の歩く速さは結構早く、距離が一定以上は縮まらなかった。
30分ぐらいして病院前にたどり着くと、門には黄色いテープが張り巡らされており、2人の警官がネズミの子1匹入れないが如く血眼で見張っていた。有村がその警官に手帳を見せながら、
「…公安特異2課から来た。」
と言うと。警官がなにか説明しだしたのでしばらく待っていた。
数分後に戻ってきた有村は淡々と説明を始めた。
「対象は現在小児病棟にいる。飛行能力は無いが力が強く壁を容赦なく壊してくるそうだ。逃げ遅れた患者が2、3名いるから生きていたら保護しろ、以上だ。質問は移動しながらにしろ。」
説明が終わると同時に有村は行ってしまった、逆井出と自分も負けじと駆け出す。
「小児病棟ってどう行けば?」
「エレベーターに乗って3階に着いたら左に曲がれ、その先の連絡通路からは死線だ、油断するな。」
歩きながら有村はそう言って金属の棒のようなものを取り出し、いつでも振るえるような体勢を取っている。
「有村さん、今回の敵は何の悪魔?」
いつの間にか小ぶりなナイフを取り出していた逆井出は有村に質問しだした。
「ネズミの悪魔だそうだ、お前の契約能力は多分通じる。」
「ふーん、なら楽かな?」
「油断はするな。情報によれば奴は分裂できる上に1匹でも残っていると倒したことにならない。」
「はーい気をつけま〜す。」
能天気に逆井出は返事をする、本当に大丈夫だろうかこの人。
「絵共。」
「はい?」
急に会話を振られて少々ビックリした。なんだろうと思っていると、
「決して、無理だけはするな。」
重みのある言葉を言われ、ただ頷くことしか出来なかった。
そうしてるうちに病院の中に入る、中は血なまぐさい空気に覆われていた。エレベーターに乗り込み、3階のボタンを押す。
入口にもエレベーターにも、悪魔の影響と思われる血痕や肉片がこびりついていた。
「そろそろ構えろ、悪魔は待ってくれないからな。」
3階につき、ドアが開くと共に地獄絵図が現れた。今さっきまで命だったものがあちこちに転がっている。
左に曲がると「小児病棟」という札が付けられた連絡通路があった。時刻が昼近くな事もあり明るかったが、それが血の色を鮮やかに見せているので余計に気味が悪い。
少しづつ連絡通路を進んでいく、割れたガラス窓の破片を踏まないように足元にも細心の注意を払う。
連絡通路を抜け、広い廊下に出ようとした瞬間、
「砂鉄。」
「足長。」
と、有村と逆井出がほぼ同時につぶやいた。すると有村の金属の棒に黒い粒が集まって剣を作り出し、逆井出の周りに大量のアシナガバチが出現した。羽音がとてもうるさく鳴り響いている。
それに反応するように周囲からネズミが大量に出現し、一点に集まっていく。
『おいダァン、オレを使え。』
「分かってる。」
爆ぜる炎のイメージを思い描く、呼応するように手足を黒い炎が覆う。
その間にもネズミはどんどん集まっていき、ついには巨大なネズミが生まれた。
「グキュリュルリアアアァ!!!?」
咆哮を上げてネズミの悪魔が突進してくる、避ける場所が無さそうなので斬りこもうとすると有村が、
「お前の刀では斬りきれない、俺に任せろ。」
と言って立ちはだかった。有村は黒い剣をネズミの悪魔に向けて真一文字に振り下ろす、すると黒い剣はブチブチと引きちぎるような音を立てて、ネズミの悪魔を真っ二つにしてしまった。
斬られる瞬間、悪魔からはとてつもない苦悶の叫びが聞こえた。有村はさらに、
「弾けろ。」
と言うと切られた身体から分裂して逃げようとしていたネズミのいくつかが破裂した。
よく見ると砂が大量に身体から漏れ出ていた。
「さすがは『砂の悪魔』の契約者だなぁ…私も負けてられないね。」
「まだ仕事は終わってないぞ逆井出。」
と逆井出が悔しがっているのを有村が注意する。
「はいはーい。みんな、潰して。」
その言葉と共に、大量のアシナガバチが一斉に飛んでいき、ネズミを見つけては刺し殺していく。
自分も手伝わなくてはと思い、小回りの効かない刀を納刀してから拳で1匹1匹潰していく。
「うわぁ…絵共君良くできるね…」
逆井出に少し引かれたらしい、ちょっと傷ついた。
着々と殺しながら数を減らしていく、このまま無事に終わるかと思っていると、不意に病室の一室から子供が飛び出してきた。その子供はこちらに気づくと
「た、助けて!」
と言いながら病室の中を指さしている。中を覗くと人より少しい大きい程度のネズミが、何かを貪っていた。しかも食い残しと見られる残骸も1つ転がっていた。
「生存者か…」
「だったもの、ですね正確には。」
見慣れてきた光景とは言え、子供の物だと思うと良い気持ちにはならない。
「逆井出、子供を保護しろ。ここは俺と絵共で引き受ける。」
「了解!」
いつの間にか逆井出は遠くに避難していた。
「絵共、何秒あれば奴の後ろを取れる?」
「5秒あれば…」
「長い、3秒でやれ。じゃあ行くぞ。」
「3秒!?」
さすがに無理がありすぎる気がするが、四の五の言っていると命が危ないので黙って従う。
「3、2、1…行け!」
「はい!」
刀に手を掛けながら思い切り床を蹴る、ネズミの悪魔の攻撃を素早くしゃがんで避け、後ろに回った。
「有村さん!」
「畳みかけるぞ!」
強く踏み込み、居合切りを放つ。黒い火花を散らして放たれた斬撃は、ネズミの悪魔を斬りすて、切られた部分から燃やしていく。
ほぼ同時に放たれた有村の斬撃は、やはり悪魔をちぎり切るように斬っていた。
「上出来だ、その炎で残った部分も燃やせるか?」
有村は顔に付いた血を拭きながら聞いてきた。
「やってみます。」
炎を刀に纏わせ、肉片に近づけると激しく燃えだした。
『悪魔を焼き尽くせる炎が今のオレの能力らしいな』
「自分で把握してないのかお前…」
『そりゃあ復讐の形は多様だからなぁ。』
それでいいのかと思いつつも、便利な能力に変わりは無いので気にしないことにしようと思ったのだった。
「終わりました?」
振り返ると逆井出が子供を片手に抱えながら様子を伺っていた。
「ああ、帰るぞ。」
「了解!」
有村は金属の棒をしまってから病室を出た、自分も刀を納めてついていく。
外に出ると血なまぐさい空気から開放され、張り詰めた気分が萎んだ気がした。
入口で警官に生存者を引渡すと同時に現場の報告をし、仕事が本格に一段落した。
「後は報告書のみだ、逆井出は特に真面目に書け。」
「はいぃ…」
「了解です。」
帰途にて逆井出が、
「そういや絵共君の契約悪魔って何の悪魔?私は見たからわかると思うけど『蜂の悪魔』ね。」
「自分の契約悪魔は『復讐の悪魔』です。」
「へー…初めて聞くなぁ、ちょっと興味湧いたかも。」
復讐の悪魔ってそんなに珍しいのかと思いつつ、公安の建物に戻ってきた。2課の部屋に入ると、段組が出迎えてくれた。
「おかえりなさい3人とも、首尾よく仕事を終えられたみたいですね。」
「隊長、報告書を3枚。逆井出にも書かせるから。」
「有村さんが言えば書いてくれますから安心ですね」
胃痛から少し開放されたような笑みを浮かべた段組の横で、逆井出が青くなっていた、余程苦手なのだろうなと感じた。
「絵共君もお疲れ様でした。公安では初の仕事でしたが大丈夫でしたか?」
「ああ、はい。なんとか。」
「それなら何よりです。次も頑張ってくださいね。」
それから報告書を受け取り、白紙とのにらめっこが始まったのだった。