チェンソーマン外典:The AvengeDevil 作:霧屋堂
ネズミの悪魔と戦った翌日、逆井出と報告書攻略に四苦八苦していると、段組に呼び出された。
「作業を止めてしまってすみませんね、絵共君。」
「お気になさらず、ところでなんの御用です?」
座りっぱなしが嫌になっていたので心中は感謝しつつ、気にしていない風を装う。
「悪魔の退治要請がウチの課に来ているのですが、そこに絵共君ともう1人で向かってもらおうと思いまして、彼と一緒に向かってください。」
と、段組が指さした先にはヘッドホンをしたあの気だるそうな男がいた。その男は視線に気づいたのか、ヘッドホンを首にかけ顔だけこちらに向けて、
「絵共君だっけ?俺は
と一方的に挨拶された。
「ぶっきらぼうに見えますけど悪い方ではないんですよ?悪い方では…」
「聞こえてますよ隊長」
段組は「あっ」という顔をして黙ってしまった。
「隊長〜私は行かなくていいの?」
余程報告書が嫌になったのか、退屈そうな声で逆井出が聞きに来たが
「貴方は報告書をさっさと書いてください、それとも有村君を呼んだ方が良いですか?」
と段組が笑顔で言うと「はい…」と言って引っ込んでしまった。有村に怒られるのは確かに怖そうだ。そんな様子を見ていたら
「逆井出はほっといて行くよ?準備は手早くね。」と呼びかけられ、声の方を向くといつの間にか腰にロングソードを提げた蛇村が、自分の横に立っており、慌てて自分も装備を整えた。
公安の建物を出て、10分程歩いた所で不意に蛇村が話しかけてきた。
「絵共君ってさぁ、身体に悪魔飼ってるでしょ。」
「へっ!?」
『何ィ!?』
段組にすら教えていなかった情報を見抜かれ、同様していると、
「やっぱり当たったか、君からは2つの音が聞こえるからおかしいとは思ったんだよねぇ。」
「音?」
一体どういうことだろうか、とますます分からなくなっていると
「なんて言えば良いのかな、人とか悪魔にはその…固有の音ってやつがあってさ、音の悪魔と契約してるから俺はそれを聴ける訳なんだ。」
「なるほどそれで…」
会話でも聞かれていたのかと思ったが、そうでは内容で安心した。
「あ、ちなみに喋ってんのもわかるよ?」
『はあァ!?』
自分が驚く前にリヴェが驚いていた。
「じ、じゃあ今まで小声でやってたの全部…?」
「うん、丸聞こえ。」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事だと思った。
『お、おいヘビムラって言ったなァ!?オレ達の事知ってどうするつもりだァ!?』
ここまで動揺してるリヴェとか見れないんじゃ無いだろうかって程には声が震えている。対する蛇村の回答はと言うと、
「別に?確証を持ちたかっただけだし。」
こっちの予想から180度逆の反応だった。
『はァ?』
「そ、それだけなんです?」
と聞くと、蛇村は頷いて
「うん、それだけ。チクリなんて趣味じゃないしね、隠してるならそれなりの意味あるんでしょ?」
「まぁ、はい。」
「ならそれでいいじゃん。人の領域に踏み込む程俺は野暮じゃないからね。さっさと仕事行こうか。」
と言って蛇村はずんずんと歩いていってしまったので、急いで追いかける。
『なんともさっぱりした奴だが…信頼はできそうだなァ。』
「どこで判断した?」
『悪魔のカンって奴だよ。』
少し不安になったが、初日から気づいていてあの反応なら大丈夫だろうと思った。
さらに数分程歩いて着いた場所はアーケード街だった。しかし電気は所々消え、天気も微妙なために暗く不気味な雰囲気を醸し出していた。
入口付近に黄色いテープが張り巡らされ、その前で警官が何かを待つようにキョロキョロしながら立っていた。その警官は自分たちを見つけると、
「公安の方ですね?」と聞いてきたので、2人揃って手帳を見せ、
「2課の蛇村でーす。」
「同じく2課の絵共です。」
と名乗る、警官は手帳の写真と顔を見比べ、ようやく信用したようで
「こちらが今回の対象です。確認の限りでは生存者は中に残っていません。後はよろしくお願いいたします。」
と言って軽い資料と懐中電灯を手渡し、黄色いテープの比較的入りやすい場所から自分達を入れてくれた。
資料に書かれていたのは「推定:コウモリの悪魔(現場が暗く姿が1部しか確認できず。)」という情報だった。
やはり中は暗く、懐中電灯でも心もとない。
『身構えとけダァン、炎を出しとけ。』
と言われ、能力を行使しようとしたら蛇村が
「それは待ってくれるかな?今ちょっと炎の音がされるのはまずい。」
一体どういうことだろうと思い
「何故です?」と聞くと、
「今『音』の能力で奴を探してるんだよ、だから新たな音はノイズになるからやめて欲しい。」
「わかりました。」
索敵をしてくれるのはありがたいので、指示に従うことにした。
無音の時間がすぎていく、体感で20秒だったかもしれない、不意に蛇村が
「…見つけた。」
と呟き、駆け出した。不意を突かれたが遅れまいとついて行くが暗いために見失ってしまった。少しでも光源を確保しようと能力を使う。
「ふと思ったがなんで黒い炎で明るいんだ?」
『オレに聞くな、お前の心の有り様がオレなんだから知るわけねぇよ。』
「あ、そう…」
いい加減自分の能力ぐらい把握しておけと言いたい、人の事は言えないが。それはそれとして光源が確保されたことで周りが見やすくなったが、肝心の蛇村も悪魔も見つからない。
「どこいったんだ?」
アーケード街は大通り以外は狭く、さらに入り組んでいるせいで、最低限の光源では心許ない。そこに入っていくのは気が引けるし、そもそも悪魔のサイズ的にいるかどうかも謎なので余計に入る気になれなかった。
そんなに風にあれこれ思案していたら不意に
『おい!後ろだダァン!』
とリヴェが叫んだので咄嗟に抜刀して刀を背後に向ける。そこに居たのは蛇村だった。
「隊員同士で殺生は良くないよ?」
蛇村は両手を上げながら話していた。
「おいリヴェ?」
『すまねぇ悪魔の気配だと思ったんだけどなァ…?』
申し訳なさそうに謝るリヴェに対して蛇村は、たいして気にしてなさそうに
「まぁ、そういうこともあるよリヴェ君。」
と自分の肩をポンポンと叩いた。そして続けて
「ところで、ちょっと耳塞いどいて。」と言われた、慌てて両耳に指を突っ込んで塞いだ次の瞬間。
轟音が響いたあと、後ろに何かが落下してきた。
「なんだ!?」
「なんだって…悪魔以外にいると思うのかい?」
『とことん冷静だなァお前ェ』
悪魔にツッコミを食らうレベルでマイペースなこの人はある意味すごいなと思う。
それはそれとして後ろを振り返った先には、巨大なコウモリが耳から血を垂れ流しながら呻いていた。
「貴様ァ、良くも私の耳をォ!」
「『音』の力で奴の鼓膜を破ったんだ、どうせ殺すわけだし問題は無いね。」
『見方によっちゃ悪魔より恐ろしいぜこいつ』
さらっと拷問まがいのことをしている上に、巻き込まれる可能性があったのが更に恐ろしい。
「さて、殺すか…コウモリ、君は何度目かな?…と言っても聞こえてないか。」
コウモリの悪魔の体を踏みつけながら、蛇村はロングソードを突きつけていた
「おのれぇ…!おのれぇ!」
やはりコウモリの悪魔は耳が聞こえてないらしく、喚くだけだった。
「じゃあね。」
その言葉と共にコウモリの悪魔にロングソードが振り下ろされ、その首が跳ね飛び、切り口から鮮血が迸った。
蛇村は血に濡れたままの顔をこちらに向け
「あっさりと終わったね、君の見せ場を作れなくてごめん」と申し訳なさそうに言った。
「い、いえ」
『嫌味なヤツ…』
聞こえてるんだから少しは発言に気をつけたらどうなんだ、本当に。
「多少の悪口くらいは許してあげるよ、それじゃぁ帰ろうか。」
蛇村はそう言ってアーケード街の入口にスタスタと歩いていってしまった。
入口で待っていたさっきの警官に報告を終え、帰途に着いた。
「さて、帰ったら報告書を書かなきゃね。きみは二件分だけど大丈夫かな?」
「あ〜…」
ただでさえ活躍出来なかったのに加えて、仕事が増えた事を嘆いた。
『頑張れよダァン』
「いやだなぁ…」
公安の建物に帰る足取りは、とてつもなく重くなったのだった。
ところで蛇村が言っていた『何度目』とはなんだったのだろうか?