チェンソーマン外典:The AvengeDevil 作:霧屋堂
コウモリの悪魔と戦ってから数日の間は特に大した仕事も無く、平凡なパトロールと山積みの書類整理で日々が過ぎていった。
せいぜい目立った出来事と言ったら、逆井出が溜まりすぎた書類の塔の雪崩に巻き込まれ埋まっていたのを課全員で助けた事ぐらいだろうか。
そんなある日、ほとんどの人が出払っていたり非番で、課に残っていたのは自分と段組と初老の男の3人だけだった。
男の名前は
段組によるとこの歳で未だに公安でデビルハンターをやっている事は稀らしく、公安の知恵袋として多くの人から尊敬されているらしい。
この時自分は仕事が片付いてしまって暇になっていたので、以前この机がゴミ山になっていた時、出土したメモリにデータが残っていないか確かめていた。
やはり大半の物は大したことなかったり残っていたがクラッシュしていたりで、気に止めることも無かったが、一つだけ妙な物があった。
それはほとんどが文字化けを起こしていたが、1部は何とか読めた。
どうやら文書のデータのようであり、何かについてまとめられていた。
「『■の悪魔の#片=■法⊃■いΣ』? 読めないけど何かはありそうだなコレ」
『悪魔についての研究っぽいなァ、オマエの前任の物なのかァ?』
「聞いて見なきゃ分からねぇな、不破さんに聞いてみるか。」
知っているかどうかは分からないが、何かはわかるかもしれないと思い、聞きに行くために席を立った。
不破は机に座ってジッポライターの手入れをしていた。タバコを吸っている所を見た事は無いから、悪魔の能力の使用のための物だろうか?と思う。
「不破さんちょっと聞きたいことがあるんですが、良いですか?」
そう話しかけると不破は手入れの手を止め、顔だけこちらに向けてから
「少々お待ちくだされ、もう少しで手入れが終わります故に。」
と言ってまたジッポの手入れに戻ってしまった。
不破は慣れた手つきで綿を入れ、フェルトパッドを嵌め、ネジを閉めてからライターオイルを継ぎ足して、燻んだ銀色をしているケースに火をつける部分であるインナーユニットをはめ込むと、蓋を閉めてそれをポケットにしまい込んだ。
そして多少オイルが付着した手を拭きながら
「お待たせしました絵共君、なんの御用件でしたかな?」
と聞いてきた。
「自分の今使ってる席は前にどんな方が使っていたか聞きたいんですが…」
と聞くと不破は急に難しい顔をした、失礼があったのだろうか?
なんて思っていると、いかにも言いづらそうに
「大変言い難い事ですが…あなたの席の前の方は不可解な失踪をしていまして、あまり誰も触れたがらないのです。」
「不可解な失踪?」
なんとも不穏な話題が聞こえたために、思わず聞き返してしまった。不破は深く頷き、
「左様、その方の名前は
その苗字を聞いた時、もしかして、と思った。
そしてそれは見事に的中した。
「永利君の兄であり、有村君の同期でありバディだったお方です。」
「逆井出さんにお兄さんが…?それに有村さんの元バディって…」
「有村君は話したがらないでしょうな、何しろ失踪する数分前まで会っていたのですから。おそらく永利君も、心の底から信用している方以外には話さないでしょうね。」
かなり闇が深そうな気配を感じ取った、触れてはいけないような感じすらする、しかしあのデータの事が気になるので引く気にもなれない。
「その…逆井出さんのお兄さんは一体何をしていたんですか?」
「私も良くは知らぬのですが、デビルハンターとしての傍ら、悪魔の死骸についての研究を行っていたそうです。」
「悪魔の死骸?」
と聞くと不破は頷き
「左様。悪魔は殺せば死骸が残るケースがありますが、通常その死骸は廃棄されます。それをどうにか利用できないかと考えていた。と聞いていました。」
『
確かにあんまりまともには思えない研究内容だと思った、一体何に利用するのだろうか?
「それで…その人はどう言った失踪を──」
と聞きかけたところに、電話のコール音が鳴り響きそれを遮った。
段組が電話を取り、何やら一言二言の応対をして電話を切ると、こちらに向かって
「2課に出動要請が出ました。急ですみませんが不破さんと絵共君の2人で向かってくれますか?」
と、申し訳無さそうに言った。
「仕方の無いこと、悪魔は何時でも湧きますからな。絵共君、行きますよ。」
そう言って不破は立ち上がり、用意を始めた。自分もそれに遅れないよう急いで刀を準備した。
2課を出ると、先に外にいた不破は鞘が円筒状の刀を背中に差していた。
「場所はそう遠くない公園ですが、建物内では無い分逃げ出すと面倒ですから急ぎますぞ。」
移動しながら不破はそう言ってやや早歩きに進んでいく。
ここの人達は誰もが足が早いがするが、デビルハンターにとっては常識なのだろうか?
体幹2分程で公園に着き、入口の警官に声をかけると、
「まさか不破さんが来て下さるとは思いませんでしたよ…こちらが情報です。」
と、いかにも希望を得た様に話していた。
「いえいえ、こんな老いぼれなんかを頼って頂ける事こそ有難い事です。」
「不破さんの他に頼りになるのは1課の岸辺さんぐらいですから…ところでこちらの方は?」
「彼は新人の絵共 弾君です。私よりも攻撃に特化した悪魔と契約していると聞いています。」
そう説明された警官は、こちらをじっと眺めた後
「少々肉が足りない気がしますな…鍛えた方がいいぞ少年。」
と、少々舐められているかのような評価を受けた。
それを適当な返事で誤魔化して、黄色いテープを潜って公園内に入っていった。
少し日が傾いていて、公園内の何も無い部分ですら少し不気味さを感じさせる。主旨の分からないオブジェの横を通り抜けると、ロープで形成されたジャングルジムにその悪魔は跨っていた。
「あれが今回の討伐対象か…」
その悪魔は蛇のような長い体だった、その体のあちこちには変な穴が空いていた。
「情報によるとマムシの悪魔らしいですな、民間のデビルハンターが既に3人殺られているようですから気をつけましょうぞ。」
能力を発動させ、刀を抜刀して臨戦態勢になりジリジリと近寄っていく。横目で不破を見ると、背中の刀を鞘をつけたまま構えていた。
「人間共よ、またワシに食われに来たのか?」
「お前にきく無駄口は無いぞ」
マムシの問にそう答えると
「ふん、ならばさっさと食われろ!」
と言いながら飛びかかってきた。
『避けろダァン!受け止められるようなヤツじゃねぇ!』
「っ!」
リヴェの声で咄嗟に横に飛び退く。不破さんも反対方向に飛び退いた様だった。直後マムシが落下してきたが、その地点は深く抉れていた。
「蛇の癖にデカすぎんだろ!」
そう言いながら斬り込む、しかし避けられてしまった。
「あんな巨体なのに速い?!」
もう一度炎を刀に纏わせて何度も斬り込むが、寸前で避けられてしまう。しかも背後に回ったりしているのにもかかわらずだ。
「不破さん!攻撃が当たりません!」
不破は攻撃を避けながら
「少々時間を稼いでくだされ、隙を作ります故。」
と言われ。
「わかりました!」とこちらも避けながら返事をする。
炎をさらに燃え上がらせ、マムシの周りを飛びまわりながら刀で斬り込む。攻撃は少しも当たらないが、不破の方向に少しでも意識を向けない事には成功した。
不破は何かを書いた紙にジッポで火をつけると
「出番だ、
と言った。その瞬間、陣を中心に周囲に熱気を伴った煙が立ち込め、公園を覆った。
「なんだと!?クソッ何も見えん!」
マムシは途端に視界を失った様に動きが鈍り、体の端に刀が掠った。
『こりゃあ聞いたことがあるなァ、ピット器官って言うあれじゃねぇか?』
「なるほど熱か!」
どうりでどんなに死角から攻撃をしかけても当たらないのだ。あの身体中の穴はその為にあったらしい。
この煙でピット器官が機能しない今なら当たる、そう確信し地面を蹴る。
「死ねぇ!」
マムシの身体を下から斬りあげ、真っ二つにする。
「ツッギャァアアア!」
劈くような叫び声をあげるが、まだ息があるのか頭がこちらに向いて噛み付こうとしてくる。その脳天に刀を振り下ろし、とどめを刺す。
マムシの死骸は自分の両側に別れて滑っていき、血を撒き散らしながら公園の柵に衝突してようやく止まった。
「ふぅ…」
「良い戦いぶりでしたぞ絵共君。」
不破が労いの言葉と共にハンカチを差し出す。それを受け取って顔に着いた血を拭きながら
「不破さんの助けがあったからですよ。便利ですね、その悪魔。」
「
なるほど、と思って頷きながら
「そのジッポは悪魔用なんですね?」
と聞くと
「ええ、煙が無ければ呼び出せませんからね。中々に面倒くさいのですよ。」
と言って不破は苦笑した。
その後公園の入口に戻り、警官に後を引き継いで帰還した。
帰路で、2課で聞こうとしていた事を思い出した。
「不破さん、さっき聞けなかったんですが、逆井出さんのお兄さんはなんで失踪したんですか?」
不破は数秒黙ってから、周りに聞こえないように声を潜めてこう言った。
「失踪した理由は分かりませんが、彼は有村君と話した後にある人に会いに行ったそうです。」
「その人っていうのは誰なんです?」
さらに質問すると、不破はさらに声を潜めて、
「次に言うことは決して口外はしないでくだされ…彼は、」
その次の言葉は、あまりにも衝撃的だった。
「段組隊長に会いに行ったのです。」