錦木千束からこの世界の事を聞いて二日が経った。
彼女から聞いていた通り悪魔、魔人、デビルハンターの存在が全く無いこの日本は平和そのもので、DAによって行われる犯罪の未然防止のおかげか前の世界とは比べ物にならないぐらい快適な街だった。
しかしそれ以前の問題に私は悩んでいた。
「ここも不採用か」
不採用と印をうたれた紙を丸めてゴミ箱へ捨てる。
この2日間、収入を得るための就職先を色々と探したが中々上手くいってない。
「さすがに腹が減った」
そのせいで今の私は変わらず無一文で食パン1枚買う金すら無いため、ここ2日まるっきり何も食べずに過ごしていた。
「前の世界では金なんて困らなかったのに」
そうだ。
しかしこの世界には狩れる悪魔の1匹もいない。
生まれてから今までデビルハンターとして働いてきた私にとって完全に仕事が消えたのはかなりの痛手だ。
昔、ピンツイが言っていた『芸は身を助ける』とはこの事だったか。
デビルハンター以外にも私も何か得意分野を作っておくべきだったな。
「それでも就職できる場所は無いだろうな」
はぁ、とため息をついてソファーにもたれかかると聞こえてくる今朝のバイトの面接で言われた言葉。
『免許証は?無い?じゃあ身分証か何か出してくれるかい?はぁ!?そんなもの無い!?ダメだダメだ!そんな怪しいヤツ雇えるわけがない!』
昼に行った所もそうだった。
『身分を証明できるものが無いだって?そりゃあ無理だよ嬢ちゃん。どっかの治安悪い国ならまだしもココは日本だぜ?さすがに雇うのは無理ってもんだ』
なら夜の仕事ならどうだろうか。私は美人だ、働けば必ず売れるだろう。
そう思って足を運んだが結果は同じだった。
『美人だけど、さすがにどこの誰とも分からねぇヤツを入れるのはなぁ?』
だったら街を回った時に見つけた
『て、てめぇ!何してくれてんだ!化け物め!このクソア───』
腕に自信があると言えば、ならテストしてやると戦闘になり戦闘員らしき男達を10いや20人くらいか、それぐらいを気絶させたつもりだったんだが殺してしまって断られた。加減は苦手だ。
「やっぱり奪うしかないか」
ソファーから立ち上がって上着を羽織り、念の為監視カメラ対策で帽子を深く被った。
使う事はないだろうが机にあるポケットナイフをしまって私は外に出た。
──────
side少女.
その日も私は任務に就いていた。
薬物の取引現場を抑えて仕入れ元の情報を吐かせろ、というよくある簡単な任務だった。
いつもの相棒と共に現場へ向かって取引現場を抑えたまでは良かった。ただ聞いていたよりも人数が二人多くて1人が逃げ出してしまった。
制圧が完了していた現場を相棒に任せて私は逃げた一人を追って裏路地の奥までたどり着いた。
「動くと頭を撃つ」
「わ、わかった!殺さないでくれ!!」
壁を背に命乞いをする男にもう逃げないよう脚を狙って銃を構えた。
すると怯えていた男の表情が一転してニヤリと笑顔になった。
「?」
死ぬ恐怖で頭が狂ったのか、なんて思いながら引き金を引こうとした時だった。
「ほんっとにリコリスって居るんだなぁ」
背後から目の前の男とは違う声が聞こえた。
私は咄嗟に振り返って銃の引き金を引いたが現れた男に腕を掴まれて空を撃った。
手を振り払い、男のアゴ目掛けて銃で振り抜いたがスレスレで避けられる。
「あっぶねぇなぁリコリスは!!」
「っくぁ!」
脇腹を男に蹴られて壁まで吹っ飛ぶ。
私はリコリスの中では身長175はある長身だ。そんな私を蹴り飛ばすなんてどんな怪力。
「ぐぅぅっ」
「ははは!ざまぁみろクソガキ!!
「お前等良かったなぁ!俺を雇っといてよぉ!金払いが良い奴はしっかり守るぜぇ」
迂闊だった。
金に目の眩んだひ弱な犯罪者だけだと思っていたのがいけなかった、護衛の存在を警戒するべきだった。
堂島と呼ばれた赤髪の長身怪力男。
コイツの存在は必ず残す。私は殺されるだろうがまだこっちに来てない相棒に託して死んでやる。犯罪者は絶対に許さない。
「おいおいおい!死にそーなのに携帯かよ!!彼氏に最後の言葉でも送るのかァ!?」
「っあ、ぐぅぅっ!」
「んな事させる訳ねぇだろぉ!」
脚を踏み抜かれてボキリと右脚が折れた。
あまりの痛さに携帯を落としちゃって、踏んで破壊された。
「残念だったなぁリコリス!」
「マジ凄いっす堂島さん!さすが選ばれた男っすね!!!」
「そうだろ!そうだろぉ、俺には誰にもかなわねぇんだよ分かったかリコリスゥ!!」
「うっ!」
私のお腹に堂島の蹴りが刺さって息が出来なくなる。次第にお腹の中で嫌な感じがした後に口から血が大量に漏れ出てくる。
「え、えらばれた、って、アンタ」
「さすがに丈夫だなぁリコリス。そう俺は選ばれた存在だ。類稀なこの力は
そう言って堂島はポケットから
意識が朦朧としながらも私は有名なソレを認識できた。
「アラン、機関……」
「まあそんなわけだ、まぁ後悔して死ねよリコリス!あばよォ!」
「っ!」
男の拳が私に迫ってくるのを見て私は目を閉じた。
ごめんねカナ、私ここまでみたい。
今も現場を守ってくれているだろう相棒に謝って私は死を待った。
「………?」
しかし一向に来ない衝撃。
殺すなら早く殺してくれ全身が痛いんだ。それとも拷問の趣味がある糞野郎なのか、なんて思いながらまだ待つがそれでも来ない。
「な、なんだお前!?」
堂島の荒らげた声が聞こえて私は恐る恐る目を開けた。
するとそこには私に迫っていた堂島の拳を
「こんな可愛らしい少女に何やってるんだ」
「お前もリコリスかぁ?」
「私はただの女好きの女だよ」
「ならァ!!ぶっ殺して良いなぁ!!!!」
ブチリと血管が切れる音が聞こえるくらい怒った堂島が女の人に殴り掛かるが、なんと女の人はまた片手でソレを止めた。
「なっ!?」
堂島は拳を止められたのが相当驚いたのかそのまま停止して女の人を凝視する。
すると女の人は拳から手を離して私の前に片膝を着くと頬を触ってくる。
「酷い怪我だ、すぐに仲間の元へ送ろう」
なんでこの人はこの状況でこんなに余裕なんだろう、と消えかかった意識で思った。
相手はアラン機関にも認められた強さの持ち主。それを相手取ってるのになぜ背を向けるのだろうか。
そんな疑問はすぐに答えが出た。
「テメェ舐めやがって!!!」
「ん」
なぜなら女の人は背後から迫った堂島の回し蹴りを左腕だけで受けると、そのまま足を掴んで
空中を舞って壁に沈んだ堂島を見て私は開いた口が塞がらないまま女の人を見る。
「すぐ片付く」
女の人が帽子と上着を脱ぎ捨てて堂島の方へ歩いていく。
銀色の綺麗な髪を靡かして指を鳴らす彼女の姿は不思議と安心できて私は、意識を手放した。
──────
sideクァンシ.
拠点を出てすぐの裏路地で人がいるのを感じた。
この近くは廃墟ばかりで誰も住んでいない為、居るとしたら話に聞いたDA関連の人間かテロリストぐらいだろう。
気配を消して人の居る方へ足を進める。すると少し開けた場所で千束と色違いの制服を着た少女が赤髪の男に蹴り上げられているのを見つけた。
少女はかなり重傷な様子で助けたいとは思うが、DA関連はあまり関わりたくない。
千束と戦闘したから今更変わらないかもしれないが、目をつけられるのは面倒だ。
しかしリコリスの少女を見殺しにすると千束に何を言われるか。
可愛い彼女にはあまり嫌われたく無いが、ここで入ると面倒事になるだろう。
「あばよォ!」
迷っている内に男が少女にトドメを刺そうとしていた。
男なら見捨てるが、少女だ。仕方がない。
少女を殴ろうとしている男の前に
男は驚いている様子だがどうでもいい。
少女は近くで見るとかなりの重傷で危ない状態だ。
病院、には運んでいいのだろうか。いや、仲間がいるだろうからそっちに運べば大丈夫か。
なんて考えていたら適当にあしらっていた男がまた殴りかかって来たから、放り投げて彼女に声をかけた。
「すぐ片付く」
気絶した彼女を背に壁から抜け出した男に向かう。
「死ねぇ!!」
力任せのくだらない攻撃をいなし、顎を脚で穿つと赤髪の男はバランスを失って場に尻もちを着いた。
見ていたヒョロい男が悲鳴を上げて逃げようとしていたから腹を蹴り上げて大人しくさせた。多分死んでないハズ。
「ぅがぁぁあ!!!」
「ん」
ふらついて起き上がった赤髪男から飛んできた拳を受け止め、続いて来た右脚の蹴りを
とりあえず片付いた。周囲を探ってまだ潜んでいるのが居ないか確認して、少女を抱き上げる。
千束から聞いた話ではリコリスは基本的に部隊を編成するか相棒とのペアで任務に就く。
ならば周辺に彼女の仲間がいるはず。
耳を澄まして周辺を探ると近くに人がいるのが分かった。多分彼女の仲間だろう。
「リリ!!貴女!その子から離れろ!!」
私の姿を見るやいなや銃を構える少女。
やはり可愛らしい少女が銃を持っている事に違和感があって慣れないな。
「私は敵では無い。この子、重傷だからすぐに手当を」
「っ!あなたが助けてくれたんですか」
私の後ろで
「倒れていたのを見つけただけ。それと向こうに男が転がっているから処理を」
「っ、わかりました。すぐに応援が来るのでもう行ってください」
「良いのかい、私は君達の活動を目撃した」
「男達は仲間割れをして相打ち。私は何も見ていない、それだけです」
「ふふありがとう」
リリと呼ばれた彼女を少女に預けて彼女の頭を撫でる。
撫でられ慣れてないのかくすぐったそうにする彼女に微笑んで、ふと思った。
そうだどうせなら男達から金品を頂こう。
「後は任せる」
複数人の足音が近付いて来ているのを感じ、彼女の返事を待たず私は男達の元へ移動して財布や鞄をもらい、その場から離れた。
──…
「疲れた」
拠点に戻り上着を脱ぎ捨てるとソファーにもたれる。短時間だったが色々と神経を使うことが多くて疲れた。
「……金」
少しダルい体を起こして財布や鞄を机の上にぶちまけて金品を探し始める。空腹も限界が近いため数万程入っていてくれれば嬉しいんだが。
「ゴミばかり」
私の期待とは裏腹に入っているのはくだらない物ばかりで一切金になら無さそうだ。こいつらは何故財布に金を入れずカードゲームの紙を入れているのか。
「
はぁとため息をついて最後に残った鞄に手を突っ込んだ。するとガサリと音をたて封筒があった。
またゴミか、と思い中を確認すると100万の束が2つ出てきた。
「──────!」
この日私は生まれて初めて声を出して喜んだ。
フィジカルモンスタークレイジーサイコレズさん。
金見つけた時の様子はジャンケンで勝利した時のたきなを思ってください。
評価感想ほんと励みになります。