翌日、千束はいつもの笑顔で出勤すると、明るい声でゴム弾から実弾に替えると宣言した。
ミカたちが驚いたのは言うまでもなく、深刻な家族会議が開かれた。私もまた、クルミから何があったのかと問い詰められたが、わからないと答えた。
実際のところ、千束がその選択をしたのが私の影響なのか、それとも蚊帳の外なのか、まったくわからない。
それからいくつかの依頼を受けて、何人か殺した。その度に家に連れ込まれ、夜中千束の葛藤に付き合わされたが、悪い気分ではなかった。
本当にこれで良かったのかと、私も最初は迷ったが、その思いはすぐに消え去った。
千束が人を殺すようになってからしばらくして、吉松が新しい心臓を持って現れたのだ。
まったく知らなかったのだが、元々千束の人工心臓は、そんなに長くは持たないものだったらしい。それは「前回」の最後にも語られなかったから、私も知らなかった。
吉松はその心臓を少し前に開発していたが、千束が彼の望むような行動をしていなかったから渡さずにいた。事前に知っていればもっと全力で千束が人を殺すことに協力していたが、結果としてこうしてもたらされたので構わない。
長く生きられると聞かされた日、千束は「少し考える」と浮かない顔で答えて、また私を家に引っ張っていった。そして、物憂げに気持ちを吐露した。
「私みたいな殺人鬼は、長生きしない方がいいと思う」
「いえ、私はあなたに長く生きて欲しいです」
「長く生きてたくさん殺せって?」
「あなたは、殺した人より、殺したことで助かった人のことを考えるべきです。大体……」
「はいはいわかりましたわかってます」
千束は面倒くさそうにそう言って、耳を塞いで首を振った。聞き分けのない子供のような仕草だ。
しかし、その後すぐ、千束は手術を決断し、ふた月ほどで現場に復帰した。
今日も何人か人を殺して、千束は浮かない顔をしている。そろそろ慣れてもいいと思うが、毎回落ち込むのも千束らしくて良い。
今夜もまたベッドで愚痴を聞かされたり、お前のせいだとなじられるのだろう。とても楽しみだ。
その光景を想像して微笑んでいたら、千束が気味悪そうに私を見て距離を置いた。
「お前、本当に気色悪いな」
「真顔で相棒に言う言葉ですか? 傷付いたので、今夜は千束が私を慰めてください」
「嫌だね。また勝手に私の乳触って喜んでろ」
「確かに私は千束の胸を触りますが、それに喜びを感じたことは一度もありません」
「じゃあ触んなよ!」
「嫌です」
果たして、一度失われた信頼は取り戻せたのだろうか。
千束が人を殺すことで、相棒である私の生存確率も格段に上がった。
この先もDAの任務に邁進し、いつか二人揃ってリコリスの制服を脱ぐ日が迎えられたらと思う。
千束をもう、どこにも行かせはしない。