魔女と処刑人   作:雷神デス

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筆が載ったので


処刑人の息子

 

 

「ロレッタを模した人形の首を斬れば、父上もどうにか許してくれないだろうか?」

 

「もしそれでなんとかなると思っているのなら、ご主人様はアホですね」

 

「なんだと!」

 

 

 俺とロレッタは、村にある小さな広場で作戦会議を行っていた。

 内容は勿論、どうやってロレッタを殺さずに当主になるかだ。

 まあ、当の本人があまりやる気ではないのだが。

 

 

「いや、そうだな。父上は、もしかすれば酒に酔ってあのようなことを言ったのでは?もう一度訴えれば、あの宣言を撤回してくれたり……」

 

「あれが酔ってるように見えたのですか?ご主人様の目は節穴ですか」

 

「お前はもう少し主人を敬え!それと危機感を持て!!」

 

 

 父上のあの宣言から、一日が経った。

 俺はどうにかあの宣言を撤回してもらおうと父上に掛け合ったが、聞く耳は持たれず。

 血に狂ったイカレ女のレーサは、むしろやる気満々にギルバードの首を眺めていた。

 

 

「どうかしているぞ。何故わざわざ罪も無い奴隷を殺す!?処刑人の役割は罪人の首を落とすことだ!己の従者を殺して、一体何の意味がある!?」

 

「さあ?私には見当もつきません」

 

「何故おまえはそうも冷静なのだ!このままでは一か月後に死ぬのだぞ!?」

 

 

 当主を決める条件、それ自体は至極シンプルだ。

 幼い頃から連れ添っていた従者の首を跳ねることができた者が当主となる。

 とは言っても、当たり前のことだがこの条件は俺に有利なものであった。

 

 

「お嬢様、悔しがっていましたね。血のつながりの有無があるとはいえ、同じ条件を満たしたならば当主になるのはご主人様とは」

 

「フン、それは当然だ。処刑とは悦楽で行うものではない。罪人の罪を死という罰で洗い流し、新たな道を示す神聖な行為。あの愚妹に任せることなどできはしない」

 

「殺しに神聖もクソも無いと思うのですけどね」

 

「お前達ダークエルフにとっては、そうかもしれんがな」

 

 

 ダークエルフとは、とあるエルフが魔道に落ちた結果生み出されたとされる悪のエルフだ。

 自然を愛し、妖精に好かれるとされるエルフとは対照的に、自然が嫌い悪魔に好かれる。

 過去に起きたダークエルフに起因する事件の数々から、非常に危険な種族であると言われており、ロレッタもその例に漏れずとても恐ろしい女なのだ。

 

 

「それでも、国には法律がある!奴隷は個人の所有物として扱われてはいるが、それでもお前が何か罪を犯したわけでも無いだろう。それなのになぜ、俺がお前の首を斬らなければならんのだ!その行いに正義は無い!」

 

「はぁ。正義、ですか」

 

「そうだとも、正義だ!処刑人は、国の忠実なしもべでなくてはならんのだ!」

 

 

 処刑人は、民草からは嫌われている職業だ。

 罪人の命を断ち、その咎を一身に背負うことから、穢れているとされている。

 それでも処刑人という存在が無くならないのは、誰かがそれをしなければならないからだ。

 

 たしかに、人を殺す処刑人は穢れた役割かもしれない。

 けれど、罪を償うことができぬ罪人を、恐ろしく凶悪な犯罪者を。

 どうしようも無い人々に、最後に死という救済を与える者達は、絶対に必要なのだ。

 国に必要とされている、穢れながらも神聖な、正義の役割なのだ!

 

 

「その正義がぶれることがあってなるものか!俺は反対だ!」

 

「そもそも、ご主人様は人を殺すことが出来ないでしょう」

 

 

 なんと馬鹿なことを言うのだろうか、この従者は。

 しっかりと教えてやらねばなるまい。

 

 

「違う!俺ができないのは、罪人以外を殺すことだ!」

 

「はぁ」

 

「罪人を救うためとあらば、幾らでも刃を振るおう!だが何の罪も無く、死という救いが無くとも問題ない者を殺せば、それはただの殺人だろう!」

 

「なるほど」

 

 

 俺は殺人者になりたいわけではない。

 処刑人という、大儀ある人間になりたいのだ。

 

 

「相変わらず、言い訳を言う時は早口ですね」

 

 

 冷たい目で言い放つロレッタ。

 やはりこいつは、俺のことが酷く嫌いらしい。

 まあ、奴隷である以上主人を嫌うのは当たり前なのだが。

 

 

「お前はもう少し俺に遠慮というものを覚えろ。だいたい、どこが言い訳だというのだ」

 

「さあ。ご自分の胸に聞いてみては?」

 

「こいつ……!」

 

 

 なんという女だろうか。

 主人への敬意を見せないどころか、敵意を隠すつもりも無い!

 これで俺が主人でなければ、酷い目に遭っていたぞ!

 

 

「いい加減、お前も何か案を出せ!何かないのか、何か!」

 

「簡単な解決案がありますよ」

 

「おお!流石ダークエルフ、頭は回るな!で、その案というのはなんだ?」

 

「ご主人様が私の首を斬れば済む話です」

 

「ふざけているのか!それができんから困っているんだ!」

 

「ふざけなどいませんが?」

 

 

 氷のように冷たい声で、ピシャリと言い放たれた。

 その様子に、ふざけている様子など一切無かった。

 

 

「あなたが何の問題も無く人を殺せるような男ならば、あなたのお父上もこのようなことを言い出すことも無かったでしょう。これはあなたの勇気の無さが招いた障害です」

 

 

 何か反論しようとするが、有無を言わせぬ視線で黙り込まされる。

 こいつのこういうところが、俺は嫌いだった。

 

 

「斬ればいいでしょう。何を躊躇するのです。夢を前に、それを諦めるのですか?」

 

「う……うるさい!嫌なものは嫌だ!お前を斬るべき理由が見当たらん!」

 

「またあなたは、そうやって……」

 

「黙れ!そもそも何故お前はそんな簡単に己の命を捨てるのだ!もう少し大事にしろ!」

 

 

 まったく、ダークエルフというのは皆死にたがりなのだろうか?

 罪も犯していない女が、何故死ななければならないのだ。

 何故俺が、そんな女を斬らなければならないのだ。

 

 

「……まったく、もう」

 

「いいから、お前も何か──」

 

 

 

 

「よぉ、ケッチ」

 

 

 

 聞きたくない男の声が聞こえた。

 うんざりした顔で、取り巻きを引き連れニマニマと汚らしく笑う男の方を見る。

 この村を含めた、この地一帯を収める領主。

 そのドラ息子であり、酷いいじめっ子であるクソ野郎、ジェームズだ。

 

 

「なに平気な面してこの村を歩いてんだよ、処刑人の息子がよぉ」

 

「何が悪い。処刑人の息子が村を歩いちゃならない、なんて法律は無いはずだぞ」

 

「常識だよ、常識。法律に書く必要すらないような、当たり前の話なのさ」

 

 

 何が常識だ。

 俺とロレッタに下種な視線を送るこの男は、村一番の問題児だ。

 その立場を傘に着て、人から無理やり物を奪い、子供を何度も殴り。

 人間の皮を被った悪魔のような奴、それが俺のジェームズという男に対しての評価だ。

 

 

「無茶苦茶だ。そんな差別、許されるはずがない!」

 

「何が差別だよ。人の命を奪って金を貯める悪魔共の癖によぉ」

 

「なんだと!?」

 

 

 思わず激昂し、ジェームスに詰め寄る。

 

 

「訂正しろ、今の言葉!処刑人は立派で、大儀ある仕事だ!」

 

「また言ってやがるよ、こいつ。どこに大儀があるんだよ、人殺しの家系によぉ!」

 

 

 取り巻きと共に嘲りの言葉を吐き笑うジェームズ。

 上品さの欠片も無い、下品で醜悪な顔だ。

 

 

「貴様……!」

 

「お、なんだ?ついに殴るか?いいぜ、ほら殴ってみろよ。ほらほら、弱虫ケッチ、やってみろ!俺を殴れるのか、あぁ?」

 

 

 青筋を立てながらも、挑発には乗るまいと拳を握り閉め、耐える。

 決闘の誓いを建てぬ貴族同士での諍いは、法律で禁止されている。

 

 

「やっぱ馬鹿だなぁ、お前」

 

「ガッ!?」

 

 

 だというのに、当たり前のようにジェームズは俺の鳩尾に拳を入れる。

 痛みでのけぞる俺の背中を蹴り、奴は悪魔のように笑った。

 

 

「おい!貴族同士の私闘は、法律で……!」

 

「それを国に報告する奴がどこにいるんだ?法律なんぞ何の役にも立たねぇよバァカ!」

 

 

 そのまま押し倒され、何度も顔を殴られる。

 こいつはやはり狂っている、国が定めたルールを守る気が無いのか!?

 

 

「そら、抵抗してみろよケッチ!できねぇよなぁ?ビビりなお前にできるわけがねぇ!」

 

「ビビってるわけじゃない!俺はただ、国の法律を守って──」

 

「それをビビってるって言うんだよ弱虫ケッチ!」

 

 

 一際重い拳を鼻に受け、血が飛び散る。

 

 

「ハハハ!おい、お前ら教えてやれ。処刑人の息子が村を出歩けばどうなるかをな!」

 

「いいんですか?ジェームズさん。後で訴えられたり……」

 

「そんなもの、全部パパがどうにかしてくれるさ!俺からの命令が聞けないのか?」

 

 

 ジェームズがそういうと、周囲の取り巻きも喜色を浮かべてリンチに参加する。

 ロレッタは何をするでもなくその様子を眺め、助けようともしちゃいない。

 

 

「お前はほんと、良いサンドバックだよなぁケッチ!」

 

 

 誰も国の正義を守ろうとしない。

 この村は、腐っている。

 

 

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