魔女と処刑人   作:雷神デス

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魔女との出会い

 

 

 

 屋敷に帰ることも、なんとなく嫌で。

 誰にも出会わないように、誰にも聞かれないように、村の外にある秘密の場所に向かう。

 

(久しぶりだな、ここに来るのも)

 

 嫌なことがあれば、いつもある場所を目指す。

 村の近くの森にある、小さく朽ち果てかけたボロ小屋だ。

 どこぞの隠者が住んでいた家屋なのだろうが、俺が見つけた時には空き家だった。

 幼心に己だけが知る秘密の場、というのが欲しくなり、その日から少しずつ物を持ち込み。

 いつの日にか、俺だけの秘密の家は屋敷よりも居心地がいい場所になった。

 

 

「今日は多いな」

 

 

 村の人々は、滅多に森に近づかない。

 森に近づいてはいけない理由は幾つもあるが、その一つが危険な野生動物の出現だ。

 狼や猪、運が悪ければ人の味を覚えた熊なんかも出るし、狂暴な鹿と出会えば最悪だ。

 鹿はこの国では神聖な生き物とされるから殺せば罪になるし、逃げるにしても足が速い。

 上手く鹿から逃げる程度の足が無ければ、罪人になるか死ぬかの二択を突きつけられる。

 

(それにしたって、今日は襲ってくる動物が多い)

 

 森に入って三十分程で、もう五回は狼や熊を撃退する羽目になっている。

 父上から渡された鉄の剣が無ければ、流石に帰っていたかもしれない。

 威嚇するように立ち上がり、丸太すら壊しそうな腕を振るう熊の首を斬り落とす。

 

(人間も、言葉を喋ってくれなきゃ楽なのに)

 

 襲ってくる動物を斬るのは楽だ。

 喋らないし、命乞いしないし、殺しても罪にはならない。

 そして何よりも、己と同じ姿形をしていないのがやりやすい。

 

 

「ハァ……」

 

 

 父上の言葉を思い出し、重い溜息を吐く。

 あれはもうダメだ。説得できそうな気がしない。

 俺がロレッタの首を斬り落とさなければ、俺は家から追い出される。

 処刑人になるという夢を叶えるどころか、この歳で野垂れ死ぬ羽目になるだろう。

 

 

「なんだってんだよ。なんで皆、そんな簡単に人を傷つけられる」

 

 

 俺は当たり前のことを言っているだけだ。

 罪人ではない、何の罪も無い人を殺すのは悪いことで、法律を守るべきであると。

 奴隷だって立場上は主人の所有物ではあるが、しっかりと意思を持ち己で動く人間だ。

 ましてや、何年も従者として尽くしてくれた奴を、己の手で殺せ?

 

 

「罪人だけ殺せばそれでいいだろ……!」

 

 

 処刑人とはそういう仕事のはずだ。

 己のためではなく民のため、個人のためではなく国のため。

 例え謂れなき罵倒を受けようと、人々のために刃を振るう罪の清算人。

 

 

「間違っているのはあいつらだ……!」

 

 

 俺が人を殺せない?

 罪人以外を殺せ?

 六十六回?

 サンドバッグ?

 

 

「ちくしょう……!」

 

 

 間違いばかりだ、問題だらけだ!

 父上の言う通りに生きてきたはずだ。

 母上が残した遺言通りの人間に育ったはずだ!

 国を尊び、処刑人の仕事に誇りを持ち、決して私情に流されぬ罪の救済者!

 それが処刑人という者達の、父上の、俺の役割じゃなかったのか!?

 

 

「……ん?」

 

 

 怒りのままに草木を分け進んでいると、以前には来た時には無かった物を発見した。

 木製の杖だ。それも一本ではなく、何本もの杖が、纏めて一つの場所に突き刺さっている。

 杖の下の地面には、花束のようなものが。

 

 

「これは、墓か?」

 

 

 こういった形式の墓事態は、さほど珍しいことではない。

 墓標を作るならば墓石の方がいいのだろうが、それだけの金を持つ人間は少ない。

 遺体を焼いて骨だけにして、そのまま土の中に入れることなんてよくあることだ。

 

 傭兵なんかは墓石の代わりに、剣を墓標代わりにすることだってあると聞く。

 見知った者のみが知っておけばいい墓なんかは、名前を長々と書いた墓意思よりも、その人が生きた証となる武器や物を墓標にした方が安上がりだし分かりやすいらしい。

 らしいのだが~……。

 

 

「杖が墓標とは、随分と珍しいな。何故こんな森の奥に」

 

 

 一年前に来た時には、こんな物は森には無かったはずだ。

 だとすれば、一年以内にこの森に入った人間が、わざわざ墓を建てたのか?

 杖の数から推測するに、かなりの大人数であったようだが。

 

 

「グルル……!」

 

「げっ」

 

 

 レッドウルフ、動物の血肉を浴びて赤く変色した毛皮を持つ狼だ。

 人間の肉を好み、鋭い嗅覚で縄張りの中にいる獲物を見つけ出す。

 戦闘は避けられないだろうと、腰の剣に手を伸ばし。

 

 

「……?」

 

 

 一向にレッドウルフが襲い掛かってこないことに気が付いた。

 レッドウルフは高い戦闘能力こそ持つが、それほど知恵がある動物ではない。

 普通であれば、獲物を見かけた瞬間にその牙を剥くはずだが……。

 

 

「何かを恐れている?」

 

 

 墓の存在感のせいで気づかなかったが、よく見ればこの墓の近辺のみ周囲の空間と比べても明るく、だというのに太陽の光を遮るように木々の葉が屋根を作っている。

 明らかなる不自然だ、何か原因があるのだろうか?

 

 

「……魔術か?」

 

 

 魔力を使う力の振るい方は、何も己の身体能力を上昇させる物だけではない。

 それが最も簡単な使い方というだけで、魔力の扱いに秀でた物は様々な形で振るう。

 そしてその中でも、単純な放出や強化に留まらぬ現象を発生させる特殊な技術。

 炎や水、風などを自在に生み出し扱うそれを、魔術と呼ぶ……らしい。

 

(獣除けの結界だろうか?もしくは、もっと高等なものなのだろうか……)

 

 そんなことを考えている内に、レッドウルフは俺を諦めたようで不満げに去って行った。

 こちらとしても無駄な体力は使いたくなかったので助かるが、新たな問題が浮上した。

 この空間を作り出した魔術師が、まだ近くにいる可能性があるのだ。

 

 

「悪い奴じゃ、無いといいんだが……」

 

 

 魔術師といえば、理知的で様々な知識を持つ老人が思い浮かぶが。

 俺自身魔術や魔術師に関してはロレッタから聞きかじった程度の知識しかない。

 ロレッタの話では、世の中には魔術を扱い犯罪を行うような腐った魔術師もいるらしい。

 もしその魔術師が犯罪者で、俺に襲い掛かってきたとすれば……。

 

 

「……いや。何を弱気になっているんだ、俺は!」

 

 

 逃げ出そうなんて考えていた自分を鼓舞するように、己の頬を叩く。

 強く叩きすぎてしまい、痛みで少し涙が出るが、まあ気にしない!

 

 

「そうだとも。父上がそれほどお疑いになるなら、今ここで示してやればいい」

 

 

 もし魔術師が罪人であるならば、ここで証明すればいい。

 父上が俺が人を殺せぬと疑っているようなら、罪人の首を以てその考えを払拭しよう。

 ロレッタの首を斬るよりも、そっちの方がよほど楽だというものだ!

 

 

「むしろチャンスだと。そう考えることにしよう!」

 

 

 意気揚々と、むしろ己から魔術師を探すような勢いで森の中を歩きだす。

 どんな魔術を使おうが、相手が動く前に斬り伏せてしまえば勝てるのだ。

 未来の処刑人であるこのケッチが、犯罪者に遅れをとるはずも無い!

 

 

「フフフ、いつでも出て来い魔術師め!」

 

 

 失意の中で訪れたまたとないチャンスに、俺は目を輝かせていた。

 来るなら来いと、声すら出しながら目的地である場所に向かう。

 

 やがて、俺がいつも隠れ家にしている小屋まで辿り着き──

 

 

「……んん?」

 

 

 またも、俺は困惑の声を出してしまう。

 俺が持ち込んだランプの光が灯っているのは、まあいい。

 もし魔術師が潜んでいるとしたら間違いなくここだろう、という推測はついていた。

 問題は、小屋の外に干された服だ。

 

 

「随分と小柄な奴なんだな……」

 

 

 ローブが干されているのだが、明らかに大人が着るサイズよりも数段小さい。

 妹のレーサは今年で十四歳になるが、彼女よりも服のサイズは小さいようだ。

 

(もしかすれば、子供連れの魔術師なのか?)

 

 疑問を抱いたまま、俺はおそるおそる小屋の戸に手をかけて。

 意を決し、扉を開き──!

 

 

「……?」

 

「……え」

 

 

 小さな少女と目が合った。

 絹糸のような長く美しい金色の髪と、宝石のように蒼く輝く瞳。

 人形のように滑らかな肌に起伏は殆ど無く、見た感じでは十歳か、それより下に見える。

 

 そんな、見た事が無いくらいに美しく、可愛らしい少女が。

 生まれたままの姿で、暖炉の火に当たっていた。

 

 

「────へ、変態だぁあああああああ!!!!」

 

 

 なんともまあ、締まらないことに。

 俺と少女の出会いは、俺が謂れなき罪を着せられることで始まった。

 

 




ようやくタイトル詐欺じゃなくなった……!
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