三雲修に憑依した転生者が色々する話   作:ジョン

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2話目

「おい眼鏡、それ寄越せや」

 

 ある日、いつも通りに学校に来て勉強をしていると、後ろから筆箱が降ってきた。見てみるといかにもチャラそうな三人組がいて、それを涙目の真面目そうな生徒が後ろから見ている、という状況。ああなるほど、いつものアレね。彼らも飽きないもんだ。

 

 とりあえず筆箱は後ろの生徒に渡して、また勉強に戻る。後ろがうるさいけど無視してりゃいずれ離れていくだろう。

 

 …そういや、今日は確か転校生がくるんだったな。僕はふと教室に視線をやる。

 

 教室の中は相変わらずだ。男子も女子もボーダーがどうのこうのと話している。まあ話のジャンルはそれぞれ異なるものだが。男子はこれこれこういう戦いがあって、て言うのと、女子は彼氏がボーダーにスカウトされて~とか。

 

 ほとんどの話題はボーダーばかりだ。しかしそれも当然の話。異世界からの侵略者に対抗する、特殊な組織。それも兵器がどうこうという難しい話ではなく、個人の活躍が主な組織なのだ。彼らにとってボーダーとはアメコミのヒーローやアニメの中の主人公だったりするのだろう。

 

 転校生か。それもこんな微妙な時期に。3年生に学年が上がり、新しい学期が始まって既に1カ月は経過している。こんな時期に転校してくるなんて…どう考えても、彼しかいないだろう。

 

 …まあ、彼って言っても、名前覚えてないんだけど…小学生低学年の頃までならともかく、中学生ともなるとほとんど原作の記憶は薄れている。

 

 それに、原作では二次元キャラだったが、ここにいる人間は僕も含めて現実世界の住人だ。そうなると、正直、結構差異があるというか、なんというか…。

 

 その後、案の定彼は…彼?はやってきた。

 

 くがゆうま。空閑遊真。そう、確かにそんな名前だった筈だ。白髪にどこか浮世離れした表情と言い回し。低い背丈。確かにこいつはもう一人の主人公だ。

 

 だが待ってほしい。そんなもうひとりの主人公様…どう見ても女の子なんですが…?

 

 白髪ロングで目鼻立ちが整った幼さの残る顔。多分、幼すぎるということ以外は誰の目から見ても美少女認定は確実だろう。

 

 …あれ?空閑遊真って女の子だったっけ?胸にもかすかに膨らみあるしスカート履いてるし…あれ?何かがおかしい。なんだこれ。

 

 困惑している僕は当然気にされることなく、時間は進んでいく。

 

 最初は指輪がどうのこうのと教師とひと悶着あり、学校から去ろうとして焦ったが、とりあえずフォローを入れてそれは阻止した。そして隣の席に来たので挨拶しておく。握手したのだが、その時空閑が「ほう…」と感心したような声を漏らしたのが気になったが。

 

 その後、紙くずを空閑目掛けて投げて遊び始めたチャラ男の一人、茶髪にやり返したり、生徒たちに質問攻めにされてたりする姿を眺めながら一日は終わった。

 

 

 

「よ。何してんの?」

「ん…確か空閑だったか。簡単な復習だよ」

 

 夕方、最後の授業の簡単なまとめをしていると、空閑が話しかけてきた。それに返すと、「ふーん、そっか」とか言って帰ろうとし出したので、それに話しかける。

 

「なあ、そろそろ終わるし、一緒に帰らないか?」

 

 こいつが本当に空閑遊真なのかは分からないが…それでも、確かに彼女は空閑遊真だと自分のことを名乗った。なら、そこら辺がどうなっているのか、確かめる必要がある。

 

 っていうか女子なんだよな…?女子ってこういう風に誘っていい物なのだろうか。僕の不安をよそに、空閑はうんとうなずいた。

 

「ん、いいよ。眼鏡君」

 

 …いやお前、眼鏡君て。

 

「眼鏡君はないだろう」

「でも名前知らないし」

「いや、じゃあ名前聞けよ。僕も白髪とか呼ぶぞ」

「別にいいよ」

「…」

 

 なんだこいつ。

 

「まあいい。よし、行くか」

「おう」

 

 そう言う感じで、僕は空閑遊真と帰ることになった。

 

 話題は空閑の事と、この町の事が中心になった。観光名所とかはないけど、どこに何があるかくらいはおおざっぱに説明しておく。

 

「そういえば、朝の時、助けてくれてありがとな」

「朝?…ああ。あれか。どういたしましてと言っておこう」

 

 そう言えば、親の形見だとかなんだとか言っていたな。もし本当なら、彼…いや、彼女にとって朝の事は紛れもなく事件だったろう。助けてあげられてよかったと素直に思う。

 

 指輪と言えば、と口を開く。

 

「なあ、あいつらには気を付けておけよ」

「あいつら?」

「ほら、後ろにいた。ああいう奴らに仕返ししたら、後から徒党を組んで迫ってきたり、闇討ちとかしてきたりするからな。多分すぐにやり返しに来るぞ」

「そうなのか?」

 

 首をかしげるだけの空閑に、僕は思わず突っ込む。

 

「余裕そうだな」

「まあ、踏んできた場数が違うので。多分どうにかなるよ」

「そうか…ま、何かあったら多少は手助けするよ」

「それは助かるけど…大丈夫なの?眼鏡君も目を付けられるんじゃない?」

「まあ、その時はその時で…何とかなるだろ」

「眼鏡君も余裕そうじゃん」

 

 二人で軽く笑い合う。

 

「おいそこのチビ!ちょっと面貸せや」

 

 と、後ろから怒声が飛んできた。振り返ってみてみると、他二人に加え、何人か不良を加えて徒党を組んだ茶髪がこちらを…というか、空閑を睨みつけていた。

 

「…噂をすればなんとやらだな」

「みたいだな。眼鏡君はどうする?」

「もちろんついていくよ」

 

 そう言うと、不良の一人と茶髪が、

 

「眼鏡。お前はいらね」

「かえって眼鏡拭いて寝てろ」

 

 と言った。

 

 僕は無言でそいつらの後ろをついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふぅっ!?」

「眼鏡ツええ!?」

 

 ぶん投げて、またぶん投げて、回って回って回ってまわーるー。

 

 これは正当防衛であり、相手が殴ってきた事に対する防衛処置なので、暴力では決してないのである。よし、理論武装完了。とりあえずウザ顔を中心にぶん投げまくり、土汚れが付いた服を叩きながらため息を吐く。

 

「暴力は良くないよ」

「お前が言うな!?」

 

 後ろから「鬼畜眼鏡だ…」「アイツあんな奴だったのか…」とか震える声がいくつも聞こえてくる。

 

 何故怖れられなければならないのか。解せぬ。

 

「眼鏡君、やっぱ強かったな」

「やっぱってなんだよ。あと、それからいい加減僕を眼鏡君と呼ぶな。僕の名前は三雲修だ」

「りょーかい、オサム。っていうか、ほら。手に剣ダコついてたし。明らかに戦い慣れてるなと」

「なるほど、握手の時のあれはソレか」

 

 少し感心していると、後ろからまた殴り掛かられたので、それを一本背負いで地面に叩きつける。ちゃんと背中と頭は傷つけないよう手加減しているので、精々足と尻がめっちゃ痛い程度だ。

 

「そもそも、ここは警戒区域だ。ボーダー関係者以外立ち入り禁止だぞ。文字すら読めないのかお前ら」

「くそっ…なんだこいつ…」

 

 茶髪は空閑に足を砕かれてたし、他の不良たちも今やボロボロだった。

 

「空閑、良いか。相手に直接的な怪我をさせたら、この国ではこっちが悪いことになる。だからこうして、ちゃんと正当防衛してますよと言い訳ができる程度に相手をぼこぼこにするわけだ」

「なるほど」

「当然、そもそもこんな状況にならないよう努力をするべきではあるんだけどな。次からは気を付けろよ」

「面目ない…なら次はオサムがどうすればいいか教えてくれよ」

「ああ、いいぞ」

 

 そんなバカ話をしていると、不意に大音量の警報が鳴り響いた。耳をつんざく音に全員が身を固めている。

 

 嫌な予感がする。そう、この感覚は…師匠が珍しくお酒を飲み、酔っぱらって木刀片手に本気で迫ってきた時の感覚だ。

 

「立て、お前ら!すぐにここから逃げるぞ!空閑も!」

「分かった」

「な、なにしやがる!」

 

 近くの不良を俵担ぎして駆け出すと、さっきまでいた場所…というよりも、その空間に巨大な穴ができた。

 

 門(ゲート)だ。不味い、やっぱり予感が的中してしまった。

 

「う、うわあああ!?」

 

 中から巨大な白い塊…トリオン兵が出てこようとしている。それを見て恐怖のあまり身を固まらせる不良たちに、僕は懐からトリガーを抜いて大声を張り上げた。

 

「お前ら、聞け。僕はボーダーの隊員だ!即刻立ち上がって走れ!避難!」

「ええ!? わ、分かった…!」

 

 そういう訳で、とりあえず足に怪我をしたヤツと動きが遅い奴をひっつかんで背負い走り出す。空閑が驚いたような顔をして横に並んだ。

 

「オサム、ボーダーの隊員だったのか」

 

 目を丸くする空閑。しかしすぐに怪訝そうな顔をした。

 

「どうしてトリガーを使わないんだ?」

「C級隊員に訓練以外でのトリガーの使用許可は下りていないからな!」

「でも、このままじゃ追いつかれるぞ」

「だろうな…」

 

 僕は歯噛みする。そして担いでいた不良を空閑に渡した。

 

「僕がここで囮になる。空閑は不良たちを頼んだ」

 

 空閑が今度こそ不満そうに眉をひそめた。

 

「なんで?俺たちにこいつらを助ける理由、無くない?」

「確かにそうだけど、頼む。僕はそれが誰であっても、僕の視界の範囲内で、人死にが出るのがとても嫌なんだ」

「…そっか」

「よし、それじゃ頼んだぞ」

 

 僕は立ち止まり、踵を返した。

 

 ため息が出る。僕は一体何をやっているのだろう。

 

 既に原作通りには進んではいない。原作では確かここは空閑が修を助けてくれるシーンだが、僕の行動や言動は既に原作から乖離している。故に、助けてくれるかは分からない。

 

 だけど、それでもやるしかない。そうしたいと思ってしまうのだから、仕方がない。

 

「全集中の呼吸―――」

 

 名も無き呼吸によって、全身に酸素を送り込まれ、身体能力が活性化される。その奇妙な感覚に全身を浸らせながら、僕はその場から駆け出した。

 

「おおー…す、凄いなオサム」

『速い…あれが生身の人間の出せる速度なのか?』

 

 後ろから声がするけど今はそれどころじゃない。近界民…その中でも硬くてデカい芋虫みたいな奴だ。目の前でウロチョロして、石を目にぶん投げたりしてこっちに注目させる。

 

「来い!」

『―――――!』

 

 バムスターが倒れ込むようにしてこちらに突っ込んできた。上半身を叩きつけるだけのソレだが、巨体さが特徴のバムスターがそれをすると、それだけで十分脅威となりえる。

 

 だが、まだ対処可能だ。

 

『驚異的な身体能力だ』

 

 頭に乗って攻撃を回避した。その後背中を伝って後ろに飛び降りる。ウロチョロとする僕が厭いのか、振り返ってはまた突進。それをひらりと避ける。

 

 だけど、そう何度も避けれるものじゃないな。突進の度に小さな瓦礫が散弾みたいに飛んでくるのだ。運が良ければ当たらないが、生身の僕じゃ親指程度の小石でも当たると痛いし傷がつく。目に砂ぼこりも入るし最悪だ。

 

 長くは保たない。そう歯噛みしていると。

 

「『強』印!二重!」

 

 後ろから、黒いワンピースを身に纏った空閑がバムスターをぶん殴り、その巨体をバラバラにしたではないか。

 

 吹き付けてきた爆風に、反射的に瓦礫に捕まりつつ、その威力に放心する。

 

「よ、無事かオサム」

「空閑…お前…」

 

 僕は少し言いよどんだ。そして、口を開く。

 

「ボーダーの人間…って訳じゃ、ないよな…」

「ああ。まあな…俺は、門の向こうから来た。こっちの世界でいう近界民ってやつだ」

 

 不敵に笑う空閑に、僕はとりあえず頬に着いたかすり傷をぬぐいながら、空笑いを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腹減ったし、とりあえず飯食おうぜ」

「その札束早く隠せ馬鹿」

 

 あの後、僕は空閑を連れてあの場を去り、街の中にいた。日はとっぷりと暮れて紫色…いや、紺色に近くなっている。街は既に夜景に代わっていた。

 

 とりあえずあのままあそこに留まる訳には行かなかったので街に逃げてきた。一先ず落ち着いたのだが、結局すぐに札束を取り出した空閑を連れてまた逃げることになってしまった。

 

「空閑。よく聞け。その札束は結構な大金だ。外に出したらすぐに変な奴らが寄ってくるから、二度と丸ごと外に出すな」

「え…でも、これ紙だよオサム」

「オサツって言うんだ。特にそれは一番価値の高いお札。安易に人前に出すなよ」

「ふむ…わかった」

 

 とりあえず僕はコンビニで貯金から千円札10枚を引き出してきて、空閑の持ってる一枚と交換し、また近くの100均で灰色の封筒と小さな袋を買って100万円を封筒に、残りの千円札を袋に入れた。

 

「生活するならこのくらいで十分だからな」

「オサムは物知りだなー。コレもうまいし」

 

 今は、ラーメン屋に寄って空閑とラーメンを啜っている。

 

 空閑から聞いた話によると、空閑は近界民であり、父親の伝言に従いこの地球にやってきたと。加えてボーダーに知り合いがいるらしく、その人に会いに来たと。

 

 だが、C級隊員の僕の知識じゃ全く分からない。話を聞いただけでは僕じゃどうにもならないとすぐに分かった。

 

「とにかく、空閑と…親父さんの空閑有吾さん、だっけ?のことはボーダーで色々と調べてくるから、今は下手な事はしないで大人しく待っておいてくれ」

 

 ラーメンを啜りながらそう言うと、何やら視線を感じる。顔を上げると空閑がこちらをじっと見てきていた。

 

「…なんでオサムは、会ったばかりの俺にそこまでしてくれるんだ?」

 

 僕はそう尋ねられて、ぼんやりとこいつ俺っ子なのかと考えながら口を開く。

 

「別に普通だろ。もう友達なんだし」

「…嘘は…いってないな」

 

 空閑は呆れたように笑った。

 

「なるほど。オサムは面倒見の鬼なんだな」

 

 僕は随分ないいようにからかわれているような気がして、思わず眉を下げた。

 

「なんだそれ。褒められてる気がしないぞ」

「褒めてるから安心しろって」

 

 なんだか釈然としない。

 

「まあいい。これでこの話はおしまいだ。それよりもあの不良たちの事なんだが…ねい…他の国じゃ知らないが、日本だと自分から喧嘩を吹っ掛けるのはそれだけで罪になってしまう。特にお前は一度警察に捕まったら色々とヤバいんだから、特に気を付けて行動しろよ」

「なんだそれ。ああいう奴らにも攻撃しちゃダメなのか?」

「ああ。色々と目立つことになっちまうし、普通に捕まりかねない」

「…この国は、悪い奴らに優しい国だな」

「そういう面もあるかもな」

 

 困惑した表情を浮かべる空閑にそう言って、僕は笑った。

 

「ま、基本は良い国だから気にすることはないよ。ああいう奴らも本当は少数派なんだ」

「ふーん。なるほど、悪い奴らに優しい国じゃなくて、悪い奴らが少ない国って訳だ」

 

 何やら知らないが納得はしたらしい。他にも空閑のトリガーの使用や、今日近界民と戦ったこと、僕がボーダー隊員だということも他の人間には秘密にするよう言った。

 

「トリガーとか、トリオン兵の事とかは分かるけど、なんでオサムがボーダー隊員な事は言っちゃいけないんだ?」

「うん、それは…」

 

 僕はほほを掻いた。

 

「僕が隠してるから。…目立つのは、嫌なんだ」

「そっか。分かった、りょーかい」

 

 親指を立てる空閑。僕は頼んだぞと一言返して、残りのスープを飲み干した。

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