三雲修に憑依した転生者が色々する話   作:ジョン

5 / 6
5話目

『トリオンを多く持った人間が稀に特殊な能力を発現する場合がある。全ての副作用は身体能力の延長線の能力として発揮され、例えば耳が良くなったり、学習能力が向上したりする。それらの超感覚を纏めて、サイドエフェクトと呼ぶ。その意味は…副作用』

『目を閉じてる間だけ耳が良くなる奴とかいたな。100m以上離れてても会話してる声が聞こえてた』

「なるほど、人体の神秘だな…」

 

 空閑と連絡を取る方法は割と簡単に見つかった。ポケットに入れっぱなしだったミニレプリカの事を思い出し、話しかけてみると案の定通話が始まったのだ。

 

 あれから僕はボーダー本部から家へと戻り、支度をして外に出ていた。心配するお母さんの目を盗んで出てきたために若干後ろめたい気持ちにもなったが、それでもどうしても気になる事があった。

 

 それは僕におぼろげながらある原作知識だ。その中に、偵察用のトリオン兵がいたような気がしたのだ。

 

 時間もないし、とりあえず探してみて、捕まえるか写真を撮るかして迅さんに見せたい。今はボーダーの研究チームによって近界民が発する門を強制的に閉じているが、それが可能なのは後40時間とちょっとだけ。つまり残り二日間でどうにかできなければ、またあの悲劇が繰り返される事になる。

 

 と、ここで僕の耳に詰められていたミニレプリカから、石と石を擦り合わせるみたいな音が聞こえてきて、僕は疑問を覚えた。

 

「…なあ空閑。お前今どこにいるんだ?」

『え?学校』

「はあ!?お前何やってんだ!?」

 

 夜なので大声は出せないが、僕はヒソヒソ声で出せる最大の音量で空閑に突っ込んだ。

 

『レプリカがイレギュラー門の発生に心当たりがあるって言うから、色々と調べ回ってんだ。ま、何か見つけたらオサムにも教えるよ。それじゃまた明日」

「って、んな訳に行くか、馬鹿」

「いてっ。あれ、オサム!?」

 

 僕は学校の廊下で瓦礫を漁っていた空閑の背後に忍び寄り、その白い頭にチョップを落した。らしくなく目を丸くして振り返ってくる空閑に、僕はため息を吐いた。

 

『ふむ、何故オサムがここに?』

「僕もどうしても気になって、とりあえず直近でイレギュラー門が発生したここを調べてみることにしたんだよ。それよりも、お前な。イレギュラー門はボーダーに任せるんじゃなかったのか?」

「あはは…」

 

 空閑が参った、とでも言うように頭を掻く。

 

「まあ、ちょうど良かった。僕も空閑に伝えたいことあったし、ついでに力を合わせよう」

「んじゃ手伝ってもらおうかな。で、伝えたいことって?」

 

 僕も空閑と同じように瓦礫を退かしながら、話し始めた。

 

「ボーダーの事だ。帰りに正隊員の人に色々と探られた。多分直接お前の事はバレてないと思うけど、何かがいる事に関しては確実に気づかれてると思う」

「おっと…ボーダーは思った以上に有能だな」

「何か思い当たる点はあるか?」

『ふむ…』

 

 僕が尋ねると、レプリカが声を上げた。

 

『恐らく、最初に遊真がバムスターを倒した際に使用したトリガーのトリオン反応を探られたのだろう』

「用心深いな。良い組織だ…こっちは困るけど」

「とにかく、今まで以上に気を付けよう。恐らく僕も監視されるかもしれないし、こうして会うのも避けた方が良いかもな…」

「おいおい、オサムがいないと俺は生活できないよ」

「メールでやり取りしよう。携帯は買っといた方が良いかもな…」

「ふむ」

 

 眉を下げて残念そうにする空閑に僕は微笑みつつ、レプリカに目を向けた。

 

「ところで、イレギュラー門の原因ってのは具体的になんなんだ?」

『隠密偵察型トリオン兵、ラッドの存在が可能性としてあげられるだろう。体躯は40㎝程度の小型機で、偵察に特化している為戦闘力も皆無だ。ただし、その隠密性と数は馬鹿には出来ない』

「数か。もしそいつがいたとして、どの程度の規模だ?」

『恐らく、数千に上るだろう』

「…そうか。じゃあまずは実物を仕留めてみないとな」

「ああ。仕留めるのは任せとけ」

 

 頼もしく腕を上げる空閑にうなずいて、僕たちは周囲の捜索を続けた。

 

 朝になって、空が曙に染まり始めた頃。

 

「見つけた!」

「おっ、マジか」

 

 僕は白い何かがささっと瓦礫の中に消えるのを確認し、一瞬で加速してソイツに迫った。何とか尻尾を掴んで引っ張り出すと、そいつはぶんぶんと尖った足で僕に攻撃を仕掛けてくる。ので何とか地面に踏んづけてその場に縫い付ける。

 

「…やっぱオサム、人間離れしてるよな」

『うむ、驚異的な身体能力だ』

「ほのぼのと感心してるところ悪いけど、早く仕留めてくれ」

 

 戦闘能力はないと言っても、やはりトリオン兵。犬猫とは比べ物にならない程の力で抵抗してくるから、僕は空閑を急かした。するとレプリカが口を開けて、何やら文様みたいなものを浮かべたかと思うと、気が付けばソイツの胴体に穴が開いていた。

 

『やはりラッドだったか』

「お手柄だな、オサム」

「ああ。これで事態に進展があると良いんだけど…」

 

 見事なコンビネーションで目標を達成した僕と空閑は、ぱんっ、と手を打ち合わせた。

 

「一先ず、これを迅さんにでも見せてくるよ」

「ああ、例の」

「そう、例の実力派エリート、迅悠一…それは俺の事さ」

「うわっ!?」

 

 ぬ、と僕の背後から影が伸びた。思わず飛び上がって後ろに下がると、そこにはぼんち揚げの袋を持った男がいた。

 

「うお、気づかなかった」

「じ、迅さん!?どうしてここに…」

「ははは、よっ、眼鏡君。おはよ…ぼんち揚げ食う?」

「お、おはようございます…」

 

 ぼんち揚げは手で辞退する。

 

「で、そっちのお嬢さんは…」

「俺か?空閑遊真」

「ユウマか。眼鏡君のお友達?」

「そうだけど」

「ふーん…そうか、お前、向こうの世界から来たのか」

 

 僕たちはその言葉を聞いた瞬間、空閑は後ろに飛び退いて、僕は迅さんの腕を取って回して関節を決めていた。

 

「何故その事を!」

「うわわ、いやいや待て待て、俺は敵じゃない!ったく、トリオン体じゃなかったら普通に叫んでたぞ。眼鏡君意外とアグレッシブだね本当」

「…どういう意味ですか?」

 

 僕はドキドキしながらも拘束を緩めると、迅さんは空閑にも視線をやった。

 

「俺は君たちを捕まえる気はないし、攻撃する気もない。そもそも俺は向こうの世界に行ったことがあるし、近界民に良い奴がいる事も知ってるよ」

「…」

 

 僕と空閑は目くばせをして、迅さんの腕から手を離した。

 

「ここまで驚かれるとは思わなかったな…はは、すまない。俺の副作用がそう言ったから、ちょっと聞いてみただけだ」

「ほう」

「すみませんでした、迅さん」

「いや、良いよ。今のは俺の言い方が悪かった」

 

 ヤバすぎる。咄嗟に取ってしまった行動だったが、知られたら確実に処罰される。その上空閑の事もある。僕は全力で頭を思いっきり下げるが、迅さんは逆に僕を気遣うようにそう言った。僕は眉を下げてもう一度頭を下げる。

 

「あの、このことは上の人には…どうか…!」

「あ、うん。ダイジョブダイジョブ。ユウマの事も、眼鏡君の事も言わないよ」

「…嘘は言ってないな」

 

 その言葉を聞いて、僕は安堵の息をついた。空閑の勘は結構当たるし、ひとまずは迅さんの事を信じていいかもしれない。

 

「…あの、ところで、迅さんの副作用って…」

 

 僕はずっと気になっていた事を聞いてみた。すると、迅さんは少し微笑んでこういった。

 

「俺は未来が見えるんだよ。目の前にいる人のちょっと先の未来が」

 

 …はい?今、この人なんて言った?

 

「未来が見えるって…ええ!?」

「嘘は…言ってないな」

「実は昨日眼鏡君と顔を合わせた時、この場所でイレギュラー門の原因を突き止めてる映像が見えたんだ。で、そこにいる眼鏡君の知り合いの誰かが、イレギュラー門の謎を教えてくれるって未来がな」

 

 僕はその言葉をそう簡単には受け入れられず、空閑を見た。

 

「…ありなのか、そんな副作用」

「俺も聞いたことない。凄いな、迅」

「いやー、実力派エリートなもので」

 

 実力派エリートであることと未来を読めることは全く別問題だと思うが、そんな事どうでもいい。確かにこの人、本当にすごい人だったんだ。

 

 だからあの会議ではあんなに強く出れてたのか。そりゃ、未来を読めるんなら誰も強くは言えないよな。

 

「で、見つけたんだろう。イレギュラー門の原因を。見せてくれないか?」

「わ、分かりました。犯人は…こいつです」

 

 僕はラッドを持ち上げて見せた。

 

「ほー、こいつが…」

『詳しくは私が説明しよう』

「お」

 

 空閑の服の隙間から、レプリカが現れた。喋るトリオン兵の登場に迅さんが目を丸くする。

 

『初めまして、迅。私はレプリカ。遊真のお目付け役だ』

「おお、これはどうも、初めまして」

『さて、早速だが…』

 

 レプリカが迅さんに説明を始めた直後、空閑が僕の服の裾を引っ張ってきた。

 

「なんだよ、空閑」

「…いや、なんであんな無茶したのかなと」

 

 あんな無茶、と聞いて、僕は先ほどの迅さんの腕を極めた時の事を思い出して、ずんと落ち込んだ。

 

「あれはつい咄嗟に…信じてくれ、空閑。僕はあんなに簡単に人を傷つけられるような奴じゃないんだ…」

「…そんな事分かってるよ」

 

 ぷい、と顔を反らされる。その横顔をよく見てみると、ちょっとだけ頬が赤い。

 

「…ありがとな」

「…どういたしまして」

 

 僕は少しだけ心が晴れる。いつになく子供っぽくしおらしい空閑の頭を優しく撫でたのだった。

 

 さて、それからはとてもスピーディだった。レプリカから情報を貰った迅さんは即座にボーダーへ向かい、まさしく未来が見えているのかと言わんばかりの効率さで必要な人材に必要な仕事を託して回り、気が付けばラッドの存在が周知され、ボーダー総出でラッド狩りが始まっていた。

 

 ラッドは戦闘力が皆無であることから、C級隊員さえも動員されて総出で駆除活動が始まり、昼夜を徹して行われ…そして、二日目の夕方…タイムリミットからみて余裕をもって全てのラッドが駆除されたのだった。

 

「いやー、流石に疲れたなー」

「迅さん」

 

 徹夜に続き一日中走り回った所為で、身体の節々が痛く頭も重い。それはやってきた迅さんも同じだったようで、夕焼けを背に思いっきり伸びをしていた。

 

 拠点となっていた開けた公園。そこで支給された缶ジュースで糖分補給をしながら、僕と空閑と迅さんは並んで網目フェンスに背をもたれさせた。

 

「これでイレギュラー門の発生は阻止できたんですよね」

「ああ。お陰で助かったよ。お手柄だったな、二人とも…に、レプリカ先生も」

「そうか?」

「そうなの」

 

 迅さんは空閑の頭を撫でて、次に僕の頭もガシガシと撫でてきた。

 

「で、これで眼鏡君の実力にも多少箔が付いて説得力が増した。明日にはこの功績が認められてポイントも付与、B級隊員昇格は間違いないな」

「えっ…そうなんですか?」

「おいおい、知らないでやってたのか?」

「僕はその…自分がどうしても気になったから動いただけで、そう言うのは特に考えてなかったですね」

「オサムは面倒見の鬼だからな」

「なるほどな」

 

 空閑に笑われて、そして続いて迅さんにも笑われた。僕はなんだか居た堪れなくなって、会話を進めることにした。

 

「それよりも、こんな形で昇格して良いんでしょうか。実際、僕は何もできていない。空閑がいたお陰で正体もつかめたのに」

「いやいや、ラッドを最初に見つけたのオサムじゃん。あまり変なこと言うと怒るぞ」

「俺も怒るぞ眼鏡君」

「なんで!?」

 

 そんな感じで、僕は次の日、釈然としないながらもB級昇格が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふーん、それでB級昇格にねえ」

「ああ。それで、木虎さんから貰ったヒントのお陰でもあるかもなと思って、お礼を言いにお邪魔させてもらったんだよ」

「殊勝な心掛けじゃない。私も修君みたいな後輩が持てて嬉しいわ」

 

 そう言って、木虎は僕が渡したお土産を嬉しそうに受け取った。

 

 昇格した次の次の日、僕は木虎に連絡して、時間を貰っていた。待ち合わせのボーダーの食堂で、木虎と対面して座っている。

 

 奇異のものを見る視線がさっきから増えてきたが、まあ気の所為だろう。それよりも僕は木虎に向き直った。

 

「実は今日はそれだけじゃないんだ。B級に上がったことで、僕は戦闘用のトリガーを持つことになった。でも、僕のトリオン量は実はかなり低いんだ。そこで、どんな構成なら良いか、木虎さんに少し相談に乗ってほしくて」

「ふふん。なるほどね」

 

 木虎は胸を張った。

 

「それで私の所に来るなんて、修君はやっぱり分かってるわね。実は私も過去に修君と同じような悩みを持っていた一人だったわ。今ではA級隊員だけど、最初の頃は苦労したのよ」

「そうだったのか?流石は木虎さんだな」

「ええ、もちろん!そうね…やっぱり定石だと、弧月やレイガストみたいに、ちょっとやそっとじゃ壊れない武器を作って、消費を抑えるやり方があるかしら。立ち回り次第で、トリオン消費をかなり抑えられるもの」

「なるほど」

 

 僕はメモにペンを走らせる。それを木虎さんはうんうんと頷きながら見ている。

 

「逆に、アステロイド系の弾薬を消費するタイプのトリガーはトリオン消費が激しいからおすすめしないわね」

「あれ、でも木虎さんは確か…」

「そうね、私はアステロイドを使ってるわ。でもちゃんと使いどころを見極めて、外れる弾も少なくして抑えながら使ってるの。出来るようになるにはかなりの経験が必要になる」

「経験か。僕にはまだないものだから、少しずつ練習してみて、自分に合ってそうなら使うのもいいかもしれないな」

「その時は私に遠慮なく言いなさい。ちょっとは教えてあげる」

 

 僕はその言葉を聞いて少し口を閉ざした。何だろう、こんなに木虎さんの好感度稼いでたっけ?ちょっと驚くくらいに厚待遇なんだが。それに呼び方も、なんか気が付いた時には下の名前呼びだし…。

 

「ありがとう…その、優しいな、木虎さんは」

「…と、当然よ!私はA級隊員よ!?」

「え?あ、ああ…そうだよな」

 

 なんだ、急に木虎さんが怒り始めた。僕は目を点にするも、木虎さんの言葉を肯定することで何とか抑えることに成功する。

 

「は、話しを戻すけど、同じ近接武器でもスコーピオンは消費は多い傾向にあるわね。どこにでも出せるし、いろんな形に変形することもできて便利なんだけど、その分脆いから、気を抜いてたら気が付いたらトリオン切れ、みたいな展開が初心者には多いのよ」

「なるほど…」

 

 僕はその後も、木虎の話を聞いて何とか自分のトリガー編成を決めることができた。

 

 まずメイントリガーには弧月、スパイダーを。

 

 そしてサブトリガーにアステロイド、シールドをそれぞれ付ける。

 

 これでしばらくは様子見していく事になる。

 

 しかし、やっぱりトリオン量の少なさはネックになるな。聞けば木虎さんもそれで一度は挫折を経験してるみたいだし、僕も今後ずっと頭を悩ませていく事になるかもしれない。

 

 一度、空閑やレプリカにもこのことを相談してみるべきかもな。

 

 …そうだ。相談と言えば千佳についても相談しようとしてたんだ。

 

 副作用の話を聞いた時、僕は実は千佳の事を思い出していた。

 

 千佳には不思議な力がある。近界民が来るとき、それを誰よりも先に察知する能力があるのだ。時には未来予知にも通ずるレベルで察知する時がある。

 

 もしかしたらこれ、副作用なんじゃないか?何しろ千佳は空閑と並ぶ主要キャラの一人だ。そういう特別な背景を持っていてもおかしくはない。

 

 副作用はトリオンを多く持っている者に発現することがある…か。もしかしたら、千佳は迅さんと同じか、それ以上のトリオンを持っているのかもしれない。

 

 それを確認してほしいのと、後は千佳が異常に近界民に狙われる原因も、もしかしたら空閑とレプリカなら知ってるかもしれないしな。

 

 僕は木虎と分かれた後、携帯を取り出して連絡を取るのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。