貧乏貧相、社会転覆。ついでに美人。   作:杜甫kuresu

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チェンソーマンに影響されました。



ジャベリン・マン

「やっぱちげーよなぁ! イーナス! 俺だって不幸になる必要がねえぜ、死ね!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レオ、誰も不幸になる必要はないんだ。そうだろう」

 

 レオは、死ぬほど学がない。だから、何となくそうだなーとしか思えなかった。

 生まれてこの方、あんまりいいこともなかった。不幸は嫌だが幸福についてはよく分からんし、目の前の女も餌をくれる綺麗な人以上の認識に発展しやしない。

 

 だから、こんな劇画のようなセリフも彼は上の空で、渡されたパンくずに目線は首ったけだった。

 

「そうっすね~。でも不幸じゃないって何すか? 俺想像もつかねえなぁ」

「確かに。誰でも不幸は抱えているからな、面白い観点だ」

 

 違う。何も考えていないだけだ。この女────イーナスはそれを知っていながら指摘しない。

 

 だがしかし、イーナスの黙認は意外と的外れではない。

 レオはこんな適当だが、確かに誰かを損ねる必要はないんじゃないかと。そんなお花畑な気持ちを22世紀に持ち続けている、貧乏にしてはよく出来た道徳を持った少年だったのだ。

 

 路地裏、光の届かない場所で二人は食事を摂る。大企業のインプラントに体を換装し終えた女と、服を買う金も怪しいスラムの子供。並んで食事を摂ると、ちょっとした宗教画のような示唆を感じられる。

 

「ところで、君はどれくらい企業を知ってる? 結構そういうのを知らないと損をするぞ」

 

 口を開いたのはイーナスだ。レオはこんな知的なことは言えない。

 

「え。なんでしょーねー…………あっ、ベロベロスゲボハクって企業がやべーってよく聞いてますよ」

「ダイダロスメディカルのことか…………?」

 

 イーナスはドン引きだ。誰だ、そんな酔っ払いみたいなあだ名を付けたやつは。

 スッキリしたからなのか、滅茶苦茶にこにこしている。

 

「そうそう、ダイダロスメディカル! でけーらしいっすね、俺はLost Chapelの方がでかいしわりーと思うんですけどどうすか!?」

「いや…………どの企業も割りと苦労しているだけなんだが……まあそれはいい。企業知識は武器だ、ちゃんと覚えておくんだぞ」

 

 コイツに武器を持つ余裕はない。

 指も三本無ければ、既に腎臓もない。近々内臓を売り捌く予定だってある。

 

 あるのは面倒事とままならなさだけで、別にそんな事を覚えなくてもちゃんと不幸に死ねる。ちゃんと無意味に終わるし、覚えた所で残念ながら無意味に死ぬ。

 それでも、という理想論は貧民には通用しない。レオはニマニマしていた。

 

「わかりましたー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が死んで、もう何年経った? 彼の住んでいた街に”それ”がやってきてから、そう。

 もう五年だ。少年は青年になり、指が足りないとどれだけ人生はめんどくさくなるかも身にしみて理解した。

 

 今日も形見の大槍を持って、青年は使いっぱしりをする。

 あの時彼だけが生き残った。その理由など深くは考えなかったが、レオは聞き分けだけはいいやつだったから、今でもイーナスの教えに従っている。

 

「つーわけで3人殺しました、何ぼもらえるんすか?」

「一人3万、諸々抜いて5000」

「1万5000!? すげーもらえるじゃないっすか!」

 

 それは5日間の食事にも満たない。気にしていないが、大事な問題だ。

 これから彼は、これで3週間は生きる必要があるというのが見立て。世の中どこもろくなもんじゃない。

 

 内臓は更に減ったが、安物の粗悪品インプラントが彼の体を埋めている。彼は容赦なくイーナスの死体から出来るだけのインプラントを持っていったが、捕まった闇医者に安く買い叩かれ、こうして木っ端のアウトローにこき使われている。

 

「お前の良い所は頭が悪くて、疑問がなくて、ついでに何でもやるところだ。高く買ってんだぜ? これは」

「マジっすか!?」

「あぁ、本当だ」

 

 嘘だ。馬鹿にしていて、いつか体をさばいて売ってやろうと思っている。

 報酬だって相場の何分の一だ?

 

「嬉しいなぁ。俺、金ためて何時かすっげーインプラント買って、タンテーでしたっけ? アレやりたいんですよ!」

 

 探偵。力のあまりに加減を忘れた企業たちが使う、立場の曖昧な便利屋共。

 企業達の縛られた感覚にはない解決方法の数々で、時には単なる企業の役員よりよほど目覚ましい功績を残す彼らは、日本発祥だ。

 

 しかしながら、レオでも知っている。

 

「ほう? 大物になりたいのか、レオ」

 

 なれないだろうがな。内心そう笑っていた。

 だがレオの語る夢はもっとお笑い草だ。彼はそれが全然、笑い事じゃないかのようにキラキラした目で喋る。

 

「ほら、アイツラ動物探しとか、企業の運び屋とかで稼げるじゃないっすか! アレいいなぁって、平和じゃないっすか!?」

 

 イーナスの望んでいた、平穏で豊かな暮らしを彼は愚直に追っていた。

 誰も見向きをしなかった自分に、浅慮だとしても教育を施してくれた人だったから。自分の世界で、唯一名前がついている人だったから。

 

 人生で一番、綺麗な人だったから。

 男は笑っていた。心底あざけっていた。周りの部下は失笑していた。

 

 レオだけがキラキラしていて、安物のガラス玉みたいだった。

 

「ふはははは! 勝手に狙っておけ小僧、借金返せばな」

 

 そのためにまず、借金を返さなくてはならなかった。

 

「うっす! 当然頑張ります!」

 

 彼は疑問を持たなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「お”え”っ…………ゲホッゲホッ!」

 

 その内臓はマジで粗悪品だ。だから、ちゃんと手入れする……という名目で最低限のメンテナンスをするやつが必要だ。

 インプラントを入れるための前準備、共通規格の導入すらしてないガキには重すぎる。そして、普通はその”最低限のメンテナンス”は業者から教えてもらえるし、一人で出来るのだ。

 

 彼は馬鹿だから、全部無い。入れてないし、教えてもらってないし、一人では出来ない。

 苦痛は連鎖するもんだ。例外じゃない。

 

「あー、副作用? きっつ…………」

 

 ぼんやりと彼は、イーナスを抱く夢をよく見る。

 恋をしていたと気づいたのは最近のことだ。だが、彼は恋という言葉を学んでないもんだから、それすら未だに形容できてない。

 

 敢えて言うなら、性欲の対象だったと思った。もう何回それで扱いた?

 衰えない。若さも、彼女への思慕とやらも。

 

 夢に見る。彼女とクッションに寝転びながら、聞いたこともない本の話と、いつものように義務教育レベルの話をされる夢。

 彼はそれだけで満足だった。セックスに相当していた、何故なら他に快楽を知らないから。

 

「知ってますよ~、そんなん…………ヤーディス会でしょ~?」

 

 戯言でヤーディス会の名前を口にした。彼をこき使う組織の、更に上に居る連中だ。

 そのトップは滅茶苦茶な美人らしくて、ずーっとレオは会ってみたかった。だから夢でも話題に出るのだろう。

 

 夢の中のイーナスは、以前と変わらず優しかった。

 彼はそれで良かったが。

 

「レオ、仕事だ」

 

 そう。またアウトローが彼を蹴って叩き起こす。

 良いことなんかどこにもない、夢を見る暇も2170年代に存在しないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ターゲットがど真ん中~!? カモじゃないっすか、カモ!」

「そうだ。カモだ」

 

 今回の依頼はめちゃくちゃ簡単だな~!

 突っ立ってるやつを殺せば5万もらえるらしい、相場の10倍! やってくれるな、グズリのじーさんも。

 

 何で突っ立ってるのかは…………まあ良いや、殺せばいいだけだしな。

 俺は結構特別だから行けるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

「だからお前は死ぬんだよ、グズが」

 

 当たり前のようにダメだった。普通にトラップで、彼はそのまま串刺しにされて得物を地面に落としてしまっている。

 脳天すらも刺し貫かれ、無数の槍で支えられるように浮かされているレオは、やはり今回も宗教画のようだった。舌が垂れ下がり、だらしなく開いた口のしまらなさに目を瞑れば、貧乏人にしてはマシな絵面だ。

 

「なんで…………?」

「ヤーディス会からの指示だ。あの災害で生き残ったってのは相当なことらしいが、何のことはねえ。お前は現に今から死ぬからな」

 

 アウトロー、グズリはこういうガキが大嫌いだったから。心底笑顔で答えていた。

 何も考えずに戦うような無責任な輩が嫌いだし、自分の狡猾さに無関心で愚かなやつも嫌いだった。彼は色んな人間を食い物にして今生きている自覚があるが、その中でもこのレオという輩は史上最悪にアホだと思っている。

 

 そしてそれは、生き残った人間としてあまりに死人に恥ずべき行為であり、己の狡猾さと一緒に地獄に叩き落すべきだと強く感じていた。

 

「俺…………普通に、暮らしたい。だけなのに……」

「お前は舐めてる。普通に暮らすことがどれだけの犠牲で成り立つ? 考えたことあるか? 無いだろ、ゴミクズが」

 

 ヤーディス会のトップが彼に関心を向ける理由もグズリにはわからなかった。串刺しの頭を蹴りながら、今までの鬱憤を吐き出すように粛々と暴言を浴びせる。

 

「お前みたいな才能も無く、努力もせず、そのくせ与えられるものに口だけ開けて、努力する人間の後塵に配するだけのような奴は、目を瞑ってどっか隅っこに挟まって、口だけ開けて雨と埃だけ食ってそのまま死ね」

 

 蹴る、蹴る、蹴る。彼のやり場のない怒りは、別にレオに向けられる必要もなかったが。

 ちょうどいいから向けられた。レオがちょうどいいから慕っていたように、八つ当たりにちょうどいい場所に彼が居た。

 

 彼は蹴られながら、何故か思考だけが続いている。

 生き残った実感というのが最初からなかった。走馬灯になってようやく当時の記憶が流れて、如何に今までの人生が恵まれなかったかについて、若干の理解をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて”それ”がやってきて、彼以外はみんな死んだ。

 イーナスが珍しく通りがかりに人の足を踏んでしまって、こんな事を言っていたときだった。

 

『怒らないでくれ、ジェントルマン。わざとではなかったんだ』

 

 だろうな。この災厄も、別に個々の人生になにやら思って起きたことなどではなかったのだ。

 誰かが嫌なことをしてやろうと思って恐ろしいことは起きちゃいない。結局は、誰も必死だった結果が悲劇なのだ。だから悲劇なのだ。そして笑い話なのだ。

 

 こいつらはこれだけ進んだ技術の中で、たったそれだけだったのだ。

 

────ホントかよ?

 

 そうだ。バカバカしかった。

 その瞬間に、その街は力に包まれた。

 

 そこからの景色をはっきりと認識できたやつは恐らく居ない。居ても死んだが、居なかっただろうと言える。

 ただ力に、滅茶苦茶に全てが歪められた。寿命だとか、活力だとか、そういう小難しい概念もまとめて、物理的に、一緒にぐちゃぐちゃにされた。

 

 嵐と呼ぶにも力強すぎる渦は、それこそ大企業のもたらす厄災のようであったが、レオが意識を保っていた時間は長かった。

 

『全く。何秒持つかな…………ッ!』

 

 イーナスが庇っていたから。既に背中から内臓がこぼれ出し、口からは黄色がかった血が垂れ流されていたが、それでも倒れ込んで怯えるばかりのレオを守っていた。

 

『な、何やってんだイーナス! アンタ逃げれるだろ、逃げねえと………死ぬ! 死んだらヤバイって! ヤベエよ!』

『だろうな……』

 

 笑うばかりで、退く様子などなかった。レオが退かそうとしても同じような結果になる。

 レオは困惑していた。死ぬチャンスは死ぬほど転がっていたが、死にそうなやつをどうにも出来ない経験はあまりなかったからだ。

 

 音とも言い切れない、渦に巻かれる奇妙な風の音と同時に、彼女の肉がえぐれる嫌な音も当然する。

 だが、レオは涙がでなかった。

 ヤバイとだけ思い続けて、色々と言っていた。

 

 そしてイーナスは聞かなかった。

 

『良いか、レオ。人は人と生きるために生まれてくる。人のために死ぬ日もある』

『意味分かんねえよ!』

『今日分からなくて良い、明日。来月、来年、死ぬまでにわかれば』

 

 レオもとうとう巻き込まれ、体の幾つかは消えた。

 どんどん意識が遠のく中で、彼女はポツリとこんな事を言った。

 

『人は必ず真実にたどり着く。だから、まず生きろ』

 

────そこまで俺、生きれんのか? 真実ってなんだよ。

 

 死ぬかもな。お前は馬鹿だから。

 

────イーナスはいつも大事なことを教えてくれたけど、どうだっけ。

 

 何が?

 

────でもアイツ、死んだよな。

 

 そうだな。

 彼女は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱちげーよなぁ! イーナス! 俺だって不幸になる必要がねえぜ、死ね!!!!!!」

 

 槍を吐き出した。

 槍を体中から突き出した。

 彼はそういうやつだった。

 

 全身トゲトゲで、そして生きることだけは得意だ。

 だから今回も何とかする。

 

 必要なら、初恋も馬鹿にして生き延びる。あんな死んだやつの理屈にかまって、死んでられるかと。

 ゲタゲタ嗤いながら体中から槍が伸び、グズリと周りのごろつきを付け狙う。彼らは驚きのあまり、数人ほどが逃げ遅れて串刺しになった。

 

 それは捻じ曲がりながら、時に遠回りしながら、必ずグズリ達の元へやってくる。

 

「な、何だお前!?」

「あぁ…………?」

 

 串刺しになのに、平然と槍ごと地面から引っこ抜いて、ゆっくりと立ち上がり始める。

 グズリは恐れている。意味不明だ。

 普通なら死んでる、こんなインプラントも殆ど付けてないガキがこの重傷で生き返ってたまるか。世の中そう上手くいかないから、彼は小悪党に甘んじたというのに。

 

 まっ、それはグズリという負け犬の理屈だったというわけだ。

 平然とレオは起き上がり、そして嗤い声が更に甲高くなる。

 

「ギャハハハハハ! ふたぁりぃ! 10万だぜ10万、寄越せよグズリ!」

「ふざけやがって!? このバケモンが、殺せ!」

 

 即座にインプラントを起動し、グズリの手持ちのごろつきは走り出す。

 加速は人間が本来手にするレベルをとうに超過し、まるで世界がスローモーションのように見えていることだろう。

 

 日本のCriminal社の作り出した、あらゆる行動が理論上の最適行動に調整される加速装置。「行動最適化システム」だ。かなり高く、高い分暴力的なアドバンテージを持つ。

 ごろつき達は抑えれると思った。

 

「あぁ?」

 

 無理だ。レオは、それが”視えている”。

 彼らはLost Chapelの私兵達の凄まじさを思い出した。彼らも自分たちの時間に横入りして、そのままぐちゃぐちゃに犯し尽くして消えていったのをよく覚えている。

 

 もっと今回は酷そうだが。

 

「はえーのは良いよなぁ! 俺も手っ取り早く人稼ぎしてえから死ねや!」

 

 否定する。串刺しにして大爆笑、確かにその冗談みたいな出血量と、新手の工場のような蔓延した血の匂いは気分を高めてくれている。

 

 彼は頭の中で、今までイーナスに与えられた宗教をどんどん否定している。

 知識が必要? いや、全部殺せればいらない。

 

「何なんだよ、テメエは!」

 

 グズリは信管を引っこ抜いて、グレネードをぶち投げる。レオに確かにぶつかって、起動が開始する。

 無音に光もなく、余波もない。それは22世紀ならでは完全な殺戮用のツールだったからだろう。

 

 だが、それより速くレオは動いている。

 

「真実ってなんなんだよ! あぁ!? んなもんで飯食えんのかよ!」

「はぁ!?」

 

 そのまま詰めより、グズリの右上腕に槍を一突き。軽い腕の動きでそのまま上腕から下を引きちぎって、明後日の方へぶん投げた。

 グズリは悲鳴を上げない。淡々と左腕の特殊動作を開始し、腰に帯刀した日本刀を流暢に振り回す。

 

「おいグズリィ! 普通に暮らすのによぉ、頭使わねえとダメなのか!?」

「当たり前だろ、気狂いが────」

 

 目にも留まらぬほぼ同時着地の二連撃を、あっさりと肌が弾いてしまう。

 レオの肌は尋常な様子ではなかった。

 

「何っ!?」

「んでだよぉ! 俺は単に、可愛いねーちゃんと遊んで、飯を腹一杯食いてえだけだぜ!?」

「それがどれだけ幸福だと思っている!」

 

 知るかよ。

 だからもう片腕も千切り飛ばした。

 

「知らねえ! お前はチンコ扱く時にねーちゃんにごめんなさいすんのか、あぁ!?」

「クソが。教養もなければ、倫理観も配慮もない────お前のようなやつが生きているから世界は寂れていく!」

 

 ぐさり。

 心臓を一突き、投げ飛ばしながら、無数に体から飛び出した槍がおかわりを浴びせ続けた。

 

「うるっせえよ! テメエもキョーヨーねえだろ! 死ね!」

 

 だから、死んだ。

 お前らみたいなのが生きてるから世界が寂れていくのは本当だ。

 

 グズリ、お前も例外じゃないってだけで。

 

「おい待て待て? そっか…………お前、お前を殺せば借金はチャラじゃねえかよ! えぇ~!? ヒヒッ、ギャハハハハハ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーわ。酷いですね、意図的な先祖返りが此処まで強烈だとは…………予想以上だ」

 

 苦笑いをこぼしながら、異様な空気の女が惨状を見ている。

 括った髪は艶やかな墨色で、僅かに左に垂れ下がる一房だけが真っ赤に染まっている。黒と朱で整えた姿は威圧感を感じさせるが、その朗らかな表情と若々しさが大抵のことを誤魔化している。

 

 NNN Corporation。メガコーポの一つ。

 その頭領の姿を”模している”女だ。いざという時の責任逃れに、企業の責任者ほど使えるやつは居ない。名前をヤディスという。

 

「これ何秒でやってました? 私は体感数分だった気がするんですけど」

「その程度ですね…………しかし、本当に滅茶苦茶だ。ヤディス、アレはどうしますか」

 

 指さした先のレオは、服も何もかもがめちゃくちゃになり、血と肉の中央でメインディッシュよろしく横たわっていた。

 レオはその後も無茶苦茶に暴れまわり、戦場となった倉庫は槍がそこら中に突き刺さっていたし、死体は最早識別不可能なほどにぐちゃぐちゃにされていた。

 

 ヤディスは、中央に横たわる青年を抱き起こして、軽く頬を叩いてみる。

 

「おーい。起きてますか? 美人ですよー」

「…………あぁ!? 美人!?」

「はい、美人です」

 

 何も嘘はついていない。彼女の笑顔は、一世紀前の人間には劇毒なほどに魅力的だ。

 それを現在の人間の殆どは、インプラントのおかげだろうと考える。ダイダロスメディカル社の繰り出した、人類全てへの祝福である”改築の前準備、共通規格。

 

 それに裏打ちされる”改築”そのものがインプラントだ。今の人類は気軽に体のパーツを企業の売り物にすげ替えるし、しかも人体と見た目が変わらなかったり、逆に機械感を丸出しだったりする。

 全てがきっちり多様性として受け止められ始めた時代で、特にインプラントが高いやつは────それ即ち、何らかの優位性を持つ存在であるとも言えた。

 

「…………は? ヤバイ美人だ……ヤラせてくれ」

「面白い人ですね」

 

 ニコニコしている女の顔には、何処か”牝”の様子を感じ取れる。

 だから当然レオは食いついた。

 

「行けるのか!?」

「別に構いませんよ。貴方は面白い人だ、私の下半身一つで懐柔できるなら安いものです」

「っしゃあっ!」

 

 大げさなくらいガッツポーズをして、そのまま貧血でうなだれる。

 ヤディスの視線はどうにも色っぽくどんどんと艶めかしさを帯びて、慣れないレオは言葉数が減っていってしまう。

 

 呑まれていた。

 

「実のところ、貴方に恋をしてしまいました。現代で此処まで横暴に、自分のためにしっかり動ける方がちゃんと居るとは…………私の目も中々節穴のようで」

「え? あ? ど、どうも」

「実は、私が勝手にそう思っていただけなのかも。でも、最初に気づかせてくれた貴方には様々な思いがあります」

「あ? お、おう。そうですか」

 

 気圧されるのは恒例行事化していくのだが、まあそれはどうでもいい。

 問題は、ヤディスという存在に評価されることが。

 

 かなり大きな波乱の幕開けそのものである。という点だ。




出来るだけ綺麗にパクりきって、出来るだけ綺麗に作品の意図を外して自分流にしました。控えめに言ってパロディ元に失礼。面白くなるよう頑張ります。


レオポルド→レオ
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