私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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屋上での一幕

 君はまるでトンボ玉のようだ。見る方向で、美しさが全く違う。

 

 苛烈な面もあれば、静かな面もある。きらびやかな面もあれば、朗らかな面もある。

 

 キラキラしていて、うつくしくて、風のように爽やかで。

 

 有り体に言えば、一目惚れ、だったんだ。

 

 

 さっと口から吸い口を離して、ふうっ、と勢いよく煙を吐いた。

 

 パイプタバコを吹かしながら思うのは、私はバニラの香りが好みだということ。

 

 あとは、走るのがそこそこ好きという事。

 

 前世の記憶があるという事。

 

 前世も含めて、自由が好きだという事。

 

 そしてここは、トレセン学園の喫煙所である、という事ぐらいだろうか。

 

「さてと、今日は何をしようかな」

 

 そう言いながら再びパイプを咥えて、啜るように息を吸う。するともっこりと葉が盛り上がる。こうなると火が長続きしない。

 

 コンパニオンを取り出して、タンパーで浮き上がった葉を軽く押し下げる。

 

「うん。いい感じ良い感じ」

 

 軽く口の中に煙をとどめて、ゆっくりと吐き出せば、鼻に抜けるのは煙草の香りとバニラの香り。実に、満足なひと時だ。

 

 煙草は体の健康に悪い。でも、満足な時間を得るには最高のツールとも言えよう。

 

 

 喫煙所と言う、屋上に私一人のために作られた憩いの場。そこを後にすると、目の前に広がったのはトレセン学園の広大な土地だ。

 

 眼下に広がる広大な芝とダートのコースに、少し遠くに見えるウマ娘達の寮。プールもあれば、室内練習場も完備している。

 

「おー、やってるやってる。精が出るね」

 

 どのコースを見ても、ウマ娘達が研鑽を積み、その実力を高めている。あるところでは、ダンスの練習をしているし、あるところではトレーナーとレクリエーションを行っている。いやはや、青春だね。

 

「やってるやってるってお前なぁ。お前もウマ娘だろう?」

「いやいや、私は煙草を吸ってるただの不良だよ。どこぞのトレーナーさん?」

 

 両の手を上げて、参ったの格好をしながら振り向いてみれば、そこに立っていたのは一人のトレーナーであった。黄色のシャツに黒っぽいベスト。口に咥えているのはタバコじゃなくて、多分飴かな?

 

「それで、どこぞのトレーナーさんは、こんな私に何の用?」

 

 煙草の香りでウマ娘は寄りつきゃしない。トレーナーも、ウマ娘が居なければ寄りつきゃしない。ここに来るのは煙草好きか、相当な変わりもの好きしか居ないだろう。私の言葉に、どこぞのトレーナーは頭をぽりぽりと掻いていた。

 

「毎日毎日、屋上からこっちを覗いている奴がいたら気にもなるだろう」

「へぇ。変わりもの好きもいるんだね。じゃあ、立ち話もなんだしさ。トレーナーもどうかな?一服」

 

 制服のポケットへと手を伸ばして、新品のコーンパイプとジャグを、小さく掲げて見せた。


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