私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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ターフと出会い

「理解!なるほど。話は判った!」

「ええ。こちらです」

 

 翌日、私はルドルフと共に学園長室に顔を出していた。この場にはマルゼンスキー、学園長、たづなさんもおり、昨日の私の知識とスマートフォンを改めて紹介した形だ。

 

「ウマ娘プリティーダービー、それに馬とよばれる動物の諸々…。たづな」

「見たことも聞いたこともありませんね。マルゼンスキーさんはいかがでしょう?」

「うーん…私も知らないわね」

 

 学園長とたづなさん、そしてマルゼンも、昨日のルドルフと同じように判りやすく悩んでいる。だが、流石そこは学園長といったところ。一旦!という扇子を開き、彼女は鋭い眼を見せる。

 

「ならば。君の記憶ではスマートフォンとよばれるその端末。それは混乱を避けるためにも私が責任を持って預からせてもらう。よいな?」

「ええ。もちろんです。よろしくお願いします」

 

 スマートフォンを学園長に手渡した。神妙な顔でそれを受け取った彼女は、それを鍵のかかった自らの机にしまい込み、そして鍵をかけた。

 

「中身は見ないので?」

「必要あるまい。これは君の物だからな。ただ、この中身が世に出ると非常にまずいのは判るだろう?」

 

 うんうんと頷く学園長と私。ま、彼女がそう判断したのならば、それに従うまでであろう。よろしくお願いします、の意味を込めて、改めて深く頭を下げた。

 

「そしてもう一つ。君の記憶についてだが、それはなるべく秘密にしておいて欲しい」

 

 思わず首を傾げた。

 

「なるべく?」

「そう。なるべくで構わない。君の話を聞く限り、戦績は勿論の事、馬の怪我もどうやら知っている様子だ。つまりそれは、ウマ娘の未来の怪我の可能性も知っているという事に他ならない」

 

 そうだね。と意味を込めて首を縦に振っておく。戦績も怪我もあらかたは知っている。とは言ってもウマ娘に出て来る娘達の事に特化しているけれどね。

 

「故に、もし君さえよければ、その未来を回避するための助言を彼女らにしてほしいと思う。無論記憶は完璧ではないだろう。故に、気まぐれ程度で構わない」

 

 なるほどそう来たか。たしかこの学園長もウマ娘にはなるべく幸せになってほしいと願っている人だったはず。使える者はなにでも使う。そんな気迫が見て取れるね。嫌いじゃないよ、そういうの。

 

「それはその…ある意味、未来を変えてしまう事では?」

「何を言う?未来など、まだ何一つも決まっていないではないか」

 

 確かに言われてみればそうだ。私が馬としての知識やアニメのウマ娘などで見た知識。それらがもしこの世界でも本当の事だとしても、それは、まだ決まっていない未来に過ぎない。例えばルドルフがアメリカ遠征で怪我をして引退してしまう。という未来は、私の中では知っているものだが、この世界ではまだ何も起こっていないことだ。

 

「どうだろう?この提案に乗ってもらえるのならば、君の望みを1つ、叶えようと思うのだが」

 

 それは魅力的。ならばと頷いておこう。

 

「そうか。協力してくれるなら有難いことこの上なしだ!それで、何か望みはあるか?」

「じゃあ…」

 

 学園の中に無い物が頭の中に浮かんできた。他人にとっては不要だろうけれど、私にとっては必要なそれをねだっておく。

 

「喫煙所」

「…は?」

「喫煙所。煙草、吸いたいんですよ」

 

 喫煙所だ。今は家で吸っているが、この学園に来てからというもの吸う場所がない。昨日のルドルフの部屋だってそうだ。禁煙だ、と言われてしまえば吸うことなど叶うまいよ。

 

「…喫煙所…ううむ。他の物、などは」

「不要です。喫煙所が欲しいです」

 

 食い気味に学園長に意見をする。ちらっとたづなさん、マルゼン、ルドルフの顔を見てみれば、やれやれと言った風に苦笑を浮かべていた。

 

「承知した。善処しよう。だが、ウマ娘は匂いにも敏感だ。喫煙所を作るにしても、少々辺鄙な場所になることは許して欲しい」

「構いません。嗜める場所があるなら、それ以上の文句は言いませんので」

 

 昨今、喫煙者の肩身は狭い。全面禁煙なんてやられてしまう場所もある。故に、喫煙所が残っているだけでも非常に有難いのだ。

 

 

 学園長室を後にした私は、コースへとその体をさらしていた。ジャージに着替えて走るコースというのは、なぜかこうしっくりと来る。

 

「雨のターフも良かったけれど、太陽の下のターフも悪くはない」

 

 青々とした芝の上。この体はまるで、跳ねるようにその上を軽々と進んで行く。ぐっと首を下げてみれば、その力強さは増していき、ぐんぐんと風が強くなるようだ。

 

「良い感じ良い感じ」

 

 たづなさんから言われたことを頭に浮かべながら、しかし、自分の体と心のままにコースを駆け抜ける。ストレートが終わりコーナーへ入れば、まるでバイクのコーナリングのように体が傾き、スピードそのままにクリアしていく。

 

「はっ、はっ、はっ!」

 

 息が荒くなる。ゴールまであと少し、更に首を下げて、脚をもっと跳ねるように。前に、前に、前に、前に!

 

「ゴール!ンー!きもっちいい!」

 

 万歳のポーズをとりながら、そう叫んだ。うん。やっぱりウマ娘になったからだろうか。走る事が本当に楽しくなっているな。それに、実際気持ちよく走れるし。と、そう思った時だ。視界の端に何かが揺れた。

 

「ん?だーれ?」

 

 たづなさんあたりか?マルゼンか?ルドルフか?そう思いながら何かが揺れた方向に視線を向け見れば、そこにいたのは全く見知らぬウマ娘。

 

「あ、あ」

 

 私に気づかれるとは思ってなかったのだろうか。どこかおどおどしている感じ。

 

「君!そんなところに立ってないでさ。こっちきなよー!」

「あ…はい…」

 

 萎縮しながらこちらに歩み寄ってきたのは、比較的普通の、といっては失礼かもしれないが、ルドルフやマルゼンのようにオーラを纏っていない普通のウマ娘だった。体つきを見れば、脚は長いのだが、どこかひょろっとして見栄えが少し悪いなーなどと思ってしまう。…比較対象がルドルフとかなんで、まぁ、許して欲しい。と内心で思う。

 

「私はミスターシービー。さてさて、私を遠くから見ていた君のお名前は?」

 

 まずはなんにせよ自己紹介から。腰をしっかりとまげて見れば、驚いたような顔を浮かべていた。

 

「ミスターシービー…あ、すいません。私はカツラギ。カツラギエースと言います。その、ミスターシービーさんの走りがカッコよくて見とれてしまっていました」

 

 カツラギエース。その名前にどこかひっかかりと覚えながら、私は笑顔を彼女に向けた。

 

「あはは、ありがとう。ああ、あと私の事はシービーでいいよ。君の事をカツラギと呼んでも?」

「あ、はい!よろしくお願いします。シービーさん」

 

 ふふふと笑い合う私とカツラギ。うん。せっかくの出会いだし、こういうのは大切にしていかないとね。

 

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