私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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夏のお祭り①

 ある夏の日。人々は海岸線に一様に介していた。ここはウマ娘の合宿が行われる場所で、人は確かに集まるのだがここまで集まる姿はまぁ珍しい。

 

「出店は豪華だけど、ウマ娘がいないね?」

「本当本当。ライブのステージにも幕がかかったままだし、どうしたんだろう?」

 

 今日は以前より告知されていた、ミスターシービーのミニライブ…の日だったのだが、気が付けば規模はミニライブのそれではなく、フェスと言ってもいいぐらいの人出が見て取れる。そこに、多くの出店が人々を待ち構えていながら、その中央、一番人々の視線に入る部分に大きなステージがあり、少し離れた場所にも2つの小さいステージが完備されていた。

 

 だが、困ったことに今日はウマ娘の姿が一人としてない。すでに時間は朝九時を回ったところ。普段であればウマ娘の闊歩する足音がそこらじゅうでするはずなのだ。

 

 フェスがあったとしても、ウマ娘の練習スペースは十二分にある。海岸線の一部は完全にウマ娘用のレーンになっているし、タイヤ曳きなどの道具もしかりと用意されている。それは来ている人々や、一般ウマ娘達も気づいているのだろう。時折周囲を見渡しながら、出店の料理を楽しんでいる。

 

「シービーさんと会えないかなぁ」

「シンボリルドルフさんと会えないかなぁ」

 

 そこには、ナイスネイチャやトウカイテイオーなどの子供のウマ娘の姿もあり、老若男女関係なく、多くの人々が詰めかけているようであった。

 というのもそれは当然で、URA(ウマ娘競走協会)とUAR(地方ウマ娘全国協会)が大々的にバックアップをしているからだ。この規模の出店、ステージ、集客を出来たのも、そのバックアップ力のおかげに他ならない。

 

 と、その時だ。大音量でBGMが流れ始めていた。

 

「これって…メイクデビュー?」

「だね。シービーのアルバムにも入ってた」

 

 ピアノのメロディーラインに誘われるような、穏やかな音源。しかし、音量はそうではない。否が応でもつんざくようなその音に、人々の脚が止まる。

 

「煩っ」

「なになに?」

 

 困惑する人々の気持ちを尻目にしながら、急に、ジェットホーンがステージを包む。同時に、メインステージの幕が切られた。

 

「え?」

「あ!」

「わ!」

 

 そして、人々の視線がジェットホーンの白い煙にくぎ付けになる。と、共に。

 

『レディースアンドジェントルマン!』

 

 特徴的な、しかし、普段では聞くことの出来ない声が、人々の耳に届く。その二酸化炭素で出来た白い煙が晴れると同時に、その姿もあらわになった。

 

『私はミスターシービー!今日はこのライブにご来場頂き感謝するよ!』

 

 おお!?と人々の間でどよめきが起こる。

 

『今日は夜まで騒ぐ、大きなお祭りだ!まずは、その露払い!』

 

 ミスターシービーが天に手を胸の前で組んだ。

 

『メイクデビュー!』

 

 シービーの言葉と同時に、BGMが止む。そして。

 

『響けファンファーレ』

 

 再び音楽が穏やかに流れ始めた。ミスターシービーのソロで、歌が続けられる。

 

『届けゴールまで』

 

 右手を伸ばし、何かを掴むように歌い上げる。演出も相まって、今、人々の視線はミスターシービーにくぎ付けだ。内心でミスターシービーはにやりと笑った。これから起こることに、誰も気づいていない。

 

『輝く未来を君とみたいから!』

 

 そこまで歌い切った瞬間、人々の耳には、一気に明るくなった音楽と、蹄鉄が地面を蹴る地響きが届き始める。

 

「え!?」

「なに!?」

 

 すると、人々の後方から、ウマ娘のトレーニング用に開けてあった場所を、多くのウマ娘が駆け上がってきていた。そして、気づけば、ステージの上にも、多くの重賞ウマ娘の姿があった。昨年の有マ記念でシービーと競い合ったウマ娘達の姿もあったりで、黄色い、野太い、声が上がった。

 

 そしてイントロが終わるころには、URA・UARのスター達がステージに上り、これまたURA、UARのウマ娘達がこのフェスの会場を取り囲むように陣をとっていた。

 

「わ、すごっ!?」

「ウマ娘ばっかりだ…すごいぞ、これ!」

「見てみて、ステージのウマ娘達みんな水着だ!かわいい!」

 

 そう、これはミスターシービーが考えたサプライズ。人々とウマ娘の距離を縮めんとした一歩。誰一人としてウマ娘が顔を見せていなかったのも、この時のため。

 

『さぁ、歌える人は歌って!踊れる人は一緒に踊ろう!』

 

 ミスターシービーの一声で、人々のボルテージは一気に上がり、ウマ娘、人、ところかまわずメイクデビューを歌うお祭りの暑い空気が出来上がっていた。

 

 

 そして、曲は進み、最後の大サビに差し掛かったころには、会場全体で声を合わせていた。

 

『駆け抜けてゆこう 君だけの道を!』

 

 子供も大人も関係なく、その声は天に届く勢いで。

 

『走れ 走れ 誰より早く』

 

 ウマ娘も人も関係なく、その声は海に響き渡る大きさで。

 

『いつか 笑える』

 

 人々の笑顔は、きっと、明るい明日を描いている。

 

『最高だけ目指してゆこう!』

 

 すごい数のウマ娘、そして、すごい数の出店。そして聞いたことのある音楽たちの奔流が、人々を押し流す勢いで展開されていた。そして、一曲を歌い上げたミスターシービーは、一つ呼吸を置くとともに、マイクを口元へと静かに持っていく。

 

『今日は食べて飲んで音楽を楽しんで、盛り上がっていこう!』

 

 そして、そこに、このお祭りの開始宣言が告げられる。

 

『さ、じゃあ夏のURA・UAR合同フェス!自由に楽しんでってね!』

 

 水着まぶしいウマ娘達に誘われて、人々は大いに盛り上がりを見せる一日が始まる。そして、ミスターシービーがステージをかけ降りると、また別のウマ娘がマイクを持った。

 

『本日はご来場頂き誠に感謝いたします。ただいまお送りいたしましたのはメイクデビュー。ボーカルはミスターシービー。バックダンサーはこの夏合宿に参加しているすべての競技ウマ娘達でした。この後、ウマ娘達は練習を行うウマ娘もおりますので、その点ご配慮願います。なお、この会場のすぐ横で練習は行われますので、ご興味のある方は、ぜひ見学をなさって下さい。声援も送っていただくと、非常にありがたく存じます。

 なお、本日は、UAR、URAのステージが行われます。このメインステージでは、G1級ウマ娘達のステージが、あちらに見えます2つのサブステージでは、新進気鋭のウマ娘達のステージをお楽しみいただけます。

 今回は、海外ウマ娘の歌もございますので、ぜひご注目ください。メインイベントのミスターシービーのライブにおいては、サプライズも予定しております。ぜひ、皆様、最後まで本日のフェスをお楽しみくださいませ。

 なお、トイレやシャワー、ゴミ箱など設備に関しましては…』

 

 

 夏の合宿も中盤に差し掛かったころ、ついに、私のミニライブの開催日となった。ただ、その中身はミニライブという言葉とは裏腹に『トレセン合同夏フェス』みたいな大規模なお祭りになってしまっている。

 ことの発端は、URAへの連絡をルドルフに任せていたこと。その結果、理事長が頑張ってしまい、この海岸線に集まっている中央・各地の地方関わらずのトレセンメンバーと合同でイベントを開く運びになったことを知ったのは、ついこの間の事。

 

「何、君は準備していたものを出してくれればいい。運営はこちらでやる」

 

 という、頼もしくも憎らしい笑顔を浮かべていたルドルフに、軽く肩パンをした私は悪くはないと思う。ただ、流石というか。完璧主義のルドルフと、行動力の理事長が組み合わさった結果、出店も大量に出店し、ステージも3つあり、各トレセンのウイニングライブなんかも順番に披露されているという豪華なお祭りに仕上がっている。というか、いつの間にこんな規模の準備をしたのだか。

 

「おー、これは…何かの音頭かな」

 

 どこか和風の音楽が耳に入ってきていて、どうやらこれは地方の…あれは今カサマツあたりのトレセンの出し物らしい。なるほど、こういうのも一つのファンサービスか。こういっちゃアレだが、ローカルトレセンならではの曲ともいえるのだろう。一部からは笑いが起きているけれど、ただ、見ていて十二分に楽しいから、ウイニングライブとしては成功だよね、アレ。

 

「おう、シービー」

「ん?や、エース。楽しんでる?…って、聞くまでもないね」

 

 そうやってお祭りを楽しんでいると、いつものライバルの顔が、たこ焼きとお面越しに見えた。ちなみに、今日のエースはとてもかわいい。何せ、マルゼンの選んだ水着を着ているからね。黒いビキニが彼女の肢体には良く似合う。

 

「そりゃあお祭りは楽しまないと。お前は何か買わないのか?」

「迷っているとこ」

 

 といいながら、エースのたこ焼きを一つ掠め取った。間髪入れずに、口に含めば、なるほどこれはオオダコ。トロトロでいい感じだ。

 

「あ!シービーお前勝手に食うなよ!?あたしんだぞ!?」

「いいじゃん。減るもんじゃないし」

「いや減ったから!」

「えー、ケチー」

 

 軽くじゃれ合いながら、せっかくだしとエースと肩を並べてお祭りを歩く。と、今度耳に入ってきたのは、英語っぽい曲である。ただ、発音がちょっと柔らかい…聞きなじみのなかったソレに目を向けてみれば、どうやら、一度は見た顔がステージに立っていた。

 

「あれ…オールアロング?」

「え?んなことあるわけ…オールアロングだ」

 

 なぁんでフランスのウマ娘がここにいるのかね。まぁ…十中八九理事長の手腕だろうなぁ。あの人、本当に行動力の化け物だし。で、おそらくあれがフランスのトレセンのウイニングライブの曲なのだろう。一部のファンは大いに盛り上がっているあたりを見れば、それが判る。しかも彼女が歌っているのなら、きっとG1級だろう。

 

「外国のウイニングライブかぁ。どうせなら、私も歌ってみたいなぁ」

「お、シービー。フランスにでも飛ぶのか?」

「歌うならそのぐらいじゃないとね。どうせなら、凱旋門とか。エースも来る?」

「冗談言うなよ」

 

 だよねぇとつぶやきながら、もう一つエースのたこ焼きを拝借しておく。

 

「あ!また!」

 

 うん。やっぱり蕩けて美味しいね。

 

「エースも食べないと無くなっちゃうよ?」

「どの口が言ってんだどの口が」

 

 むにー。そうやって、エースの手で頬を伸ばされた。降参とばかりに両手を挙げる。

 

「ごめんごめん。もう食べないから許してよー」

「本当かー?」

「うんうん。たこ焼きはもう食べないから」

 

 パッと手を離してくれたエースに笑顔を向ける。

 

「まぁいいけどさ。ってか、あたしもステージで踊ったり、歌ったりして本当にいいのか?お前のミニライブだろ?」

「もちろん。エースは今年の上り龍だから盛り上がるよ。それにミニライブって言ってもさ、ここまで大きくなっちゃったしさ、もうなんでもござれだよ」

 

 本当に。私とマルゼン、ルドルフというメンツで考えていたミニライブはもう過去の事だ。正直、規模がデカくなりすぎてる。

 

「に、しても水着とはなー。ちょっと恥ずかしいぜ」

「協力してくれて感謝するよ、エース」

「ま、ファンのためならな。それにしても考えたよな?触れ合えるウマ娘は水着姿ってさ」

「ふふ。ま、夏だしね」

 

 練習を行わないウマ娘。つまりは、今日のフェスの要員となっているウマ娘が水着ってわけだ。個人的に目の保養にちょうどいい。で、ただ、今日の水着要員の中にはオースミロッチあたりの私とそんなにかかわりのないウマ娘達も多数存在している。なんでかと理由を聞いてみたのだけれど。

 

『君に大きな借りがあるからね』

 

 とか言っていた。申し訳ないけど私には心当たりがない。そう伝えたら、カラカラと笑われてしまった。うーむ。判らん。

 

「うおー…今日は来てよかった。マジで」

「本当だなぁ…ウマ娘の水着を見れるってだけで本当幸せすぎ…しかもライブもだぜ…」

「かわいい。本当に、全員かわいい!」

「シンボリルドルフさんも水着なのかな?きっとカッコイイんだろうなぁ!」

 

 というか、まぁ、ウマ娘が水着姿ってだけで相当盛り上がってるところはあるよね。いたるところで野太い声援と、黄色い声援が混じってまぁ大変だ。

 

「わあ!ミスターシービーとカツラギエースだ!」

 

 おっといけない。一般人の女性に見つかってしまった。一応は帽子で顔を隠してはいたんだけどね。まぁそうは問屋がおろさないか。エースはといえば、たこ焼きを頬張って美味しそうにしてる。ならば、私が矢面に立つとしましょうか。

 

「や、今日は楽しんでる?」

「はい!すごく楽しいです!ライブも楽しみにしています!」

「そっか!じゃ、自由に楽しんでいってね。アタシも楽しんでライブするからさ!」

「はい!わっ?!」

 

 最後に軽く肩を組んで、写真を促すと、女性は急いでそれをスマホの写真に収めたようだ。うんうん。悪くないよ、今日のこの盛り上がり方は実に、私好みだ。

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