私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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珈琲のお出かけ

「悪いねトレーナー。付き合って貰っちゃってさ」

「いいや、別に。っていうか俺で良かったのか?」

「うん。学園長とルドルフの目を欺く、保護者にちょうどいいよ」

「保護者ってお前なぁ」

 

 インカムを通してトレーナーの声を聞きながら、私は私の相棒で高速道路を北へと飛ばしていた。目的地は栃木の焼き物の街。というのも、お気に入りの珈琲が一つ切れてしまったのだ。通販でもいいんだけれど、すぐに飲みたくなってしまって致し方なく。

 

「っていうかトレーナー、もうちょっとしっかり腰に捕まってほしいんだけど?」

「いや、流石になぁ」

 

 密着されないとどうも安定しないのがバイクの二人乗りである。とはいえ、戸惑う彼の気持ちもわかるけれどね。私だって前はそこそこのおじさんだったのだ。おじさんが若い女性の操るバイクの後ろに乗って、密着するというのはなかなかどうしてイケない感じがするものである。

 

「気持ちはわかるけれど、危険だからね。それに私はどこ触られても気にしないよ?」

「俺が気にするんだよ!」

「あはは。練習を見ながら私のトモを触ったトレーナーがそんなことを言う?」

 

 例の屋上の件の翌日、私の練習を見に来たであろうトレーナーが、急に私のふとももやふくらはぎを触り始めたのは記憶に新しいところだ。居合わせたたづなさんとルドルフ、そしてマルゼンに説教を受けていた彼のしょんぼりっぷりはちょっとおもしろかった。懲りずにカツラギのフトモモも触ったのは流石と言えよう。

 

「いや…その、あれは癖っつーか…良いウマ娘を見るとつい確かめたくなっちまうんだ」

「あはは。君はトレーナーの鑑だね?じゃあ、目の前にいる良いウマ娘の背中に密着するぐらいは造作ないんじゃない?」

 

 私がそういえば、トレーナーの体の温もりが背中に伝わってきた。うんうん。それでいい。っていうか、これでも私結構美人のウマ娘なわけだし、君さ、結構役得だと思うんだけどねー?などと思考してしまうのは知識や記憶は兎も角も、私の『男』としての意識がなんだかんだ薄れてきているからなのだろう。

 

 

「お疲れ様です。学園長」

「ご苦労!シンボリルドルフ!」

 

 所変わってトレセン学園の学園長室には、ソファーに座る二人の姿があった。お互いに紅茶のカップが置かれていて、中央にはドーナツが置かれている。

 

「それにしてもよくシービーの外出許可を出されましたね?」

 

 ルドルフはカップの紅茶を楽しみながら、そう学園長に言葉を投げる。その評定は言葉とは裏腹にすこしばかりの笑みを浮かべていた。

 

「うむ。かのトレーナーと共に『お出かけ』、ということだからな!問題ないと判断したまでだ!」

「確かに彼であれば。自由を愛する彼女との相性もいいでしょう。…それはそうとして、私をここに呼んだの理由は一体?」

 

 学園長はドーナツを一口食む。そしてそれを紅茶で流し込むと、少しだけ鋭い眼でシンボリルドルフを見た。

 

「彼女の身辺調査の結果を君にも知ってほしい」

 

 そう言いながら、数枚の紙束をシンボリルドルフへと手渡していた。表紙には『ミスターシービー身辺調査』と銘打たれている。

 

「失礼します」

 

 ルドルフは書類を受け取れば、それを一枚づつ、しかし速読のように眼を通していく。10分ほど経ったとき、ルドルフはため息を付きながら、紅茶を口に含む。

 

「…正しく彼女は彼女のまま、ということですね」

 

 書類の中身はといえば、過去の経歴や家族の経歴だ。基本的には記憶の中の彼女と何も変わらなかった、というのが結論だ。

 

「うむ。記憶がないと言っている事だけが唯一の相違点と言っていいだろう。ただ、気になるのは連絡が取れなくなる前、スカウトが激しくなっていたと言うことぐらいだ」

「スカウトが?」

「うむ…。やはり良いウマ娘であるからな。メディアに出て顔も売れているし、ダンスも完璧、ファンサービスも高レベル。走りも良い。そしてそろそろ遅咲きの本格化を迎えそうなタイムの上がり方。スカウトが集中したのは容易に想像出来る」

「確かに。と、なれば、そのストレスで記憶が無くなった可能性も?」

 

 学園長はドーナツを食べながら、首を小さく縦に振った。

 

「不甲斐ない限りだ。彼女に甘えるばかりで彼女のストレスについては手が回らなかった。私の不覚であろう」

「そんなことは。私も彼女が多くのスカウトを受けていたのは知っていましたから。もし予測が事実だった場合は同罪です」

 

 少しばかりの沈黙。そして、先に口を開いたのは学園長であった。

 

「とはいえ、まだ確定ではない。これからも調査は続ける。なにか判ったら君に真っ先に相談するつもりだ。シンボリルドルフ」

「…かしこまりました。ご協力出来ることがあるならば、お声がけください」

 

 頷きあう2人。そして、紅茶を改めて飲み干した2人はといえば。

 

「それはそうとしてシンボリルドルフ!最近の彼女はどんな様子なのだ?」

「そうですね…強いて言えば、前よりも可愛げが増した、と言えるでしょう」

「ほうほう…」

「例えば、以前は生徒会室には寄り付かなかったんですが、ドーナツの差し入れなどをしてくれるように…」

 

 ミスターシービーの会話で花が咲く。以前と同じ部分、以前と違う部分。途中からはマルゼンスキーやたづなさんも交えて話に花が咲いていた。

 

 

「これこれ。この珈琲が欲しかったんだ」

 

 手にした袋に入っている珈琲はブルボン。オレンジのような香りが非常に好みだ。今回は浅煎りにしてもらったので、きっとエスプレッソで飲むといい感じの酸味が出ることであろう。

 

「満足そうで何よりだ。…それにしても、バイクのケツってのは体が痛くなるな」

「あはは。ごめんごめん。帰ったら美味しい珈琲とジャグあげるからさ」

 

 私がそう笑いかけてみれば、トレーナーは苦笑を浮かべてくれていた。まぁ、なんだかんだいってここまで付き合ってくれるんだもの。悪い人では無さそうだ。

 

「ああ、そうだトレーナー。せっかくだしご飯食べようよ」

 

 都内からここまで数時間のツーリング。ちょうどお腹も減っているしね。

 

「そうだな。腹も減ったし…何処か旨い店でも知ってるか?」

「もちろん。ここらへんも庭だからねー。トレーナーは蕎麦食べれるかい?アレルギーとか大丈夫なら行こうよ」

「蕎麦か。良いな。近いのか?」

「うん。歩いて行けるよ。じゃ、ついてきて?」

 

 私とトレーナーは並んで街を歩く。こうしてみると完全にデートだねぇと思いながらも、まぁ、彼は将来スズカといい感じになるトレーナーだし、いい友人として付き合えれば最高だね。

 

「それにしてもお前。休み明けには選抜レースだってのに。練習はしなくて良いのか?」

 

 唐突にそんな言葉が隣から聞こえてきた。そうだね、たしかにそうね。練習は大切だ。でも、私にとっては煙草と珈琲のほうが大切と言える。

 

「練習は帰ってからするよ。でも、こういうさ、精神的な余裕っていうのも大切だと思わない?」

 

 言い訳じみた言葉を口から垂れ流しながら、じろり、と彼の方を向いてみる。すると、彼は悪戯成功、みたいな笑みを浮かべてこちらを眺めていた。ふぅん?判ってて言ってるね。君。

 

「確かに大切だな。悪い悪い。試すようなことを言って」

「別にいいけど。あ、でもトレーナー、悪いと思っているなら、ご飯奢ってくれない?」

「はいよ。シービー」

 

 参ったと両手を上げながら彼は苦笑を浮かべる。ま、とは言っても私と彼じゃあ食べる量が違いすぎるであろう。それに、アニメの彼は相当金欠だったはずだし、人間が食べる以上の食事の分は自分でしっかりと払わせて頂くとしよう。

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