私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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時は進む

 紙巻きのTHE Peaceをトレーナーと分け合いながら、私は中山競馬場…競バ場?まぁ、そこはいいか。競バ場の喫煙所でのんびりと時間を過ごしている。

 

「いや、なんつーか。お前は規格外だなぁ」

「そうかな?割と危ない勝利だったと思うけど?」

 

 ホープフルステークス。グレードにしてみれば1クラス。今日はそのレースが中山競バ場で行われた年末の一日である。ちなみに私は勝負服姿ではなく、すでに私服に着替えてラフモードだ。

 

「だってトレーナー。考えても見て?クビ差で2着のバイノシンオーに辛勝だよ。まだまだ鍛えたり無いよ」

「いや、それはお前がスタートをミスったからだろう。全く、何を見ていたんだ?」

 

 確かにスタートをミスしたのは私だ。ちょっと勝負服の靴が気になってねー…とは言えまい。初めて勝負服を着てレース場に出たせいで舞い上がって出遅れていましたーなんてちょっと恥ずかしい。

 

「…まぁ、ちょっとよそ見を」

「そういう所だ。シービー、お前は実力は十分にG1ウマ娘だ。だがまだ精神的に脆いところがある。皐月賞までの課題だな。厳しくいくぞ?」

「うへー」

 

 参ったと両手を上げてそれに答える。まぁ、たしかに精神的な癖のようなものは直さねばね。この、なんというか、好奇心に満ちた心の動きと言うか。

 

「とはいっても。シービー。お前は今のところ無敗で来てる。デビュー、黒松賞、ホープフルステークス。3連勝でG1ウマ娘とは、素直にすごい」

「ふふ、ありがと。でも、これもトレーナーのお陰だよ。欠点をしっかりと直してくれたしね。蹄鉄の接着剤の開発にも協力してくれたしさ」

「そりゃ、お前のトレーナーだからな」

 

 誇らしげに笑みを浮かべて、タバコを口に咥えたトレーナー。

 

「最高のトレーナーだね」

 

 私も呟いて、タバコを口に咥えた。…さて、今日のことをかいつまんで話せば、ホープフルステークスを私は走り、見事に追い込みで勝利した。ということだ。もちろん、ウイニングライブはENDLESS DREAM!!。夢のゲート開いて、輝き目指して、はよく言ったものだと思う。

 

「そういえばシービー。お前の同期のカツラギエースの話なんだが…ホープフルステークスには出る、っていう話じゃなかったか?」

 

 ああ、そんな話もあったね。でも、今日は彼女、ここには居ない。

 

「うん。話だったよ。でもね。カツラギから面白い提案をされてさ」

「面白い提案?」

「そ。ほら、私、無敗の三冠ウマ娘になるよって、少し前に宣言したじゃない?」

「ああ。確か…学園の全校集会の話だよな?」

「うん。そのときに私の宣言を聞いたカツラギがね、『それなら、私がシービーさんと本気でレースをするときは、クラシックレースからですね!』って息巻いてね。ホープフルステークスをキャンセルしちゃったんだよ」

 

 少し前。私は新たな楽曲の手本ということで、全校生徒の前で学園のステージに上ったときがあった。

 その際にケジメという意味も込めて『来年のクラシックで無敗の三冠を目指すから、よろしくね』と言ってみせた。反応は様々で、あの小娘がという職員の声もあれば、あのシービーさんが?という声もあれば、負けてたまるかという声もあれば、そんなの無理、という声も聞こえてきていた。

 

 ただ、それと同時に、カツラギやルドルフ、マルゼンといった実力のあるウマ娘たちから熱い視線を受けたのもまた事実だったりもする。うん。我ながらいい役者だと思うよ。特にルドルフからは。

 

『…ほう?君が、無敗の三冠を目指すか。そうか、私よりも先に君が目指すか…ミスターシービー。すぐに君を追いかけよう』

 

 なぁんてなかなかに熱い告白を受けてしまった。いやはや、言葉は優しいのだが表情がすごく硬かった。いやはや威圧感もすごくて本当に皇帝様は怖い怖い。怖いから。

 

『へぇー。いいよ。でも、ルドルフの脚で追いつけるの?アタシの末脚はキミのそれより切れるんだよ?知ってるでしょ?』

 

 怖いからちょっと挑発をしてみたり。

 

『…言ってくれるじゃないか。キミと走るのは…早くても再来年のジャパンカップか』

『そうだね。そうなるかなー』

 

 軽く私が答えれば、ルドルフは射抜くような眼でこちらを見つめてくれていた。いやはや、お熱い視線だこと。

 

『ならば、ひとつ約束してくれないか?再来年のジャパンカップで君は、ミスターシービーは、傷ひとつ無い三冠を掲げて、すべてのウマ娘を堂々と迎え撃って欲しい』

 

 そうきたか。と思ったと同時に、それならこちらからも条件があるんだけどねーと軽く口を開く。

 

『もちろん。ルドルフも…そうだね。傷一つない三冠を掲げて、再来年のジャパンカップに参戦してくれているとすごく盛り上がると思うんだけど、どうかな?』

『無論』

 

 ぐっと強めの握手を交わしたのは記憶に新しいところである。いやはや。マルゼンといい、ルドルフといい。本当に走ることが大好きなんだから。あの時のルドルフたちの顔を思い浮かべてみれば、顔が勝手にほほえみを作ってしまっていた。

 

「何を笑っているんだ?」

「ん?あー…ちょっとね。それはそうとしてさ、トレーナー。次のレース、何を走ろうか?」

 

 史実のミスターシービーならば、皐月の前に1レース走っているはずなのだが、果たしてどうなのか。ホープフルステークスを走った時点でここは明らかにウマ娘時空だしね。細かいことは気にしない。そう考えながらトレーナーの言葉を待っていると、意を決したようにこちらの瞳を見て、トレーナーが口を開いた。

 

「ミスターシービーの次のレースは皐月賞へ直行だ。今回のホープフルステークスでお前のレースの力は十分だと感じ取れた。ここからは基礎と精神を改めて鍛え上げる」

「わかったよ。ミスタートレーナー。キミがそう言うのなら」

 

 頷いて、タバコの灰を皿に落とした。pieceの缶に残っているタバコは残り16本。2本づつ吸えば8セット。この先、彼とはどのようなタバコを吸えるのだろうか。

 

「ふふ。皐月かぁ。楽しみ」

「ああ、そうだな。楽しみだ」


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