残り200!さあ並んだ横一線!皐月の栄誉は誰の頭上に輝くのか!
―さあついにやってまりいました。ウマ娘の天王山、クラシックの祭典。その初戦であります皐月賞!今年の皐月賞は一味違います。
―そのとおりですね。今年の皐月賞はURA肝いりの『ウイニングライブ』。その新体制での初クラシックG1となります。以前、ホープフルステークスでのウイニングライブの盛り上がりは記憶に新しいですからねー。楽しみです。
―はい!最初はどうだ?という声もあった新体制のウイニングライブ。ご存じではない方もおられると思いますので紹介いたしますと、今までのウイニングライブはウマ娘が感謝を伝えるために己の好きな楽曲を皆でステージで歌うというものでした。しかし、昨年のホープフルステークより、レースに楽曲をつけて、それをそのレースの勝者が歌うという新体制に変化しております。
―つまり、毎年楽曲は同じですが歌い手が違う。そうなると、やはり、推しのウマ娘を応援したくなりますねー!
―はい!まさに!今回はウマ娘の中でも特にCMなどに起用が多く、メディアに露出が多いミスターシービーが特に人気ですね。見事1番人気12番のミスターシービー。ウエスタンルックをイメージするパンツに、彼女のイメージカラーである緑色をあしらった上着と耳飾り。パドックでのお披露目の際も歓声が大きく上がりましたね!
―すごかったですねあれはー。これから本バ場入場ですが、更に大きな歓声が起こりそうです。2番人気はウズマサリュウ。3番人気はブルーダーバン、さっと髪をかきあげた彼女の笑顔が素敵です。そして4番人気コレジンスキーと続いておりますが、各ウマ娘、大いに気合が入っております。さあ、いよいよ本バ場入場。各ウマ娘が地下道へと消えていきます。
■
いよいよ降り立った皐月賞の舞台。ホープフルステークスよりも全然人が多い。そしてウマ娘も総勢20人。お披露目のたびに歓声が上がるさまは、本当に気持ちが上がる。私も気持ちが乗ってしまって、ジャケットを投げた後、思わず投げキッスなどをしてしまっていた。
「ミスターシービー!がんばれよー!」
「ありがとー!見ててね!虜にしてみせるよ!」
「カッコイイー!」
声援を受けながら地下のトンネルへと入っていく。ここを抜ければいよいよ本番のターフ。ふと、隣に人の気配。
「や、カツラギ。動き固くない?緊張してるの?」
「はい。すごく。でも、少しは緊張しているかと思ってたんですが、いつも通りなんですね、シービーさんは」
「うん。楽しくて仕方がないね。カツラギエースと走れるのが」
そう行ってウインクを投げて見れば、カツラギは少し頬を赤くしてくれていた。うん、可愛い反応だ。
「私、シービーさんに勝ちたいです。でも、今日は足場が悪いので、きっと不利でしょう」
「うん。そうだね」
「でも、シービーさんもそれは同じ。追い込みにこの足場は向いていない」
「そうだね。私も不利かもねー」
飄々と答えていると、カツラギは挑むような笑みを向けてきた。はて?
「…でも、ミスターシービーが追い込まないわけはない。あなたに常識は当てはまらないから。だから、私も、常識にとらわれない走りをします」
「…ふぅん?ふーん?良いことを言うじゃないかカツラギ。じゃあ、どっちが常識外れなのか。勝負のレースかな?」
「はい!クラシック。私が勝ちます!」
「残念、勝つのは
そう言いながら右手を差し出せば、カツラギも強い力で右手を握ってくれていた。さあ、いよいよターフだ。雨の皐月。史実の通り私が勝てるのか。それともカツラギが勝つのか、史実2位のメジロモンスニーが勝つのか、蹄鉄の技術を提供したニホンピロウイナーが良いところに追い込んでくるのか。
「楽しみだね。ああ、すごく、すごく楽しみだ」
■
―雨が降りしきる中でファンファーレが鳴り響いております。20人のウマ娘が皐月の舞台に上がりました。芝の2000メートル。ちょうど芽吹き始めた芝の青葉が泥にまみれております。さあ、無敗の三冠宣言のミスターシービーが第43代皐月賞ウマ娘の栄冠を手にするのか、それとも、他のウマ娘の頭上に栄光が輝くのか。
―一週間前にちょうど桜が満開でした。その桜も全て散ってしまっているのですが、その代わりに、朝からの雨でスタンドいっぱいに傘の花が咲き誇っております。
―さあ、ウマ娘たちのゲートインが完了。注目のミスターシービーがどのようなスタートを切るのでしょうか!
職員が退避しまして!今!皐月賞のスタートです!
■
ぐっと脚を沈ませて、ゲートの開放と共に一気に前に身体を押し出した。どうやら他のウマ娘たちも非常に良いスタートを切ったようだ。うん、無理に前に行く必要はないだろうかと思ってさっと身体を下げてみたのだけれど、そうなるとすごいね。雨にウマ娘たちの脚によって跳ねられた泥が。一瞬で白い勝負服が真っ黒だ。
「…でも、嫌じゃない!」
さあさあお立ち会いだ!周りを見てみれば全員どろんこ。カツラギもだ。お、カツラギが一気に先頭争い。なるほど…末脚を持つ彼女の奇策はコレか。逃げるわけだな!だが、これは史実通りと言えるだろう。だが、一緒に練習している彼女の実力は史実通りなのかと言われれば違う。
さあ。2000メートルの旅路。楽しむぞ!
■
ミスターシービーいいスタートを切りました!他の19人もいいスタートを切っております!
さあ位置取りだ!誰が前に行く!内から鋭く行ったのはカツトップメーカー!そしてニホンピロウイナーも2人並んで先頭争い!ミスターシービーはすっと下がって中段に控えた!おっと、ここでカツラギエースも内から先頭に並びかける。
第一コーナーを回ってミスターシービーは後方4番手外を回っている!あっという間に1コーナーを抜けて先頭は変わらずカツトップメーカー!2番手にはカツラギエースが着いてニホンピロウイナーが3番手!さあ向正面に入って各ウマ娘の位置取りが激しくなって参りました!
先頭から最後尾まで20バ身ほどでありますがここでじわりと順位を上げてきたミスターシービーですがまだまだ後方に控えている!
1000メートルを通過して先頭がカツラギエースに変わった!さあ再びのコーナー!第3コーナー!おっとここでミスターシービーが中段に上がってきたぞ!
■
全身は既に泥だらけ。ウマ娘に巻き上げられるそれが時折身体にも当たり、目にも入り、痛みを私に伝えてきた。だが、そんなものはどうでもいい。どうでもいいのだ。
10のハロン棒が後方にすっ飛んでいく。さあ、そろそろ行くか。少し脚に力を叩き込んで、前に、前に!泥を更に浴びる。ああ、全然、全然嫌じゃない!むしろ最高だ!
ウマ娘になったからなのか。それとも、ミスターシービーになったからなのか。汚れることが、どろんこになる事が楽しいのか!いや、違う。レースが楽しいのだ!濡れようが、汚くなろうが、本気のレースが楽しいのだ!
ウマ娘と競える事が何よりも至上!ああ、そうだ。レースを走っていると実感する!
コーナーに入ってどんどんと順位を上げる。泥が巻き上がる。ウマ娘たちの吐息が聞こえる。本気の気迫が伝わってくる!
思わず口角が上がる。ああ、ああ!そうだ!
「あはっ!あはは!あはははは♪」
そうさ、そうだ!この言葉が私の気持ちそのものだ!
愛してるんだ!愛しているんだ!そうだ!全力で愛している!
全力で魅せる!ウマ娘!君たちを!
■
―さあ4コーナーを抜けて先頭はカツラギエース!ミスターシービーは未だ中段に控えている!ニホンピロウイナーが内を回って差を詰めてきているがここでミスターシービーがスパートだ!泥の中山レース場!皆の勝負服が真っ黒に染め上げられた中でミスターシービーが猛烈に追い上げる追い上げるしかしカツラギエースも落ちない!内から食い破るように上がってきたニホンピロウイナー!そして大外から必死にかぶせてきたのはメジロモンスニー!
残り200!さあ並んだ横一線!皐月の栄誉は誰の頭上に輝くのか!
■
4コーナーを抜けていよいよってところで、カツラギエースに並びかける。ああ、必死に走る彼女の熱が、アタシに伝わってくる!
「行かせるもんか!」
「一人抜けなんてさせねぇ!」
「皐月は私の物なんだからー!」
外からはモンスニー。そしてピロウイナー。見た名前のウマ娘が横から一気に攻め立てる。だがまだ、まだ君たちは足りない。まだこの体は余力がある。
…いや、違う。湧き上がるのだ!ウマ娘と競い合うこの瞬間が、アタシの力を高めてくれる!ぐっと腰を沈ませて脚を一気に振り抜いた。
「はああああああああああ!」
「やああああ!」
「ぉおおおおおおお!」
「まだまだあああああ!」
気合を入れて一気に前に出る。雨が顔に当たる。足元は非常に悪い。カツラギエースが叫ぶ。モンスニーが叫ぶ。ピロウイナーが叫ぶ!しかし、しかしこの脚を止める訳にはいかない!だって私はミスターシービー!雨の中山は、私の庭なのだ!
■
―真っ黒になって1人!真ん中から、真ん中から抜けてきたのは!
―ミスターシービーだ!ミスターシービーだ!外の方からメジロモンスニー!内から負けじとカツラギエース!しかししかしミスターシービーだ!ミスターシービーだ!
ミスターシービー優勝っ!!
―2着はメジロモンスニー3着はカツラギエース!そして最終直線で並んだニホンピロウイナーはバ群に沈んだ!
―ミスターシービー!見事、見事この不良バ場を追い込んで見事!足場をものともせずに勝利を収めました!これは強い!ミスターシービーは無敗のままで皐月の冠を手に入れました!
■
大きく手を振りながらクールダウンを行ってみれば、大きい歓声が私の頭上に振ってきた。いやはや、この様と言えば筆舌に尽くしがたい。
「流石、早いなミスターシービー」
「君も。モンスニー。ふふふ、楽しかったよ」
「私もだ。今回は君にセンターを譲るが…ダービーではそうはいかないぞ」
「もちろん。でも、私も夢があるからね」
「ふ。ではまたライブで」
「また」
2着を競い合ったモンスニー。良いウマ娘だ。お互いに軽くサムズアップで別れれば、彼女は地下のトンネルへと姿を消していく。
「やっぱり速いですね。シービーさん」
「カツラギも。まさかここまで逃げるなんて」
「不良バ場でしたから。シービーさんに勝つためには、逃げしか無いと思っていました」
なるほどな。たしかに彼女の末脚は凄まじいが、良馬場限定というところがある。とはいえ、史実では掲示板を外した彼女だ。それを超えてきた彼女はすごいと思う。
「でも、ダービーでは私がセンターに着きますから。シービーさん」
「ふふ。それは楽しみ。でも、私がセンターだよ?」
「あはは。じゃ、またライブで」
「またね」
彼女とは手を振りあって彼女はトンネルへ、私はターフを一周して観客の目の前に姿を晒した。大きく、大きく降り注ぐ歓声。ぞくぞくするね。思わず口角が上がる。
「まずは1つ目!」
大声を上げて、人差し指を立てたまま、右手を天に掲げてみせた。
「「「「うぉおおおおおおおおおおおおお!ミスターシービー!!!!!!」」」」
歓声に応えるように、投げキッスを返してみれば、更に大きな歓声が帰ってきていた。ふと、視界に映るは笑顔でこちらを見ているトレーナーの姿があった。
「ふふふ。やったよ。トレーナー」
そう言いながら親指をぐっと立てて向けてみれば、トレーナーも同じようにサムズアップで返してくれた。よしよし。さて、ファンサービスは程々にしておいて、まずはウイニングサークルへ向かうとしよう。
■
「ミスターシービーさん!見事な勝利!おめでとうございます!」
「ありがと」
興奮する観衆、そして、リポーターですらも興奮している。やはり、クラシックはすごいね。熱気が違う。
「早速ですが、今のお気持ちは!」
「素直に嬉しいよ。これも、応援してくれたみんなのお陰。ありがとね!」
そうやって軽く手を振ってみれば、フラッシュが炊かれて非常に眩しい。うん、明日の一面はこれかなぁ?そして、勝利インタビューを続けているうちに、最終的に、この質問へとたどり着いた。
「そしてミスターシービーさん、無敗宣言をなされて見事、皐月の冠を手に入れましたが今のお気持ちを一言!」
「…そうだねー。ま、まずは第一関門突破かな。うん。すこしホッとしてる。それで、そうだね。期待していいよ」
期待していいよ。その言葉を投げてみれば、驚くような表情をリポーターは浮かべていた。うん、いいねその反応、好きだよ。
「つまり無敗三冠を成し遂げてみせると!いや、素晴らしい心意気です!最後に、全国のファンに一言!」
「応援ありがとう。これからも、皆の期待に答えてみせるよ。ダービー、楽しみにしててね?」
そう行ってウインクを投げたところでインタビューは終わりを迎えた。さ、ここからはいよいよウイニングライブの準備だ。無論、クラシックの曲はアレだ。さ、叫ぼうじゃないか!
「ステイゴールドとThe pieceは準備しておくからな。ミスターシービー」
「ふふ。判ってるじゃないか、ミスタートレーナー。じゃ、後で」