私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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―さあ各ウマ娘ゲートイン完了。

 一番人気ミスターシービーはどのような走りを見せてくれるのか!それとも、他のウマ娘が見事にセンターの栄誉を勝ち取るのか!係員が退避いたしまして…。

 日本ダービー、スタートです!

 ミスターシービー出が良いぞ!しかし先頭争いには参加せずにすっと下げて先頭から6番目につけた!皐月賞で3着のカツラギエース、2着メジロモンスニーも控えて後方でのレースとなりそうです。
 
 先頭争いはイズミサンライズ、ニシノスキーが行っていますがおっと、ここで桜花賞ウマ娘シャダイソフィアが行く!さあ一丸となってウマ娘たちが第一コーナーへと飛び込んでいきます!2400メートルの旅路、誰が最初に栄光を掴むのか!


東京優駿

 ターフへと出てみれば、私の頭の上から圧とも言える歓声が降ってきた。怒号なのか、叫び声なのか、歓声なのか、悲鳴なのか。翻ってスタンドを正面に据えてみれば、そこに居たのは大勢の観客、つまりは多くのファンたちだ。

 

「ミスターシービー!!頑張ってくれよー!今日のダービーも勝って無敗の三冠見せてくれー!」

「うおおおおおおお!シービー!またウイニングザソウルを聞かせてくれえええええ!」

「キャアアアアアア!ミスタシービー!!!キャアアアアア!」

 

 うーん。こっちから見ているとすごい光景だね。軽く投げキッスをして手を降ってみれば、その歓声が大きく響く。今日の空は快晴。軽くウォーミングアップにとホームストレッチを走ってみれば、地面、ターフの状態は良と言えるだろう。これは全員にとって有利な条件だ。しいて言えば、先に行われたレースの影響でイン側のターフが少し荒れている点が気にはなる。

 

「相変わらずの人気ですね、ミスターシービーさん」

 

 足元を確認しながらゲート前に来てみれば、見知った顔と合うことが出来た。カツラギの後ろからは、ちらりとモンスニー、ダーバンあたりの姿も見える。

 

「ありがと。カツラギ。でも、君だって相当なものだろう?」

 

 そう言って親指で観客席を指させば、そこにあったのは『突き抜けろカツラギエース!』の横断幕。『差し切れメジロモンスニー』とか他のウマ娘の横断幕も見える辺り、いやはや、ダービーとはやっぱりお祭りだ。

 

「…地元の商店街の人なんですけれど、張り切っちゃって。家族みたいで楽しいんですけれどね。あはは」

「いいじゃない。そういうの羨ましいよ」

「でもシービーさんはもっとすごいです。横断幕、すごい数じゃないですか!」

 

 うん。そうだね。ここから見えるだけでも10枚以上。『決めろミスターシービー』『末脚爆発!無敵のシービー!』などなど。正直見ていて小っ恥ずかしくなってくるね。

 

「まったく頼んでいないんだけど。嬉しいけど、恥ずかしいよ」

「あはは。でも、横断幕の数では負けてますけれど、レースでは私が勝ちますからね!シービーさん!」

「お、言うねー?でも、アタシがまた勝つよ。だって無敗の三冠ウマ娘になるんだからさ」

「自信満々ですね!?でも、今日は良馬場。私の末脚、炸裂させますよー!」

 

 そういやってカツラギとじゃれ合っていると、ついに、拡声器で号令がかかる。

 

『ウマ娘はゲートイン準備を!』

 

 全員の顔が変わる。耳はピンと立ち上がり、きりりと表情が締まる。

 

「じゃ、カツラギ。そういうことで」

「はい!シービーさん。そういうことで!」

 

 軽く手を叩き合って、お互いのゲートの前へと向かう。カツラギはラッキーセブンの7番ゲート。私は12番だ。彼女のゲートインを見届けてから、私もゲートに入る。すると、お隣のウマ娘からお声がかかる。全く、人気者は辛いね。

 

「今日は負けませんよー?ミスターシービー」

「や、ウズマサリュウ。残念、私も負ける気はないんだ」

「残念。アタシのほうがあんたらよりも速いさ。シービーにウズマサ」

「プラウドシャダイも気合十分だね。いいよ、全力でやり合おう。追い込み、着いてこれるならね?」

「着いていく?冗談。あんたがアタシの後ろを走るんだ」

 

 お隣になったウマ娘と軽くじゃれ合いながらその時を待つ。―最後のウマ娘がゲートに入った。いよいよだ。

 

 

―さあ各ウマ娘ゲートイン完了。

 

 一番人気ミスターシービーはどのような走りを見せてくれるのか!それとも、他のウマ娘が見事にセンターの栄誉を勝ち取るのか!係員が退避いたしまして…。

 

 日本ダービー、スタートです!

 

 ミスターシービー出が良いぞ!しかし先頭争いには参加せずにすっと下げて先頭から6番目につけた!皐月賞でも活躍したカツラギエース、メジロモンスニーも控えて後方でのレースとなりそうです。

 

 先頭争いはイズミサンライズ、ニシノスキーが行っていますがおっと、ここで桜花賞ウマ娘シャダイソフィアが行く!さあ一丸となってウマ娘たちが第一コーナーへと飛び込んでいきます!2400メートルの旅路、誰が最初に栄光を掴むのか!

 

 

 スタートは好調。ズドンと先頭を取る勢いでゲートを抜けることが出来たのは、今後のためにも我ながら一つ大きな功績だ。

 

「ま、今回は逃げないけど」

 

 小声で囁いて、すっとペースを落として大体先頭から6番手に着ける。ともすれば、行くのは逃げウマ娘たち。どうやら3人が固まってペースを作っていくようだ。確か一人は桜花賞ウマ娘のシャダイソフィアのはず。油断をすれば、きっとこの高速列車からは振り落とされることだろう。

 

「とりあえずはスリップに入って体力温存。それにしても、足元…ラチ沿いはいいけど、ほんの少し膨らむと脚が取られるね」

 

 コーナーに入って特に実感を得る。ラチギリギリの地面はまだいい。しかし、ウマ娘が一番通るイン側からコース3分の1程度までの荒れ方が結構、気になってくるレベルである。蹄鉄への負荷も多そうだ。改良が進んでいるとは言え、この地面でスパートを駆けるのは接着剤にとっても良くはない。これは、最後の4コーナーでは外目に振って行くか、それとも仕掛けを早くするのが得策か?

 

「とはいえカツラギは今回逃げじゃあない。自慢の末脚で叩き切るつもりだろうし」

 

 今回は良馬場。最終直線はカツラギの独壇場だ。彼女の末脚と言えば、私と競い合うというだけでも実力が知れるというもの。とはいえ。

 

「500メートル。4コーナー前から行くとすれば6、700メートルは硬いラストスパート。アタシの脚が持つかどうかっていう話も出てくるし」

 

 向正面に入って先頭はまだまだ行くシャダイソフィアの姿が見える。周りの息遣いも聞こえてくる。いやはや、不思議なものだ。

 

『勝ちたい』『勝つ』『絶対に』『私が』『アタシが』『勝つ』『勝つんだ!』

 

 言葉にはしていない。誰も、言葉にはしていない。でも、伝わってくる熱がある。たしかに伝わってくる、熱き太陽の如く熱がある。

 

 ―ならば。取る手段は一つしかあるまい。

 

「持つ、持たない。そんなものは関係ないね。アタシは楽しい方を行くだけだ!」

 

 頭の中に浮かんだイメージは、暗闇。なぜかエンジンの回転計だけがボヤリと浮かび上がる。グアンと吹かされたエンジンの音のイメージと共に、そこに見えた数字は14500回転。

 

 驚異的な回転数だ。こんなエンジンはなかなかお目にかかれない。だって、相棒の回転数上限は10000に満たないというのに。

 

 そして、暗闇の中から現れたのは2つ目のライト。流線型に包まれた一台のバイク。

 

「ああ、良い。実に良い。それは私にぴったりだ!」

 

 私は今、きっと、スーパースポーツのバイクと同じような存在だ。人間を大きく超えて、風を切って走るウマ娘!そうだ、そうだとも!私はコレが好きなんだ。そうだとも!私はコレが好きなんだ!レースが、風が、このスピードが!

 

 気づけば前を行くウマ娘たちが第3コーナーへと入っていく。後ろから上がってきたのはカツラギエースにメジロモンスニー、ブルーダーバンもいればニシノスキーも上がっている。いよいよのラストスパート直前といった雰囲気が伝わってくる。4コーナーを抜けてからきっと勝負を仕掛ける気だろう。今はまだ全員、位置取りに必死だ。でも、でもさぁ!そんなセオリーなんてもの!

 

「守っていてもさ!詰まらないでしょう!」

 

 そうだとも。ラストスパートが500メートル?600メートル?何を言っているんだ。コイツのエンジンは15000まで回る。ミスターシービーの脚はこんなことでへこたれはしない!

 

 イメージの中で、ギアをぶち上げた。ガゴンと伝わる衝撃。ああ、これはまるでワークスのCBRだ。クラッチミートは気にしなくて良い。なんてったって最新装備のクイックシフター付き。あとは右手を思いっきり捻っていけばいいだけだ!

 

 

 さあ向正面抜けまして3コーナーへ!先頭はシャダイソフィアが粘るが襲いかかっていくのはカツラギエースにメジロモンスニー!ブルーダーバンも来てニシノスキーもすっと上がってきた!ミスターシービーはまだ動か…動いた!外目にすっと上がっていったミスターシービー!

 

 いや、これは…!

 

 これはなんということだ!掛かってしまったか!?他のウマ娘たちをおいてぐんぐんと加速していくぞ!これはラストスパートの勢いだ!カツラギエース、メジロモンスニー追いかけるがミスターシービーこの勢いのまま単独で第四コーナーを抜けていく!これは大波乱の決着か!?それとも、戦略なのか!勢いよくウマ娘たちが坂を駆け登る!

 

 だが、だが、ミスターシービー落ちない!落ちないぞ!

 

 

 ウマ娘達の一団を避けるように、足場の良い外目を通って最高速で一気にカーブを抜けていけば、眼前に開けた緑のターフ!ああ、いいねホームストレート!脚はまだまだ回る回る!400の標識がすっとんでいった!トレーナーとも話し合った坂ど真ん中だね!

 

 だからどうしたぁ!いくぞ、いくぞいくぞいくぞ!!

 

「勝ち逃げはゆるしませええええん!」

「ミスターシービー!!!」

 

 やっぱり来たなカツラギエース!それにメジロモンスニーも!いいねいいね!この競い合いこそレースの一番楽しいところ!

 

「着いてこれるなら、着いて、きて、みなよ!」

 

 ずどんと更に脚に力を込める。イメージのギアがトップに入る。回転計が一気に15000を差し切る。まるで、血湧き肉躍るような感覚!

 

 300の標識がすっ飛ぶ。視界の端に入りかけてきたのはカツラギエース。わずかに遅れてメジロモンスニーにブルーダーバン。だが、そんなものはもう関係ない。

 

「やぁああああああああああああああああ!」

 

 坂が終わったのか、脚への負荷が一気に軽くなる。思わず口角が上がる。もう誰も私に追いつけない。アタシに追いつけない。でも感じる。少し脚が重くなってきたかもしれないね!でも、最後までアクセルは緩めてなるものか!

 

 残り100メートル。視界の端には誰もいない。足音も、私の音しか聞こえない。風が全力で私にぶつかって来る。

 

 ああ、これが、これが先頭の景色!なんて、なんて!気持ちの良い景色だ!

 

『―1着はミスターシービーでゴールイン!』

 

 全力でゴール版を駆け抜けた私の耳に、アナウンスが木霊する。

 

『ミスターシービー勝ちました!ミスターシービー圧勝しました!そしてタイムが…2分25秒6!2分25秒6!上がり3ハロンが33秒7!レコードでの圧勝!文句なし!無敗の三冠へ向けて、2つ目の冠を見事勝ち取りました!』

 

 息を整えながら、ちらりと観客を見てみれば、そこにあったのは大歓声と手を振る人々。

 

「やられました。やっぱりすごいですね、シービーさん」

「…本当。すごいや」

 

 2着に入ったカツラギと、3着に入ったモンスニーの言葉を背に受けながら、大きく手を降って観客の声に答えて魅せる。

 

「だから言ったでしょ?アタシは速いってさ」

 

 そう言いながら2人にウインクを飛ばしてみれば、笑顔で返してくれていた。そしてもう一度観客席の方を向いて、今度は右手を天高く突き出して見せる。

 

「2冠達成!どう?楽しくなってきたでしょう!?」

 

 そして天に突き上げた拳を、ピースサインにしてみれば、大きく観客席から歓声が湧き上がる。

 

 …ま、本来のパフォーマーは来年に出てくるんだけど、でも、煽る意味では最高の一幕だ。

 

 そう思いを込めて、きっと、あの来賓室から、上から見下ろしているであろうルドルフと、マルゼンスキーに向けて、にやりと笑ってみせた。

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