私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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リハーサル

「ウイニングザソウル。事前リハスタートします!打ち合わせの通り、センターは1番人気のミスターシービー、2番人気カツラギエースと3番人気ビンゴカンタが左右を固めて、あとはバックダンサーでお願いします!」

 

 スタッフが急ぎ足でこちらに指示を飛ばす姿を見ながら、ぐいーっと背中を伸ばしてステージへ上がる。全員思い思いの格好で、私なんかはジャージだけれど、中には勝負服のウマ娘の姿もあった。只今の時間は夜の9時。土曜日のステージが終わった舞台でのリハだ。本番と同じようにコースに設置されているから、観客席もよーく見える。リハとは言え気合が入るね。

 

「わかったよー。カツラギ、ビンゴ、よろしくねー」

「はい!」

「はーい」

 

 センターの3人。そしてその後ろに並ぶのは18人のウマ娘。…多くない?っていっても、18頭立てフルゲートになったのは90年代からだもんなぁ。トウカイテイオーとかあの辺りだったっけ。ウマ娘的にどうなるかは判らないけれど、きっと、今後改良されていけば18人立てのレースになっていくのだろうなぁ。本当、今はいろいろな意味で黎明期と言えるのだろうね。

 

「ま、今はただ駆け抜けていくだけ、か」

 

 気負いはしない。とは言っても、緊張はする。ライトが眩しいステージの中央に立ってみれば、ぞわりと鳥肌が経ってしまう。明日、私は菊花を受け取れるのかとか。マルゼンと本気でやり会えるのだろうかとか。来年、どっかの無敵の皇帝様といい勝負が出来るのだろうかとか。いろいろな思いが湧き上がる。

 

「緊張してます?シービーさん」

 

 そう言いながら顔を覗き込んできたのはカツラギエースだ。年齢は違えど同期の絆というやつだろうか。気づけばビンゴカンタも心配そうにこちらを眺めていた。

 

「…そうだね。緊張はしてるかな」

「ミスターシービーでも緊張はするんだね?」

「そりゃそうさ。ビンゴカンタ。日本初の期待が両肩には乗ってるし、このパフォーマンスも失敗は出来ないし。驕っては居ないけれど、この世代の代表ウマ娘はアタシだって自覚もあるしね」

「贅沢なプレッシャーだね」

「ビンゴカンタは緊張してないのかい?」

 

 私は自らが強ばる表情を感じ取りながら、彼女にそう問いかけを投げてみる。すると、ビンゴカンタは大きく頷いた。

 

「そりゃあ緊張しているさ。だって、私の、いや、カツラギもそうだし、ブルーダーバンやウメノシンオー、ここにいないニホンピロウイナーだってそう」

 

 静かに彼女の言葉を聞き入れる。

 

「ミスターシービーと同期のウマ娘は、いつだって緊張しているよ」

「私と同期だと緊張するの?」

「そ。だって、私達も頑張らないと。ミスターシービーに追いつかないと。ミスターシービーだけが強かった、なんて評価をされたら、癪でしょう?」

 

 …なるほどね。そういう緊張感か。カツラギを見る。そして、今の話を聞いていたであろうブルーダーバン、ウメノシンオーといったバックダンサーとして立っているウマ娘たちを見てみれば、皆、力強く頷いていた。

 

「シービーさんが強い世代。そう言われないように、じゃないですね。『この世代は全員強い。その中でも、一番強いのがミスターシービー』…そう言われたいんです」

 

 カツラギが呟けば、皆一様に再度、力強く頷いていた。

 

「…そっか。じゃあ、アタシも、不甲斐ない走りを見せないように気合を入れないとね」

 

 ぐぐっと背筋を伸ばして、センターポジションでマイクを握る。

 

「じゃ、ひとまずは今日はアタシがセンターポジションでのリハーサルだけど、明日の本番は、アタシじゃない誰かが立っていることを祈っているよ」

「そんな気全然無いくせに!」

 

 ビンゴカンタのツッコミに、全員が軽く吹き出していた。さてさて、それじゃあ行こうか。

 

「スタッフさん。全員ポジションに付きました。音楽お願いします!」

 

 マイクに向かってそう力強く叫んで見れば、スタッフが大きく腕を振った。暗転していた照明に火が入り、同時に流れ出す音楽。カツラギ、ビンゴカンタと目配せをしながらイントロの振り付けを熟して、マイクを握った。

 

 

 一通りのリハの後、楽屋で私服に着替えて夜の街に繰り出した私とトレーナー。夜の街、と言っても、軽い夕食であるから勘違いはなされぬように。

 

「ウイニングザソウルのリハは完璧、京都のコースも初めて走るとは思えないぐらい、いい感じだったな」

「ありがと、トレーナー」

「それじゃ、ひとまずは乾杯といくか」

「うん」

 

 お互いにグラスを掲げて、軽く合わせる。とは言っても今日は私は酒じゃない。濃いめの人参ジュース。トレーナーも私に合わせてソフトドリンクを飲んでくれている。グラスを空にして周囲の景観を眺めれば、目の前に広がるのは雄大な鴨川の景色だ。間髪入れずにトレーナーがグラスにジュースを注いでくれた。お返しにと、トレーナーのグラスにもジュースを注ぐ。

 

「それにしてもよくこの時期に、この時間に川床なんて取れたね?」

 

 時間にしてみれば既に11時。普通の飲食店ならば閉店している時間だろうに。

 

「学園長のツテさ。せっかく京都に行くのなら、レースの前に英気を養って欲しい!とかでな」

「流石の学園長だね。でも、それならレースの後でもいいんじゃない?」

「俺もそう思うんだけど、学園長のススメだからな。それに明日はどうころんでも、レースの後ゆっくりなんて出来ないだろうからよ」

 

 それもそうか。レースで勝てばお祭り騒ぎ。レースでも負けてもお祭り騒ぎ。こんなふうに、ゆっくり川床で料理を楽しむことは難しいだろう。

 

「に、しても。この料理は日本酒が欲しくなるねー」

 

 目の前に並ぶのは鱧料理、鮎料理、湯葉料理などだ。試しに、鱧の梅肉和えに口をつけてみる。

 

「うーん。淡白で実に美味しいね」

「そうだな」

「トレーナー。別にキミはアルコール入れてもいいと思うよ?」

「そうもいくまいさ。旨い酒は、お前と一緒に味わってこそだよ」

 

 そう言いながらトレーナーはジンジャエールを嗜む。全く、その気遣いが嬉しいね。

 

「そっかそっか。じゃあ、明日は余計に負けられないねー」

 

 天麩羅もサクッと軽くて美味しい。今日は人参ジュース。明日は、そうだな。

 

「トレーナー。明日は月桂冠でも開けようよ。せっかくの京都だしさ」

「そりゃあいいな。じゃあ、純米大吟醸でも用意するよ」

「頼んだよ」

 

 そう言いながら鱧の椀を啜る。京都の濃い出汁の味。明日の菊花賞も、皆にとって味わい深い物になるように。

 

「楽しく走って、楽しく呑もう」

 

 ぐっと人参ジュースを飲み干して、秋空を見上げる。今日の月は上弦の一つ前。淡い光が鴨川と、京都の街並みと、私達を照らしている。

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