私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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2023年もよろしくお願いいたします。

ビバウマ娘!ミスターシービー実装を願いまして!書き初めです!


菊花賞(中)

 菊花賞のゲートが開くと同時に、一気に身体を前に出した。スタートは私にとってはお手の物だ。クラッチを当てるように脚に力を入れて、一気に身体を前に出すだけ。そして、そのまま今回は一気にトップスピードに体を乗せる。ハナを取るためだ。

 

「なっ!?ミスターシービー!?」

「うっそでしょ?掛かった!?」

「ミスターシービーが行った!?」

 

 ほらみたことか。ウマ娘たちも、観客も驚いてる。よしよし、まず走り出しは順調といったところだ!

 

「いかせません!」

「お、来たねカツラギー!」

 

 発走直前に煽ったカツラギも一緒に来て、2人で逃げの体制が出来上がる。気づけばハナを獲ってあっという間にホームストレッチに入る。普通であれば歓声が降り注ぐが、今回ばかりはどよめきが私に降りかかる。多分、マルゼンも、ルドルフも同じじゃないかな。その顔を想像すると、ちょっとおもしろい。

 

「お」

 

 ちらりと見えたイエローのシャツに黒のベストの姿。トレーナーだ。目配せをしてみれば、小さく頷かれた。よしよし。トレーナーから見ても、この状況はまさに理想通りといったところだろう。

 

「ミスターシービー!何処まで逃げるんですか!」

「どこまでも!」

 

 カツラギエースの叫びに、笑いかけながら答えて見せる。ここまで既に後ろとの差はざっと5バ身体以上。さあさあ、コーナーに入るまではもっと逃げるよ。ついてきな!カツラギ!

 

 

「菊花賞は逃げたい、か」

「そ」

 

 喫煙所で私の戦略を聞いたトレーナーは、判りやすく、眉間にシワを寄せていた。ま、そりゃあね。末脚が強いウマ娘が逃げって、どうなのそれって思うもの。 

 

「いや、でもお前のスタミナじゃあ持つかはわからないぞ」

 

 ごもっとも。でも、それはそうとして成功例を私は知っているんだよ。

 

「うん。だからそう、途中で息を入れるつもり」

「途中で?」

 

 途中で息を入れる。それは例えばセイウンスカイ。これで、馬のほうは菊を獲っている。ウマ娘でもその映写があるしね。それに、記憶に新しいタイトルホルダー。彼も、この戦法で菊花賞をもぎ取っているし、天皇賞の3200メートルまでも手に入れているわけで、実績は十分。問題があるとすれば、それはしばらく後の未来、ミスターシービーの数世代後のお話であるということぐらいだ。

 

「そう。スタートから正面スタンド過ぎてコーナーに入るまではスパートをかけるんだ」

「スパートを」

「それで、そこからペースを緩めて一息をいれるわけ」

「…確かに、それは一理あるな。ハマれば、戦略としては理想的なところだな。しかし、問題はその先だ。よしんばスタミナを維持できても、結局淀の坂で捕まる可能性が高いだろう」

 

 そうだね、と頷く。だが、トレーナーもそうだけど、その前提条件がそもそもおかしいのだ。

 

「捕まるだろうね。普通に行くと。だから、淀の坂で、加速しながら行く」

「淀の坂で?」

「うん。淀の坂で速度は緩めない。むしろ、加速しながら登って、勢いのまま下る。楽しそうだって思わない?」

「楽しそうってお前なぁ…。セオリーガン無視かよ」

 

 呆れ顔でそんな事を言ってくれるトレーナー。だけど、私の目はごまかせないよ?だって、口角、上がってるんだもの。

 

「じゃあ、反対する?」

 

 ジャグの煙を吐き出しながらそう聞いてみれば、その口角の上がり方は目に見えて大きくなる。

 

「冗談言うな。お前のトレーナーだぞ?セオリーガン無視。面白いじゃないか。それに、お前に戦略は任せる。その言葉に二言はないさ」

「流石アタシのトレーナー。わかってるねー。はい、コーヒー、もう一杯サービス!」

「サンキュー」

 

 そう言いながら私のコーヒーを受け取ってくれるトレーナー。うん。やっぱりトレーナーは良い人だね。

 

「ああ、そうだ。お前、まともなパイプは持ってないのか?」

「ん?ないよー。前も言ったけど、コーンパイプが好きなの」

「そっかそっか」

 

 

 ミスターシービーは現在ハナを主張して第一コーナーへと入っていきます。その後ろにカツラギエースがくっついて、それを追うように19人のウマ娘たちが勢いよく第一コーナーを右にカーブを取ります。

 ミスターシービーは未だ先頭。ビンゴカンタ、ヤマノテスコは中段、1番のアテイスポートがシンガリ。

 

 ミスターシービーとカツラギエースが大逃げであります。その差は3番手まで10バ身体といったところ。その2人を除いて他のウマ娘たちはほぼ固まっています。どこからでも誰であっても仕掛けられるでしょう!さあウマ娘たちが向正面に入りました。先頭は未だミスターシービー、続いてカツラギ―エース、そこからぐーんと開いてアスコットエイト、リードホーユー、ドウカンヤシマが行きました。各ウマ娘の動きが激しくなってきています!いよいよ、レースが動きます。

 

 

「さあ、ここからが勝負どころだぞ。シービー」

 

 向正面にシービーの姿を認めたトレーナーは、そう小さく呟いた。不安がないわけじゃない。むしろ、負けてしまう可能性のほうが高いとも、このトレーナーは思う。

 

「今のところは後ろは着いてこない。きっと、ミスターシービーが掛かったと思っている。対応したのはカツラギエースだけ」

 

 そう言って、トレーナーは一つ気が付いた。なぜ、カツラギエースだけが着いていっているのか?シニア級ならまだ経験値の多いウマ娘ばかりだから解る。だが、ここはクラシックだ。

 

「…あいつ、教えたな?」

 

 きっと、教えたにせよ教えなかったにせよ、何かを吹っかけたのだろう。じゃなければ、今頃一人の逃げだったはずだ。そうなると、どうだった?

 

「その場合、作戦がバレてミスターシービーに全員がついていく可能性もあったかもな。でも、今の2人逃げの状況であれば、実力者の2人であるカツラギとミスターシービーが逃げて潰れてくれれば…そう思っているウマ娘も多いだろうな」

 

 その言葉を証明するように、未だ3番以下は団子だ。追いつこうとするウマ娘は居ない。これがシニア級ウマ娘なら『作戦』と見抜いて潰しにかかるウマ娘もいるだろうけれど、残念ながらまだここはクラシック級。全員、走ることに夢中で、簡単な作戦でもハマる。

 

「息を入れられている。作戦は、ほぼ決まりだ。あとは」

 

 カツラギエース。彼女の実力と、ミスターシービーのガチンコの戦いになるだろう。距離が伸びたこの菊花賞。どちらが有利なのか?

 

「長距離の才能だけでいえばカツラギエースだろう。生まれ持ったスピードと末脚で言えばミスターシービーか」

 

 己の担当だからといって贔屓はしない。実際、ミスターシービーに肉薄してついていっている。あの実力は本物だろう。とはいえ、それが重要かというと、ミスターシービーにとっては重要ではないだろう。そう思って、トレーナーは軽くため息を吐いた。

 

「楽しめ。楽しんで楽しんで。最後に先頭で戻ってこいよ。ミスターシービー」

 

 観客のどよめきが未だに止まぬ菊花賞。その中で、熱い視線をターフに向けているうちの一人。思わず口角が上がる。たとえ三冠ならずとも、このレースは、非常に熱い結果をもたらしそうだ。

 

 

「シービーちゃん」

 

 マルゼンスキーの眼前。一回目のストレッチをハナで駆け抜けたミスターシービー。その姿を、マルゼンスキーはしっかりと納めていた。

 

「前しか見ていない。前しか見えていない」

 

 思い出されたのは、過去の自分の姿なのか。それとも、また違う姿なのか。

 

「そう。逃げ。逃げるのね。シービーちゃん」

 

 …思い出される。クラシックを走れたら。

 

『順位に入れなくてもいいから、走らせて』

 

 ああ。そうだ。私はきっと、クラシックに叶うことのない恋をしている。恋をしたまま、今も走り続けている。

 

「羨ましい」

 

 第一コーナーへ走り込むミスターシービーの姿を見た。それに追いすがるカツラギエースの姿を見た。きっと、私もああいうふうに走ったであろう。先頭で、気持ちよく。この菊花賞の3000メートルだって。きっと楽しく走ったことだろう。

 

「ああ、そう…。そういうこと?シービーちゃん」

 

 出走前。『三冠は獲れそう?』とミスターシービーに訪ねた時。彼女は曖昧に答えていた事を思い出す。確かに、これじゃあ三冠を濁すのも判ってしまう。逃げ、なんて、勝てないという保険…と思ったけれど、そうじゃないと首を振る。だって。

 

「でも、それでも貴女は『三冠ウマ娘』として私の前に立ちはだかると言ってくれた」

 

 そうだ。言い切ってくれた。『ウィナーズサークルで』という、一言の言葉の重みが判らない彼女じゃないだろう。

 

「シービーちゃんはなんて言ってた?」

 

―あら、三冠を獲って私と対決したい、って言っていた割に弱気じゃない?

―ん?そう見える?それなら、ぜひ、走りをしっかりと見ていてほしいな

 

『走りをしっかりと、見ていて欲しいな』

 

 はっとして、カーブの向こうに消えるミスターシービーを見る。大逃げだ。文句なしの大逃げだ。ぶっちぎって、3位以下を引き離して向正面に入っていく。そんな彼女をみていてたら、腹の底から湧き上がってきた感情が、一つ。

 

「…ずるい」

 

 ずるい。だって、クラシックで。あんなに一杯ライバルが居て。あんなに、あんなに楽しそうに走っちゃって。しかも、先頭で!私だって、私だって!

 

「走りたいに決まってるじゃない!シービーちゃん、ずるいわ!」

 

 『見ていろ』なんて酷な事を!ああ、全く!本当にずるい!こんな熱いレースを見せられて、参加出来ないなんてもどかしい!全く、まったくもう!

 

「でも、こんなところで負けちゃ、お姉さん承知しないからね?ミスター、シービー!」

 

 大声を上げて、ミスターシービーにエールを送る。向正面。見えるはずのない彼女の表情が、にやりと、笑ったように見えたのは気のせいじゃないだろう。

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