「そうか。無敗の三冠ウマ娘は、先に、君が勝ち取ったか」
窓の下。ターフの上で、カツラギエースとビンゴカンタに肩を貸されて立つ、彼女を見る。ここからでも解る。全力を出し切ったウマ娘の姿。汗で髪の毛が顔に張り付き、脚元はおぼつかない。しかし、その顔の満足さたるや。
「ミスター、シービー」
彼女の名を口にする。素晴らしい功績である。そう思う。きっと、URA総出で彼女の偉業を称えることであろう。トレセン学園も、学園長、たづなさんを含め、私達生徒会も、彼女の偉業を笑顔で称えることであろう。
「御目出度い。ああ、非常に、御目出度いことだ。そうは思わないか。トレーナー君」
隣に控えるのは、私の素晴らしいトレーナー。その顔は、笑顔で彩られている。
「思うとも。素晴らしいウマ娘だ。ミスターシービーは」
「君も、そう思うか」
「ああ。だが同時に。君はそれ以上のウマ娘だと思う」
トレーナーの言葉に、ああ、と頷く。
「だから、その握られた拳を開くと良い。シンボリルドルフ」
「拳…?」
はっとして、自らの拳を見下ろした。視線の先に現れたのは、固く、固く、それはもう固く握りしめられた己の両の拳。
高い理想を掲げて、ここまで来た。
高い理想を体現せよと、その責任を背負ってここまで、来た。
「…存外、私も俗物らしい」
だが、その理想は、今日、一人のウマ娘として私の前に現れた。
追い込みも、先行も、逃げも、中距離も長距離も強い。
そして、極めつけに3人目の三冠ウマ娘。しかも、無敗の三冠ウマ娘は史上初。
「負けて、なるものか」
拳を解きながら、口にする。
「負けて、なるものか」
見下ろしたウマ娘を、睨む。
「負けて、たまるか」
ミスターシービー、君に、私は。
「絶対に、勝ってやる」
絶対に勝ってやる。あのつよいウマ娘に、私は絶対に、絶対に勝ってやる。
「…違うな」
感情で熱くなった頭を、理性で抑える。違う、勝つ、というのは違う。そう、そうだ。
「すでに私は、彼女を超えていると、証明する。この脚で」
高い理想を、彼女を超えて体現して見せる。そう心に決めて、改めて拳を握る。
「流石だな。シンボリルドルフ」
「ありがとう。とはいえ、まだまだ私は未熟だ。君に指摘されるまで、この、内から湧き上がる悔しさに気がつかなかったのだから」
私だけで行ける。そう思っていた節がある。だが、それは無理らしい。彼女は、それにも気づかせてくれた。
「故に、トレーナー君。これからも、よろしく頼む」
「言われなくても」
私には、杖が必要だ。皇帝に相応しい、それはそれは、とても尊い杖が。
そして、そして、私はいずれ、名前に恥じぬ功績を挙げ、皇帝となる。
故に。無敗の三冠は達成せねばならぬ。
故に。ミスターシービーとは、雌雄を決せねばならぬ。
故に私は、決意を、背追う。
彼女すらも超える、最強のウマ娘であるという、決意を。