私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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浜松の夜、星を見上げて。

 牡蠣カバ丼を楽しんだ私達は、ホテルでゆったりとした時間を過ごしていた。ジャグをやり、温泉に浸かり。そして夕飯。予想通りというか、夕飯は鰻なんかも出てきて、非常に満足なひとときを過ごさせていただいている。

 

「おつかれ。シービー」

「おつかれさま。トレーナー」

 

 夕飯の後。ひとっ風呂浴びて火照った身体を冷ますように、暗くなった浜名湖を見下ろすバルコニーで、リクライニングチェアに座りながらトレーナーと共にのんびりと時間をすごす一時。

 お互いに労いの言葉をかけながら、ピースを口に咥える。火をつければ、バニラのフレーバーが鼻を擽った。

 

「美味しいね」

「ああ、旨い」

 

 ふっと、息を吐けば、煙は天高く舞い上がっていく。つられて視線が上を向く。天には満天の星空というやつが広がっている。

 

「星、よく見えるね。これだけ綺麗な星空、都内じゃなかなか見れないよねー」

「ああ。それに、いい酒もいい食事もある。良い日だよ。ありがとうな、シービー」

「いいっていいって。こちらこそ、トレーナーのお陰様で三冠とれたし」

 

 三冠にそこまで重きを置いていない。とはいったけれど、やっぱり、獲れて嬉しいからね。私だけじゃ無敗でここまでこれることはなかっただろう。トレーナーの尽力、蹄鉄の開発、ライバルとの練習。すべてがここに集結した感じがするよ。

 

「本当に、感謝してるよ。トレーナー」

 

 ピースを咥え直して、深く、煙を肺に入れる。浜名湖のさざなみが、耳に心地が良い。トレーナーも同じようにピースを深く楽しんでいるようで、白い煙が2つ、天に登っていった。

 

「に、しても、BGMが湖のさざなみだけじゃあちょっと寂しいな」

「ん?そう?」

「静かすぎるっていうかな。ラジオぐらい欲しいもんだ」

 

 トレーナーは酒に酔っているのか、いつもより欲張りな感じがする。私も酒に酔っている。

 

「じゃあ、そうだなぁ…」

 

 勢いで、こんな事を言ってしまった。

 

「実はウイニングライブで謳うかどうか、最後の候補に残っていた曲があるんだ」

「ほう?そんな曲があるのか」

 

 驚いた顔を見せるトレーナー。

 

「うん」

「なんでそっちの曲を選ばなかったんだ?」

「ま、三冠っていうお祝い事にはふさわしくないっていうかね。バラードっぽくてさ」

「へぇ…」

「ってことでさ、もし、トレーナーさえ良ければ、聞いてくれるっていうならBGM替わりに謳うよ。アカペラだけど」

「え?」

 

 驚くトレーナー。だろうねー。でも、きっとトレーナーも酒で酔っている。次の瞬間にはほら、笑顔だ。

 

「いいのか?三冠ウマ娘の喉をお借りしても」

「もちろん。トレーナーならね」

 

 今宵謳うのはトレーナーのために。ウマ娘の力を存分に振るって、しっとりと歌い上げる、ただ2人のためのステージ。

 

 さ、ミスターシービー。キミも聞くと良い。私の世界の歌ってやつはさ、激しい曲もあるし、こういうバラードも、色々あるんだよ。

 

 さざなみを聞きながら、ふっと、息を吸い込む。懐かしいさを感じる一曲を、口ずさむ。

 

 

―見上げてごらん夜の星を

 

 小さな星の 小さな光が

 

 ささやかな幸せを うたってる

 

 

 バルコニーから望む星が瞬く。照らされて、トレーナーの横顔がぼんやりと浮かぶ。視線が合った。軽い笑顔で頷いてくれる。

 

 どうやら、お気に召したようで。それなら、歌を続けよう。

 

 

―見上げてごらん夜の星を

 

 ボクらのように 名もない星が

 

 ささやかな幸せを 祈ってる

 

 

 ここからは少し転調が入る。ま、ウマ娘なら余裕だ。それに、ここは少し、トレーナーにも伝えたいメッセージでもあるしね。トーンは落とすけれど、気持ちを込めるよ。 

 

 

―手をつなごう 僕と 

 

 追いかけよう 夢を

 

 二人なら 苦しくなんか ないさ

 

 

 一人ならきっと、歩けなかった道もある。でも、トレーナーと2人だから、ここにいるのさ。 

 

 

―見上げてごらん夜の星を

 

 小さな星の 小さな光が

 

 ささやかな幸せを うたってる

 

 

 やっぱり、いい曲だなぁと思いながら、最終節に入る。トレーナーに視線を向けてみれば、目を瞑ってリズムを取っているようだ。

 

 

―見上げてごらん夜の星を

 

 ボクらのように 名もない星が

 

 ささやかな幸せを 祈ってる

 

 

「…こんな感じ」

「いい歌だ。…いい歌だな、ミスターシービー」

「でしょー?星空を見ると思い出すんだ。この歌をさ」

 

 本来は、苦学生、夜間学校に通う人たちをモチーフにした歌である。でも、そのメッセージは、聞くだけで元気が出るような、そんな気がする素敵なものだ。

 

「そういえば、この曲の名前はなんていうんだ?」

「ええとね。『見上げてごらん夜の星を』」

 

 私がタイトルを伝えると、トレーナーは噛みしめるように頷いていた。

 

「見上げてごらん夜の星を、か」

 

 トレーナーはそう言いながら、もう一度空を見上げる。つられて、私も空を見た。

 天に広がる広大な海。浮かぶは星たち。それはまるで、ターフを駆け抜けるウマ娘たちの輝きにもよく似ているような、そんな気がするんだ。

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