私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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ジャパンカップに向けて

 三冠ウマ娘となってから一週間。学園に戻った私とトレーナーは、早速、ジャパンカップの対策へと乗り出していた。スタミナ、スピード、パワー。追い込みを世界相手にかけるのだ。練習はやりすぎってことはないだろう。それはマルゼンも同じようで、彼女が練習コースで汗まみれになっている姿をよく見る。

 

「うーん…」

 

 そして、今日のところはトレーナー室でマルゼンスキーの資料映像を見ているのだが、これがまた、マルゼンスキーのレースは圧勝ばかりで参考にならない。しかも、レコードもばっちり残しちゃっているあたりでその実力は折り紙付きと言っていいだろうか。

 表現が若干曖昧なのは、その現存しているレース映像の距離が中距離以下であるということに尽きるであろう。

 

「難しいねー」

 

 彼女のレースを映像で見ながら、その実力を追おうとするものの、その実、まともなレースというのは彼女は走っていないと言えるだろう。なんせ、公式には彼女は、ジャパンカップが初G1レースなのだ。だが、いままで出走したレースのその勝ちっぷり故に、彼女を『最強だ』と称えるファンや、トレーナーも多い。私のトレーナーもその一人だ。

 

「参考になったか?映像は」

「全然。一緒に走っているウマ娘との実力が離れすぎてて、わっかんないや」

 

 一緒に映像を見ていたトレーナーにさじを投げる。うーん、本当にデタラメ。っていうか、これでいままでG1レースに出ていないとか本当かねぇ?

 

「負けた相手の中にはG1に勝ってマルゼンスキーに挑んだ奴も居るんだが…ま、正直、実力は一つも二つも格上だ」

「それは映像の中のマルゼンスキーのこと?それとも、アタシと比べて?」

「両方。世間じゃお前とマルゼンスキーのレース結果に期待が注がれているが…」

 

 トレーナーは一瞬言いづらそうに眉をしかめるが、私が軽く頷けば、言葉を続けた。

 

「正直に言えば、俺としては、現状だとマルゼンスキーVS世界のウマ娘、になってしまうだろうな、と踏んでいる」

「そっか」

 

 真正面から言われれば、納得するしかあるまいて。ま、薄々感じていたけれどね。実際、煽りに煽って彼女をジャパンカップという舞台に上げたけれど、実力の差というのはかなり大きいだろうからね。

『彼女は現役が長く、もう、引退が近い』なんていう台詞を言う人もいるけれど、とんでもない。彼女が本気で大逃げした場合、私の追い込みでどこまでついていけるものか。正直に言えば判ったもんじゃない。

 

「ま、現状だ。現状。当日まで何があるかは判らないし、お前だって今が一番伸びる時だ。ジャパンカップまで残り時間が少ないが、それでも、可能性はあるさ」

「ありがとう、トレーナー。うん、そうだね。時間は少ないけれど、頑張らないとね」

 

 無敗の三冠ウマ娘。それが、走ってみたら弱かったですー。なんてことは避けたい所。それに、今回はシニア級から最強格のキョウエイプロミス、アンバーシャダイ、そして名門メジロからはメジロティターンなどのウマ娘たちも集っているからね。気合、入れないと。

 

「トレーナー。頑張ろう」

「ああ、頑張ろう。ミスターシービー。じゃあ、俺は先に行ってコースを確保しておく。準備が出来たら第3練習場に来てくれ」

「りょーかい。すぐ行くよ」

 

 トレーナーを見送りながら、ぐっと伸びをして、肩を解す。しかし、海外勢に目を向けてみても、今回はなかなかのメンツが揃っている。去年の凱旋門賞ウマ娘から、イギリス、フランス、カナダにアメリカ、オセアニア、そんな感じの名ウマ娘たちが集っちゃってまぁ。魔境かなって言いたいぐらいだ。実に、プレッシャーだ。

 

「でも、面白そうかな。退屈はしなさそうだ」

 

 距離は2400。ダービーと同条件。追い込みでぶっこ抜く。楽しそうだ。実に良い。しかもだ、私の知っている史実とは明らかに異なる点も存在する。

 

「カツラギも走るしね」

 

 そう。今年のジャパンカップ。カツラギも名を連ねている。当然だ。クラシック3つを、私のすぐ後ろでゴールしてみせた実力のあるウマ娘。そんな彼女が、私が出るレースに名乗りを挙げないはずがない。

 …本来なら、翌年。私とルドルフを抑えて、初の日本調教馬としてジャパンカップに名を刻むカツラギエース。その彼女が今年出る。アタシも出る。マルゼンも。

 

「さぁ、さぁ。面白くなってきた」

 

 口角が上がってしまう。スーパーカーが世界を抑えるのか。それとも、一人の大穴が世界を驚愕させるのか。それとも、ミスターシービーの追い込みが世界を引っこ抜くのか。それとも、史実の通り海外が日本を制するのか。ああ、実に楽しみだ。

 …ああ、でも、でも。今年、一緒に走ることが出来ない、一人のウマ娘のことが頭に浮かぶ。

 

「シンボリルドルフ。皇帝は、今、何を思うのかな」

 

 走れないという悔しさか、焦りか。それとも、強い奴らが居るぞと、翌年に向けた希望を胸に懐きながらジュニア級を走るのか。他人のことは判らない。しかし、少しばかり、気になってしまうね。と、まぁ、余計なことを考えるのはここまでにしておこうか。スイッチを切り替えて、いざ、練習開始だ。

 

 

「確認ッ!ミスターシービーの様子は変わりないか?」

「はい。変わらず。いつもの様子です。前よりも多少、バイクに入れ込んでいるぐらいですね」

「承知ッ!ならば、問題はあるまい。これからも、彼女のサポートを頼むぞ!シンボリルドルフ」

「無論です」

「さて、ミスターシービーの話はここまでにして、君の話を聞きたいと思う!」

「私の、ですか」

「うむ。君はやはり、目指すのか?彼女の隣を」

「無論です。…いえ、違いますね。目指すのは隣、ではありません」

「ほう…!では、シンボリルドルフ。君の目指す先を教えて欲しい!」

 

「彼女のはるか先。その頂きを、目指します」

 

「期待ッ!!その意気やよし!存分に!頑張ってくれたまえ!」

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