おめでとうございます。
おめでとうございます!!!
カツラギエースも一緒に出てきたじゃないか!
おめでとうございます。
おめでとうございます!!
おめでとうございます!!!
※ということで、ウマ娘ソウルINしました。
すべてが無事に終わり、熱が引いたように静まり返る東京レース場。トレーナーも自宅へ帰り、私はシンとした空気を楽しむように、タバコを吹かしていた。
「お疲れ様」
近づいてきた影に、そう声をかける。
「お疲れ様です。シービーさん」
カツラギエース。同期の、ライバル。彼女が、喫煙所の、私の隣の席へと腰を下ろす。
「喫煙所だよ、ここ」
「かまいませんよ」
「そう」
タバコを揉み消して、ふっと、息を吐く。シン、と静まり返る喫煙所。職員も、最低限の人数が残るだけ、トレーナーたちも、URAの関係者たちも、観客たちも、ウマ娘すら帰路についたのに、私とカツラギだけはここに居る。なんか、不思議な感じである。
「やっぱり疾い、ですね、シービーさん」
「当然。アタシだよ?そうそう負けはしないって」
今日のレースの結果だろうか。まぁ、本当はそんなに余裕は無かったけれど、ここは強がっておこう。
「有マ、出るんですか?」
「うん。当然。楽しそうだし。カツラギは?」
「…そうですね。今回はやめておこうかと」
ありゃ、カツラギは走らないのか。うーん、そりゃあ残念だ。
「そっか。じゃあ、勝負は来年にお預けかな?」
「そうですね。来年に、お預けです。ちなみに、ミスターシービーさんは…」
「ちょっと待った」
言いかけたカツラギの言葉に、私の言葉を重ねる。カツラギは、不思議そうに首を傾げる。当然だろうね。急に言葉を遮ったのだから。
「前から思ってたんだけど、カツラギって私と距離あるよね?」
「…そうでしょうか」
「そうだよ。だって、
じっと、彼女の目を見て、こう告げる。
「敬語じゃなくて、本当のカツラギエースを魅せて欲しいんだけど、嫌かな?」
どうだろう。嫌と言われるか、それとも、目をそらされるのか。少しだけ固まる彼女と私。10秒ぐらい立った頃だろうか。カツラギの唇が小さく動き出した。
「じゃあ、私からも一つ、お願いしていいですか?」
おや、お願いときたものか。なんだろうか?
「なーに?」
お互いに目を逸らさず。軽い笑みを浮かべながら続けるキャッチボール。カツラギから帰ってきた言葉は、意外なものだ。
「エース。そう、呼んでください」
「エース。良いよ。でも、どうして?」
「その、最初に出会った頃、貴女がカツラギと呼びたいから、そう呼んで下さいと応えたんですけど」
ああ、確かに。カツラギと呼んでも、と私が言った記憶はあるね。ふと、恥ずかしそうにカツラギは頬を染めた。
「私は、本当は周りからはエースと呼ばれているんです。だから、シービーさんも、そう、呼んでください」
「もちろん、いいよ。エース。じゃあ、エースも敬語はやめてよ。本当のキミを見てみたい」
いままで崩さなかった、その仮面。その下に眠る本当のカツラギエースを見たい。
そう願いを込めて、彼女の目を見つめてそう告げた。
すると、カツラギエースは、仕方がないといったふうに小さくため息を吐くと、私の目を、しっかりと見つめ直してくれていた。
大きく吸われる息。そして、彼女の口は、しっかりと言葉を紡ぎ始めた。
「…判ったよ、シービー。今度は負けないからな!次一緒に走る時は、覚悟しておけよ!」
彼女の口から飛び出してきたのは、なんと、今までの大人しめのウマ娘という印象とは、一戦を画する溌剌とした声であった。
驚きに、目を見開いてしまう。それと同時に、可笑しくて、口角が上がってしまった。
「ふふ、あはは!エース、キミ、相当、
「なんだよ。笑うなよ。あたしだって憧れのウマ娘の前じゃあ、猫ぐらい被るっての」
ちょっと頬を染めたカツラギ改めエース。テレ顔も可愛いじゃないか。それに、どちらかというと。
「ごめんごめん。でも、よっぽどいいよ。こっちのほうが。負かし甲斐がある相手だね」
「なんだよ、もう勝ってる気なのか?甘く見られたもんだ。じゃあ約束だ。来年のジャパンカップはあたしが勝つぞ」
「お、言ったなー?じゃあ、来年もアタシが勝つ。でも、エースは3着!」
「あたしが!?なんでだよ!」
エースを3着にした理由は明確だ。確かに史実ではエースが勝つんだけれどさ、この世界、ちょっと焚き付けすぎた相手に心当たりが有りすぎてね。多分、なりふり構わずこちらに来る、ライオンのようなこわーいウマ娘が一人、心当たりが有りすぎるのだ。
「だって、こわーい生徒会長さんが来年はシニアに来るんだよ。ついてこれる?」
シンボリルドルフ。多分、彼女は来年のジャパンカップ。私の首を取りに本気の本気、下手をすればすべてをかなぐり捨てて向かってくることが予想できる。なんてったって、ウマ娘の理想たれ、と己に課している彼女の目の前で、それらを証明する事象が成就されたのだ。私というミスターシービーが成就してみせてしまったのだ。ならば、シンボリルドルフの理想を実現させるには、その相手は倒さねばなるまい。
だが、それを、私の隣で見て、知っているはずの、私の目の前の彼女の自信満々の顔ったら。
「ったりめーだ。生徒会長だろうがシービーだろうが、あたしの背中を見せてやるよ」
良い。実に良いねエース。キミは。やっぱり、アタシのライバルだ。
「そりゃあ楽しみだ。あ、それで話は変わるんだけどさー、エースは帰りどうするの?」
「あー…走って帰る」
「それなら送ろうか?エースさえ良ければバイクの後ろに乗っけてくけど」
「お。本当か?じゃあ、頼むわ」
「任された。じゃ、ほら、ヘルメット」
誰のために、とは言わないけれど、用意していたヘルメットをエースに手渡しておく。当然、不思議そうに彼女は私の顔を見た。
「用意が良いな?」
「トレーナーと一緒によく乗るからね、いつも持ってるんだ」
「惚気かよ。無敗の最強ウマ娘は、羨ましいね」
「惚気じゃないやい。乗せないよ?」
まさか茶化されるとは。というか、本当によく、キミ、猫被ってたね?
「冗談だよ冗談!」
慌てて首を振るカツラギエース。あはは、と笑いながら、私は喫煙所から外を見る。
静まり返った東京レース場。
サイリウムも、ライトも、足音もしない。
でも、間違いなく、またここから新たな一歩が踏み出されたのだと思う。
「まずは有マからか。それで来年は…」
鬼が笑うらしいことを考えながら、エースと静かに語らい過ごす夜。結局、エースを学園に送り届けたのは、門限過ぎた深夜のことであった。