私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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汝、皇帝の嘶きを。

「ハアアアアアアアアアアアアア!」

 

 学業が終わり、普段であれば多数のウマ娘たちが練習に励んでいるはずの練習場の一つ。なのだが、そこに居たのはただ一人、鹿毛が美しいそのウマ娘が走り込みを行っているのみだ。

 

「もう一本!気が緩んでいるぞ!腰を落とせ!」

「判っている!」

 

 流星をたなびかせて、流れる汗もそのままに走り込みを行うのは、生徒会長シンボリルドルフ。ホープフルステークスを控えて、その調整真っ盛りの彼女は今までに無いほどの気迫を孕んでいた。その力強さたるや、ほかのウマ娘を寄せ付けないほどに。

 

「ラスト400!追い込め!」

「ハァアアアアアアアアアア!!」

 

 ズドンと踏み込まれたターフ。その音は雷鳴のようにも聞こえ、隣の練習場で追い込みを行っていたハーディービジョンら同期のウマ娘が思わず振り向いてしまうほどの強烈なものである。

 

「…うわぁ。気合入ってるわ、ルドルフ」

「この状態のルドルフには近寄りたくないねぇ」

 

 思わず引いてしまうほど、という言葉がピッタリの彼女の雰囲気。その原因は、ただ一つしか無い。

 

「ゴール!…よし、想定通りのタイムだ。流石だな、ルドルフ」

「フー、フー、フー。…当然、このぐらい熟さねば、ミスターシービーを超えられん」

「ああ、その通りだ。だが、入れ込みすぎるな。君は今、頭に血が登りやすくなっている。いいな?この後はしっかりと身体を休めるように。自主練なんて以ての外だ」

「…ふー。ああ、判っているよ、トレーナー君。ありがとう。どうも、焦ってしまっていけないな。私も、まだまだだ」

 

 頭を振りながら、冷静さを取り戻したように見えるシンボリルドルフ。が、傍から見れば、耳は絞られているし、しっぽにも落ち着きはない。

 

「ううん…まぁ、焦るな、といくら言葉で言っても仕方ないか。ルドルフ。ということで、今日、君がミスターシービーに勝つためにするべきことを、伝える」

「聞こう」

 

 トレーナーの一言に、耳がピンとたったルドルフ。その耳に入ってきた言葉が、彼女を思わずポカンとさせた。

 

「たっぷりご飯を食べて、ゆっくりお風呂に入って、ふかふかの布団でゆっくり寝ること!」

「…え?」

「え、じゃない。返事は?」

 

 圧。異論は認めないと言わんばかりのトレーナーの言葉に、ルドルフは頷くしか無い。

 

「承知した」

「よろしい。今の君に必要なものは休養だ。今日はゆっくり休むように」

 

 

 シンボリルドルフは一人、寮へと歩みを進めていた。普段であれば他のウマ娘たちの練習終わりと重なって混んでいる校門前。ただ、その耳は絞られて、どうみても不機嫌そうな彼女の雰囲気に、ウマ娘たちは左右に分かれてしまい、これまた見事な道が出来ていた。

 

「…ううん、やはり、入れ込み過ぎか。いや、トレーナー君にもこれ以上迷惑はかけられないし、マルゼンスキーにでも相談しにいくとしようか…いや、しかし、それも迷惑か?」

 

 それに気づくこともなく、シンボリルドルフはぶつぶつと呟きながらその真中を歩く。堂々としたそれは、まさに皇帝らしい佇まいであろう。だが、そんな雰囲気もなんのその。一人のウマ娘が、バイクを押しながら彼女に近づいた。

 

「や、ルドルフ。どう、このあと並走でも」

「…シービー。君との並走、か…。ああ、ぜひお願いしたい」

「あはは。怖い怖い。出会った頃の優しいルドルフとは別人みたい。でもそれは無理。提案しといて悪いけど、君のトレーナーに止められているからね」

 

 あははと笑いながら、ルドルフの横に並ぶ。そして、にやりと笑いかけると、バイクの後ろのシートを指さした。

 

「っていうことで、後ろに乗りな」

「後ろ?」

「うん。後ろ。ヘルメットはこれ使って」

 

 手渡されるヘルメット。緑と黄色と白で彩られたミスターシービーカラーのそれを眺めながら、ルドルフは顔を横にふる。

 

「いや、私は乗るとは一言も…」

 

 断ろうとしたルドルフに、シービーはずいっと顔を寄せることで、その言葉を打ち消した。

 

「いいから。今日は年上に任せなさい?さっさと被って。それとも、後ろは怖い?」

「いや、怖いわけでは…仕方ないな、判ったよ。あ、しかし、外出許可が…」

「とってあるよ。今日、シンボリルドルフさんはミスターシービーとミーティングのために、一晩外出!ってね。学園長と寮長の許可貰ってるから。気にしないの」

 

 にかりと笑うミスターシービー。対して、ルドルフは深くため息を吐き出した。

 

「そうか。全く、君はいつもそうやって人を振り回す。少しは自粛出来ないのか?」

「無理だねー。アタシは自由に、楽しくやっていきたいだけだからさ」

 

 ミスターシービーはそう言うと、さっとバイクに跨った。それに追従するように、シンボリルドルフもシートにまたがる。

 

「じゃ、しっかり捕まっててね。飛ばしはしないけど、楽しく帰るよ」

「お手柔らかに」

 

 ミスターシービーが右手のスターターを押せば、相棒のエンジンが淀みなく始動する。すでに地球一周以上の距離を走った相棒の、優しく、野太い音を聞きながら、ミスターシービーとシンボリルドルフは、学園を後にする。

 

「シービーに任せて、大丈夫でしょうか」

「うむ」

 

 その背を、見送る者たちの存在に、ルドルフは気がつくことはついぞ無かった。

 

「もしかして、学園長も、このような、ルドルフのような経験がお有りだったのでしょうか」

 

 一人は、ルドルフのトレーナー。明らかに入れ込みすぎた様子のルドルフについて、ジャパンカップ前より、学園長に相談していたのである。結果、トレーナーの横にいる学園長その人の提案で、ミスターシービーにルドルフを任せたのだ。

 

「遠い昔のことだがな!さて、では、シンボリルドルフのトレーナーの君には、茶でも奢らせてもらおう。なぁに、ライバルにはライバルにしかわからぬことがあるものだ!心配せずとも、明日になればよき顔で、学園に戻ってくる事だろう」

 

 2人の脳裏には、「いいよー。ルドルフに喝入れればいいんでしょ?」と簡単に、この難題を引き受けたウマ娘の顔が、浮かんでいた。

 

 シャッターが降りて、自動で室内のライトが輝き出した。シンプルであるが、しかし、狭くないガレージには、最近乗ることがめっきり減ったプリウスが鎮座している。シービーはバイクのエンジンを止めてさっとバイクを降りる。そして踵を返して、シンボリルドルフへと手を差し伸ばしていた。

 

「さて、いらっしゃいませ。と」

「…お邪魔します」

「ん。靴とヘルメットは適当に置いといて。ああ、散らかってるけど、ま、気にしないでくれると助かるかな」

 

 ルドルフは彼女の自宅をぐるりと見渡した。白で統一された部屋。家具は黒で統一され、みていて気持ちが良い。ところどころ、彼女の勝負服の色である緑、黄色があしらわれていて、なるほど、ここは彼女の自宅らしいなと納得する。

 

「えーっと…エアコンつけて、あとコタツ…。ああ、ルドルフ。適当にくつろいでくれていいから。飲み物はコーヒー?それとも紅茶?」

 

 キッチンへと立ったシービーはそう言いながら、猫と犬の書かれたコップを手に、お湯を沸かし始めていた。

 

「紅茶を頼む」

「ん、りょーかい。ダージリンでいい?」

「それでいいとも」

 

 ルドルフは荷物を部屋の隅に置きながら、部屋の隅々を観察する。ヘルメットとつなぎが数種類。鍵、彼女自身のポスターが何枚か。メタルラックには、学園の制服が仕舞われていて、散らかっていると言っている割には床には物がなく、非常に整った印象を覚える。

 

「ん。じゃあちょっとまっててね」

 

 そう言ってシービーは、キッチンへと向かう。ルドルフは用意されたコタツへと脚を差し入れた。冬のバイクは非常に手足が冷える。それを温めるように、ルドルフはそのまま手もコタツの中へと入れた。ふう、と安堵のため息がルドルフの口から吐き出されていた。

 そうやって、しばらく。紅茶を入れ終わったのか、シービーはコップを2つを手に、ルドルフの向かいへと脚を差し入れた。そして、犬の柄が書かれたコップをルドルフの前に置く。

 

「さ、お待たせ。ついでにお茶請けもおいておくよ。甘いくるみのお菓子。結構お気に入りなんだ」

「ほう…せっかくだ、頂くとしよう」

 

 ルドルフは進められるまま、紅茶と、くるみのお菓子を口にした。サクリといい音が響く。

 

「ほう、これは、食感もいい、香りもよく鼻に抜ける。紅茶との相性も絶妙だ」

「ありがと。じゃ、御飯作るから、そのままのんびりしててー」

 

 シービーはそう言うと、落ち着く暇もなく立ち上がっていた。その姿にルドルフの眼が点になる。

 

「…ご飯?」

「そ。ご飯。だってルドルフ、ご飯食べてないでしょ?」

 

 不思議そうなシービー。そして、負けじと不思議そうなルドルフ。少しの静寂が2人の間に流れた。

 

「確かに、食べては居ないが…」

「じゃあそこで紅茶飲みながら座ってて。苦手なものはなにかある?」

「いや、特には」

「判った。ま、作るって言っても、合わせるだけだけどね」

 

 冷蔵庫から鍋を取り出し、それを火にかけるシービー。そして、冷凍庫からなにかの包を取り出して、レンジへと入れた。

 

「あ」

 

 そして何かに気づいたようで、棚から一つの缶詰をルドルフに見せる。

 

「これ、食べる?」

 

 手にしたのは、よくあるスパムの缶詰。

 

「…スパム?」

 

 怪訝な顔をしたルドルフに、ミスターシービーはいい笑顔で、こう続けた。

 

「うん。卵と()()()?」

「ああ…。卵とベーコンと()()()

「卵とベーコンとソーセージと()()()

()()()()()()()()()、卵と()()()

 

 そこまで続けたところで、ルドルフとシービーは、お互いに顔を見合わせながら、吹き出していた。

 

「ぷっ」

「ふふ」

「判ってるじゃん、ルドルフ。守備範囲広いね」

「シービーこそ。まさか、そのネタを知っているものが、この学園にいるとは」

「あはは。じゃ、今度こそ真面目に作るから、ちょっとまってて。ご飯は予約で炊いてるから…えーっと、レンジでハンバーグと人参を温めてーっと」

 

 手際よく、ミスターシービーが調理を進めていけば、あたりに漂ってくる良いスパイスの香り。皿を2つ用意して、炊きあがっている米と、ハンバーグと人参を載せる。そして最後に、鍋から温めたカレーと、冷蔵庫から取り出したスペシャルな卵をかけてやれば。

 

「はいお待たせ。人参ハンバーグカレーライス。温泉卵を乗せて。手前味噌だけど、美味しいよ。食べてみて」

「これは見事な。じゃあ、早速頂きます」

 

 口に運べば、スパイスの効いたカレーと、ハンバーグがマッチして非常に食が進む。そう思うと、ルドルフの口は勝手に開いていた。

 

「ほぉ。これは美味しいな。学園の食事と謙遜ないと言える。あ、いや…これだったらメニューに入れてもいいのかもしれないな」

「お褒め頂き恐悦至極、ってね。さ、おかわりもあるから、お腹いっぱい食べて」

「ああ、頂くとしよう」

 

 ルドルフに追従するようにミスターシービーも、頂きますと早速スプーンをカレーに突き刺していた。そしてほぼ無言で食べ続けることしばらく。気づけばカレーの鍋はすっからかん。米もほぼ平らげてしまっていた。

 

「…ふう、食べた食べた。円満具足とはまさにこのことだな」

「お粗末様。お口にあって良かったよ」

 

 そう言いながら、シービーは食器を重ねてシンクへと運び、水に浸けておく。そして、再び紅茶を淹れて、ルドルフとしばし食休み。のんびりとした空気が流れていたが、ふと、ルドルフが口を開いた。

 

「それで、シービー。私をここに連れてきた理由をそろそろ聞かせてくれないか?」

 

 犬のコップに入った紅茶で口を潤しながらも、ルドルフは真剣な眼差しだ。

 

「ん?ああ。単純だよ。ルドルフの余裕が無さそうだったから。なんでかなーって思って」

 

 そう言いながら、猫のコップに入った紅茶を楽しむシービー。その顔は、どこか楽しそうに見える。

 

「君からみても、そう思うか」

「うん。よっぽど余裕が無いよ、今のルドルフ。…ま、理由はなんとなく想像付くんだけどさ。アタシに言いたいこと、あるでしょ?今日ぐらい胸襟を開いたら?」

 

 コトリと、コップを置いて、真剣な表情でルドルフを見るシービー。ルドルフも佇まいを直すと、軽く咳払いを行っていた。

 

「では、言わせてもらう」

「どうぞ」

「正直に言えば、嫉妬しているとも」

 

 コトリと、ルドルフもコップを置いて、ミスターシービーを睨みつけた。

 

「ああ、狂いそうなほど、嫉妬している。目指していたものを、目の前で、すべてキミが持っていった。初の無敗の三冠ウマ娘。初のジャパンカップ制覇。そして、未だに無敗。最強。理想のウマ娘。キミは、ゲームとやらで私の某かを知っているのだろう?生い立ちを、知っているのだろう?」

「生い立ちまでは知らない。でも、『シンボリルドルフは冷静沈着、公明正大。とてもストイックな性格だが、実はかなり心配性で保護欲が強い』。それでいて、すべてのウマ娘の幸福を願う、素敵なウマ娘。そう認識はしているね」

「ああ、そうだな、その通りだ」

 

 頷くルドルフ。だが、言葉を続けたのは、ミスターシービーの方だった。 

 

「だから、キミの言葉は確かに真摯で、前だけを向いているように見える。でも、どうも、キミは、君の欲望を抑えているように感じるんだ。理想高くあれ。理想のウマ娘であれってね?」

「…ほう?」

「でも、アタシはそれが気に入らなかった。いや、私が気に入らなかった」

「それで、君は偉業を達成したと?」

「そんなわけ無いでしょ?結果的にそうなったけど、生半可じゃないよ。アタシの戦績は」

 

 無表情。しかし、その瞳に燃えるような何かを宿したまま、ミスターシービーはこう告げた。

 

「ただ。アタシは、むき出しのシンボリルドルフと走りたい、そう思っただけ」

 

 目をつむり、頷きながら、更にシービーは続ける。

 

「私の知る君は、それはもう、ライオンのように暴れる奴だったらしいからね。その本性を知っている私としては、どうも、理性に包まれている君が気に入らない」

 

 そして、シービーは目を開けると、目の前の獅子をしっかりと見つめていた。

 

「でも、どうやら君の顔を見ていれば判ったよ。むき出しの君と本気で、勝負が出来そうだ」

「…当たり前だ。ここまで先を越され…いや、違うな。挑発されて、黙っている私ではない」

「いいね。いいよその感じ。ビリビリ来ちゃう。ビリビリ来ちゃうから―」

 

 そう言いながら、ミスターシービーは勢いよく立ち上がった。そして、目にも留まらぬ速さで部屋の一角へと移動すると、何かをシンボリルドルフへとぶん投げる。反射的にそれを受け取ったルドルフは、何事かと、ミスターシービーを睨んだのだが、そこにいたシービーの表情は、まるで、いたずら成功と言わんばかりの笑顔であった。

 

「今日のところはお風呂でゆっくり温まって、のんびりして。うちのお風呂、広いから」

 

 呆気に取られるルドルフが手元に視線を向けてみれば、バスタオルと、おそらくシービーが用意していた寝間着が握られていた。

 

「え?は?」

「だって、このままいくとルドルフ、入れ込みすぎて回りが見えなくなりそうなんだもん。熱くなった頭をよーく冷やせるようにアイスも準備してあるから、さっさと入ってきな?」

 

 呆気に取られたルドルフの眼に、一人の人間の姿がゆらりと浮かぶ。長い髪、そして、高い身長。ミスターシービーと言えばその通りなのだが、しかし、その彼女を照らすように、霧の遠巻きから、甲高いエキゾーストノーズが聞こえてくる。うっすらと、彼女を照らしあげるように一条の光もどこからか照らされて、それはまるで神秘的な何かのようであった。

 

「君は、一体、誰なんだ?」

 

 幻か。その幻想にシンボリルドルフはそう問いかけた。

 

「アタシ?そうだねー。ミスターシービー…っていう答えは求めていないか」

 

 幻はそう言いながら、髪をかき上げる。そして、何も気負うこと無く、言葉を発していた。

 

「アタシは、誰よりもウマ娘を愛している『ただの一般人』だよ」

 

 そう、シービーが告げた瞬間。ルドルフの眼には、姿がダブって見えていた。ほぼ同じ身長、体格の何者かが彼女の後ろに控えている。ただ、確かに言えるのは、その何者かから伝わってくる雰囲気、それは、こちらを気遣うようなものであった。そしておそらく、この何者かが彼女に成り代わった誰か、なのだろう。

 

 だが、その後ろにもう一人。一瞬だが、確実に、あるウマ娘の姿が見えた。ニヤリと、楽しげに、そして挑戦するようにこちらを見つめたその瞳には、心当たりがある。…全く、ままならないものだと、ルドルフは苦笑を浮かべてしまっていた。

 

 ―彼女は変わっていない。いや、むしろ、すべてを吸収しながら成長している。全く、それに比べて私というやつは、本当に未熟者のようだ。

 

 そして、ルドルフの心の中にはもう一つの気持ちが湧き上がる。それは、最初は小さいものだったが、徐々に徐々にその体積を増やし、そして気づけば、ルドルフの口角は上がりきっていた。

 

「…ふ、ははは。ははは!一般人が無敗の三冠を穫れるわけがないだろう。全く、悪い冗談だ。悪い冗談だよ、はははは!」

「えー?そんなに笑うとこ?」

 

 大口を開けて笑いをあげたシンボリルドルフ。改めて、何者かを見ようとミスターシービーを見た。だが、そこに居たのはどう見ても、ミスターシービーその人だけだった。―なるほどな、とシンボリルドルフは一人納得すると、ミスターシービーへと視線を合わせ、こう告げた。

 

「だが、だからこそ私は君に勝とう。無敗の三冠ウマ娘として、キミの前に立って見せよう。無論、逃げはしないだろうね?どこぞの一般人君?」

「当たり前じゃないか。ルドルフ。ああ、でも、気をつけな?アタシの背中ばかりをみて、足元、掬われないようにね。キミの同期、濃い連中が多いから」

「当然だ。私を誰だと思っている」

「シンボリルドルフ。私の知るウマ娘の中で、最強で、かっこよくて、唯我独尊、最高の皇帝たる人って思っているよ」

 

 自信満々の笑みを浮かべて言い切ったミスターシービー。それを見たルドルフは、どこか、肩の力が抜けたような、そんな雰囲気の笑みを浮かべていた。

 

「そうか。それならば、そう在らねばな。ミスターシービー。では、お言葉に甘えて、先にお風呂を頂くとするよ」

「うん。ごゆっくりー」

 

 ミスターシービーはひらひらと手を揺らし、シンボリルドルフを送り出した。と、その背に、小さく声をかける。

 

「…相対するなら、最高の相手と、だからね。ルドルフ。精神的にも、肉体的にも。最高のキミと勝負をしたい。それは本当の気持ちだから」

 

 脚を止めたルドルフは、振り返らずに言葉を返す。

 

「判っている。ここまで焚きつけられて、キミとのレースに私の理想など持ち込んでやるものか。全力を以ってすべてを捩じ切ってやる。私の本能と、私の我儘と、この脚でな」

「おお、怖い怖い。怖いから、湯上がりに飲み物でも用意しておきたいんだけど、リクエストは?」

 

 肩をすくめたシンボリルドルフ。その背中に、小さく笑い声が降り掛かっていた。

 

「では、ココアを。とびきり甘いのを頼む」

「はーい。準備しておくよ、皇帝様」

 

 今度こそ、シンボリルドルフは風呂へと歩みを進める。その顔には、どこか、すっきりとした笑みが浮かんでいた。

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