私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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かくして。

 有マが迫るのは、ミスターシービーだけではない。学園の練習場の一角では、ジャパンカップを走り抜け、有マを走らんと訓練を続けるウマ娘たちもいる。選ばれし18人のうち、その2人がベンチで話し込んでいる。

 

「プロミス。貴女、有マで引退と聞きました。本気、ですか?」

「あー、流石メジロのお嬢様。情報が早いね。結論から言えば本気だよ」

 

 キョウエイプロミスとメジロティターンの2人だ。ジャパンカップでは激走をみせた2人。しかし、その雰囲気は少々暗いものだ。

 

「なぜです?貴女、ジャパンカップのインタビューでリベンジを誓っていたじゃないですか。『自分の足で一着を』と。それが、この2ヶ月弱でなぜ?」

 

 有マで引退。以前から決めていたティターンは仕方がないとしても、プロミスはまだまだ走るつもりであったのだろう。だが、それが有マ直前での引退宣言。一体なにがあったのだろう。

 

「そうは言ったんだけどねぇ。実のところ、ジャパンカップからこっち、タイムが落ち込んでいるんだ。努力しても落ちていくんだ、全てが。感じてしまったよ。ああ、これが、上がりかと」

 

 そう言って、少し寂しそうに笑うプロミス。ティターンは思わず、天を見上げた。

 

「そうでしたか。貴女も、ついに」

「うん。ティターンの言っていた『限界』っていうやつだな。事が身に沁みているよ。いや、本格化とは全く逆だな。練習を重ねているにも関わらず、どんどん力が落ちていく。維持すら出来ない。この状態でよく、ティターンはここまで走ってきたね。素直に尊敬するよ」

 

 そう告げて、ティターンに微笑みかけるプロミス。ティターンはと言えば、ひとつ、ため息を付いてから、プロミスにこう告げた。

 

「意地ですよ。ただ単に。最後までメジロの誇りを魅せつけたいっていう、それだけの意地です」

「強いねー、君は。でも、君はメジロ家の悲願、天皇賞を勝ち取った時点で夢を叶えたんだろう?なぜ、有マまで走るんだ?」

 

 疑問。ティターンとしては能力の落ち込み方からすれば、現役を続けているというのが信じられないもののようだ。その疑問にティターンは、再度、天を仰ぐことで答えていた。

 

「単純ですよ。次世代の有望株。我がメジロ家の血を継ぐマックイーンにはかっこいい姿を見せたいですからね」

 

 メジロマックイーン。メジロ家の次世代のエースの一人。無論、マックイーンだけではないだろう。既にトレセンでその片鱗を見せているラモーヌや、マックイーンと同世代のライアン、ドーベルらというウマ娘たちに。きっと、天皇賞を、それ以上の栄誉を獲ってくれるだろうと、ティターンは信じている。その道筋になれるように。背中を見せるように。

 

「そっか。じゃあ、一緒に最後の悪あがきをしてみようか。私も天皇賞覇者だしね」

「ふふ。じゃあ、天皇賞覇者どうし、最強に挑みましょう。悔いのないように」

「うん。挑もう。ミスターシービーという最強に」

 

 固く、約束は結ばれた。2人の覇者が、最強のウマ娘へ挑む、最後の挑戦である。

 

 

「それで、私が引っ張り出されたというわけか」

「うん」

 

 首都高のパーキングエリア、大黒。私とルドルフは、コーヒーの缶を片手にのんびりと雑談を交わしている。ただ、ルドルフの顔には少々、呆れたような表情が張り付いていた。ま、仕方ないか。いきなりバイクで連れ出したからねぇ。

 

「シービー。出来れば事前に連絡が欲しかったのだが」

「あはは。ごめんごめん。でも、トレーナーも来れないって言うし、一人じゃ寂しいし。じゃあ、ルドルフだねって思ったんだ。キミなら来てくれるかなーって」

 

 時間は既に夜。太陽は完全に隠れて、今はお月様の時間。ルドルフを背中に乗せて走る首都高速道路っていうのも、なかなか乙なものであった。

 

「まだ、仕事もあったのだけどね?」

「えー?でも、周りがやってくれるんでしょ。むしろ、みんな『会長はお休みになられるべきです』とか言ってたじゃん?」

「それはそうなんだが」

 

 あんまり納得いってないね。でも、実際ルドルフ仕事しすぎなんだよなぁ。後輩とか周りに任せて良いんだよ、こういう案件はさ。ちょっと、先達としてアドバイスっぽいことをしておこう。

 

「それに、こういうときに頼られたほうが嬉しいんだよ。特にルドルフみたいな人に頼まれたらね」

 

 そう、尊敬する人に頼られる。それは、嬉しいことだから、どんどん仕事を振っちゃって良いんだよね。

 

「嬉しい?」

「うん。あの時、あの人に頼られた!っていう経験になるから。これ、結構大きな成功体験でさ。例えば、レースの最後の追い込みに一歩踏み出す力にもなったりするよ」

「それほどか?」

「それほどだよ」

 

 首を傾げてしまったルドルフ。そういうところが、後輩や周りに慕われるところなんだけれど、それがまた欠点にもなりうるのさ。背負い込みすぎて潰れたりね。ルドルフとはいえ一人のウマ娘だ。息抜きは、しっかりとしてもらわらないと、私も困るし。

 

「ま、逆に嫌いな人にやられるとやる気無くなって実力発揮できなくなるんだけど、ルドルフに頼られたのならそれは絶対にないだろうし」

「…それほどか?」

「それほどにきまってるでしょ?ルドルフ、君の人気は相当だよ?」

 

 そうか、とつぶやきながらコーヒーを煽るルドルフ。顔には苦笑が浮かび、ちょっとむずがゆそうな感じ。話題を変えるように、ルドルフは言葉を発する。

 

「そういえば、なぜ私たちは大黒に来たんだ?既に門限も超えているぞ?」

 

 ああ、そういえば言ってなかったね。門限を超えて、ここにいる理由。ちなみに、ルドルフを連れ出すための許可は、学園長にとってある。

 

「あー。ほら、ホープフル。勝ったよね」

「…ん?ああ。確かに勝利の栄冠を掴んだが」

 

 ホープフルステークス。ジャパンカップと有馬の影に隠れてしまっていたが、ルドルフは見事に勝利を収めてみせた。しかし、私はと言えば。

 

「ほら、私見に行かなかったしさ。お祝いもしてないでしょ?その、埋め合わせ。ご飯奢るからさー」

 

 スケジュールに空きがなし。ってことで、どうしても見に行けなかった。その埋め合わせも兼ねてだ。

 

「ふ、なるほどな」

「うん。じゃあ、2階のレストランでラーメンでもどう?」

「ありがたく頂くとしよう」

 

 缶コーヒーを空にして、ゴミ箱に入れる。そして、2人並んで2階のレストランへ。窓際の席に案内された私たちは、大黒の夜景をちょっと楽しみながら、ラーメンを頼む。

 

「ああ、そうだ。それで、もののついでに一つ。ミスターシービー。君に一つ頼みがあったんだ」

「頼み?」

「うむ。ああ、その前に一つ。学園長から聞いたのだが、君の専用曲。あれは君の、文字通り異世界の曲だと。間違いないか?」

 

 難しい顔をしているルドルフ。ありゃ、こりゃあ怒られるかなぁ?と身構えながら、言葉を選ぶ。

 

「あー、そうだね。専用曲ってなっているけれどさ、実際は私の知っているヒット曲を歌ってるだけなんだけど。えーと、どうかした?」

 

 私の雰囲気を察したのだろうか。ルドルフは、軽く笑みを浮かべ、その表情を崩していた。

 

「いや、批判などしようというものじゃない。曲がどうあれ、盛り上げたのは君とマルゼンスキーの努力の賜物だからな」

 

 予想外のお褒めのお言葉だ。いや、そう言われるとちょっと照れるね。

 

「ありがとう。でも、批判じゃないなら、なんだろう?」

「実は、有マ記念で一曲お願いしたくてね」

 

 む?有マで一曲?この直前に?

 

「有マで?学園長からそういう話はないけれど」

「ああ、これは、私から、というより数名のウマ娘からのお願いだ」

「お願い?」

 

 どういうことだろうか。学園長を通さず、お願いと来たものか。

 

「ああ。今回、メジロティターン、そしてキョウエイプロミス、アンバーシャダイが引退のレースだ。一つの時代が終わる。それでなくても、有マというのは、出会いと別れのレースなんだ。だから、彼らを送り出す意味でも、背中を押す曲をお願いしたい。と言うことだ。ま、正確に言えば、未だURA側の作詞作曲、楽曲作成のノウハウが無いとも言えるのだけどね」

 

 なるほどねぇ。

 

「…ま、ルドルフの頼みなら。でも、私のチョイスだから、あんまり期待しないでね?」

「問題ないさ。君のセンスに任せるとも」

 

 私のセンスに任せると来たものか。んー、さて、どうしようかなー。ちょっと探りを入れてみますかね。

 

「ちなみに、数名って、誰?」

「私、マルゼンスキー、あと代表的なところでいうとシービークロスにホリスキー。他にも多数のウマ娘達から嘆願を受けているんだ」

 

 ふむ。っていうか、シービークロス。私と同じ名前をもつウマ娘からの依頼か。

 

「ルドルフとかはいつものメンツだとして…シービークロスにホリスキー?」

「ああ。特にシービークロスが熱心でね。彼女が最後に走れなかったレース。そこに、メジロティターンがいたそうでね。彼女の活躍を自分のことのように見ていたそうだ。だからこそ、最後は盛大に送り出したいらしい。ホリスキーもティターンやアンバーシャダイの走りを見て勇気づけられたとかでね。ステイヤーとしての彼女達に憧れた人々からの依頼だよ」

 

 なるほどね。名ウマ娘にはファンも多いというわけだ。

 

「そういうことなら。でも、難しいね。送り出すような…しかし、有馬記念のような舞台でも盛り上がる一曲かぁ」

「無理難題というのは承知の上だ。無論、断ってくれてもかまわないさ」

 

 そう言いながら、ルドルフは笑みを浮かべる。全く、言葉と表情が合っていないぞ?

 

「あはは」

「どうして笑うんだい?」

「ルドルフ。アタシが断らないって知って言ってるでしょう?前のアタシなら断ってたけど、最近のアタシなら、断らないって」

「…ふ。バレていたか。そうだ。君なら、きっと、彼女らに相応しい一曲を用意してくれると、信じている」

「うん。わかったよ。頑張ってみる。それにしても急だなぁ。練習もろくにできないじゃない?」

 

 ここからだとあと一週間ほど。いやぁ、実に直前。実にピンチというやつだ。

 

「ああ、だからこそ。キミに任せたいんだ。キミなら、やってくれるだろう?」

 

 挑むような笑みを向けてきたので、こちらも、自信満々に頷いて見せる。ただ、しかし。そうなると速急に曲を決めなくちゃね。

 

「まぁね。でも、材料が少ないよ。あー…ルドルフの事も含めた資料とかってある?明日にでも貰いたいんだけど」

「言われると思って持ってきてあるとも。これだ」

 

 これはこれは用意の良いことで。ルドルフから紙の束を受け取ると、早速、目を通す。なるほどなるほど、各ウマ娘の詳細のプロフィールか。

 

「…マルゼンスキー、デビューがこの年で…ああ、寅年ね…で、シービークロスが…なるほど、こんな戦績で、あー、最後のレースね。なるほど。怪我か。で、うさぎ年…メジロティターンが…午年で…」

 

 んー…なんとも難しいところだねぇ。それにしても、十二支までデータがあるんだねぇ。これ、午ってなっているけれど、多分この世界じゃあウマ娘のことだよね。ちょっとおもしろいかも。

 

「そういえば、マルゼンはなんで?特に関係ないでしょ?」

「それが、ホリスキーを学園に誘った張本人だそうでね。簡単に補足をさせてもらってもいいかな?」

「ぜひ」

 

 ルドルフにそう促せば、頷いた後に淀みなく彼女は語り始める。

 

「ホリスキーは脚部が弱かったんだ。そのせいもあって、なかなか勝ちきれなくてね。本格的に始動出来たのはクラシックからだ。その時に、彼女ら、ステイヤーの走りを見て勇気づけられたらしくてね。マルゼンスキーはその恩を感じているらしい」

「なるほど。マルゼンも案外義理堅いね」

 

 なかなかマルゼンも後輩思いなウマ娘なことで。ま、判っていたけどね。ということは、実際はマルゼンとシービークロスの推しが大きいわけか。ルドルフが動くぐらいだし。

 

「…そうだなぁ。なんかいい曲…」

 

 マルゼンが寅の干支、クロスが…卯の干支。なんだろう、何か、ひっかかる…トラ、ウサギ…トラ…ウサギ?トラと、ウサギ?あ!

 

「参考になったかな?」

「うん。いい感じ。で、確認だけど、つまり、今までの『レースの世界で生きるウマ娘の物語』が終わって、各々の『次の物語へ続く』歌。そういうので、いいんだよね?」

「ああ、そういうのが、欲しい」

「じゃああるよ。一曲。いいのがね」

 

 ま、また肖ることになるけれど、と心のなかで付け足しておく。ふと、そこで一つ、大切なことに気がついた。

 

「でも、私にそれをお願いするってことは…私が勝つってことだけど、いいの?」

 

 そう。私の専用曲ということは、有馬記念で私が勝たなければならないのだ。それを考慮していないルドルフじゃないだろう。そう思いながら、表情を伺ってみれば、全く、あきれるほど自信満々な笑みの皇帝様のご尊顔があった。

 

「ん?ああ、だって、君が勝つだろう?」

 

 当たり前じゃないか。そう言いたげに、言い切った。

 

「負ける気はないけどね」

 

 そう、多分、アタシが勝つ。実力もなにもかもが私は今が1番いい。だが、浮かれてばかりもいられないのが有馬記念というもの。お祭り騒ぎの年末の一大行事。それはきっと、ウマ娘であっても、実際の馬であっても同じこと。どんでん返しもあるかもしれない。

 

競馬に絶対はない。それはきっと、ウマ娘でも同じことだ。

 

そして、有馬記念はお祭りとは言いながらも、そのお祭りを区切りとし、レースの世界から去る者だっているのが事実である。彼女らの覚悟は、きっと最強をも食らう力になることだろう。でも、だからといって。

 

「負ける気はない。むしろ、引導を渡すよ。私が。その有終の美に」

 

 絶世を誇った彼女らも、落日を迎え。いよいよ、その帳が落ちようとしている。その、最後の有終の美。己が最強と自負するがゆえに、全力をもって叩き潰し、その行く足を見届けねば、送らねばなるまい。その涙を、覚悟を持って受け止めねばなるまい。後悔などさせることなどないように、アタシは、私は絶対の強さを誇らねばなるまい。絶対の強さを見せつけて、次のステージへ、私は彼女達を送り出そう。

 

「容赦ないな、キミは」

「そう?でも、ルドルフだって同じ立場ならさ、同じことするんじゃない?」

「当然だ。失礼があってはならない。同じレースの場に立つのだからね」

「うん。その通り。最高の追い込みを魅せつけないといけないんだ、私はね」

 

 自分でそう言いながら、少し頭を抱える。

 

「…そう考えると、プレッシャーだなぁ」

「キミがか。明日は雨かな?」

 

 からかい気味にルドルフがおちょくる。確かに、全く、全く自由じゃない。この覚悟はきっと、私の思っているミスターシービーらしくは全くないと想う。

 

「降ってくれたほうが嬉しいけどね。ま、称号とかには興味はないけれどさ、自分ごととして考えてみるとさ、きっとこうあって欲しいって想うことがあるんだ。楽しく走ったレースという世界。私の力が落ちて、どうにもならないその最後にもし、最強がいたならって考えるとね」

 

 でも、それでも、私は今度の有マを勝ちたいと願う。だってこれは、レースに生きた彼らへの餞になるのだから。

 

「ほう?では、キミは、キミが言う『最強』がいる、己の引退レースを走る時にどう考えたんだい?ミスターシービー」

「その強さを隣で感じたいって思ったよ。手が届かない、絶対的なその強さをね。一緒に走れたら、それだけできっと楽しいんだ。だから、私は」

 

 今度の有マは全力で走るんだ。言葉にはしないけれど、ルドルフの目をしっかりと見つめた。私の視線を受けた彼女は、軽く笑みを浮かべながら、ゆっくりと頷いてくれていた。

 

「やはり、ミスターシービーは格好いいな。流石、史上最強のウマ娘だ」

「あはは。ルドルフほどじゃないけどね、っと。ラーメン来たよ」

 

 ルドルフと啜るラーメン。その味はとても美味しいもので、夜景と相まって忘れられない夜になりそうだ。そして、暮の中山。ここを超えていけば、来年はついに彼女と戦う時が来る。うん、楽しみ、楽しみだな。

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