「この子は?」
キョウエイプロミスがお披露目のために移動していると、メジロティターンが見慣れぬ子供のウマ娘を連れていた。
「メジロマックイーン。メジロの次期エース候補です。今日は、私の引退レースを見てもらおうと思いまして」
「へぇ。よろしく、メジロマックイーン。私はキョウエイプロミス。ティターンの一つ上だ。よろしく」
プロミスがそう言うと、マックイーンは自然な所作で頭を下げていた。
「改めまして、メジロマックイーンと申します。今日はよろしくお願いいたします」
きっちりと、丁寧な挨拶。なるほどメジロのウマ娘だなとプロミスが感心していると、なぜかティターンが吹き出していた。
「ふふ、今日はすましているけれど、プロミスに会うのを楽しみにしていたんですよ?」
「な!ティターンさん!それは言わない約束ですよ!?」
被っていた猫が剥がれた。子供らしいとプロミスも、思わず吹き出してしまう。
「ぷっ。あはは。そうなのかい?メジロマックイーン」
そうやってプロミスが言ってみると、マックイーンは輝く瞳でプロミスを見つめていた。
「はい!天皇賞を勝ったプロミスさんにどうしてもお会いしたくて!」
満面の笑み。なるほど、本当に楽しみにしていたのか。そう納得したプロミスは、ファンサービスと右手を差し出す。
「そっか。じゃあ、握手でもする?」
「ぜひ!」
「ふふ。―うん。いい手だね。毎日練習しているのかな?」
「はい!日々、天皇賞を目指して練習を重ねています!」
「そっか。頑張ってね。大変だろうけど、きっと、キミなら栄誉に輝けると信じているよ」
決してリップサービスではない。メジロのウマ娘。それもティターンのお気に入りならば、きっと天皇賞を獲るという確信めいた何かを感じていた。
「はい!!ありがとうございます!」
嬉しそうにお礼を告げたマックイーン。ふと、ティターンがなにかに気づいたようにハッとする。
「さ、マックイーン。そろそろ私たちはお披露目だから。観客席に」
「あ、はい。それじゃあ、頑張ってください!ティターンさん、プロミスさん!」
「ああ。精一杯頑張ってくるさ」
「ありがとう。マックイーン」
マックイーンに送り出され、2人は笑顔でお披露目のパドックへと歩き出していた。
■
お披露目を終えたメジロティターン。トレーナーと最終の打ち合わせを行い、地下のバ道を歩いているところに、不意に声を掛けられる。
「よ。ティターン」
「これは。アンバーシャダイ先輩」
「はは、よせよ。プロミスと同じで呼び捨てでいい。メジロのお嬢様に敬語を使われると虫酸が走る」
「相変わらずですね」
うへーという顔をしながら、ティターンに手を振ってみせるアンバーシャダイ。このウマ娘も、天皇賞覇者。メジロのウマ娘としては、同格以上の人物だ。
「はは。ま、お前とこうして会うのも今日が最後だしな」
すこし寂しそうに語るアンバーシャダイ。何を隠そう、彼女もこのレースが最後の一走だ。
「そうでしたね。あなたも、引退ですか」
「おう。春の天皇賞で勝って以来、全てが駄目だ。維持こそ出来ているがな。お前の言う限界が来た。全く、ままらなん」
頭をかきながら、そう告げる。ふと、ティターンが不思議そうな顔を浮かべていた。
「そういえば、レースが終わった後は、どうするんです?」
「んー。そうだな。全く決めてない。地元に戻って後進を育てるか、と漠然と思っているよ」
「…そうでしたか。ああ、もし、ご都合が付けばメジロでもトレーニングをしていただきたいと思うんですが、如何でしょう?」
「あたしがか?」
まさかの申し出に、反射的に聞き返してしまったアンバーシャダイ。頷いて、ティターンは言葉を続けていた。
「はい。ライアンという子がいまして。貴女とその子、相性が良さそうなんです」
「なんだそれ。いい加減だな?」
「運命的な何か、を感じたんですよ。よければ、お話を受けていただけません?」
首を傾げ、可愛げに告げる。つまりは、メジロへのスカウトだ。トレーナーとして。アンバーシャダイは少しだけ迷ったが、悪戯っぽい笑みを浮かべて、こう言葉を投げた。
「あー。ま、暇だしなぁ…あ、給料は出るんだろうな?」
「もちろんですよ。衣食住、お給金、メジロにお任せあれ。期待していいですよ?少々マナーには煩いですが」
「はは!イイじゃない!その話ノッた。じゃあ、落ち着いたらでいい。連絡をくれ」
「承知しました。では、まず、今日のレース、真剣勝負を」
「もちろんだ。ま、衰えたと言っても、負ける気はない。お互いベストを尽くそう。じゃあ、先に行っているぜ」
手をひらひらとさせながら、アンバーシャダイは本バ場へと消えていく。それを追うように、メジロティターンも歩みを進めた。
■
『さあ、今日の一番人気はやはりこのウマ娘!18番ミスターシービー!ジャパンカップでの勝利を引っ提げて年末の祭典、暮の中山に現れました!現在G1を5勝!無敗!当代最強のウマ娘でしょう!今日、このレースであの伝説を超える6冠バの誕生を見届けられるのか!非常に期待が高まっております!』
湧き上がる歓声を尻目に、私はウォーミングアップにとターフを軽く走る。やはり、今日の主役は無敗の5冠ウマ娘、ミスターシービー。アナウンス、そして歓声の度合いはそれはもう、私達の比ではないだろう。有マ記念はお祭りだといくら言ってたとしても、今日の主役は間違いなくミスターシービーその人だろう。
「今日勝てば、無敗の6冠ですか。素晴らしい記録です」
つぶやきながら、自分の脚を見る。タイムが伸びなくなった私の脚。本当、なんでまだ走っているのだろう、そう思うこともあった。
「もう一度、天皇賞の栄光を。…いえ、違いますね。これはやっぱり、意地なんでしょう」
どこまで行けるか。試してみたかった。大した理由なんて、無かったはず。
「そうですね。その旅の終わりがここ、暮の中山だった。それだけですかね」
後悔は無い。私は全力で走ってきた。今日のレースだって、全力で走る。全力で競う。全力で、先頭を取りに行く。でも。
直前のタイムを見れば、まぁ、色々絶望的でしょう。勝つ可能性は薄い。でも、そんなデータは、今日はおまけみたいなもの。
「追いつけるかどうか?…野暮ですね。うん。勝つとしましょう」
ゲートを見据えてピシャリと頬を叩く。ラストラン。しっかりと、走り切りましょう。
■
『さあ、ついに始まります。暮の中山、ウマ娘の祭典!注目はやはりミスターシービー!各ウマ娘ゲートイン完了!今、スタートしました!これは各ウマ娘見事なスタート。やはりミスターシービーのスタートは見事です。さあ、先頭は誰が行くのか。この暮の中山、注目の先頭は華麗な勝負服、ハギノカムイオーが行きました!内々をついてホクトフラッグも行っております!その外にはリードホーユー。どうやらこの3人がレースを作っていきそうです!』
『さあ拍手と声援に迎えられてホームストレッチに各ウマ娘入ってまいりました。先頭は変わらずハギノカムイオー、2番手リードホーユー、ホクトフラッグ内々通って3番手、スイートカーソン、ビンゴカンタ、エイティトウショウ外目から来て、ミスラディカル、その外にメジロティターン、キョウエイプロミスと続いております。ミスターシービーは最後方。仕掛け時を狙っているか!さあ先頭がコーナーに入っていきます!キョウエイプロミスの後ろにはテュデナムキング、ビクトリアクラウンがついて、ワカテンザン、それを見るようにアンバーシャダイが前を臨む!そしてミスターシービーの前にはモンテファストがコーナーを曲がっていく!』
『向正面、ハギノカムイオーゆったりとしたペース。見事なフォームで後続を4バ身から5バ身離してゆうゆうと進みます。そして2番手リードホーユー。3番手ホクトフラッグ、4番手スイートカーソン。順位は今のところ変度はありません。そして、ペースはスロー。ペースは早くはありません!ペースは決して早くはありません!これは、追い込み勢が有利になるか!?』
『さあ最終コーナー手前!各ウマ娘ペースを上げた!ハギノカムイオーの後ろにリードホーユー!後方からはダイナカールが早めに動いた!ペースを上げた逃げの4人!しかし、他のウマ娘も続々と間を抜けてやってきている!スイートカーソンペースを上げて先頭に立った!しかし最後方ミスターシービーまでの距離はない!アンバーシャダイは後方4番目!ミスターシービーはまだ最後方だがバ群が固まって400メートルの標識を超えた!』
『最後400メートルの勝負!最終コーナーを回った!回ってついに来た!!大外ぶん回してきたミスターシービー!リードホーユーが続いてデュナムキングも上がってきている。メジロティターン良い位置につけてアンバーシャダイが内をついてグーンと伸びたか!突っ込んできたのはオークスウマ娘ダイナカール!ビンゴカンタは伸びが苦しいか!そしてここでキョウエイプロミスも内をついて上がってきた!ティターン来た!アンバーも来た!
しかししかし、ここでミスターシービーが大外をぶん回して一気に上ってきたぞ!』
■
ミスターシービーらしい。素晴らしい、自由な追い込み。それについていくようにリードホーユーと、デュナムキングが私を突き放す。そのすぐ後ろにはアンバーシャダイが追い込みを掛けている。だけど、私の脚は。
「ああ、駄目ですか…追いつかない…!」
400の標識が飛んでいく。ああ、最後だっていうのに。足に力がこれ以上入らない。これ以上、加速ができない。
限界。成長の終わり。落日。私の力は、ここまで落ちていたのか。ああ、判っていたことだけど。
泣きそうになる。挫けそうになる。
でも、まだ脚を止めるわけにはいかない。まだ、下を向く訳にはいかない。なぜならば。
「メジロティターン!」
―確かに、聞こえた。ミスターシービーを応援する大歓声の中で、確かに聞こえた。
「いけ!メジロティターン!!!」
―背中を押す声が。私を応援する、必死な声が。
「がんばれ!メジロティターン!!!!」
―私の背中を、見ていてくれる、その声が!
何を弱気になっている。メジロティターン!
何を諦めている。メジロティターン!!
私の背中は、ただの背中じゃない。
メジロの夢が、人々の夢が乗っている。
こんなところで、不甲斐ない姿なんて、見せちゃいけない!見せてなるものか!私はメジロティターン!怪我を超えて、負け続けて、でも、諦めずに天皇賞を手に入れたウマ娘だ!
そうだ。たかだか力が無くなったぐらいで諦めるなんて、私らしくない!私は、諦めない!
「勝負、ミスターシービー!」
ナケナシの脚から、一歩、踏み出す力をふり絞る。
ズドンと、久しぶりに足元から、力を感じる音がする。
やれる。イケル。まだだ。まだ諦めてたまるか!これが、私の最後のレース!最後の背中!一歩でも、あの最強に近づけ!あの最強に、歩み寄れ!そして、この姿を!
その目にしっかりと、焼き付けて。
「やああああああああああああ!」
焼き付けて!いずれ、私の、この背中を追い越すのですよ!頼みましたよ!
メジロマックイーン!
■
『ついにミスターシービー先頭に立った!リードホーユーを交わした勢いのまま逃げる逃げるミスターシービー!2バ身体離れてリードホーユー!その後ろアンバーシャダイかデュナムキングか!ダイナカールも必死に追いすがる!そしてメジロティターンがワカテンザンを交わして先頭に迫っていくがその後ろからキョウエイプロミス、モンテファストにミスラディカル、トウショウゴッドも来ている!』
『しかし、しかし!やはり、やはり先頭はミスターシービー!大地が跳ねた!京都に、府中に続いて中山でも大地が跳ねた!これが最強!これが無敗!大地が跳ねた!大地が跳ねた!!』
『先頭は18番、ミスターシービー!今!ゴールイン!文句なしの優勝!!強い!そして、ついに!時を超えてあの伝説を超えた!無敗の6冠ウマ娘の誕生だー!!!』
『2着はリードホーユー。3着はデュナムキング。4着、アンバーシャダイ。そして5着にメジロティターンかそれともダイナカールかそれともキョウエイプロミスかというところ。確定まで、少々お待ち下さい』
■
『選ばれしこの道を ひたすらに駆け抜けて 頂点に立つ そう決めたの 力の限り先へ!』
夜。天に星が降り注ぐ、その真下。私はステージの下で、見慣れた顔と肩を並べていた。お互いに全力。お互いに出し切った。だからこそ、お互いに掛ける言葉は決まっている。
「…どんまい」
「あなたこそ」
NEXT FRONTIERを謳うミスターシービー、リードホーユー、デュナムキングの三人を眺めながら、お互いにかけるのは慰めの一言。
「着外かぁ…いや、追いつかなかった。やっぱり早かったなぁ。ミスターシービーは」
「ええ。本当に。唯一、私達の世代ではアンバーシャダイが掲示板に残りましたけど、うん。納得の世代交代ですね」
『一生に一度きりの今を後悔したくない 有言実行 言葉にしたら世界は動き出した』
「ああ。だが、後悔は無いさ。全力を出して負けたんだ。強さを刻みつけられた。うん。いい手土産だ」
「本当に。容赦がなかったですね、ミスターシービー。いえ。あの世代。いいウマ娘たちです」
『最速の輝き この手に掴み取って 新しい幕開けを超えて 進んでいこう』
「レースという舞台はこれで、終わりですね」
「ああ。私達の物語は終わった。あとは、次の奴らの物語さ。それに、レースは終わったが、私たちは次を育てるっていう仕事が始まる。うかうかはしていられないぞ?」
『情熱に鳴り響く 高鳴りというファンファーレ 抱きしめたら 解き放とう 目指す場所があるから!』
「そうですね。次のメジロたちを強くしなければ。プロミスはどうするんですか?」
「ん?そうだなぁ…ま、地元に戻って、有望株を鍛え上げてみせるさ」
『選ばれしこの道を ひたすらに駆け抜けて 頂点に立つ 立って見せる Next frontier 力の限り 先へ!』
「おー…やっぱりいい曲だ」
「プロミスは歌ったんでしたっけ?」
「うん。春にな」
「羨ましいですね」
―披露致しました曲は、URA作詞作曲『NEXT FRONTIER』。新たな決意を胸に進む、ウマ娘たちの決意の曲!来年もまた、ウマ娘達の活躍をご期待ください!―
司会者の声がステージに木霊した。盛り上がる観客たち。大歓声に送られてステージを降りていくウマ娘たち。しかし、その中で唯一人、ステージに残ったウマ娘が居た。
「ミスターシービー、残りましたね」
「ああ。どうしたんだろうか?」
―そして、本日。新たな伝説がここ、中山レース場で生まれました。かの伝説を超えた、最強がここに生まれました。その名は、ミスターシービー!―
大歓声。ペンライトは、ステージのライトは、全て緑色に染まる。
―それを記念し、ミスターシービーには新たな曲を歌っていただきます!―
おお、と上がる大歓声。
「新しい曲?何か聞いていたか?ティターン」
「いえ、何も」
なるほど、私達も知らない、となれば、本当のサプライズなのだろう。
「ああ…そうか。今日、ミスターシービーは無敗記録が伸びたのか」
「しかも、6冠ですからね。記念すべき記録ですよ」
頷いて、ステージを見る。恥ずかしそうに頭を掻いて、ミスターシービーは静かにマイクを握り直していた。
―それでは、ミスターシービーさん。歌う前になにか一言!―
―うん。や。ミスターシービーだよ。今日は応援してくれてありがとう。今日は良いターフだったよ。みんなの熱気を感じられて、楽しく走ることが出来た。それで、無敗が続いて、G1を6勝。伝説を超えれた。ただ、覚えておいて。アタシは楽しく走りたいだけ。来年もそうするから、どんどん挑んで来て、どんどん応援して。真剣勝負をしよう。そして、また、皆の目の前で歌えたら最高だね!―
ミスターシービーの声を聞きながら、プロミスは呆れた表情を浮かべていた。私も、そうだ。
「それにしてはあいつ、いつもの通りすぎないか?賛辞を送ったら、『6冠?ああ、そういえば、そうだったね。ありがと』だってよ」
「それも彼女らしいです。だから、きっと勝ち続けているのかもしれませんね」
そして、2人の脳裏にはミスターシービーのトレーナーの姿も浮かんでいた。勝利者のインタビュー、トレーナーももちろんコメントを求められるわけであるが。
『6冠。確かに偉業ですが、私にとってはミスターシービーが楽しそうに走ってくれたんで満足ですよ』
「偉業は大したものではない、と?」
『そう言われると語弊があります。ただ、彼女はこれからも楽しく走ってくれると信じていますから。楽しく走るシービーは、最強ですよ』
あっけらかんと答えていた姿が、印象に残っている。
「トレーナーを含めて、あいつらは無欲だねぇ」
「ええ。本当に。じゃあ、私達の最後の仕上げ。彼女の歌を聞いて、お開きにしましょうか」
「そうだな。それにしても、何を謳うんだか。この有マのステージで」
「さぁ、でも彼女の専用曲を考えれば…今までの傾向から言えば格好いい系では?」
「だろうなぁ。ああー、でも、最後は勝ちたかったもんだ。これが、運命か」
「らしくないですよ?」
「そうはいってもな。ティターンはそう感じないのか?」
「…勝てるか、と期待はしていました。でも、うん、これが今の私ですよ」
ふと、照明が落ちた。曲の始まりか、と視線をステージに向けた彼女らの耳に、衝撃が走る。
『かくして、またストーリーは始まる』
イントロもなしのいきなりの歌い出し。また、ストーリーが始まる?
「え?」
「は?」
あっけにとられた2人を尻目に、ギターがかき鳴らされる。バックモニターには、今日のレース映像。18人のウマ娘たちが次々に映し出されながら、曲は進む。
『これが運命だったんだ、期待してたかい?』
射抜かれた。そう思った2人は、驚きでミスターシービーのステージに魅入る。気のせいじゃない。明らかに、彼女と目が合った。
『何も言わなくても伝わりそうだから とりあえず今は黙っておこう』
運命だった。確かにそう思っていた。でも、それと同時に、ふざけるなとも思っている。運命なんてあってたまるかと。まだやれる。後悔はないと言葉で言っていても、やっぱり有る。ああ、勝ちたかった、最後のこのレースで。1番を取りたかった。
『喝采のロードサイド 止まない未来の向こう側で 倒れちゃいそうな不安をみんな持ってる』
これからどうなるのか。全く、不安しか無い。歌詞のとおりだ。喝采を受けるミスターシービーの後ろで、こんな不安を持っている。
『ただ眠っていたって 夜は明けてしまうから 走れ 進め 狙え 今を理由にして』
不思議と、背中を押される感覚。それを感じながらも、音楽は一気に盛り上がりを見せた。
『その願いを叶えようか 歌えkaleido fiesta きれい過ぎて忘れられないような ような 景色になる』
それは、まるで忘れらないような豪華絢爛なステージ。ミスターシービー色に染められたステージ。空には、リズムに合わせてライトが綺羅びやか。バックモニターには、ああ、今、ラストスパートをした私の映像が映る。キョウエイプロミスが、アンバーシャダイの背中が映る。
『今あなたと僕だけで夢を見続けないか 刹那したプレリュードだけが答えだろう?』
ファン。それとも、トレーナー?共に、夢を見続ける…。
『祝祭の鐘よ鳴れ かくして快進撃は始まる』
そう言って、私達を指さしたのは、ステージで楽しげに舞うミスターシービーその人。見間違いじゃない。ああ、彼女は、きっと、私達に向けて歌っている。レースから身を引く私達に、新たな『快進撃』があるんだと。
『トップスピードは更新中 ついて来れるか』
今日のレースは、とても素晴らしいレースだった。ああ、きっと。
『等比級数的にロマンチックになる 見逃さずになぞっていこう』
ミスターシービーなら、どこまでも行けるだろう。その姿は、見逃すことなんて出来ない。ただ、追い込みがどうだとか、色々知らない人たちが高説を垂れていることを知っている。でも、きっと彼女なら、これからもこのレースの世界を引っ張ってくれることだろう。
『高説はtoo muchだ お願い 少し黙って欲しい 史上最重要なドラマが控えてる』
この有マのステージで、そう謳うか。そうメッセージを伝えてくるか。まだ、この先、待っていると。ドラマが待っていると伝えてくれるのか。
『つまり整合性なら 後日譚でわかるから』
「後日譚…これからの、私達を歌っているのか?味なことを。ま、なんにせよ、いい歌だな」
「ええ。いい歌ですね。そうですね。かくして、ストーリーは始まるんです」
『今を 今を 今を 今を 誇れるかだろ』
「後悔は?」
「していません。貴女は?」
『当てがないシークエンスでも 歌えkaleido fiesta つまりI miss youはもう要らない 未来を迎えに行く』
「私もしていない。いや、それどころか、今日の負けを含めて、キョウエイプロミスとしての栄冠は後世に誇れるものだ」
「私もです。メジロティターンとして進んできた栄光は、誇れるものです」
『胸の奥灯っている誰かを想うような 不器用なノクターンで既に傑作だ』
トレーナーか。それとも、同期の仲間か、メジロの誇りか、応援してくれている誰かなのか。
今日、いや、いままできっと私はそれを想って走ってきた。確かに、私の生き様は傑作だったのでしょう。うん、そうですね。最後を締めくくるノクターンとしては、全然、カッコがつかなかったけれど、それでも。
『幾千の喜びが集まり連鎖して そのまま C'mon please DJ, 問いただしてくれ この街を誇る権利 羽が無くても心が促す飛び立つような感覚を』
ライトが落ちる。すると、今度は私達の、去る者たちのライトが灯る。合わせるように、ミスターシービーは天に指を指した。
『広がり続ける星空に僕らは今を誇れるか?』
天を見上げた。幾千幾万の星空が見える。まるでそれは、これからのウマ娘達のよう。これからもどんどん、新しい名ウマ娘たちが生まれていくことなのだろう。ああ、出来れば、私の、私達の走りが後世のウマ娘たちの希望になるよう。ウマ娘たちが、幸せに過ごせるように、この星空に祈ろう。
『その願いを叶えようか 歌えkaleido fiesta きれい過ぎて忘れられないような ような 景色になる』
忘れないさ。きっと。このレースという世界を。私の青春をかけた、こんなきれいな景色を忘れるわけがない。
『今あなたと僕だけで夢を見続けないか』
トレーナーの顔が浮かぶ。最後まで、きっと、私はかっこよく走れたであろうか。
ファンの、マックイーンの顔が浮かぶ。最後まで、きっと、私は最高を見せられたであろうか。
『刹那したプレリュードだけが 答えだろう?』
遠くでは、アンバーシャダイがステージに釘付けだ。ああ、彼女もきっと、感じるものがあるのだろう。
『祝祭の鐘よ鳴れ』
プロミスと、ティターンは顔を見合わせる。くすりと、笑みが浮かぶ。
『かくして快進撃は始まった』
「ああ。それじゃ、また会おう。メジロティターン」
「ええ。またいずれ、お会いいたしましょう。キョウエイプロミス」
お互いに右手を差し出し、固く、固く握りしめた。
「「自分の意思を継ぐものを連れて必ず、レースの舞台で。もう一度」」
『kaleido fiesta 祝祭の鐘は鳴る』
謳い終わった彼女は天に指をかざす。ギターの音が、最後の盛り上がりを見せるとと同時に、大きく、多数の花火がステージの上に花開く。暮の中山が終わる。
■
すべてが終わり、レース場を後にしようと荷物を持って出口へと向かっていたティターンとプロミス。その2人の耳に、聞き慣れた声が入ってきた。
「ティターンさん!」
振り向いてみれば、そこにいたのは息を切らしたマックイーン。隣には、執事が申し訳無さそうに立っている。
「マックイーン。もう帰ったんじゃ」
「待っていたんです!プロミスさんも!」
「私もか?」
「はい!あの、お二人のお時間、これから頂けないでしょうか!?」
突然のマックイーンからのお誘いに、プロミスとティターンは顔を見合わせていた。
「いいけど。どうしたの?」
「ありがとうございます!えっと、この近くのホテルでお食事の予約をしておりまして。その、お話を聞きたくて!」
マックイーンの言葉に、プロミスが思わず吹き出す。
「ふ、はは。マックイーン。私達で良いのか?今日の勝ちウマ娘はあっちにいるぞ?」
プロミスは駐輪場を指さした。きっと、あの最強は今日もバイクでトレーナーと共に去ることだろう。だが、マックイーンは首を横に振った。
「プロミスさんとティターンさんのお話が聞きたいのです!」
真剣なマックイーン。一瞬、ティターンの頭には学園のルールが浮かぶ。そろそろ帰らないと反省文を書かされてしまう。メジロのウマ娘としては失格だろう。プロミスも同じようなことを考えていたのか、苦笑を浮かべていた。
だが、同時に、2人はこうも思っていた。
―まぁ、今日ぐらいは門限を破ってもいいだろう。
「そっか。いいよ。とことん付き合ってあげる。プロミスもいいですよね?」
「もちろん。じゃ、行こうか」
「やった!あ、あの、今日の走り、かっこよかったです!」
「ふふ。そうですか?私、着外ですよ?」
「それでもです!最後の直線、思わず、ティターンさんの名前を叫んでしまいました!」
並んで歩く三人。その表情には笑顔が浮かび、天の光がそれを照らす。陽が落ち、帳に隠れた夜にも光はある。落日があるからこそ、陽は昇るのだろう。