私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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シニア級1月のあれこれ①

 有馬記念は良いレースだった。気持ちよくブン抜けたし、なにより全員の熱気だ。あれを隣で感じられた瞬間、本当に楽しくて仕方がなかった。真剣勝負、一発勝負、雌雄を決する一戦。まさにそれだ。結果として勝って、ルドルフの依頼を達成できたけどね。ま、運が良かっただけだろう。

 

「診断結果としましては、爪の炎症ですね。軽いものですから、一週間ほど休んでいただければ完治できるかと」

 

 運。それは私の身体にも平等に降りかかるものだったらしい。有馬記念のあと、少々脚が痛んだ私はトレーナーを伴って病院に。結果としては、爪の炎症だとか。うーん…直前までなんにもなかったのだけれどねー。つまるところ、ミスターシービーとしての宿命的ななにかだろうか。

 

「一週間」

 

 とはいえ、一週間なら問題はない。のんびーりと過ごせばいいだけだ。トレーナーも同じことを思っているようで、軽く頷いていた。

 

「ええ。大したことはありません。軟膏、湿布、あとは飲み薬を出しておきますので、しっかりと養生なさって下さい」

「原因は何か考えられますか?」

 

 トレーナーが間髪入れずにそう訪ねていた。先生はうーんと唸ると、カルテを見ながらこう告げる。 

 

「そうですねー…。所見では…靴が合っていないのかと思われます。人間で言えば靴擦れみたいな症状ですからね。軽症で来ていただいたので、今のところ他に問題はないと思います」

「靴ですか」

 

 靴。あー…まぁ、少し前に違和感があったからねぇ。

 

「ええ。心当たりがお有りですか?」

 

 私の反応に先生がそう聞き返してくる。軽く頷きながら、こう答えた。

 

「インソールがどうも」

「あー…では、それが原因の一つかもしれません。可能ならば完治後に一度、インソールを変えて様子を見て下さい」

「わかりました」

「では、今日の診察はここまでとします。また一週間後、様子を見せに来て下さい。練習の可否は、そのときに判断いたしますので」

「はい」

 

 トレーナーとともに頭を下げて、部屋を後にする。それにしても私が怪我とは。やっぱりアスリートというものは、ウマ娘というものは怪我とは離れられないらしい。

 

「軽くてよかったな」

「うん」

 

 そう言いながら会計を待つ。待合室のモニターには、ニュース番組が流れている。どうやら、トゥインクルシリーズの特集をやっているようだ。

 

『ミスターシービー。やっぱり今走る中では、最強格のウマ娘ですね。テン良し、中良し、終い良し。調子を狂わすこともない、まさに理想でしょう』

 

 おお。まさかの私の事だ。結構な高評価だね。でも、今まさにその調子を狂わせているんだけどね。って、野暮なことは言っちゃ駄目か。

 

『そして、今年はやはり、シンボリルドルフの活躍に期待でしょう。一昨年のミスターシービーに続き、無敗のままホープフルを勝ち進みました。実力は十分でしょう。意気込みも『ミスターシービー』を超えるとのことでしたので、これはもしかすると、無敗の三冠ウマ娘が2年連続で生まれる可能性があります』

 

 おー、ルドルフも特集されててまぁーいい感じ。今年はルドルフとのガチンコバトルが待ってるし、実に楽しみだこと。

 

『他に注目と言えば、やはりカツラギエースでしょうか。ジャパンカップでこそを掲示板を外しましたが、それまではミスターシービーの直ぐ後ろにいましたからねー。今年はもしかしてがあるかもしれません』

『もしかして、というと?』

『ミスターシービー、シンボリルドルフを抑えての勝利。どこかで、見れるかもしれませんよ!』

 

 ははは。ご冗談を。とは言えない内容だねー。うん。実際実力は結構近いしね。でも、だからこそ楽しみがいがあるというものだ。

 

「楽しそうだな?シービー」

「ん?」

「顔に出てる」

 

 ありゃ。思わず、頬を両手で揉む。ああ、なるほど、確かに口角が上がってるね。

 

「まー…今年も楽しく走れそうだなって思っただけだよ」

「そうか」

 

 そういうトレーナーもいい感じに笑顔を作っている。こりゃ、似た者同士ってやつかな?

 

 

 練習は出来ない。レースも出来ない。ってことで、特にやることもないので、学園の喫煙所でのんびりと煙草とコーヒーを楽しむ。

 

「良いコーヒーだけどさ、煙草臭いなここ」

「仕方ないでしょ。ここは喫煙所だよエース」

 

 今日はお客さんが一人。同期のカツラギエースその人だ。猫かぶりをやめた彼女は男勝りのいいウマ娘だと思う。が、おタバコは嫌いなようで。

 

「というか、あまり君が来ると煙草吸いづらいんだけど」

「あー、気にすんなよ。わたしはお前の顔が見たかっただけだからさ!」

「どういうこと?」

 

 なんだそれ。私の顔って。

 

「景気づけだよ景気づけ。今年はお前に勝つって決めているからさ!」

「えー?なにそれ。ま、べつにいいけど」

 

 コーヒーを煽る。ステイゴールドの良い香りが鼻に抜ける。とりあえずパイプは横に置いておくとしようか。

 

「シービーは今年はどこから始動するんだ?」

「ん?」

 

 と、コーヒーを楽しんでいたら不意にそんなことを聞かれてしまった。始動ねぇ。

 

「エースは鳴尾からの大阪杯だっけ?」

「ああ。重賞獲って、宝塚を走る予定だぜ」

 

 なるほど、重賞からのグランプリ制覇か。良いレース予定だねー。

 

「それなら宝塚から…って言いたいところなんだけど、ちょっと問題があってね」

「問題?どうしたんだ?」

「勝負靴。最近合わなくなってさ。新しい型を作っているところなんだ。それ次第ってとこ」

 

 怪我のことは特に言うまい。心配させても仕方ないし。ともあれ、靴が出来ないことには本気で走れないのも事実。実際、いつ頃になるかねぇ。

 

「あー、そっか。ちぇ、宝塚で一緒に走れるかと思ったんだけどな」

「へー?楽しみにしてくれてるんだ。アタシと走ること」

「当たり前だ。お前に勝って、私が最強って言って見せたいからな!」

 

 そう言って、笑顔で拳をこちらに向けてくるエース。いいね。こつんと拳を当てて見せれば、ニカリと歯を見せてくれた。

 

「そりゃ楽しみだ。ま、練習用の靴は来週には仕上がるっぽいし、そうしたら一緒に練習しようよ、エース」

「もちろんだ。じゃ、あたしはそろそろ行くぜ。コーヒー、ありがとな!」

「んー。じゃ、またねー」

 

 足早に去る彼女の背中を、手を振って見送る。うん。彼女ならきっと成長して私の前に現れてくれるだろう。今年のジャパンカップはルドルフにエースにと相手には事欠かないね。

 

「そういえばマルゼンはどうするんだろ」

 

 昨年、ジャパンカップ2着のマルゼンスキー。リベンジを語っていたけれど、最近ついぞ話を聞かない。まぁ、現役は続行していることは知っているけれど、後で話を聞きに行くとしようか。

 

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