私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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インターバル・シービー①

「これこれ。この感じ」

 

 良馬場のコースを目の前に、新品の練習靴を履いて走り出した。足に伝わる感触に、思わず笑みが出てしまう。正直言えばヘタる部分だけを強化してくるかと思ったのだけれど、なるほど改良品とはこのことかと納得出来た。

 

「気持ちよく伸びれる、ね!」

 

 コーナーに入って腰を落とす。外に向かう力がかかり、靴やソールが変形する感覚が足に伝わる。だが、許容範囲内もいいところ。前のソールよりもダイレクトに地面がいる。

 ふいに足音が近づく。はて、と首を横に振ってみると見慣れたウマ娘が一人。

 

「っしゃああああ!シービー!調子良さそうじゃねーか!」

「お、エース!キミこそ調子良さそうじゃない?どう、このままゴールまで競争!」

「ノッた!勝ったほうが今日の昼飯奢るってことで!」

「いいね!負けないよー!」

「こっちこそだ!」

 

 距離にして残り1600。休み明けの追い込みとしては少しキツイ気もするけど、昼飯がかかっているなら負けるわけにはいかないね。ギアを一つ上げるように首を下げて加速を開始してやれば、合わせるようにエースも首を突っ込んでくる。いいね、悪くないよその気迫!

 

「休養明けってのに飛ばすじゃねーか!」

「キミこそ!本番が近いっていうのにそんなに飛ばしていいの!?」

「お前との勝負はいつでも本気だからな!オラアアアアア!」

「あっはははは!野暮だった!ハァアアアアアアア!」

 

 てなわけで、私はキャンプ明けのなまった身体の錆を落とすように、エースはその刃を研ぐように加速していく。直線はいい感じで互角。ならばコーナー抜けての最終加速が勝負どころ!腰を落とし、更に1段ギアを上げる。首を下げ、地面を抉るように!

 

「やるねエース!でも私が勝つ!ヤァアアアアアアアア!」

「負けるかアアアアアアアア!」

 

 並んでくるかカツラギエース!仕上げて来てるなぁ!ああ!楽しい、楽しくて仕方がない!コーナーが開けた!最後の直線!ゴールはトレーナーの立っているところ!最後の一歩までしっかり踏み込め!その勢いのまま、トレーナーの前を並んで駆け抜けたのだが。

 

「先着はカツラギエース。頭ひとつ遅れてお前の負けだ。シービー」

「っしゃあああ!あーっはっはっは!やったぞシービー!」

「げー…」

 

 昼食2人分の支払いは確定らしい。トレーナーの苦笑を背景に、高笑いを続けるエースの頭を少しこづいてやった。

 

「いてっ。なんだよー。悔しいのかー?」

「べつにー?」

「あはははは!顔に出てるぞシービー」

 

 悔しいとは口にしない。本調子ではないとも口にはしないけれど、こうも高笑いされるとひっぱたきたくもなるというものだ。思わずエースを睨んでしまったが、カラカラといい笑顔で返されてしまった。ちくしょう。次は負けないからな?

 

 そう思いながら体を伸ばしていると、トレーナーが何かを思い出したように手を叩いていた。はて、なんだろうか?

 

「さて、ま、カツラギエースとの勝負の結果はともかく、今週末開けておいてくれ。シービー」

「ん?週末?何かあったっけ?トレーナー」

「新入生の事前受け入れだ。体験入学と言い換えてもいい。お前と一日一緒にトレーニングを行って、このトレセンのイメージを掴んでもらう。と、理事長の発案さ」

「ずいぶん急だね?」

 

 怪訝な顔でトレーナーを覗いてみれば、ばつの悪そうな顔で頭を掻いていた。あれ、これもしかして私に伝え忘れてたやつか?という私の考えを証明するように、エースがさも当たり前のようにこう言った。

 

「アタシは前から聞いてたぞ?」

 

 マジか。トレーナーをちょっと睨む。

 

「え?トレーナー?」

「…悪い、伝え忘れてた。お前とのキャンプが楽しみでなー。伝え忘れてた」

 

 む、そう言われるとちょっと悪い気はしない。軽く肩を小突いて、仕方ないねぇトレーナーは、と笑っておいた。

 

「おいおい、惚気ならアタシが居なくなってからやってくれよ」

「惚気じゃないやい。エースだってトレーナーとデートぐらいするでしょ?」

 

 おちょくってきたエースにそう言ってみると、少し小難しい顔をしてこう言葉を返してきた。

 

「あー、まぁ。でも、泊まりはしないぞ?」

「そう?」

「ああ。つーかさぁ、お前とトレーナー、結構噂になってるぜ?」

「えー?なんもないけどなぁ。ね?トレーナー」

「ああ。なんにもないな。楽しく遊んでるだけだぞ?カツラギエース」

 

 トレーナーと顔を見合わせて首を傾げる。本当に楽しく遊んでいるだけなんだけどね?レースは真面目にやってるし。そんな私たちを見て、今度はエースが苦笑を浮かべていた。

 

「…自覚ないやつか」

 

 何かを呟いたようだが、聞き取れなかった。首を傾げていると、仕方ねぇなと肩をすくめるエースが居た。

 

「なんでもねぇよ。じゃ、おじゃま虫はそろそろ消えるわ。昼飯、忘れんなよー?」

「もちろん。じゃ、また後でねー」

 

 手をひらひらとさせてエースを見送る。さてと、じゃあ、改めてその体験入学ってやつの話を聞こうじゃないか。

 

「じゃ、難しい話は煙草でも呑みながら」

「そうするか」

 

 

 三女神の海泡石パイプに火が灯る。燻らせると煙が天に昇っていく。ゆらりゆらりと昇るそれを眺めながら、私はトレーナーから渡された資料に視線を落としていた。

 

「ミスターシービーとしての週末の受け入人数は3人だ。入学後はおそらく、クラシック級は間違いなしと言われている実力者たちになる」

「へぇ。すごい子達なんだね?アタシでいいの?ルドルフとかのほうが参考になるんじゃない?」

「たっての希望だそうだ。最強の秘訣を知りたいんだと」

 

 なるほどね。もの好きが3人か。ま、ちょうどいいだろう。私とトレーナーでいい感じに目が届く範囲だ。これで10人とか言われたら面倒を見きれる気がしないし。

 

「あとは見学者が数名だな」

「見学?」

 

 首を傾げた。練習だけじゃなくて、それを見られるってこと?

 

「ああ。こっちは入学予定のウマ娘たちと、一般の希望者さ。人数は未定だが…メジロ家のお嬢さんが2人は確実に見に来るらしい」

「へー、メジロの。じゃ、気合入れないと、かな?」

 

 笑ってみせると、トレーナーは首を横に振る。

 

「いや、お前はいつものままでいい。淡々と、その背中を後輩に見せてやれ」

「りょーかい。じゃ、いつもの通りの練習をすればいいんだね?」

「ああ。俺のメニューをこなしてくれればそれでいいさ」

 

 なるほどなるほどね。そういうことならば問題は無いね。あ、そうだ。

 

「そういえば練習を見せるのはいいんだけど、ライブは?」

「あー…それは考えてなかったな」

 

 ふむ。それはちょっといただけない。ウマ娘のレースとは、ライブまで含めた総合エンターテイメントに近い。ならば、最後に軽くライブを見せてやってこそじゃないかな、と思ってしまう。

 

「じゃ、一曲軽くエールを送る意味を込めて、体験の最後に私が謳うってことでどうだろ、ミニライブみたいな感じで。トレーナー?」

「お前が良いならそれで行こうか。シービー。でも、曲はどうする?」

 

 曲かぁ。ま、そうだねー。ウイニングザソウルあたりがいいかもしれないけれど、エールとなるとちょっと違うかな?

 

「こっちで用意するよ。伴奏のアテもあるしね」

「伴奏のアテ?」

「うん。トレーナーも知ってる人だよ。連絡先、交換したしね」

 

 私がそう言うと、ああ、と納得の頷きを見せるトレーナー。さて、じゃ、せっかくの縁だし彼に連絡を取ってみよう。2つ3つ、お願いしたいこともあるしね。

 

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